さらば青春の光が今年5月から7月にかけて開催した単独ライブツアー「すご六」の最終公演“東京凱旋公演”の様子を収めたDVDが11月1日に発売される。過去最大規模となる全国6都市で24公演を実施し、動員数も2万人と前回の記録を更新した同ツアー。各地を巡りながらブラッシュアップし続けた7本のコントを、マンボウやしろの演出と川谷絵音が手がけるオープニング曲が彩る。
昨年以上に忙しい日々を送りながらも、ネタの細部までこだわり単独ライブを成功させることに労力を惜しまないさらばの2人。2017年リリースの「会心の一撃」から毎年彼らにインタビューし、その歩みを追ってきたお笑いナタリーでは今、改めて「単独ライブを行う理由」を聞いた。
取材・文 / 狩野有理撮影 / 井上たろう
不真面目な芸人が減ってきている!
──お笑いナタリーでは1回目の単独ライブ「会心の一撃」からDVD発売タイミングで毎年インタビューさせてもらっていますね。まずは前作「五穀豊穣」の取材から今日までを振り返りつつお二人の現在地を確認したいと思います。どんな1年だったでしょうか?
森田哲矢 「五穀豊穣」のときの忙しさがピークなのかなと思っていたんですけど、ピークじゃなかったんやなーという1年でした(笑)。
──まだ天井じゃなかったですか。
森田 天井じゃなかったです(笑)。「働いたなあ!」と思いますね。
──東ブクロさんはどうでしょう。
東ブクロ 去年に比べたらちょっとずつ早い時間帯の番組に出られるようになってきているんじゃないでしょうか。ただ、今年の初めくらいにごっそりラジオのレギュラーが終わったんですよ。テレビのお仕事をいただけている反面、ラジオは減っているという状態になっているんですけど。
森田 こんなにラジオ好きやのになあ?
──総合的にはよい1年でした?
東ブクロ どうですかねえ。でも一番やりたいゴルフの仕事が全然来ないんですよ。これだけゴルフばっかりやってるのに、なかなか。
森田 ええやん、自分でゴルフのYouTubeやってるんやから。
東ブクロ ダイアン津田さんのゴルフ番組(東海テレビ「ダイアン津田のバーディーチャンす~」)が始まったじゃないですか。「俺のほうがゴルフ好きやけどな?」とか思いながら、イライラはしてます。
森田 イライラしてんねや?(笑)
──YouTubeでは満足できない?
東ブクロ BSでやりたいです。やっぱり“ゴルフ芸人”としてのステータスが上がるので。
──森田さんは芸人だけがゲストとは限らないようなゴールデンの番組にお一人で出演されたり、MC的な役割を務めたりする番組が増えている印象なのですが、仕事の種類が変わってきた感覚はありますか?
森田 ありがたいことにそういう機会も増えましたね。「俺、この番組出れんねや!?」と思うような番組に呼んでいただきました。「しゃべくり007」(日本テレビ系)とか、「俺で1時間行くんすか? 大丈夫ですか?」みたいな(笑)。そんなのもやってもらえるようになったんやなと。
──視聴者の見方も変わってきているのでしょうか。
森田 それは自分ではあまり感じないですけどね? いまだに「売れたな」って感覚はないですし。
──テレビやYouTube、単独ライブなど全方位で活躍しているお二人にお聞きしてみたいと思っていたのが、近年のお笑い界についてです。芸人側、お笑いファン側、どちらでも構わないのですが変化などは感じますか?
森田 わかんないですけど、配信系が充実してみんな飯食えるようになってきている感じはしますね。
──ということは、芸人界の幸福度が高くなっている?
森田 ああー。幸福度上がってるんじゃないですか? それってもしかしたらちょっとよくないことのように聞こえるかもしれませんけど、僕はいいことだと思いますね。みんな飯食いたくてこの世界に入ってきてるわけですから。
──お笑いファンの変化は感じますか?
森田 自分たちのお客さんで言うと、昔は本当にコアな層、お笑いがものすごく好きなんだろうなという人たちが単独に足を運んでくれていた印象でしたけど、ここ何年かは、例えば一緒に番組をやっていた乃木坂46や対バンさせてもらったCreepy Nutsのファンの人たち、YouTubeで興味を持ってくれた人、来てくれる人の層が広がったような気がします。
──東ブクロさんのご意見もぜひ聞かせてください。
東ブクロ 「ネタパレ」(フジテレビ)とかで若手を見ていると、「演技下手な奴おらんのか?」と思いますね。ネタの粗さはあるのかもしれないですけど「こいつ演技下手やな~」って人が1人もいない。僕らが2、3年目のときの映像を今見たらやばいと思いますよ。YouTubeでいくらでもネタを見られますから、そういうので勉強しているのかなと。勉強熱心なんでしょうね。そういう意味では芸人の真面目度が上がっているのかもしれません。
──なるほど。
東ブクロ お見送り芸人しんいちと毎回話すのが、「マジで俺らみたいな奴おらへんな」と。ほんまにお笑いが好きで、コントが好きで、それで飯が食いたくてやってる。「モテたい」なんか一切思ってへん奴が増えすぎているのが、僕はよくないなと思いますね。
森田 え、よくない!?
──不真面目な人もいたほうがいいですか?
東ブクロ おってもええやんと思うんですけど。
森田 お前とか見てたら不真面目になんかなれへんやろ!
東ブクロ これはちょっと怖いことですよ。
森田 俺はお前が怖いわ、ずっと(笑)。
東ブクロ 売れる手段としてコントをやってる奴がいなくなっているのは由々しき事態というか。
森田 ブクロは手段やったもんなあ?(笑)
東ブクロ いやそうですよ。テレビに出るためのものです!
