ナタリー PowerPush - 青天の霹靂

劇団ひとり、初監督映画に込めた思い

監督ひとり

たけしさんがきっかけだった

劇団ひとり

監督をやりたいと思ったきっかけは、やっぱりたけしさんだと思います。たけしさんが先駆者となって、それに続いていろんな芸人さんが監督やるようになったじゃないですか。そういうのを見てきたので、自然と自分もいつかは映画監督っていう意識ができて。人にもよると思うんですけど、芸人って1個1個やりたい目標ってあると思うんですよ。最初は単独ライブで、次はテレビでコント番組やりたいと。そのリストの一番上にあるのが、僕の中では映画監督だったんです。今回、その映画監督をやっちゃったんで、結構大事な目標を1個叶えたっていうのはほんとにあるんですよね(笑)。

前作の小説「陰日向に咲く」のときも、ひょっとしたら自分が手を上げたらやらせてくれたかもしれないんですけど、あれはそもそも映画化するつもりで書いてなかったので、映画化しても面白くないだろと思ったんです。映画化するときは、僕は責任取れないから、やるならどうぞという感じでした。たぶん調子に乗ってたんだと思います。あの本、すげー売れたんで(笑)。あれがほんとは1回目の監督チャンスだったんですよ。それから結局10年近く経っちゃいましたから。

興奮して眠れないときもありました

映画「青天の霹靂」

実際監督やってみて、原作で書いたシーンが目の前でほんとに形になっていく瞬間っていうのは不思議でしたね。もともとなんもなかったものじゃないですか。頭の中で勝手に考えていたものなのに、役者が来て衣装着てそのセットのところで現実のものとして目の前でやってるわけですよね。それがすごく不思議でした。贅沢に夢が叶うというか、子供の頃のおままごとのすごいやつみたいなことですよね。それを第一線のプロが集まってみんなで実現化してくれる作業。いい芝居が撮れて、興奮して眠れないときもありましたね。あまりにいいシーンで。

ただ、思ったようなシーンが撮れないってこともありました。どっちかっていうとそっちのほうが多かったかもしれないです。そのためにいっぱいいろんなカット撮って、あとで編集でどうにかしようって思うんですけど、やっぱり全部が全部自分の理想通りにはいかなくて。ただ、理想以上になったシーンもいっぱいあったし、結果トントンじゃないですかね。

基本出しゃばりなんです

劇団ひとり

監督って、全部やっていいんですよ。こんなにやっていいと思わなかったんですけど(笑)。芝居も衣装もカメラワークも全部口出していい。当然1人でやるわけではないので、いろんな人に助けてもらいながらですけど、エンドロールの流れるスピードとか、フォントの大きさとか、そこまで口出していい立場なんですよね。効果音とか、ここまでやってるのかって思うんです。ほんとにあの、後ろのほうでスズメがチュンって鳴いてるのとか、音って7割くらいあとから入れてるんですよ。撮影のときはちょっとでも犬が吠えたら音声さんが「黙らせろー!」とか言って、なるべく静かな音で撮るのに、あとで自分の手で犬の声を足すっていう(笑)。なんだかよくわからないんですけど。すごい時間かかりましたね。

最初はそんな環境音みたいなものは、「いや別にそこまで俺こだわんないから」って言ってたんですけど、やるとすげーこだわっちゃって(笑)。もうたぶんね、観てる人どうでもいいことだと思うんですけど、「あ、今、虫が飛ぶ音、もうちょっと早くしてもらいたい」とか、どうでもいんですけど、見ると気になっちゃうんですよ。虫の飛ぶ間が違うみたいな(笑)。それは言われました、スタッフの人に。「どうでもいいですよとか言っておきながらあとから結構ぐちぐち言って時間かかりますよね」って(笑)。グレーディングっていう色の作業もあるんですよ。「俺は色なんかわかんないから任せます」って言って、一応確認って見たら、「ちょっと緑が弱い」って言い始めて(笑)。基本出しゃばりなんです。

映画「青天の霹靂」

僕も自分で自分がそういう監督だって知らなかったんですよ。なんかたまにそういう話をしてくる映画好きとかいるじゃないですか。「あそこの色味がさー」とか。「うるせーな、お前! 色なんか関係ないんだよ!」って思ってました。「そんなもん、チャップリンは白黒であんだけ完璧にできるんだから色味なんて関係ねーんだよ!」って思ってたら、俺すげーこだわる(笑)。

劇場に入ってくれるんだったらなんでもいい

完成した作品を見たときの気持ちとしては、正直ほんとにわかんなかったです。結局、映画の編集とか音入れの作業も、限られた素材しかないけど可能性は無限にあるんですよ。単純にシーンを全部入れ替えたっていいわけだし。もっと細かいこと言うと、間を0.5秒もうちょっと延ばしたほうがいいとか。正解はないので、正直見るたびにどっかしら気になります。もし直したとしても、「もとのほうがいいかな?」くらい微妙な世界なんですけど、正解はない。当然僕は自分で面白いと思って作ってるので面白いとは思うんだけど、これがいいものなのかどうかはわからない。

劇団ひとり

それはやっぱり僕が芸人をやっていて、ネタでそういう思いを山ほどしてきたから。これは絶対間違いないってネタですーごいスベることもあれば、半信半疑でやってめちゃめちゃウケることもあるし。当たり前ですけど、客観的なことはお客さんが決めることなので、いいか悪いかわかんないです。自分ではできる範囲のことだけやったと思います。

ほんとどういう気持ちでこの映画を観ようが、劇場に入ってくれるんだったらなんでもいいです。劇場に入りさえすれば寝てたって構わない。チケット買ってさえくれればいいです。買ってそのまま捨ててくれても大感謝です(笑)。

映画「青天の霹靂」

5月24日(土)全国東宝系公開

映画「青天の霹靂」

生まれてまもなく母に捨てられた39歳の売れないマジシャン晴夫(大泉洋)。今では父とも絶縁状態で、四畳半の自宅ではテレビで人気急上昇の後輩マジシャンを眺めるやるせない日々を送っている。そんな彼のもとに、父の訃報が突然もたらされた。晴夫は父の死と自分の惨めさを重ね合わせ、生きることの難しさをあらためて痛感する。そのとき青空から一筋の雷が放たれ、晴夫を直撃。気がつくと晴夫は40年前の浅草にタイムスリップしていた。そこで若き日の父(劇団ひとり)と母(柴咲コウ)に出会い、ひょんな流れから父とコンビを組んで一躍人気マジシャンとなるが……。

  • キャスト:大泉洋 / 柴咲コウ / 劇団ひとり / 笹野高史 / 風間杜夫
  • 監督・脚本:劇団ひとり
  • 原作:劇団ひとり「青天の霹靂」(幻冬舎文庫)
  • 脚本:橋部敦子
  • 音楽:佐藤直紀
  • 主題歌:Mr.Children「放たれる」
劇団ひとり(ゲキダンヒトリ)
劇団ひとり

1977年2月2日生まれ、千葉県出身。1993年、コンビでデビュー。2000年に解散後、劇団ひとりとしてピン芸人に。2006年には「陰日向に咲く」で小説家デビュー。2014年5月24日に初監督映画「青天の霹靂」が全国公開される。