コミックナタリー PowerPush - ひじかた憂峰 / たなか亜希夫「リバースエッジ 大川端探偵社」

大根仁がふたたび狩撫麻礼を撮る!円熟の境地に捧げる慈愛とリスペクト

ある年齢になって初めて描ける「ユルさ」みたいのが出てきた

──その「湯けむりスナイパー」は、狩撫ワークスを前後期に分けると後期にあたる作品ですね。

狩撫麻礼がひじかた憂峰名義で原作を手がけた「湯けむりスナイパーPART3」1巻。

「迷走王ボーダー」あたりの、いちばん脂が乗ってた頃の狩撫作品ってやっぱりアクが強いんだ。けど、それが「湯けむりスナイパー」ぐらいの時期になるといい具合に枯れてきて、それがまたすごく良いんだよね。狩撫さんも年を取り、下手すりゃ死が見えてくるような年齢になって初めて描ける、「ユルさ」みたいなのが出てきたと思うんですよ。で、そのタイミングでテレビ東京が「湯けむりスナイパー」をドラマ化しないかって声を掛けてきてくれたんです。自分も40過ぎた頃だったから、なんとなく中年の枯れ具合も描けるかなと思い始めてた時期で。日本酒も飲めるようになったじゃないけれども、そういう味もわかるようになってきて、撮らせてもらいました。

──アクの強い往年の作品と今の枯れ味の作品と、個人的にはどちらの狩撫節がお好きですか。

どっちも好きですよ。ただ仕事として映像化するって話では、いま「迷走王ボーダー」のオファーが来ても、それはちょっとキツいかな(笑)。

──撮るぶんには、いまの枯れたテイストのほうが大根さんの作家性と相性がいいということ?

「リバースエッジ 大川端探偵社」より。

多分ね。僕はハッピーエンドとかカッコ良過ぎる人にあんまり興味がないんだけど、「リバースエッジ 大川端探偵社」も、ヒーローがいたりわかりやすい勧善懲悪があるわけではない。言ってしまえばどうでもいい人たちのどうでもいい話って捉えることもできる作品で、でもそれをちゃんと物語として面白く見せてるってところにやっぱり上手さがあるんですよ。落語に近い気がします。

──大根さんが今までマンガを読んできた中で、狩撫麻礼という作家は5本の指に入ると言ってもいいですか?

原作者だけど、マンガを作る人っていうことで言えば入るね。全部が全部面白いと思ってるわけじゃないんだけど(笑)、出れば必ず読む。やっぱり影響を受けた作家が50代60代とかお年を召しても、描き続ける限りはちゃんと付き合うのがマンガ読みの仁義ですよ。

これは絶対映像化できると思って、自分で出版社に電話した

──もう少し「リバースエッジ 大川端探偵社」についてお聞きしていきますが、このドラマはどんなお話ですか。

「リバースエッジ 大川端探偵社」より。

1話完結の探偵ものではあるんですけど、さっき言ったように何か事件を解決するような話ではなくて。舞い込む依頼は変な探しものや不思議な噂の真相究明みたいな……、最悪解決しなくても影響なし、みたいな話ばかりです。

──最初に読まれた感想は?

これは絶対映像化できるなと思いました。

──それはまたどうして。

ひとつは「湯けむりスナイパー」と同じく、狩撫さんの自意識が控えめで、エピソード中心に物語が進んでいること。あと主要人物が探偵社の村木、所長、メグミっていう3人だけだから、予算やスケジュールの限られた深夜ドラマに向いていること。それと、舞台が浅草っていうのもいいなって思ったんですよね。スカイツリー効果で賑わってはいるんだけれども、ちょっと外れにはエアポケットのようなエリアがたくさん残ってて。そういうコントラストを映すことで、いまの東京の、あんまり撮られてない一面を切り取れるんじゃないかなと思いました。

──やはり「湯けむりスナイパー」みたいに依頼が来たんですか。

ううん、「リバースエッジ 大川端探偵社」を読んで、直接すぐ出版社に電話して。

──大根さんが?

