コミックナタリー PowerPush - 映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」

日本発のライトノベルがハリウッドで実写映画に 原作者・桜坂洋が語る発想の源泉と映画への期待

トム・クルーズはバキの親父みたいだった

──映画ではエミリー・ブラントがリタを演じています。先生は撮影を見学に伺われたとのことですが、お話する機会はありましたか。

映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」より、トム・クルーズ演じるケイジ(左)と、エミリー・ブラント演じるリタ。

少しだけ。エミリー・ブラントは話してみると、気さくないいねーちゃんなんですけど、一旦役に入るとやさぐれた感じを漂わせて、それがまさにリタ・ヴラタスキなんです。そういうピッタリな配役を見つけてくるハリウッドは、やっぱり凄いなと思いました。

──トム・クルーズとは対談なさったりもしていますが、印象はどうでしたか。

トムはね、もうめちゃくちゃスターな人です。

──(笑)。

桜坂洋

これ笑い事じゃないんですよ。「バキ」に出てくる地上最強の親父っているじゃないですか。それを最強のスターに置き変えた感じです。イギリスの「エンパイア」という映画雑誌の賞をトムが受賞するところを、見学させてもらったんですが、最初から最後までひっきりなしに声援を浴びていて。彼の周りはずっと盛り上がってるんですよ。

──スターばかりの会場内でも、ひときわ。

はい。どこをどう切り取ってもスターとしか言えない。彼は生き物としてスターなんですよね。

──その大スターが主演ですから。

そうですよね。映像化の話が出たのが2009年なので、足掛け5年。5年ていうとすごく長く感じるかもしれないですが、ハリウッドだと最速に近いケースらしいんですよ。

──トントン拍子に。

最初に話をもらった時は、「塩漬けになるかもしれないから、はしゃぐのは今しかない」みたいな感じで喜んでたんですけど(笑)。ありがたいことです。

作品のテーマは映画でも小説でも変わっていない

──見学以外に、撮影にも参加したとお聞きしましたが。

参加したというか、戦闘用のスーツを試しに着させてもらったんです。35kgもあって、ほとんど甲冑でしたね。人間の着るものじゃないですよ、あれは。

──映画では役者の方々が自然に動いていたので、軽い素材で作られているのかと思っていました。

映画「オール・ニード・イズ・キル」より。

だからあんなのを身につけて演技をする役者さんは本当にすごいですよ。僕は映画の見どころの1つがスーツを着ての戦闘だと思っているんです。SFの世界を映像化したものはこれまでにだっていくらでもありましたけど、戦闘を地に足の着いた、僕らの想像の一歩だけ先の世界にあるものとしてリアルに表現している。CGとかではなく、何百人の役者が全員しっかりとスーツを着たうえで、それぞれが別の動きをしてますから。映像に関しては「革命が起きたな」という感じがしました。

──一方でキャラクターの設定は、原作と映画で結構違いがあります。小説では初年兵のケイジが、映画だと軍のPR担当者になっていたり。そういった部分の変更は、原作者として気にならなかったですか。

これがまったく気にならなかったんです。映画を実際観てみてすごく面白かったですし、根源的なテーマが変わっているわけじゃないから。

──テーマというのは、先ほどおっしゃっていた「失敗も含めて人生なんだ」という。

はい。僕たちの人生って間違えたり、失敗したり、成功したりとか色々あるわけですよ。忘れたいこともたくさんあるし。あとはループじゃないけど、1カ所にずっと留まり続けてグルグルしているとか。でも「長い目で見たら、それも自分の人生なんだから肯定的に考えよう」みたいなことですね。それは映画でも描かれてますから。

──ストーリー自体も原作と映画では違いがありますよね。

桜坂洋

物語についてはあまりしゃべり過ぎるとネタバレになってしまうな。脚本に関して言えば、僕は2稿目くらいまでは読んでいて、そのときは結構原作に似たストーリーだったんですね。そこからどんどん手が加えられていって今の形に落ち着いたみたいです。でもアメリカ人だけで作ったハリウッド映画だったら、ああいう展開にはならないんじゃないかな。日本の物語とうまく混ざり合って、これまでにない新しさが生まれていると思います。

