コミックナタリー PowerPush - 映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」

日本発のライトノベルがハリウッドで実写映画に 原作者・桜坂洋が語る発想の源泉と映画への期待

原作者 桜坂洋インタビュー

「デビュー作で成績をあげたら(『All You~』を)出せるよ」って言われて

──「All You Need Is Kill」は、登場人物が同じ時間を何度も繰り返すいわゆる「ループもの」にカテゴライズされる作品だと思いますが、「ループ」をテーマにした理由からお伺いできますか。

桜坂洋

2000年くらいですかね、「高機動幻想ガンパレード・マーチ」っていうループを題材にしたゲームのプレイ日記をWEBで読んで、そこから着想を得たんです。書こうと決めてからは、とにかくそういうテーマの作品を読んだり見たりしようと思ったんですが、まあ情報を集めるのが大変でした。

──当時はネットでも、いまのように情報がまとめられていなかったですよね。

そうなんです。当然Wikipediaも無かったし、「ループもの」っていう言葉自体ありませんでしたから。その中で僕が知り得たものは全部読んだり見たりしたつもりですね。まあエロゲは、あまりプレイしてないんですが。

──なぜそこだけ避けて?

エロゲって、ストーリーが平行しているわけじゃないですか。「バッドエンドに辿り着いちゃったら、それはなかったことにして分岐点から再スタートする」みたいな。そうじゃなくて「そういう失敗だったりも含めて人生なんだ」っていうのを提示したかったんです。あと僕の先輩にエロゲが大好きで「エロゲのストーリーは素晴らしい。小説なんか、ペッ」みたいなことを言っている人がいて。「見てろよ、この野郎」って思ったりもしましたね(笑)。

安倍吉俊による「All You Need Is Kill」のイラスト。

──そんな経緯があったんですね。着想から実際に2004年12月に刊行されるまでには、結構期間が空きましたが。

そうですね。当時スーパーダッシュ文庫の編集長に「こういう物語が書きたい」って話をしたら、「売れなさそうだけど、デビュー作で成績をあげて基礎部数がある程度ついてからなら出せるよ」と言われて。なのでまず、スーパーダッシュへの投稿作に手を加えて「よくわかる現代魔法」というライトノベルを出してから「All You Need Is Kill」を書いたんです。「英語のタイトルだと売れない」とも言われたんですけど、もう気にせずに。そのころには編集長と「どうせだから売上は気にしないで、カッコいい作品をつくろうよ」って盛り上がっていて。安倍(吉俊)さんのイラストがあがってきた時も2人で「渋い」「カッコいい」みたいな話しかしませんでしたし。

モンスター造形は映画・マンガ・原作でそれぞれ違う

──イラストの話が出ましたが、「All You Need Is Kill」は小畑健先生の作画でマンガにもなっていますよね。自分の文章をベースに描かれた絵を見て、どう思われましたか?

出てきたデザインが優れていたので、やっぱり「すごい」って感じました。僕は文章を書いている時に、グラフィックが頭に浮かぶタイプではないので。モンスター造形なんか特に良いですよね。

──ケイジたちが劇中で戦うことになる「ギタイ」ですね。ライトノベルでは「ぶくぶくに膨れ上がったカエル」と表現されています。映画では触手を生やしていて、一方マンガでは無機質な感じの……。

マンガ版に登場するギタイ。

ウニみたいですよね。実は「ギタイ」の造形に関しては、僕が唯一マンガに注文をつけたところなんです。マンガが始まるときには、映画での造形がどうなるかも決まっていたので、それを伝えて「小説とも映画とも違う、小畑先生オリジナルのデザインを考えて下さい」と。実際に見てみて、小畑先生の絵にはやっぱりパワーを感じました。

──マンガ版を読んでみて、小説との作り方の違いを感じた部分はありましたか?

小説は4章構成で、各章にひとつずつ、計4つの見せ場しかないんです。マンガは全部で17話だから、その4つはすべて使ってもらったとしても、あと13個キメのシーンを作らなきゃいけない。そうなった時に、マンガだとまずそのシーンを決め込んで、それを成立させるためにどういう風に展開するのか、と逆算してくんですね。それは小説ではやらない手法だから、そういう物語の作り方の違いには驚きましたね。

──マンガになって初めて絵に起こされたキャラクターもいますが、お気に入りは?