手に負えない動員数になってきた
──さて、さらばのこの単独ライブシリーズでは当初1万人の動員を目標にしていましたよね。5作目の前回1万4000人、そして6作目となる今回「すご六」で動員2万人を達成しました。この数字を見て率直にどんな感想を持ちましたか?
森田 もう、手に負えないです(笑)。もちろん単独の評判って動員の数だけではないけど、自分たちの力を誇示する一番わかりやすいものではあるじゃないですか。ヒットポイントというか。そう思うと立派な数字になったなと。
東ブクロ でも公演ごとに入っているのは何百人なので、こっちからするとあんまり「2万人」の感覚がなくて。数字を聞かされると改めてありがたいなあと思いますね。
──全国6都市、24公演。着実に規模が大きくなっています。
森田 実は去年の段階で(演出の)マンボウやしろさんが「3万行きましょう!」って言ったのを1回押さえたんですよ(笑)。
東ブクロ 僕の中では24公演をとりあえず乗りきろうということでしたね。始まる前に、「2時間公演が24回……え、48時間? 丸2日コントするんや?」と思って。
森田 めっちゃ全体を見据えてるやん。1公演、1公演とかじゃないんや(笑)。
東ブクロ それを考えたときに、これはちょっとやばいぞと。なんとかゴルフを間に挟んで、乗り切ろうという感覚でしたね。
──余裕で乗り切れました?
東ブクロ 余裕ということはないですけど、もっと想像を絶する感じだと思っていたので。
森田 そんな途方に暮れてたんや。
東ブクロ スケジュールに余裕を持たせてくれて、1日2公演っていう日が少なかったからなんとか乗り切れました。あと、森田の喉の状態は今回が一番よかったと思います。
調整に調整を重ねて完成したラストネタ
──ネタ作りから本番までのプロセスは順調にいきましたか?
森田 いや、いつもより遅かったです。最後までネタが決まらんかった。自分的に、合格ラインまで届いているネタが少なかったんですよ。「五穀豊穣」に比べると、難産でしたね。
──忙しさも影響しているのでしょうか。
森田 それもあるかもしれないんですけど、こればっかりは時の運なんで。ネタって、考えた量に比例しない部分があるんですよ。そのときに自分がどこにおったかとか、そんなレベル。「ここにおらんかったらこのネタ生まれてない」みたいなことがけっこうあって。だから今回は、ルーティンがよくなかったのかな?って感じです。
──台本が手元に届くまでの間、東ブクロさんはどのようにお過ごしでした?
東ブクロ いやいや、いつもと別に何も変わらず。
森田 あっはっはっは(笑)。
──以前もおっしゃっていましたね。平常心で、“待ちの作業”。
東ブクロ こっちが焦っても変わらないんでね。でも今回、森田はネタが出るのが遅かったって言ってますけど、上がってきた台本から完成形になるまでは早かった気がしていて。もちろん公演が始まってからブラッシュアップはしていくんですけど。
森田 えーそんな感覚やった?
東ブクロ 「これまだ出来上がってないんやろうな」っていうコントはめっちゃ覚えにくかったりするんですよ。それが、今回はけっこう完成されている状態のネタが多かったと思います。
森田 ふーん。……こんなに気持ちを共有できてないとは思わなかったですね(笑)。「タネ飛ばし」なんて、一生直してましたからね! もう千秋楽まで直してましたから。
東ブクロ それはそうやけど、いつもそういう状態のネタがもう何本かあるので。
森田 でも今回は異例でしたね。「タネ飛ばし」はなんとなく僕の中で納得いっていなかったんですけど、ナベちゃん(作家の渡辺佑欣)がラストのネタとしてやれるんじゃないかと食いついたので、台本を任せたんですよ。いつもなら、設定が出て「こんなボケあって、こんなボケあって」という素材を集めて何本かの台本を書いてもらうんですけど、今回は「タネ飛ばし」一点集中で、「これだけに時間を費やしてくれ!」という状態になるくらい大変なネタでした。だからめっちゃ試行錯誤しましたね。「ブクロのキャラをこうしてみよう」とか「こんな下ネタ入れるネタじゃないねんな」とか。
──ラストにふさわしい強いネタだと思いましたが、そんなご苦労があったんですね。
森田 苦労があったのに、こいつはけっこう出来上がるのが早かったとか言ってました!(笑)
東ブクロ あのネタはな。それはこっちも苦労したけど。
森田 ブクロも長ゼリフ多いし、キャラが難しいネタなんですよ。
東ブクロ 1公演やって、次の日までに2ページごっそり変えられたりとか。そこまでのことはいつもなかったので、「これはキツイぞ……」と毎日思いながらやってました。
森田 最後のほう、「セリフ間違ってもいいからキャラだけは強めに行ってくれ!」というのは言ってましたね。
──「裏さらば」(参照:【単独密着】さらば青春の光2023単独『すご六』の裏側に密着 | YouTube)でもその様子が収められていました。「タネ飛ばし」はそんな紆余曲折があってできたネタなんですね。
森田 大変でしたけど、SNSとかの反応を見るとがんばってよかったなと。あと大幅に変えたのは「ガンジスのしらべ」ですね。ツアー序盤と千秋楽では全然違う感じになっていると思います。名古屋あたりのタイミングでうしろの部分を足して、そっからいいネタになったと思います。
──会場で実際のウケ具合を見て、足そうと?
森田 そうですね。「1回ちょっとこれで試させてくれ」って言って、技術さんにも「この音作ってください」と追加で発注させてもらいました。で、やってみたらハマったなという感じです。
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今の座組だからこそできるコントがある