コミックナタリー Power Push - 「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」

西川貴教が満遍なく愛を注ぐ、“我が子”のようなアイドルたち

実在するアイドルと同じように愛してもらえるものに

──総合プロデューサーとして、西川さんはどういった部分で作品づくりに関わられているのでしょうか。

テレビアニメ「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」より。

今、男性アイドルを扱った作品って多いじゃないですか。

──ゲームでもアニメでも、ここ数年でかなり増えてきていますよね。

そういった流れもあって、せっかくアイドル作品をやらせてもらえるならこだわって作りたいなと思いまして。僕の周りにも男性アイドルとして活躍している後輩や仲間がいますけど、彼らと2次元の線引きをできるだけなくせないかなと考えているんです。作り手側が「2次元アイドルですよ」という打ち出し方や表現をするのではなくて、もっとキャラクターたちの匂いや息吹、生命力を感じられるものにできればいいなと。2次元と3次元という垣根を極力取っ払って、「B-PROJECT」に触れてくれる皆さんが、1人ひとりのキャラクターを実在するアイドルと同じように愛してくださるものにできたらいいなと思っています。

──どのキャラクターも1人の“アイドル”として応援してもらえるように。

テレビアニメ「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」より、THRIVE。

あとは、僕も1人の視聴者としてアイドルや音楽業界を扱った作品を観ているときに、「実際にそういうことは起こらないよ」とか「そんなことってあるのかな?」と違和感を覚える瞬間もあって。アニメを制作している現場の方々と我々の音楽業界って、似ているようで離れているので、今でこそアーティスト活動をされる声優さんも多くいてギャップが小さくなってきたとは思いますが、それでも完全に理解してもらえているわけではないのかなと。作品を観ていて「音楽業界って外からはこういうふうに見えているんだな」と思うことがあるんですよ。

──極端な描写をされていたりとか?

そうなんです。なので「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」では、そういった違和感が出てこないようにしたいなと考えています。もちろんアニメならではのあり得ないシチュエーションや面白さも必要なので、そういった要素は原作の志倉さんやアニメスタッフの皆さんにお任せして。そこを両立できるように、それぞれの要素を交通整理していくことが僕の役割なのかなと思っています。

──エンタメとして楽しめる部分も盛り込みながら、アイドルものとして音楽業界の裏側もしっかり描いていきたいと。アニメの主人公である澄空つばさが、A&R( ※1)という職業に就いていることもそういった理由からでしょうか。

テレビアニメ「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」の主人公・澄空つばさ(左)。

つばさちゃんの立ち位置も悩んだんですよね。マネージャーなのか、ファンなのかとか。アイドルであるみんなの成長を一緒に喜べる存在で、しかも活動のすべてに関わってくるポジションとなると、やっぱりマネージャーしかないんですよ。でも主人公がマネージャーという作品はこれまでにもあったので、どうしようかなと模索していて。マネージャーと同じくらい、アーティストと一心同体になって活動の上で欠かせない存在って、レコード会社の担当なんですね。通常だとディレクターという言い方にはなるんですけど、今は制作から宣伝まで管理するA&Rの方も多い。実際に僕もデビューしてから、世間の方に顔と名前をある程度一致してもらえるようになるまで、僕とマネージャーと、レコード会社の担当との三人四脚で困難を乗り越えていったんです。そういった経験から、つばさちゃんを新人のA&Rにしてみたらどうだろうという話になりました。

──なるほど。

キタコレ、THRIVE、MooNsの3つのグループがB-PROJECTという1つのユニットとして活動する中で、キタコレとMooNs、THRIVEは事務所が分かれていますが、1人のA&Rが違う事務所のアーティスト同士を担当することも実際にあることなので、つばさちゃんをA&Rにしたことで音楽業界を描く作品としての広がりも出てきたと思います。

2.8次元を目指す

──西川さんのこれまでの経験や、ご自身が見てきた音楽業界の裏側の部分がかなり反映された設定やシナリオになっているんですね。

テレビアニメ「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」より。

そうですね。やっぱりもともとは作り手に回ることなんて考えもせずに、ずっといちユーザーとして楽しんできたものではあったので、そういった意味でもできるだけ観ている方たちに違和感は味わわせたくないなと。実際に芸能界にもアイドルものの作品が好きな方は結構いらっしゃいますけど、そういう方々にも共感してもらえたらいいなと思っています。いかにして2次元という枠を超えて、2.5次元を超えて、2.8次元くらいまで進んだ作品にできるのかを挑戦しているプロジェクトなので、僕が協力させていただいている意味はそこなのかなと思っています。