──映画ではそのあたりも見どころの1つに。

そうですね。あとは映画でのループ表現。めまぐるしく映像が切り替わっていく。あれはちょっと小説ではできない部分ですからね。観終わったときに「こういう風にやりゃよかった」って思いましたよ(笑)。

──映画から原作に新しく入ってくるファンもいるかと思いますが。

トム・クルーズのファン的にはどうなんですかね。まあそこに限定しなくてもいいか(笑)。原作はもはや古典の部類に入りかけてると思うんですが、いま振り返っても「ループもの」で必要なことはやりきってるとは自負しています。なので「一応押さえとくか」くらいの気持ちで、気軽に読んでみてください。映画に関してはめちゃくちゃいい俳優、スタッフ、脚本家が揃ってるので、安心して観ていただけると思いますよ。

映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」
映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」2014年7月4日(金)2D/3D公開

謎の侵略者“ギタイ”からの激しい攻撃で、滅亡寸前に追い込まれた世界。戦闘スキルゼロのケイジ少佐は最前線に送り込まれ、開戦5分で命を落とす。だが次の瞬間、彼は出撃前日に戻っていた。その時から同じ日を無限に繰り返すケイジ。やがて彼は最強の女性兵士リタと出逢う。ケイジのループ能力が敵を倒す鍵になると確信したリタは、彼を強靭な“兵器”に変えるべく、徹底的に鍛え上げる。“戦う・死ぬ・目覚める”のループを繰り返すことで別人のように成長したケイジは、世界を、そしてかけがえのない存在となったリタを守りきることができるのか──?

監督:ダグ・ライマン
脚本:クリストファー・マッカリー、ジェズ・バターワース&ジョン=ヘンリー・バターワース
出演:トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン、ブレンダン・グリーソン

原作:桜坂洋「All You Need Is Kill」(集英社・スーパーダッシュ文庫刊)

桜坂洋「All You Need Is Kill」 / [小説] 発売中 / 626円 / 集英社
桜坂洋「All You Need Is Kill」

「出撃なんて、実力試験みたいなもんじゃない?」敵弾が身体を貫いた瞬間、キリヤ・ケイジは出撃前日に戻っていた。トーキョーのはるか南方、コトイウシと呼ばれる島の激戦区。寄せ集め部隊は敗北必至の激戦を繰り返す。出撃。戦死。出撃。戦死──死すら日常になる毎日。ループが158回を数えたとき、煙たなびく戦場でケイジはひとりの女性と再会する……。ひとりの兵士の成長と選択を描く、切なく不思議なSFアクション。はたして、絶望的な戦況を覆し、まだ見ぬ明日へ脱出することはできるのか!?

原作:桜坂洋、構成:竹内良輔、キャラクター原案:安倍吉俊、漫画:小畑健「All You Need Is Kill(1)(2)」 / [漫画] 発売中 / 各巻460円 / 集英社
「All You Need Is Kill(1)」
「All You Need Is Kill(2)」

人類は今、かつてない戦争をしている。敵は「ギタイ」と呼ばれる化物。ジャパンの南方、コトイウシ島で繰り返される戦闘。初年兵であるキリヤ・ケイジと戦場の牝犬と呼ばれるリタ・ヴラタスキは、まだ見ぬ明日を求める戦いに身を投じていく──。

桜坂洋(サクラザカヒロシ)

1970年生まれ。第2回集英社スーパーダッシュ小説新人賞最終選考作を改稿・改題した「よくわかる現代魔法」で2003年にデビュー。同作はマンガ化、TVアニメ化も果たした。そのほかの著書に「スラムオンライン EX」などがある。ライトノベルの垣根を越えて、一般文芸作家としても活躍。