コミックナタリー PowerPush - ひじかた憂峰 / たなか亜希夫「リバースエッジ 大川端探偵社」

大根仁がふたたび狩撫麻礼を撮る!円熟の境地に捧げる慈愛とリスペクト

ひじかた憂峰原作、たなか亜希夫作画の「リバースエッジ 大川端探偵社」がテレビ東京の「ドラマ24」枠で連続ドラマ化され、4月18日からスタートする。監督・脚本を務めるのは、同じくひじかた原作の「湯けむりスナイパー」で実写化を成功させ、深夜に「ウィッス」旋風を巻き起こした大根仁だ。コミックナタリーでは自らを「マンガジャンキー」と名乗る大根にインタビューを敢行。原作者ひじかた憂峰とは狩撫麻礼の別名義だが、狩撫という作家の魅力とそれをドラマ化する醍醐味について語ってもらった。

取材・文/井上潤哉 撮影/唐木元

若い子に煮浸し食わせて「美味いだろ?」って言ってもなあ

大根仁

──よろしくお願いします。

あ、ナタリーのリアル幸世(※1)だ!

──お久しぶりです。

そうかそうか、1人でインタビューできるようになったんだ。へえ。でも幸世相手だと普通のインタビューよりだいぶラフになっちゃうなあ。

──今日はコミックナタリーのメイン読者である20代30代に、「リバースエッジ 大川端探偵社」の魅力を紹介するインタビューなのですが。

えー、若い子にこれを薦めるのはまだちょっと早いんじゃない? 20代30代なんて、ラーメンだってまだ味の濃いやつばっか食べてる世代でしょう。そういう子たちに煮浸し食わせて「美味いだろ?」って言っても、ピンとこないよきっと。

──いやいや、ドラマも始まることですし!(笑) コミックナタリーの読者なんで、原作者の狩撫麻礼さんの話から切り込んでいけば伝わると思うんです。

そうか。わかりました、はい。

──では大根さんの狩撫麻礼体験からお聞きできればと。ファーストコンタクトはいつ頃でしたか。

狩撫麻礼原作・谷口ジロー作画「LIVE!オデッセイ」1巻。

高校生から読んでるのかな。中高生くらいって背伸びして、マイナーなものにも手を出し始めるわけです。それで狩撫さんが谷口ジロー先生と組んだ、「LIVE!オデッセイ」っていうバンドもののマンガを読んだのが最初かな。

──いかがでしたか。

マンガで音楽を表現するのって基本的に難しいことだから、音楽を題材としてちゃんと成立している作品って、ほんとのところは今も少ないと思うんです。けど「LIVE!オデッセイ」はわかって描いてる、この人は音楽の知識がちゃんとあって描いてるんだな、ってことが高校生ながらに感じられたんですよね。何よりも誌面からちゃんと音が聴こえてきたし。それでピンと来たんだと思う。

カウンターカルチャーがホットだった世代に、憧れがある

──音楽は狩撫作品の大きな構成要素とされていますよね。そもそもペンネームが(カリブ海のジャマイカ出身である)ボブ・マーレーから来てますし。

狩撫麻礼原作・たなか亜希夫作画「迷走王ボーダー」の文庫版1巻。

狩撫さんの代表作っていうと「迷走王ボーダー」になると思うんだけど、あれなんか途中から、ボブ・マーレーやTHE BLUE HEARTSが物語に影響を及ぼしちゃってるからね。彼らへの愛が高まりすぎて。でもその過剰なまでの自意識が狩撫さんの個性、狩撫節なわけで、受け付けない人はそこがまったくダメなわけだよね。僕もすべての作品がいいとまでは思わないんだけど、ただ個性がなく無味無臭な作品なんて何のために表現してるんだって話になってくるわけで、少なくとも僕にとって狩撫節は、そんなにウザくなかった。

──大根さんが狩撫節を受け入れられたのは、なにか理由があるんでしょうか。

そうだなー、たぶん「迷走王ボーダー」で出てくるようなカウンターカルチャー世代に対する憧れが、僕の中にあるんだと思います。第2次世界大戦が終わって、……なんか大それた話になっちゃうな(笑)、戦後の60年代70年代に世界中で反体制運動と共にカウンターカルチャーがぼこぼこ誕生したわけじゃない。それがいまのマンガや音楽の基盤であり基準になっているわけだけど、そのカウンターカルチャーがいちばんホットだった時代をリアルタイムで過ごした人たちに、憧れがあるんだよね。