──それはアニメのシナリオに関わらず、楽曲の面でも。

どうしてもアニメやゲーム作品のキャラクターが歌う楽曲となると“キャラクターソング”という扱いになっていくと思うんです。実際にこれまでにリリースしてきた楽曲も、扱いとしては“キャラソン”と呼ばれていると思います。でも、できればそこもひと組のアイドルとしてそれぞれを捉えていただきたい。どういった楽曲だったらキャストの皆さんの声が生きるものになるのかな、キャラクターソングという枠を超えられるのかなっていうところをいつも試行錯誤していて。それぞれをひと組のアイドルグループの楽曲として、聴きこんでもらえるものにしていきたい。

──これまでにキタコレ、THRIVE、MooNsとも2枚ずつシングルがリリースされていますが、それぞれのグループにはどのような特色を感じていらっしゃいますか?

2016年4月に発売された、キタコレの2ndシングル「Mysterious Kiss」のジャケット。

ジャンルがハッキリと分かれているわけではないんですけど、キタコレはどこか儚さや切なさみたいなものを抱えているグループ。いい意味でトラディショナルなアーティスト像を、2人で描いていってくれたらいいなと思っています。THRIVEに関しては、やっぱりアーティスト志向の金城(剛士)くんの存在も影響していると思うんですが、どこか反発心が強いところがあるので、攻めた楽曲が多いですよね。ロックっぽいものからEDMの要素まで取り込んでいて、幅を持たせた楽曲になっているかと思います。MooNsは5人のキャラクターが個々にハッキリしているので、バラエティ要素が強い。純粋に盛り上がれる楽曲だったり、パートチェンジの面白さで聴かせられたらいいなという思いは込めていますね。

キャストの皆さんの魅力も活かしていきたい

──制作発表会のときに、愛染健十役の加藤和樹さんが「同じアーティストとしてどんな楽曲を歌えるんだろうとウズウズする部分もあって。役者とアーティストとしての両方の部分を出せる場所だと思いました」(参照:「B-PROJECT」西川貴教×志倉千代丸で始動!小野大輔らキャストなど一挙公開)と、西川さんとお仕事をされることに期待を寄せられていたんですが……。

あ、それはうれしいですね。

──同じ気持ちのキャストの方はほかにもたくさんいらっしゃると思うのですが、西川さんから声優を務めている皆さんに対してはどういった思いを感じているのでしょうか。

テレビアニメ「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」より。

皆さんご活躍されている方ばかりなので、それぞれ活動の中で基盤になっているものがあると思います。だからこそ、そういった魅力を活かしていただきたいのはもちろんですが、ほかの作品ではあまり出してこられなかった部分を、この作品で出していく、というきっかけになってもらえたらうれしいですね。アニメのオープニングテーマ「鼓動*アンビシャス」はB-PROJECTのメンバー10名が入れ替わり立ち替わりで歌う楽曲なんですが、声を聴いて一発でどのキャラクターかわかるくらいそれぞれがハッキリした色を持っているので、そこは生かせないと意味がないなと思っていますし、我々裏方の人間の技量が問われるところかなと。皆さん僕らの想像以上に楽曲に広がりを持たせてくれて、個々のキャラクターを命あるものにしてくださっているので、本当に素晴らしい方々だなと実感しています。

──ちなみに「鼓動*アンビシャス」のCDジャケットが公開された際、衣装とジャケットの色合いについて「鼓動だし血液の赤なのです♡」とツイートされていましたが(参照:西川貴教のツイート)、デザイン面にも西川さんや志倉さんの意見が反映されているんですか?

