コミックナタリー Power Push - よしむらかな「ムルシエラゴ」

よしむらかな×深見真×成田良悟“信頼できる”マンガ家が描く、“普通の人がいない”百合アクション その魅力を大いに語る

よしむらかな「ムルシエラゴ」は、警察にも対処できない犯罪者を仕留める任務を負った、凶悪犯罪者の女性を描くアクション。女性同士の恋愛描写が多いのが特徴で、戦う女性たちの百合が好きな人には注目の1作だ。ヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載されており、単行本の最新7巻は3月25日に発売される。

7巻の発売を記念して、コミックナタリーではよしむらと小説・脚本家でありマンガ原作者の深見真、「バッカーノ!」「デュラララ!!」の成田良悟による座談会を実施。「ムルシエラゴ」のファンだという深見、成田が思う「ムルシエラゴ」の魅力と、それぞれの趣味嗜好について存分に語ってもらった。

取材・文 / 熊瀬哲子

自分にとって理想的な、夢みたいなマンガ(深見)

──皆さん、もともと面識はあったんでしょうか?

よしむら 僕は昨年末のスクエニのパーティーのときに、おふたりとお話させていただきました。そのときに百合だったり、お互いが好きなものの話で盛り上がったんです。

深見 僕がすごい熱心に「ヴァルキリードライヴ」を薦めてたんですよね。「いい百合がありますよ!」って。

成田 私もほかの作家さんに「いい百合がありますよ!」って「ムルシエラゴ」を薦めた記憶があります(笑)。

よしむらかなによる座談会のイメージイラスト。

一同 ははは(笑)。

深見 自分は成田先生とお話するのは今日が初めてです。

成田 そうなんです。友人の作家さんに「今度深見さんと会うんですけど、どんな方なんですかね」って聞いてみたら、「いろんな方から噂は聞いてると思うけど、その噂通りの人だから安心していいよ」と言われてやって来ました。

深見 (笑)。僕は今日成田先生にお会いしたら、いかに「バッカーノ!」や「デュラララ!!」に成田先生の趣味嗜好が滲み出ているのかがわかるんだろうなと楽しみにして来ました。

──賑やかな座談会になりそうです(笑)。成田さんと深見さん、おふたりは「ムルシエラゴ」のファンだとお伺いしました。

深見 「ムルシエラゴ」を読んでビックリしたんですよ。こんなに百合が描かれていて、しかも人を殺しまくって……「なんなんだこれは!」って衝撃を受けて。あまりに自分にとって理想的な、夢みたいなマンガだったんです。だからどんな人が描いてるんだろうと気になってました。

よしむら いえいえそんな……こんな人が描いてます(笑)。

「ムルシエラゴ」1巻より。

成田 私は語弊を恐れず言ってしまうと、ものすごく自分の中二心をくすぐられたんです。だって1巻の冒頭から、「ころした」の連発ですよ。歪んだ中二心を抱きながら育った身としては、「これはすごいマンガだぞ」と直感しまして。「一体どんな内容なんだ!?」とページをめくったら、裸の女の子たちがイチャイチャしてる。……もう、こんなもの買うしかないじゃないかと(笑)。

よしむら ありがとうございます!

深見 「ムルシエラゴ」みたいなマンガって今までになかったんですよ。それまで百合マンガっていうと、女子校という舞台があって、「タイが曲がっていてよ」みたいな基本のやり取りがあって、という感じで展開されていた。

──女の子同士の日常を描いた作品が多い印象です。

深見 そう。でも自分としては百合が好きなんだけど、女悪党も好きだし、たくさん人が死ぬ話も好き。アクションも好きだし……という気持ちもあって。ただ、なかなか全部の要素が入った作品はないよな、と。そしたらあったんですよ、「ムルシエラゴ」が。

成田 これまではマンガと言うより「女囚シリーズ」とか、一部の映画であったノリですよね(笑)。でも今は「ムルシエラゴ」があって、高橋慶太郎先生の「デストロ246」もあって……これは時代が来たなと思いました(笑)。