筋肉ムキムキのフェレウ軍曹ですね。あの汗臭い感じが最高なんですよ。小畑先生がこれまでああいうキャラクターを描かれたことはないんじゃないかな。新境地だと思いますよ。

マンガ版「All You Need Is Kill」より、トレーニングルームを訪れるケイジ。

──フェレウ軍曹といえば、主人公のケイジが女性からの誘いを断って、軍曹の待つトレーニングルームを訪れるシーンが印象的でした。

そうそう、笑顔でおっさんのところに。僕たちの間ではいわゆる「アニキエンド」と呼んでいます。

──(笑)。ちなみに女性キャラクターでは?

リタが好きですね。性格はもちろん、背負っているものがある部分とか。リタについては、マンガで「ずるいな」と思った箇所があって。食堂で初めて梅干しを食べるシーンがあるじゃないですか。

マンガ版「All You Need Is Kill」より、梅干しの酸っぱさに驚くリタ。

──酸っぱさに驚いて顔をしかめる場面ですね。

小説では「五十七ミリ速射砲をどてっ腹にくらった」みたいな軍隊的な表現にしたんですよ。でもマンガだとあそこだけ、可愛い顔に崩して描いてるじゃないですか。あれはマンガの特性を活かした良いシーンですよね。ああいう一面は僕は出せなかったので「やりやがったな」って思いました。もしかしたら小説でだって書く方法はあるのかもしれないですけど、少なくとも僕にはそういうふうには書けなかったから。

映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」
映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」2014年7月4日(金)2D/3D公開

謎の侵略者“ギタイ”からの激しい攻撃で、滅亡寸前に追い込まれた世界。戦闘スキルゼロのケイジ少佐は最前線に送り込まれ、開戦5分で命を落とす。だが次の瞬間、彼は出撃前日に戻っていた。その時から同じ日を無限に繰り返すケイジ。やがて彼は最強の女性兵士リタと出逢う。ケイジのループ能力が敵を倒す鍵になると確信したリタは、彼を強靭な“兵器”に変えるべく、徹底的に鍛え上げる。“戦う・死ぬ・目覚める”のループを繰り返すことで別人のように成長したケイジは、世界を、そしてかけがえのない存在となったリタを守りきることができるのか──?

監督:ダグ・ライマン
脚本:クリストファー・マッカリー、ジェズ・バターワース&ジョン=ヘンリー・バターワース
出演:トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン、ブレンダン・グリーソン

原作:桜坂洋「All You Need Is Kill」(集英社・スーパーダッシュ文庫刊)

桜坂洋「All You Need Is Kill」 / [小説] 発売中 / 626円 / 集英社
桜坂洋「All You Need Is Kill」

「出撃なんて、実力試験みたいなもんじゃない?」敵弾が身体を貫いた瞬間、キリヤ・ケイジは出撃前日に戻っていた。トーキョーのはるか南方、コトイウシと呼ばれる島の激戦区。寄せ集め部隊は敗北必至の激戦を繰り返す。出撃。戦死。出撃。戦死──死すら日常になる毎日。ループが158回を数えたとき、煙たなびく戦場でケイジはひとりの女性と再会する……。ひとりの兵士の成長と選択を描く、切なく不思議なSFアクション。はたして、絶望的な戦況を覆し、まだ見ぬ明日へ脱出することはできるのか!?

原作:桜坂洋、構成:竹内良輔、キャラクター原案:安倍吉俊、漫画:小畑健「All You Need Is Kill(1)(2)」 / [漫画] 発売中 / 各巻460円 / 集英社
「All You Need Is Kill(1)」
「All You Need Is Kill(2)」

人類は今、かつてない戦争をしている。敵は「ギタイ」と呼ばれる化物。ジャパンの南方、コトイウシ島で繰り返される戦闘。初年兵であるキリヤ・ケイジと戦場の牝犬と呼ばれるリタ・ヴラタスキは、まだ見ぬ明日を求める戦いに身を投じていく──。

桜坂洋(サクラザカヒロシ)

1970年生まれ。第2回集英社スーパーダッシュ小説新人賞最終選考作を改稿・改題した「よくわかる現代魔法」で2003年にデビュー。同作はマンガ化、TVアニメ化も果たした。そのほかの著書に「スラムオンライン EX」などがある。ライトノベルの垣根を越えて、一般文芸作家としても活躍。