奥浩哉「いぬやしき」×久慈進之介「PACT」

日常SFとハードSF、異なる作風の作家が対談

名前が可愛いのに残酷な薬「ヒロポン」

「いぬやしき」より、「GANTZ」の大ファンである安堂の部屋でのシーン。

──現実味といえば「いぬやしき」は、キャラクターの部屋に「GANTZ」のポスターがいっぱい貼ってありました。

 そういうキャラを登場させたかったんです。安堂くんっていうんですけど、ネットですごいボロクソ叩かれてる「GANTZ」ってマンガを心の底から好きなんだ!っていうキャラがいてほしくて。

久慈 そこは架空のマンガ名じゃダメだったんですか?

 マンガの定石的には架空のものに置き換えるのが普通ですけど、「いぬやしき」の場合は、できるだけ現実にあるものを出していきたくて。でも、ほかの作家さんの作品をボロクソ言ったら怒られちゃうじゃないですか。その点「GANTZ」だったら、どんな扱いをしても、僕には許可とらなくていいし(笑)。

──「GANTZ」ファンの久慈さんは、マンガの中でボロクソ言われているのを見てどうでしたか?

久慈 神展開でしたね(笑)。見開きで部屋の中が見えた瞬間は、ニヤっとしてしまいした。そこら中「GANTZ」のポスターがいっぱい、これはヤバい景色だなーって思って。 奥先生だからできる表現ですよね。

「PACT」より、合成ヒロポンが登場するシーン。

 実際に「GANTZ」が終わったとき、酷評するようなスレッドが2ちゃんねるにいっぱい立ったんですよ。おかげで、安堂くんの敬虔な「GANTZ」信者っぷりにリアリティが出ました(笑)。

──実在するものといえば「PACT」には合成ヒロポンが出てきます。架空のドラッグではなく、現実にある薬名を出してきたのは一体。

久慈 まず「ヒロポン」って語感が可愛いなと(笑)。あと仕事中に見ていたテレビで、北野武さんが言ってた「昔の学生はヒロポン打って受験勉強してたんだよ!」っていう冗談が妙にツボに入っちゃったので、本当に学生に打たせてみました。大人は会議室で静観していて子供たちは前線で戦わされる、物語と薬の残酷さを組みあわせたかったんです。

宇宙空間に浮かぶ無機物を、僕も描きたかった

左から久慈進之介、奥浩哉。

──おふたりの原点、マンガを描こうと思ったきっかけはなんでしょう。

 僕はそれハッキリ覚えていて、マンガを描きたいと思ったのは小学校4年生のときです。手塚治虫先生の「バンパイヤ」って作品を読んだときに、もうマンガ家になるしかない!って決意したんですよ。

久慈 「バンパイヤ」のどこに惹かれたんでしょう?

 作品の中に手塚治虫先生がそのまま出てくるんですよ。それもちょい役じゃなくて主人公の手助けをしたり、結構な活躍をするキャラで。マンガ家って、自分を出してこんなことができるんだ。すごいカッコいい、羨ましい、僕もなろう!って。

──マンガ家になってから、自分を作品に出したことは。

幸村誠「プラネテス」1巻

 「変」のときに、僕の名前をしたキャラクターが出てきてます。描いてた当時は、子供の頃に自分をマンガに出したいと思ってたことなんて忘れていたはずなんですけど。どっか意識の片隅に残ってたんでしょうね。

久慈 僕は、描きたいっていう衝動を起こしてくれたのは「プラネテス」ですね。それまでも、もちろん手塚作品とかいろんなものを見てましたが、意識としては読む側だった。だけど「プラネテス」は、宇宙空間に無機質な物体が浮かんでるのが気持ちよくて、自分の求めてる世界を見つけた気がして。その影響で、はじめて描いたマンガも宇宙を舞台にした作品でした。

──ここでも無機物へのこだわりが。人物を描くのはいかがですか?

久慈 第4話くらいに出てくるイワンっていうロシア人は描いていて楽しいです。写実派の奥先生に言うのは恥ずかしいですが、いろんな特徴が顔にある極端にマンガ的な顔は、やはり描きやすいなと。難しいのは、主人公の荒凪凪人。特徴のない主人公顔なので、いまも模索しながら描いています。女性を描くなら、スレンダーなほうが好きです。

──主人公の顔から特徴をなくしたのはなぜ?

「PACT」の主人公・荒凪凪人。

久慈 最初の入り口は、普通にしておきたかったんです。キャラを壊していくのは、後からもできるので。

──おじいちゃんの面白さからスタートした「いぬやしき」とは正反対ですね。奥さんの女性キャラは巨乳タイプが多いですし。

 そうですねえ、実際にオッパイ描くのは気持ちがいいです(笑)。ただマンガで描くのが好きというだけで、イコール僕自身のタイプというわけではありませんよ。現実にいる女性だったら、巨乳じゃなくても。

久慈 僕も、どっちでもいいです。付け加えておいてください、「GANTZ」の岸本恵ちゃんとか大好きです!

その男には誰にも言えない秘密がある! 58歳サラリーマン2児の父。希望もなければ人望もない冴えない男。しかしある日を境に男のすべては一変する──。「GANTZ」でマンガ表現の極地を切り拓いた奥浩哉がおくる、全く新しい世界がここに!

西暦20XX年、全世界を震撼させる戦慄の爆弾テロが発生。
この未曾有の危機に、ある大事な“やくそく”をした日本の精鋭達が立ち向かう!! ちばてつや賞大賞を受賞した規格外の新人が放つ爆発物処理班SFバトル、始動──。

奥浩哉(オクヒロヤ)

奥浩哉

1968年9月16日福岡県福岡市生まれ。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に久遠矢広(くおんやひろ)名義で投稿した「変」が第19回青年漫画大賞に準入選、週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されデビューとなった。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は道徳観念を問う深い内容で反響を呼び、1996年にはTVドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた草分け的存在として知られ、2000年より同誌にて連載中の「GANTZ」はCGを駆使した緻密な作画とスリルある展開で好評を博し、アニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。 2014年よりイブニング(講談社)にて「いぬやしき」の連載を開始する。

久慈進之介(クジシンノスケ)

久慈進之介

1986年8月15日生まれ。東京都出身。2013年、第68回ちばてつや賞ヤング部門において「ロストマン」で大賞受賞。2014年、ヤングマガジン11号(講談社)にて、初連載作品となる「PACT」をスタートさせる。