ナタリー PowerPush - 青天の霹靂
劇団ひとり、初監督映画に込めた思い
寅さんを意識して作ったキャラクター
これまでの役作りでは、セリフを何回も声出して読んで、そのうちすごい気持ちいいのが出てきて、「あ、これかなー」と思って現場でやるんですよ。そしたら作りすぎてて、「ちょっと違うんですよね」みたいなことを何回か言われていて(笑)。あれを言われる瞬間ほど恥ずかしいものはないです。
今回は役作りはきっちりできてました。やりたかったんで、この役が。「男はつらいよ」が好きで、寅さんをすごく意識して作ったキャラクターなんです。ほんとはもっと“とっぽく”しようと思ったんですよ。でも、普段の僕のイメージがあるから、あんまりギャップがあると見づらいだろうなーと思って、普段のイメージから外れない範囲で。
中国人キャラに関して
自分で言いますけど、ほんとに扱いやすい役者でした。当たり前ですけどね。でもこれすごく勉強になったのが、こいつは俺が思ってるレベルでしかやってこないんですよ。自分の理想を超えてこない(笑)。ほかの役者さんは、超えてくれることがあるんですよ。思いのほかいい感じで言えたとかはあるんですけど、「そうきたか!」とはならない。それで言うと、自分で監督やって自分で役者やるっていうのは、そういう弊害もあるんだなと思いました。
中国人キャラに関しては、ほんとに何年やってきたか。僕あれね、コンビのときからやってますから。あの中国人キャラは14、5年前、新宿の雀荘で中国人3人が中国式のマージャンを1人の日本人に教えてるのを後ろでずっと聞いてたんですよ。最初うるせーなと思ったんですけど、聞いてたらすげー面白くて。あの一晩で僕が得たものは大きいですよ。中国人と泣き芸、もうこの2つで飯食ってると言っても過言ではない、僕の2大要素でしょうね。この映画をぜひあの中国人に観てほしいです(笑)。
笑わすことだけを考えたら絶対テレビのほうがうまい
大泉さんとはすごくやりやすかったです。間(ま)が全然役者さんの間じゃなかったですね。舞台上で掛け合いするところは、一番手がかからなかったシーンだと思います。柴咲さんに殴られるシーンがあって、あそこも好きなんですよ。叩かれたけど虚勢張ってるあの感じはすごい好きなんです。
笑いの演技の部分っていうのは、どっちかというと、この主人公たちを好きになってもらうために入れてる笑いというか、寅さんの笑いと一緒です。寅さんの笑いも、そういうシーンによって寅さんに愛着が湧くようになっている。ほんとに笑いだけ取りにいくんだったらこの映画にはしてないですね。映画というパッケージでバラエティ以上に面白いことをやるっていうのは無理だと思います。ほんとに笑わすことだけを考えたら絶対テレビのほうがうまい。実はこの映画にも、もうちょっと笑いの要素は入れてたんです。でも、それをやめたきっかけが「ゴッドタン」(テレビ東京系)の「キス我慢選手権」で。「キス我慢選手権 THE MOVIE」ってすげー面白いしウケるんですよね。笑いでこれに勝負してもしょうがないなって。
» 監督ひとり
生まれてまもなく母に捨てられた39歳の売れないマジシャン晴夫(大泉洋)。今では父とも絶縁状態で、四畳半の自宅ではテレビで人気急上昇の後輩マジシャンを眺めるやるせない日々を送っている。そんな彼のもとに、父の訃報が突然もたらされた。晴夫は父の死と自分の惨めさを重ね合わせ、生きることの難しさをあらためて痛感する。そのとき青空から一筋の雷が放たれ、晴夫を直撃。気がつくと晴夫は40年前の浅草にタイムスリップしていた。そこで若き日の父(劇団ひとり)と母(柴咲コウ)に出会い、ひょんな流れから父とコンビを組んで一躍人気マジシャンとなるが……。
- キャスト:大泉洋 / 柴咲コウ / 劇団ひとり / 笹野高史 / 風間杜夫
- 監督・脚本:劇団ひとり
- 原作:劇団ひとり「青天の霹靂」(幻冬舎文庫)
- 脚本:橋部敦子
- 音楽:佐藤直紀
- 主題歌:Mr.Children「放たれる」
劇団ひとり(ゲキダンヒトリ)
1977年2月2日生まれ、千葉県出身。1993年、コンビでデビュー。2000年に解散後、劇団ひとりとしてピン芸人に。2006年には「陰日向に咲く」で小説家デビュー。2014年5月24日に初監督映画「青天の霹靂」が全国公開される。