コミックナタリー Power Push - 映画「聲の形」山田尚子監督インタビュー
“存在している”彼らを通して伝わるもの
男性キャラを描くことに勇気が出なかった
──山田監督は、今まで「けいおん!」や「たまこまーけっと」など、女の子が中心の作品を手がけられることが多かったと思います。今回は石田将也という男の子視点でストーリーが進んでいきますが、今までの作品と比べて、制作に違いを感じる点などありましたか?
そうなんですよ、今まで「私は女の子が好きだから、これからも女の子を描いていきたい」と思っていたんです。男の子を描くのはきっと難しいし、例えばこれを見た男の人に「男はこういうもんじゃない」って思われたらどうしようとか考えたりすることもあって、なかなか男性キャラを描くことに勇気が出なかったところはあるんです。
──なるほど。
だけどいざやってみると、性別とかの問題って本当に些細だなと感じて。人の根っこの部分、芯の部分を見て、「その人はどういう人か」って考えながら形を作っていけば、男だから、女だからなんていう問題はすごく小さなことなんだなと思いました。なので「聲の形」でも、1人の人間として石田将也を見たし描いていきました。振り返ってみたら、今までの作品のキャラクターもきっとそうやって描いていて。その子の思考や考えを汲み取って作っていったので、“女の子だから好き”という理由だけで描いていたわけじゃなかったなって。だから案外自分は表面的なことを心配していたんだなあ、と思いました。
──今回「聲の形」を作ったことによって、新しい発見もあったと。
そうですね。ものの見方がかなり強化できた気がします。今までも芯の部分を見ようと思ってやってきていたんですけど、それがちゃんとした形になるきっかけができた感じです。
彼らの思いのどこかに、必ず引っかかる部分があるはず
──「聲の形」のキャラクターデザインと総作画監督は、「氷菓」や「Free!」で知られる西屋太志さんが担当されています。今回組まれてみていかがでしたか?
西屋さんと組むことって今回が初めてだったんですよ。西屋さんは2年先輩で、私は会社に入ってから13年経つんですけど、シリーズ作品の各話演出や各話作監っていうやり方でも一度も組んだことがなくって。
──「聲の形」がまるっきり初めてだったんですね。
そうなんです、やっとご一緒できた感じ(笑)。うれしかったです。西屋さんの絵って、線がシュッとしていて、とてもスタイリッシュなイメージが強いように思うんですけど。
──そうですよね。
「聲の形」は作品自体に尖った要素があるので、絵は優しく柔らかく、温かみがあるものを目指していこう、というふうに西屋さんとお話しして。まずは将也を丁寧に紐解いていきました。西屋さんとキャラクターのあれこれについてやり取りをしていると、どうも西屋さんの中に父性が芽生えてきているのが見えてきまして……。
──キャラクターに対して、親のような感情が芽生えてきた。
丸みを持った愛が生まれ始めて。結果「聲の形」としては最高の絵を描いていただきました。観ていただいた方にも、きっと西屋さんから溢れる愛情が画面から伝わってくるかと思います。私も実際に描かれるところを横で見ていて、ずっと感動していました。
──それでは最後に、映画を楽しみにしている読者へメッセージをいただけますか。
「聲の形」はキャラクターそれぞれの思いや、抱えてるものが全部違っていて。口にしたことが本音ではなかったり、でも本音を言っていることもあったり、いろんなレイヤーを持って人と接していこうとする、すごくいじらしくて尊い作品だと思います。観てくださる方も、彼らの思いのどこかに必ず引っかかる部分があると思うんですよね。反省していたり許してほしいことがあったり、許したいことがある。そういったことを考えるきっかけの作品になるといいな、なんて思ったりしています。よかったら感想を聞かせてください。
──観客の声は、やっぱり気になるものですか。
どういうふうに受け取られるのか、まだまだわからないところがあるんです。やっぱりすごく原作を大好きな方がたくさんいらっしゃるので、そういった方々がどう感じられるのかなとも思いますし、初めてこの作品に触れる方もどう感じるのかと気になりますし……緊張しますね。でも、観たあとに何かが残る作品だったらいいなと思っています。それがあったかいものだったらいいな、と。
ガキ大将だった小学6年生の石田将也は、転校生の少女、西宮硝子へ無邪気な好奇心を持つ。「いい奴ぶってんじゃねーよ」。自分の想いを伝えられないふたりはすれ違い、 分かり合えないまま、ある日硝子は転校してしまう。やがて5年の時を経て、別々の場所で高校生へと成長したふたり。あの日以来、伝えたい想いを内に抱えていた将也は硝子のもとを訪れる。「俺と西宮、友達になれるかな?」再会したふたりは、今まで距離を置いていた同級生たちに会いに行く。止まっていた時間が少しずつ動きだし、ふたりの世界は変わっていったように見えたが──。
スタッフ
- 原作:「聲の形」大今良時(講談社コミックス刊)
- 監督:山田尚子
- 脚本:吉田玲子
- キャラクターデザイン:西屋太志
- 美術監督:篠原睦雄
- 色彩設計:石田奈央美
- 設定:秋竹斉一
- 撮影監督:高尾一也
- 音響監督:鶴岡陽太
- 音楽:牛尾憲輔
- 音楽制作:ポニーキャニオン
- アニメーション制作:京都アニメーション
キャスト
- 石田将也:入野自由
- 西宮硝子:早見沙織
- 西宮結絃:悠木碧
- 永束友宏:小野賢章
- 植野直花:金子有希
- 佐原みよこ:石川由依
- 川井みき:潘めぐみ
- 真柴智:豊永利行
- 石田将也(小学生):松岡茉優
©大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
「映画『聲の形』公開記念特番 ~映画『聲の形』ができるまで~」
アニメ制作の裏側を中心に、キャストによるトークなど秘蔵映像が満載。映画がさらに楽しめる特別番組がオンエアされる。
- 番組情報
- テレビ静岡:2016年9月15日(木)26:15~26:45
- TOKYO MX1:2016年9月16日(金)20:29~20:55、9月23日(金)19:30~20:00※再放送
- メ~テレ:2016年9月16日(金)25:54~26:24
- ABC朝日放送:2016年9月17日(土)26:25~26:55
- テレビ北海道:2016年9月17日(土)27:05~27:35
- 西日本放送:2016年9月18日(日)26:25~26:55
- ミヤギテレビ:2016年9月19日(月)26:59~27:29
- 広島テレビ:2016年9月21日(水)25:59~26:29
山田尚子(ヤマダナオコ)
2004年、京都アニメーションに入社。2009年にテレビアニメ「けいおん!」で初監督を務める。同作は2期にわたり放送され、若年層を中心にヒットを飛ばし、東京アニメアワードやアニメーション神戸賞で優秀作品賞を受賞した。また2011年には「映画けいおん!」で長編映画を初監督。第35回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞に輝いた。2013年には京都アニメーションオリジナル作品「たまこまーけっと」の監督に抜擢。2014年には同作の続編となる映画「たまこラブストーリー」でも監督を務め、第18回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で新人賞を受賞した。