コミックナタリー Power Push - 清水茜「はたらく細胞」

赤血球にも、白血球にも、キラーT細胞にも仕事(ドラマ)がある!細胞擬人化マンガを描く新鋭、“キャラ設定の秘密”を語る

「細胞の数だけ仕事(ドラマ)がある!!」をキャッチフレーズに、赤血球や白血球など細胞たちが働く姿を描く細胞擬人化マンガ「はたらく細胞」。7月に発売された1巻をコミックナタリーで紹介したところ、新人のデビュー作としては異例の1万RT以上を記録した(参照:細胞擬人化した「はたらく細胞」1巻、赤血球たちの知られざるドラマを描く)。

作者の清水茜について知るべく、コミックナタリーではインタビューを実施。初披露となるキャラクター設定の秘密や、独特なデッサン練習法などについて語ってもらった。

取材・文 / 平松梨沙 撮影 / 三木美波

もともとは妹のアイデア

──「はたらく細胞」2巻発売おめでとうございます。1巻は清水先生のデビュー単行本ながら15万部突破という人気ぶりで、いろいろな書店でもプッシュされているのを見かけます。

「はたらく細胞」の赤血球。

ありがとうございます。こんなに反響をいただけて、非常にうれしいです。

──擬人化された細胞たちが身体の中で働き、おしゃべりし、ときに外敵と戦う様子を描いた本作。細胞を擬人化するという発想は、どこから出てきたのでしょうか? 

実はもともとは高校生の妹のアイデアなんですよ。生物の授業中に描いたという細胞の擬人化イラストを見せてきて。当時私はマンガの専門学校に在籍していて、卒業課題の題材で悩んでいたんですが、「あ、これはいいかも」と思いました。それでアイデアとキャラクターを貸してもらってお話を練ったという経緯です。

──なんと、始まりは妹さんだったんですね! てっきり医学の勉強をされていたのかな……と思っていました。

清水茜

いや、そんなことはありません(笑)。なので毎回下調べに四苦八苦しています……。そうやって描いた読み切りを学校の審査会で雑誌の編集者さんに見ていただけて、そこからシリウス(講談社)新人賞に応募してみては?という話になり。賞をいただき、さらに連載をさせていただけることになった、という流れです。私自身、連載にまでなるとは思っていなかったのでびっくりしています。

──ネットでもすごく話題になっていて、1巻が発売された7月9日にコミックナタリーでニュースにしたときも、「はたらく細胞」の細胞たちの画像がずっと人気画像ランキングの上位を占めていました。

やはり「細胞の擬人化」というのがキャッチ―だったのかなと思います。ここまで注目していただけて、今もドキドキしています。

好中球のカッコよさがよくわからなかった

──題材のキャッチ―さももちろんですけど、擬人化もの自体は数多くある中でこれだけ支持されているのは、やはり先生の描く細胞たちが魅力的だからだと思います。特に白血球(好中球)は人気が高いのではないかと思うのですが……。

「はたらく細胞」の白血球。

そうですね、好中球がカッコいいという意見をいただくことが多いです……でも実は最初、作者である私には、そのカッコよさがよくわからなかったんですよね。読み切り版ではストーリーの展開上、死んじゃってるんですよ。でも担当さんに「白血球がカッコよかったから連載でメインにしましょう」と言われて。連載の1話を描いているときには魅力がよくわからないままでした。

──今は白血球のどこがカッコいいと思ってますか?

