「火花」(文藝春秋)、「劇場」(新潮社)に続く「人間」は、昨年9月から今年5月まで毎日新聞の夕刊で連載されたもの。執筆時の又吉と同年齢に設定された主人公を通じ、青春時代のあともなお続く人生の残酷さとほのかな救済を描く。
「ようやく本になったなという気持ちでうれしいです」と発売日を迎えた喜びを語る又吉。サイン会を実施した東京・三省堂書店神保町本店では書店員が「人間」の表紙をプリントしたTシャツを着用しており、「タイトルを客観的に見ることができました。でも、裏面に『僕達は人間をやるのが下手だ。』と書いてあるので不安になるお客さんもいたでしょうね」と照れたように笑った。
連載という形での発表は今作が初めてで、「連載ならではのライブ感を感じながらやりたかった。自分でもこの先どうなっていくかわからないような流れが生まれて、何もないかもなと思いながらもあえて戻らずに、前日に自分が書いたことを引き受けて書いた」と1、2作目とは異なる覚悟を持って取り組んだ。「その流れのおかげで物語が動いた部分もあって、本になるときに細かい修正はしましたが、連載時に生まれたリズムは極力残したいと思って残しています」と又吉はこだわりを語る。これまでは自宅の書斎やお気に入りの喫茶店など、限られた場所でしか執筆してこなかったが、今回は締め切りに追われて収録スタジオ付近の路上や、飛行機が離陸する間際といった環境でも文字を打ち込んだといい、「それこそ人間、追い込まれたらどこでも書けるっていうのがわかった。成長できたと思います」と苦労を明かした。
これまでの2作は登場人物が20代だったのに対して、今作の主人公は38歳。又吉は1作目の「火花」に登場する「生きている限り、バッドエンドはない。僕たちはまだ途中だ」というフレーズを改めて咀嚼し、小説に収められるような劇的な瞬間や出来事の“その後”の時間を描いてみたいという考えから「人間」を着想した。
前作までの経験から、読者が「ピース又吉が書いた小説」として自身の姿や声、キャラクターを想像してしまうことも受け入れたうえで、読者を意識せずに執筆。「今回の小説は今までで一番自分と近いと思いますし、小説全体も自分の話になっています」と認め、「何者かになろうとしていたけどなれなかった。そのなれなかった何者かは何者なのか、みたいな。ちょっと早口言葉みたいになってしまいましたけど(笑)、そういうことをこの小説では書いています。夢の捉え方だったり、かつての夢がどういうふうに変化していくのかっていうことを、書きながら自分でも考えていました」と振り返る。そして「(夢が)叶わなかったことに対して、そこから新たな希望を持つということに慣れてきて、それは特別なことじゃないと感じるようになってきたというのが大きな変化」と現時点での思いを述べた。
相方・綾部から感想をもらったか問われると、「(本を)送るようにお願いしてるけれど、離れているのでまだ届いてないと思います。『火花』は僕が書いた時間よりも長い時間をかけて読み切ってくれたので、『人間』も読んでくれたらいいなとは思いますが、今回長編なので……(笑)」とコメント。また「ノーベル文学賞を受賞される予定は?」と聞かれた場面では「小学校、中学校でノートに漫才とかコントを書き始めたときは、それで将来ご飯を食べていこうとか思っていなくて。書かずにはいれないっていう状態があって、そこから始まった。本を書くときも(受賞は)考えないですし、考えたところで絶対無理です!(笑)」と返していた。
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又吉「生きている限りバッドエンドはない」の続き描く「人間」、今までで一番自分に近い - お笑いナタリー
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