深見 贅沢な時代になりましたよ。

百合が描けなくなったらマンガ家を続ける意味がない(よしむら)

よしむら ありがとうございます。褒められる状況に慣れていないので、すごい恥ずかしいです(笑)。確かに昔はアクションを描いた百合マンガって多くなくて、あっても男女の恋愛の噛ませ犬にされたりとかで。傷だらけの百合厨を生み出す、真冬の時代があったんです。

──そんなときだからこそ、「ムルシエラゴ」を描こうという思いがあったんですか?

よしむら いや、特別そこを意識していたわけではないです。一番最初に持ち込みした作品は、いわゆる魔法少女ものというか。自分が「プリキュア」を描いたらどうなるんだろうっていうところからスタートしたものだったんです。それをそのまま描いていこうかなと思っていたら、当時の担当から「いや、悪人でいこう」という話をされまして。僕も悪人は好きなのでそれでよかったんですけど、ただ「百合は外せません」と。

成田深見 ははは(笑)。

「魔法少女特殊戦あすか」1巻より。©Makoto Fukami/SQUARE ENIX ©Seigo Tokiya/SQUARE ENIX ©Naoya Tamura/SQUARE ENIX

よしむら 担当さんに「俺は百合とかあんまりわからないんだけど……」って言われつつも、そこは押し通しました。

深見 実は、俺が「プリキュア」を描いたらどうなるんだろうと思ってやっているのが「魔法少女特殊戦あすか」なんですよ。

よしむら あ、そうなんですね。悪と戦う女の子たちがいて、銃と軍事があってっていう、これが深見さん流の「プリキュア」なんだ。

深見 そうです、そうです。話を聞いていて、みんな似たようなことを考えるんだなと思いました。でもやっぱり百合は譲れませんよね。

よしむら はい。百合マンガを描くためにマンガ家になったようなところがあるので、百合が描けなくなったら続ける意味はないかなと思ってます。

成田 すごい。

深見 信頼できますね。

よしむらかな「ムルシエラゴ(7)」 / 2016年3月25日発売 / 576円 / スクウェア・エニックス
「ムルシエラゴ(7)」

世にはびこる凶悪犯罪者に対応するため、超法規的措置によって選ばれた“公的”スローター(大量殺人者)、紅守黒湖。その監視官であり、無類の乗り物好きである相棒、屠桜ひな子。善悪の彼岸で繰り広げられるバイオレンス・アクションがここより始まる!

よしむらかな

よしむらかな

和歌山県出身。「ぬらりひょんの孫」などで知られる椎橋寛のアシスタントを経て、2012年に「超究魔法少女ミーコ」で第1回YGマンガ賞を入選受賞。2013年にヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて読み切り「ムルシエラゴ」を発表し、同年連載化に至った。

深見真(フカミマコト)

深見真

富士見ヤングミステリー大賞を受賞し小説家デビュー。百合、銃器、格闘技などを愛する。小説「ヤングガン・カルナバル」シリーズを手がけ、テレビアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」では虚淵玄とシナリオを共同執筆。また週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載中の「王様達のヴァイキング」では、ストーリー協力などを務める。2015年より月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて「魔法少女特殊戦あすか」の原作を担当。

成田良悟(ナリタリョウゴ)

成田良悟

第9回電撃ゲーム小説大賞にて金賞を受賞した「バッカーノ! The Rolling Bootlegs」にてデビュー。「デュラララ!!」や「越佐大橋シリーズ」といった人気作のほか、「Fate/stay night」のスピンオフノベライズ「Fate/strange Fake」(すべてKADOKAWA)など幅広く手がける。2015年10月よりヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載中のマンガ版「バッカーノ!」では、完全監修と銘打ち、原作・監修を担当している。

※プロフィール画像はよしむらかな描き下ろし