エハラマサヒロ|「僕のやることはこれだ!」10周年記念ミュージカルで見つけたもの

「エハラマサヒロ」を紐解く5つの鍵」自身が挙げたキーワードをもとにエハラのヒストリーを紹介!

R-1ぐらんぷり:芸人になった瞬間

2009年に初めて決勝進出。もともと関西ローカルで放送されていた同大会はこの年から全国放送になり、勝ち残りシステムだったため4番手に登場したエハラは最終番手の中山功太に抜かれるまで画面に映り続けた。1つ前のバカリズムが審査員の1人から満点をもらうなど爆笑をかっさらっていたことから「もう誰も勝たれへんやろ!って逆にリラックスできた」という。アドリブを織り交ぜるほどのびのびとネタを披露すると、バカリズムを上回る高得点を叩き出した。結果は2位に終わるが知名度は一気に上昇し、エハラは「運がすべて集まった1日やったような気がする」と述懐する。まさに「芸人になった瞬間」だった。これまで4度決勝に進出し「有名になる」という目標は達成したが、まだ優勝できていない。「何かが変わるわけでもないと思うんですけど、やっぱり優勝したい。2009年の決勝からちょうど10年後の来年2019年大会で区切りをつけるつもりです」。

あらびき団:“本物の僕”を見せる場所

エハラマサヒロ

コアなお笑いファンから熱い支持を集める「あらびき団」の第1回から出演しているエハラ。当時はピンになってからまだ半年、ネタのストックがなく毎収録で新ネタを下ろしていた。しかも「毎回違うキャラを見せる」というルールを自分に課すストイックぶり。「エンタの神様」では漫談、「爆笑!レッドカーペット」では若者向けにギターネタと決めていた。「あらびき団」ではキャラを固定せずに幅を見せたかったのだ。ハイペースでネタ作りしていた時期を振り返り、エハラは「よくあんなにポンポンとネタを作れてたな」と自分でも感心してしまう。布施明のモノマネに乗せて下ネタを言い放つパフォーマンスで知られる通り、この番組でのエハラは「明るいお兄さん」という世間のイメージとは異なるが、本人いわく「そっちが本物の僕」。10周年記念公演でも披露した布施明ネタは、エハラを語るに欠かせないパーツだ。

ミスタードーナツのCM:「120円~!」の有名人

エハラのネタに「めっちゃうっとうしいシンガーソングライター」がある。これはエハラ扮する人気(?)シンガーソングライターがインストアライブを行い、集まった観客をイジりながらMCを展開していく1人コント。ネタ中に「次に演奏する新曲はマクドナルドのCMソングになっている」と告知するシーンがあるが、まさかのミスタードーナツからのオファーにエハラも驚いた。エハラが手がけた「♪この笑顔100円 この笑顔100円 この笑顔も……120円~!」というCMソングはまたたく間に「ミスドの曲」として浸透し、契約延長を繰り返して1年ほどオンエアされる。「どこに行ってもギャグ的に使えるんです(笑)。『みなさんの笑顔、120円~!』って言うとワーってなって、『その腕時計いくら?』『120円~!』っていうやり取りでドカーン。それまでギャグを持っていなかったから助かりました」。お笑い好きだけでなく、「120円のあの人」として老若男女に知られるきっかけとなった。

細かすぎて伝わらないモノマネ選手権:ギターを外すきっかけ

エハラマサヒロ

「僕が最初にテレビに出たのがこの番組なんです」。上京後2年間の“潜伏期間”を終え、再びよしもと所属になる直前、大滝エージェンシーという大阪の会社の紹介で同番組のオーディションを受けた。最初に披露したのは「『THE夜もヒッパレ』でアレンジしすぎる桑名正博」。これは「見事にハマらなかった」そうだが、「アレンジしすぎる矢野顕子」シリーズが定着し、エハラの代表作に。また「R-1」準優勝以降、必ず求められていたギターを外せるきっかけにもなった。矢野顕子のほか、小林旭、武田鉄矢、北斗晶などのレパートリーを持つエハラは、「モノマネをやる人には“モノマネ脳”っていう脳みそがあると思う」と語る。たとえ声が似ていなくても、好きで、気になって、やりたくなる、というのがモノマネ芸人の性だ。

山崎まさよし:歌モノマネの原点

エハラが中学生のときに初めて歌モノマネに挑戦したのが山崎まさよし。デビュー後も一番自信のあるネタで、ほかにやっている芸人があまりいなかったことから、テレビでもたびたび披露していた。あるとき山崎が開催したライブに、山崎へのサプライズゲストとして呼ばれる。「この方に来ていただきました!」という司会者のアナウンスでステージに登場すると、存在を知ってくれていた山崎がギターを弾きだし、エハラとセッション。サプライズを演出するはずが「人生で最初にやったモノマネの本人が僕の歌に合わせてギターを弾いてくれるなんて」と自分が驚かされ、感激した。大阪ローカルの番組で共演した際には山崎がエハラのネタをカバーしたことも。10周年記念公演を開くにあたり、間違いなく欠かせないゲストの1人だった。

「失敗してよかった」と思える10年

──ここまで5つのキーワードをもとにご自身の歴史を振り返っていただきました。改めてお聞きしたいと思ったのが、モノマネのクオリティを支える歌やギターのうまさについて。似ている・いない以前に、歌もギターもすごくレベルが高いと思うんです。その素養はどうやって培ったのでしょうか?

