俺ら遭難するのかな

──「ブギウギ奥の細道」の中で、大地さんが特につらいなと感じたことはなんでしょうか？

大地　肉体的なつらさもありましたけど、精神的なつらさが大きかったです。今でも覚えているのは大雪が降ったとき、そこにいるはずのない女性の声がどこからか聞こえたことです。

上杉　「いや、怖いよ！」と（笑）。すごくイヤでした。極限状態ですね。

大地　宿に入ったときに、頭に巻いてたタオルを外したら、外が寒すぎてタオルがカッチカチに凍ってた、ということもありました。

上杉　大地さんは、歩いてる最中に信号とかを見つけると「ハッピーポイントだ」と言ってたんですよね。細かく目的地を刻んでいかないと精神がもたない、と。

大地　Vol.5の最後のほうでは、あまりにも雪がひどすぎて、ついに道路のパトロールしてる人たちから「これ以上歩くと命の保証はない」みたいなことを言われましたもんね。「俺ら遭難するのかな？」と思いました。

上杉　記録的暴風雪のときですよ。

大地　でも、岸さんのやり方で、オンエア上はそんなにつらさを全面に出さないじゃないですか。

上杉　出さないですね。観てる側も、あまりにも生々しすぎるとしんどくなっちゃうので。

大地　「バカだなこいつら」と思ってほしいんですが、その裏側には引くくらい過酷な状況がありました（笑）。そうは言っても、実際はつらいというよりも楽しかったんですけどね。

極限状態で面白いものを探し続ける大地

上杉　大地さんがいるときといないときって、空気感が全然違うんですよ。極寒の中、岸さんと2人でやってるときは、バラエティである瞬間を忘れてドキュメンタリーみたいになる。そこに大地さんが入ると現場が楽しくなりますもん。「大地さん来たー！」って。

大地　ドキュメンタリーなのかバラエティなのか、僕もわからなくなるときはあるんですけど。僕ら2人とも器用な人じゃないから、とにかく一生懸命やるしかない。本当は面白いことも、そんなに言う必要ないんだよね。

上杉　「ブギウギ専務」は各地で「勇気もらってます！」っていう声をもらうことが多いんです。それで僕のほうも真面目になっちゃうのかもしれない。

大地　だから僕は誰を笑わせようかといったら、まずは専務（＝上杉）と岸さんを楽しませたい。

──以前、上杉さんに話をお伺いしたときに「芸人さんってやっぱりすごい！」とおっしゃってたのも印象的です。

大地　え、芸人さんはどうすごいの？（笑）

上杉　いわば極限状態で、夜も更けたときに、僕は「どうしよう！ 宿も決まってないし、ヤバいヤバい！」と思うんです。でも大地さんは毎秒毎秒、常に「何か面白いものないかな？」って探して、その場の雰囲気が明るくなるようなことを言うんですよ。「精神の保ち方がすごいな！」と。

大地　そういうふうにしてないと、僕のほうもガチで心折れそうになるからね（笑）。

この人たち、本当に850km歩いたんだ

──宗谷岬でのゴールはどのような心境で迎えられましたか？

大地　専務はゴール地点ではなくて、その手前にある駐車場の「P」の看板を見た時点で感極まってましたよね（笑）。

上杉　俺も「ここじゃない！」と思いながら、涙が止まらなかった（笑）。視聴者の人ってどういうものを求めてるんだろう？と考えれば考えるほど、たぶん泣けないな、と思っていたのですが、「P」が見えた瞬間に自分でもわからないくらいボロボロと大粒の涙が……。係長にも「がんばったな！」って言われました。

大地　この旅って、基本的には専務と岸さんの2人旅なんですよ。僕とメインのカメラマンさんと音声さんは、ほかの仕事もあって離脱するので。だからこそ、ゴールを客観的に見て「この人たち、本当に850km歩いたんだ！ すげーな！」と。

上杉　ちなみに係長（＝大地）は途中で合流することが多かったですけど、合流するときはどんな気持ちだったんですか？

大地　それは正直に言うと「あそこに俺も合流するのかー！ イヤだなー！」ですよ（笑）。とはいえ、合流するときの車の中から「専務がんばれ！ 岸さんがんばれ！」という視聴者目線になることもありましたけどね。