──狩撫さんも狩撫作品の登場人物も、ザ反体制世代みたいな匂いがありますもんね。

狩撫麻礼が岡崎京子、やまだないとと組んだ作品を収めた「カリブsong 狩撫麻礼作品集」。

あとね、狩撫さんのすごさは新人や若手の才能を伸ばす力にもあったと思う。大友克洋さんとは「童夢」が発表される前の年に組んでるし(「East of The Sun,West of The Moon」)、何気にデビュー直後の弘兼憲史さんとも作ってました(「エイント・チャウ」「砂の闇」)。ほかにも岡崎京子さん(「ハイリスク」)、やまだないとさん(「チャージ」)、いましろたかしさん(「タコポン」「ハードコア 平成地獄ブラザース」)、かわぐちかいじさん(「ハード&ルーズ」)……全員まだ若手だった頃に組んでるんですよね。

──こうして見ると錚々たる顔ぶれですね。

それに表立って言わないだけで、読者として影響受けてる人もいっぱいいると思いますよ。作家の角田光代さんは狩撫フリークだし、僕が撮らせてもらった「湯けむりスナイパー」は江口寿史さんも大好きでしょ。あと東野幸治さんは「やりすぎコージー」ってテレビ東京の番組で、「湯けむりスナイパー」についてだけ30分近く語ったり。

※1 幸世とは大根監督が手がけた映画版「モテキ」の主人公のこと。劇中で幸世は、ナタリーに就職しライターとして働いている。インタビュアーが以前監督と接した際、頼りない仕事ぶりやメガネ・髪型などの冴えない風貌が幸世に似ていたため、監督からはこのように呼ばれている。[↑戻る

ひじかた憂峰 / たなか亜希夫「リバースエッジ 大川端探偵社(4)」 / 2012年9月28日発売 / 637円 / 日本文芸社
ひじかた憂峰 / たなか亜希夫「リバースエッジ 大川端探偵社(4)」
作品紹介

東京浅草……隅田川沿いの雑居ビルに、小さな探偵社があった。そこを訪れる奇妙な依頼人たち──。なまはげ、痴女、声萌え、元80年代アイドル……。探すのは、人生というパズルの欠片。伝説の名作「ボーダー」を生んだ黄金コンビが描き出す、漂流列島・JAPAN。

ドラマ24「リバースエッジ 大川端探偵社」

ドラマ24「リバースエッジ 大川端探偵社」

テレビ東京系
毎週金曜24:12~放送
(※テレビ大阪は翌週月曜23:58~放送)
脚本・演出:大根仁 ほか
出演:オダギリジョー(主演)、石橋蓮司、小泉麻耶 ほか

(c)「リバースエッジ 大川端探偵社」製作委員会

大根仁(おおねひとし)

大根仁

1968年生まれ、東京都出身。演出家、映像ディレクターとしてさまざまなドラマやビデオクリップを手がける。代表作は「演技者。シリーズ」「週刊真木よう子」「湯けむりスナイパー」など。2010年夏に放送されたドラマ「モテキ」のヒットによりその名を広く知られるようになる。2011年、映画監督デビュー作となる映画版「モテキ」が公開され大ヒット。2013年1~3月には脚本・演出を務めたドラマ「まほろ駅前番外地」が放送され、深夜ドラマでは異例のギャラクシー賞を受賞した。

ひじかた憂峰(ひじかたゆうほう)/ 狩撫麻礼(かりぶまれい)

1947年、東京都出身。マンガ原作者。1979年に狩撫麻礼の名義でデビューする。デビュー作は大友克洋が作画を担当した短編「East of The Sun,West of The Moon」。代表作は、たなか亜希夫作画「迷走王ボーダー」、かわぐちかいじ作画「ハード&ルーズ」など多数。1996年以降は狩撫麻礼名義での作品発表はなく、複数のペンネームを使い分けて活動している。ひじかた憂峰名義では、松森正作画「湯けむりスナイパー」、たなか亜希夫作画「ネオ・ボーダー」「リバースエッジ 大川端探偵社」を執筆。「湯けむりスナイパー」は大根仁が監督を務め、2009年にドラマ化を果たした。2014年4月からは再び大根が監督するドラマ版「リバースエッジ 大川端探偵社」が開始する。

たなか亜希夫(たなかあきお)

1956年生まれ、宮城県石巻市出身。1982年に「下北沢フォービートソルジャー」でデビューを果たす。代表作に「クラッシュ!正宗」「迷走王ボーダー」「かぶく者」など。現在はイブニング(講談社)にて「軍鶏」、漫画アクション(双葉社)にて「ネオ・ボーダー」、週刊漫画ゴラク(日本文芸社)にて「リバースエッジ 大川端探偵社」を連載中。「ネオ・ボーダー」「リバースエッジ 大川端探偵社」はどちらも、原作を狩撫麻礼の別名義であるひじかた憂峰が手がけている。