コミックナタリー Power Push -「坂本ですが?」
ツッコミが存在しない「変」なマンガをアニメ化することへの挑戦 監督・高松信司、声優・緑川光、原作者・佐野菜見鼎談
4月よりTBS・BS-TBSほかでアニメが放送される「坂本ですが?」は、男子高校生・坂本を主人公とする学園コメディ。授業中に椅子を奪われても動じず空気椅子でかわし、上級生からパシリを命じられれば丁寧に“おもてなし”で返す。読者からすればギャグでしかない坂本の過剰なスタイリッシュさに、周囲のキャラはただメロメロになっていくという様子がシュールに描かれている。原作は2011年より連載を開始し、2013年にはコミックナタリー大賞を獲得、翌年には「このマンガがすごい!オトコ編」で第2位に選ばれた。
連載は完結したものの、アニメ化が決定し、さらに坂本役はクールな役を得意とする緑川光、そのほかのキャラクターも石田彰、杉田智和、檜山修之、堀江由衣、田村ゆかりなど豪華キャストが務めることが明らかになると大きな話題を呼んだ。
果たしてこの「坂本ですが?」はどんなアニメになるのか。高松監督、緑川光、そしてこれがメディア初登場となる原作者・佐野菜見の3人に、アニメの見どころや裏話を語ってもらった。
取材・文 / 松本真一 撮影 / 笹井タカマサ
「坂本」はアニメにするのが難しい
──まず佐野さんに、「坂本ですが?」のアニメ化が決定したときの率直な感想を伺いたいのですが。
佐野菜見 やはり第一声としては、「やったぜべいべー!!」という感じで……それから徐々に「自分の作ったキャラクターが動いたり、しゃべったりするのはどんな気持ちなんだろう?」という好奇心が湧いてきましたね。
──作者といえども、動くところは見たことないわけですからね。
佐野 そうなんですよね。
──アニメ化が発表された際(参照:「坂本ですが?」スタイリッシュにTVアニメ化!坂本役は緑川光)、コミックナタリーでは約2万リツイートされましたし、非常に反響が大きかったです。先生の周りではどうですか?
佐野 疎遠な友達から連絡が来たりしました(笑)。やっぱりアニメの力はすごいなと。
──緑川さんは、このマンガのことはご存知でしたか?
緑川光 申し訳ないですけど、知らなかったです。僕は普段あんまりマンガとか小説とか読まないんですよね。時間的に仕事の台本でいっぱいいっぱいで、趣味で読むものがあるぐらいなら仕事を優先するので。だからオーディションのために読んだのが初めてでした。
──初めて読まれたときは、どんな感想を抱きましたか?
緑川 ……「変だな」って。
一同 あははは(笑)。
佐野 「変だな」?(笑)
緑川 いい意味で「面白そうだな」っていうのは思いました。
──高松監督はいかがですか?
高松信司 私は「変なマンガがあるよ」って人に言われて読んでいたので、知ってはいました。それで今回「こういう原作があるんですけど、アニメの監督やりませんか?」って話をいただいたときに「あ、じゃあやります」っていう感じでしたね。
緑川 それは、すぐ「やります」だったんですか?
高松 そんなに考えないで、結構すぐに「スケジュールさえ合えばやりますよ」って返事しましたね。「テレビアニメにしたい原作マンガナンバーワン」みたいな話も聞いていたし。
緑川 僕からすると、「絶対プレッシャーがあるんだろうな」って思ったんですよ。この作品はマンガ的表現が多いから、「アニメにするのが難しそうだな」と感じたので。
高松 そう、「坂本」はアニメにするの、すごく難しいです。マンガのコマだと成立してるんだけど、アニメにすると難しいことが多い。例えば反復横跳びのシーンは、原作だと左右に動いてるのを1コマで表現してます。マンガだと読者が「カッコよく動いてるんだろうな」って脳内で補完するところを、アニメだと実際にカッコよく動かさないといけないんですよ。
佐野 あー、わかりますわかります。そうですよね。
緑川 僕もそのへんを感じてたから、監督は「ちょっと考えさせてください」とか、そういうのはなかったのかなと。
高松 そこは「難しい」より「面白そうだな」っていうほうが先にきましたね。
佐野 ありがたいです!
ツッコミは読者に任せてみよう
──高松監督は「銀魂」などのギャグアニメも過去に担当されてますが、それでも「坂本」は難しいんですね。
高松 いやー、「坂本」は独特ですよね。普通は、誰かが面白いことやると別のキャラが「そんなわけあるかい!」って言ったりするんですけど、「坂本」では誰もツッコまない。登場人物はみんな真に受けちゃって、「そうなのかしら?」とか言って(笑)。みんな坂本くんの行動を真に受けて「カッコいい!」って言うけど、「いや、それホントにカッコいいかな?」っていう局面も結構あるじゃないですか。だから、今日も実際にできあがった映像を見ながらの音響の作業があったんですけど、みんなでツッコミながらやってましたから(笑)。
──ニコニコ動画的に、大勢でツッコミながら観るのが一番楽しいかもしれないですね。
佐野 このマンガ、ツッコミは読者に丸投げしてるんですよ。
──どうしてそうなったんですか?