エハラマサヒロ

特に習ったりはしていないんです。中学に入った頃に土日はいつも友達とカラオケで歌っていたので、それが練習になったのかな。でも、子供のお小遣いだけでは毎日はカラオケに行けないじゃないですか。だからギターを始めたんです。中学2、3年のときに教室でギターを弾いている友達から「コードを覚えたらなんでも弾ける」と聞いたので、「ギターが弾ければ家でずっとカラオケできるやん!」と思って始めました。「カッコよくギターが弾きたい」とかじゃなく、カラオケしたいという一心でした(笑)。譜面見て曲を練習するというよりはひたすらコードを覚えましたね。

──その流れで作曲もできるようになったんですか?

いろんな人の曲を弾いていると「このコードの流れ多いな」っていうのがなんとなくわかってくるんです。ミスドのCMで作曲を依頼されたときも、よく使われているコード進行に合わせて作りました。

──エハラさんの代表ネタの「雪やコンコン」や「桃太郎」が王道のヒットソングのように聞こえるのは、そういう分析が生かされているんですね。

僕の中のこだわりで、「レッドカーペット」でやっていたギターネタは曲は違うんですけど全部コードを一緒にしています。ミスタードーナツのCMも「雪やコンコン」も実は同じコード進行なんです。

──なるほど。そして10月12日~14日には10周年記念公演を開催します(※このインタビューは9月末に実施)。ご自身の集大成となるイベントをミュージカルにしようと思ったのはなぜですか?

僕にとってミュージカルが一番得意なことなんです……たぶん(笑)。「たぶん」っていうのは、周りの人にすごく評価されるのがミュージカルなんですよ。オリエンタルラジオのあっちゃん(中田)なんか、ずっと「エハラさんはすべての仕事をやめてミュージカルをやるべきです!」って言ってくれていて。ほかにもいろんな方に、宮本亜門さん演出の「ミュージカルウィズ~オズの魔法使い~」(2012年上演)がすごくよかったっていまだに言われるんです。

──エハラさん自身は昔からミュージカルがお好きなんですか?

いえ、2012年の「カルテット!」に出演するまでミュージカルを観たこともなかったですし、正直、今でもそこまで強く「この作品観に行きたい!」って思うこともそんなになくて。でも歌もダンスも好きなので、やらせていただくのはすごく楽しいです。10周年記念公演では、そんなミュージカル畑の人間ではない僕ならではのステージを展開したいと思っています。歌あり、ダンスあり、コントあり、ヒューマンビートボックスあり、その他諸々いろんなことありっていう、エンタテインメントの“おもちゃ箱”を作りたい。どのジャンルも最高峰の人たちを集めたので、どんな人が観に来てもどれか1つは満足して帰っていただけると思います。

──ミュージカルは今後も続けたいですか?

エハラマサヒロ

そうですね。でも稽古に時間を取られて収入が爆減するので(笑)、年に1本くらいのペースでできたらいいかな。実際、面白いことがあれば時間を気にせずにそっちに行ってしまうタイプなんです。今回の公演がちゃんと「ミュージカル」と呼べるものになるかはわかりません。でも反省会をして、新しいものを作りたいという欲がまた出てくると思いますし、回を重ねてミュージカルをもう一段階、飛躍させたものにしていけたらいいですね。今回はその第一歩として挑戦したいと思います。

──お笑い番組が大好きだった子供の頃からピン芸人として10周年を迎えた現在まで振り返っていただきました。改めて、どんな10年でしたか?

そうですね……。よく、飲み屋でしゃべっているときに「戻れるんやったらいつに戻りたい?」っていう話をするんですけど、僕は戻りたい時代って特にないんです。そのくらい楽しさを更新している。そう考えたらめちゃくちゃいい10年だったんじゃないかなと。アカンかったこともよかったことも含めて。「あのとき失敗したから戻ってやり直したい」って思わない。全部「失敗してよかったわー」って思える、そんな10年でしたね。

──いいですね。

今めちゃくちゃいいこと言いましたよね? これ太字にしといてください(笑)。