大根仁

そう。「映像化の話ってもうどこかから来てます?」って聞いたら映画だったかVシネだったかから来たけど狩撫さんが断った……みたいな状況だったのかな。それで狩撫さんに僕が撮りたがってるって話してもらったら、「湯けむりスナイパー」のことを気に入ってくれていたので、「大根が撮るんだったら」みたいなことをおっしゃってくれて。でももう少し時期を見た方が良いかなと。

──時期を見てというのは。

当時はまだ単行本が1巻しか出てなかったから、連ドラにするにはエピソードが足りなかったんです。それで月日は流れ、編集さんから「そろそろ(エピソードが)溜まってきました!」って電話が掛かってきたの。

ひじかた憂峰 / たなか亜希夫「リバースエッジ 大川端探偵社(4)」 / 2012年9月28日発売 / 637円 / 日本文芸社
ひじかた憂峰 / たなか亜希夫「リバースエッジ 大川端探偵社(4)」
作品紹介

東京浅草……隅田川沿いの雑居ビルに、小さな探偵社があった。そこを訪れる奇妙な依頼人たち──。なまはげ、痴女、声萌え、元80年代アイドル……。探すのは、人生というパズルの欠片。伝説の名作「ボーダー」を生んだ黄金コンビが描き出す、漂流列島・JAPAN。

ドラマ24「リバースエッジ 大川端探偵社」

ドラマ24「リバースエッジ 大川端探偵社」

テレビ東京系
毎週金曜24:12~放送
(※テレビ大阪は翌週月曜23:58~放送)
脚本・演出:大根仁 ほか
出演:オダギリジョー(主演)、石橋蓮司、小泉麻耶 ほか

(c)「リバースエッジ 大川端探偵社」製作委員会

大根仁(おおねひとし)

大根仁

1968年生まれ、東京都出身。演出家、映像ディレクターとしてさまざまなドラマやビデオクリップを手がける。代表作は「演技者。シリーズ」「週刊真木よう子」「湯けむりスナイパー」など。2010年夏に放送されたドラマ「モテキ」のヒットによりその名を広く知られるようになる。2011年、映画監督デビュー作となる映画版「モテキ」が公開され大ヒット。2013年1~3月には脚本・演出を務めたドラマ「まほろ駅前番外地」が放送され、深夜ドラマでは異例のギャラクシー賞を受賞した。

ひじかた憂峰(ひじかたゆうほう)/ 狩撫麻礼(かりぶまれい)

1947年、東京都出身。マンガ原作者。1979年に狩撫麻礼の名義でデビューする。デビュー作は大友克洋が作画を担当した短編「East of The Sun,West of The Moon」。代表作は、たなか亜希夫作画「迷走王ボーダー」、かわぐちかいじ作画「ハード&ルーズ」など多数。1996年以降は狩撫麻礼名義での作品発表はなく、複数のペンネームを使い分けて活動している。ひじかた憂峰名義では、松森正作画「湯けむりスナイパー」、たなか亜希夫作画「ネオ・ボーダー」「リバースエッジ 大川端探偵社」を執筆。「湯けむりスナイパー」は大根仁が監督を務め、2009年にドラマ化を果たした。2014年4月からは再び大根が監督するドラマ版「リバースエッジ 大川端探偵社」が開始する。

たなか亜希夫(たなかあきお)

1956年生まれ、宮城県石巻市出身。1982年に「下北沢フォービートソルジャー」でデビューを果たす。代表作に「クラッシュ!正宗」「迷走王ボーダー」「かぶく者」など。現在はイブニング(講談社)にて「軍鶏」、漫画アクション(双葉社)にて「ネオ・ボーダー」、週刊漫画ゴラク(日本文芸社)にて「リバースエッジ 大川端探偵社」を連載中。「ネオ・ボーダー」「リバースエッジ 大川端探偵社」はどちらも、原作を狩撫麻礼の別名義であるひじかた憂峰が手がけている。