一生懸命がんばってるところかな、と思います。与えられた仕事を完遂……できてるか微妙ですけど(笑)。

──確かに白血球は見た目のクールさに反して、仕事に対して熱くて一生懸命な男ですね。そして思いのほか表情豊かで。

キャラの表情を描いている瞬間が一番楽しいんです。白血球を描く際も、カッコいいときはカッコよく、かわいいときはかわいく、怖いときは怖く、というように、その時々の印象が最大限に伝わるように気をつけています。ハイライトの入っていない死んだ目をしてるんですけど(笑)、目にも表情がつくよういつも心をこめて描いています。

──どのキャラもバラエティに富んだ見た目と性格をしつつ、それぞれに一生懸命で素敵だなと思っています。

それぞれの細胞が読者に愛されるキャラクターになるようにというのは意識しています。赤血球はドジだけど優しくてちゃんと挨拶ができる子で、白血球は殺し屋で怖いけど優しいところもあり、変人扱いされても同じ体のみんなのために一生懸命戦う。女の子のキャラの場合は男性読者の方に、男の子のキャラの場合は女性読者の方に好いてもらえるようにとも考えています。

──キャラクターを考えるときはどのような手順で?

「はたらく細胞」の好酸球。

擬人化ものなので、まずは細胞の見た目や機能を調べて、その特徴を生かしています。たとえば、2巻の寄生虫の回で登場した好酸球がピンクの服を着たツインテールの子なのも、もともとの好酸球の見た目を参考にしているんですよ。

──え、どういうことですか?

好酸球は白血球の一種なんですが、画像を検索するとだいたいピンク色なんです。これは細胞自体がピンク色ということじゃなくて、細胞を使った実験の際の染色でピンクになるんですけど。それと核が分葉しているので、ツインテール。そして好酸球の性質として「寄生虫には強いがほかの白血球と異なり細菌に対する貪食作用が弱い」というのがあって。なので擬人化した好酸球は優秀なハンターですが、貪食作用(食細胞が細菌や異物などを細胞内へと取り込み、分解すること)が弱いことへのコンプレックスがあり普段はおどおどしている、という性格にしたんです。

──細胞の特徴だけでそこまでキャラ造形ができるとは……。帽子を被っているキャラが多いのは理由があるんですか?

それは私が単に帽子キャラが好きなだけです(笑)。実は帽子の形も細胞の形に合わせたりしていて。赤血球の帽子は上から見るとぺこっとへこんでいて、これはリアル赤血球と同じです。マクロファージの帽子はメイドさん風なんですけど、これもリアルマクロファージの形に似てると思ったんですよ。あと服装は、もともと仕事着が好きなので白血球は軍服、キラーT細胞はアメリカの警察官といった感じで、現実にあるお仕事の服をそれぞれ参考にしています。

──なるほど。好中球のほかに読者からの人気が高いキャラは誰ですか?

担当編集 この間新宿の紀伊國屋書店さんが「はたらく細胞」キャラの人気投票をやってくださったんですが、そのときは白血球(好中球)とキラーT細胞がダントツの1位、2位でしたね。それが理由というわけではないのですが、2巻の表紙はこの2人ですよ!

「はたらく細胞」のセレウス菌。

──ちなみに先生のお気に入りの子を教えていただけますか。

セレウス菌かな。

──熱中症の話で出てきたキャラですね。身体を守っている「細胞」ではなく、細菌やウイルスのほうですか?(笑)

ああいう憎めない小悪党っぽい子が好きで。

──「はたらく細胞」に出てくるウイルスや細菌は、悪者ではあるんだけど、ちょっとかわいいところがありますよね。

悪役だからこそのかわいさを出す、というのはかなり気をつけています。細菌やウイルスが好きな方だっていらっしゃると思うので……。細菌やウイルスはモンスター的なデザインにできるので、考えていて楽しいです。

清水茜「はたらく細胞」 2015年11月20日発売 / 648円 / 講談社
「はたらく細胞」

人間1人あたりの細胞の数、およそ60兆個! 白血球と赤血球を中心とした体内細胞の人知れぬ活躍を描いた話題の細胞擬人化マンガ、待望の第2巻発売。この世界(体)を脅かす脅威の細菌やウイルス、そして驚異の新キャラ(細胞)も続々登場。

清水茜(シミズアカネ)
清水茜

1994年生まれ。東京都出身。第27回少年シリウス新人賞にて大賞を受賞。月刊少年シリウス2015年3月号(講談社)より「はたらく細胞」を連載中。