いやあ、そんなもう、本当に僕らは全然……。そこは雪広さんだったり、スタッフの皆さんのお力がほとんどで、衣装のカラーとかは「……言ってもいいですか?」くらいの感じです(笑)。

──“総合プロデューサー”という肩書きの人とは思えないくらい低姿勢ですね(笑)。

テレビアニメ「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」より。

そんなに偉そうなものじゃないんです。もう、本当に(笑)。さっきも言ったように、僕の立場はそれこそ志倉さんがいて、雪広さんがいて、その周りにスタッフさんが何人もいて。それぞれの思うこと、感じることを場面場面で交通整理していく役くらいに思っているんです。ただ、僕がいることで“ならでは”の奥行きを持たせることができればいいなとは考えています。それによって、これまでの同ジャンルの作品とはまったく違ったものになっていると感じてもらえたら、それが僕にとって一番の存在意義になるのかなと。

※1
Artist and Repertoireの略。レコード会社の立場でアーティストの育成や音楽制作、宣伝企画、ときにはマネージャーのような業務も担当する。[↑戻る

テレビアニメ「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」
「テレビアニメ「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」

業界大手のレコード会社「ガンダーラミュージック」に、新人として就職した主人公・澄空つばさ。

まるで仕掛けられた罠のように、入社早々、アイドルユニット「B-PROJECT」の担当に命じられる。「B-PROJECT」を担当するということは、所属する「キタコレ」「THRIVE」「MooNs」3つのグループも担当するということ。

初めての仕事は一筋縄にはいかず、トラブルやアクシデントが次々と巻き起こっていく……!?

十人十色の個性的なBOYSとともに……be ambitious!

放送情報
  • TOKYO MX:2016年7月2日より毎週土曜24:30~
  • ABC朝日放送:2016年7月2日より毎週土曜26:15~(初回放送は26:30~)
  • 群馬テレビ:2016年7月2日より毎週土曜24:30~
  • とちぎテレビ:2016年7月2日より毎週土曜24:30~
  • BS11:2016年7月2日より毎週土曜24:30~
  • CBCテレビ:2016年7月6日より毎週水曜26:52~
スタッフ
  • 原作:「B-PROJECT」(MAGES.)
  • 総合プロデュース:西川貴教
  • 企画・原作:志倉千代丸
  • 原作イラスト:雪広うたこ
  • 監督:菅沼栄治
  • シリーズ構成:赤尾でこ、MAGES.
  • キャラクターデザイン・総作画監督:川村敏江
  • 制作:A-1 Pictures
キャスト
  • 澄空つばさ:金元寿子
  • 北門倫毘沙:小野大輔
  • 是国竜持:岸尾だいすけ
  • 金城剛士:豊永利行
  • 阿修悠太:花江夏樹
  • 愛染健十:加藤和樹
  • 増長和南:上村祐翔
  • 音済百太郎:柿原徹也
  • 王茶利暉:森久保祥太郎
  • 野目龍広:大河元気
  • 釈村帝人:増田俊樹
  • 夜叉丸朔太郎:鳥海浩輔
  • 大黒篤志:興津和幸
  • 大黒修二:浪川大輔
ニューシングル「鼓動*アンビシャス」/ 2016年7月6日発売 / 1296円 / アニプレックス / SVWC-70173
「鼓動*アンビシャス」
収録曲
  1. 鼓動*アンビシャス / B-PROJECT(キタコレ、THRIVE、MooNs)
  2. 明日は、今日より夢見よう / キタコレ
  3. 鼓動*アンビシャス(Instrumental)
  4. 明日は、今日より夢見よう(Instrumental)
ニューアルバムシングル「星と月のセンテンス」 / 2016年7月27日発売 / 1728円 / アニプレックス / SVWC-70174
「星と月のセンテンス」
収録曲
  1. 星と月のセンテンス / キタコレ
  2. Starlight / THRIVE
  3. 夢見るPOWER / MooNs
  4. 星と月のセンテンス(Instrumental)
  5. Starlight(Instrumental)
  6. 見るPOWER(Instrumental)
西川貴教(ニシカワタカノリ)

西川貴教

1970年9月19日生まれ。滋賀県出身。1996年5月にソロプロジェクト・T.M.Revolutionとしてシングル「独裁-monopolize-」でメジャーデビュー。「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」「INVOKE」などヒット曲を連発する。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から滋賀県初となる大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を毎年開催。ほかにも舞台やミュージカルなど幅広い分野にて精力的な活動を展開している。