佐野 いや、それがですね、お恥ずかしい話、私は学生のときから日常生活においては常に名倉潤さんばりにツッコミができる人を側に置いてないと安心できない、みたいなとこがありまして。だからツッコミスキルのない自分にはギャグは描けない、ギャグマンガってツッコミがないと成立しないものだと思ってましたから。
──佐野先生は日常会話でもずっとボケ側で、ツッコミは周りの人に任せてたわけですね。だからマンガでもボケとツッコミのやりとりは、1人では描けないだろうと。
佐野 それでギャグマンガとはちょっと距離を置いてたんですけど、あるときに「もうツッコミは要らないんじゃないか?」と。だから「ツッコミは全部読者に任せてみよう」みたいな作りをしたのが「坂本ですが?」連載前に描いた「肩幅ひろし」っていう読み切りになると思うんですけど、それが好評いただいて。
──ツッコミを丸投げしたら結果オーライだった、と。「肩幅ひろし」(単行本1巻に収録)も確かに、読者がツッコまざるを得ないシーンから始まるマンガでした。あれで何かを掴んだわけですね。
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- アニメ「坂本ですが? 」
TBS:2016年4月7日(木)26:28~
MBS:2016年4月8日(金)27:10~
CBC:2016年4月7日(木)27:24~(※初回の4月7日は27:10~)
BS-TBS:2016年4月9日(土)25:30~
CS-TBSチャンネル1:2016年4月17日(日)25:30~
あらすじ
この物語は、とあるクール、いや、クーレストな高校生・坂本の学園生活を綴ったものである──。
キャスト
- 坂本:緑川光
- あっちゃん:杉田智和
- ケンケン:檜山修之
- 黒沼あいな:堀江由衣
- カナちゃん:田村ゆかり
- 八木さん:生天目仁美
- エリカ:高橋美佳子
- 安田:鈴木達央
- 角田先生:中田譲治
- 丸山先輩:稲田徹
- 深瀬さん:岩田光央
- 久保田吉伸:石田彰
- まりお:武内健
- 瀬良裕也:森久保祥太郎
- 藤田恵:中原麻衣
- みーちゃん:植田佳奈
- 田中さん:藤田咲
- 森田:前野智昭
- 小林茂:矢部雅史
- 久保田茂美:くじら
- 8823先輩:遊佐浩二
- 佐野菜見「坂本ですが?」1巻~4巻 / 発売中 / 670円 / KADOKAWA
- 「坂本ですが?」1巻
- 「坂本ですが?」2巻
- 「坂本ですが?」3巻
- 「坂本ですが?」4巻
佐野菜見(サノナミ)
1987年4月17日生まれ。兵庫県出身。2010年4月、Fellows! Vol.10A(エンターブレイン)に掲載された「ノンシュガーコーヒー」でデビュー。2011年1月、同誌の読者プレゼント用小冊子「Costume Fellows! 2011」に、6ページの短編「肩幅ひろし」が収録される。2011年8月、Fellows! Vol.18に読切として執筆した「坂本ですが?」が人気を博し連載化。その後、Fellows!の後継誌ハルタ(エンターブレイン)にて連載、2015年12月に完結した。
緑川光(ミドリカワヒカル)
5月2日生まれ。栃木県出身。1988年にテレビアニメ「キテレツ大百科」で声優デビュー。1991年「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」の新条直輝役で初めて名前付きの役を担当する。その後もアニメ「SLAM DUNK」の流川楓や「新機動戦記ガンダムW」のヒイロ・ユイ、「烈火の炎」の水鏡凍季也など二枚目かつクールな役を演じるほか、アニメ、ゲーム、特撮など数多くの番組に出演している。
高松信司(タカマツシンジ)
1961年12月3日生まれ。栃木県出身。1983年にサンライズ入社後、1985年に「機動戦士Zガンダム」で演出デビュー、1990年のOVA「機動戦士SDガンダム SDガンダム猛レース」で監督デビュー。「勇者特急マイトガイン」などの勇者シリーズ、「機動新世紀ガンダムX」などのガンダムシリーズに携わったあと、1998年より「こちら葛飾区亀有公園前派出所」、2006年より「銀魂」を担当。その他の代表作に「スクールランブル」「美男高校地球防衛部LOVE!」など多数。
2016年5月2日更新