「THE SECOND」の余韻 vol.2 [バックナンバー]
「THE SECOND」は成功したのか?総合演出 フジテレビ日置祐貴氏に聞く
新たな漫才賞レースの第1回大会を振り返る
2023年6月17日 19:00 5
いまだに熱が冷めやらない、結成16年目以上の漫才賞レース「THE SECOND~漫才トーナメント~」。ギャロップの優勝で大会の幕が閉じられてから約1カ月過ぎてなお、出場者同士の楽しげな交流は続き、大会批評もたびたび話題に上っている。そんな中、制作者はこの“余韻”も含めてどう感じているのか。総合演出を務めた日置祐貴氏に話を聞いた。
取材
※取材は6月13日に実施。
お笑い好きが思う「こうなったら嫌だ」を取り除いた大会
──「THE SECOND」が終了して約1カ月です。日常が戻りつつあるところでしょうか。
確かに、平和な日常に帰ってきた感覚はあります。気持ち的には戦場に行ったつもりでしたから。生放送の最後に、松本さん(大会アンバサダーを務めた
──システムや演出など、「お笑い好きの人が考えた賞レース」という感じがしました。
まさに、そうかもしれません。僕もお笑いが大好きで、大学生の頃はたくさんお笑いライブに足を運んでいましたし、その頃に「M-1グランプリ」が始まって、賞レースも全部見てきました。そういう意味では「お笑いファンが考えるお笑いの大会」だったのかもしれないですね。
──いろんな賞レースを見てきて溜めてきた「こうしたらいいのに」を詰め込んだ?
というよりは、「こうなったら悲しいよな、お笑いファンとしては嫌だよな」をなくせるように突き詰めた感じです。「90対10」みたいに点数がどちらかに大きく偏るのは悲しいし、審査員が批判されるのも悲しいし、優勝者が報われないのも悲しい。そういうのを1つひとつ潰していこうという思いでした。
──全員が悲しい思いをしないように。
自分はそんなに優しい人間ではないんですけど(笑)、これに関しては、悲しい要素をなるべくなくしていきました。
──出場者たちが「#自撮りおじさん」のハッシュタグ付きで写真をSNSにアップしたり、ファンアートがたくさん投稿されたり、出場者同士の交流が生まれたりと、楽しい現象もたくさん起こっています。どうご覧になっていますか?
めっちゃ面白いですよね。みんながハッピーになっているのは単純にうれしいです。出場者がいろんな組み合わせでライブを開催しているのも含めて、お笑い界全体が盛り上がったり、やっている人も見ている人も「お笑いって楽しいな」というふうになっていることがすごくよかったなと思いますね。今回の出場者は僕より少し年上か同い年くらいの人たちばかりなので、この世代の人たちとテレビで面白いことができるかもしれないと考えると、僕自身もすごくワクワクします。
──こういう反響や現象は予想していなかったと思いますが、大会後にどうなっていることが理想でしたか?
本当に、「炎上していない」ことだけです。「翌日ネットニュースに悪い記事が出なければいいな」とか「誰も炎上していませんように」という思いが一番でした。
──消極的な願望といいますか、「こうなるといいな」ではなく「こうならないといいな」と考えていたんですね。
僕の中では「こうならないといいな」が「こうなるといいな」なんですよね。もちろん、「出た芸人さんが得したらいいな」「観た人が面白いと思ってくれたらいいな」という願望もありました。でも、この大会は自分でゼロから立ち上げたものではなかったので、フジテレビが新しい基軸で新しい大会をやるということに関して失敗できないという思いが強かったんです。「失敗をしないこと」が僕に与えられた重責だと思っていたので、「無事に放送されて心の重荷が全部取れますように」というのが僕の願望だったかもしれないですね。
──事前に答えていたさまざまなインタビューで「失敗する悪夢を見る」ともおっしゃっていました。
そうですね。例えば、審査がこんなにうまくいったのは、もちろん半分はきちんとシミュレーションして準備しましたけど、もう半分はほぼ賭けみたいなものでした。審査してもらうお客さんを僕らで選ばせてもらいましたけど、間違いなく全員がちゃんと審査してくれる可能性は100%ではないじゃないですか。だから1組目の
審査員の選び方
──「グランプリファイナル」のお客さんはどうやって集めたんですか?
最初の「選考会」(予選)にお金を払ってお客さんとして観に来てくれた人は絶対に熱量が高いので、まずそこから全体の1割か2割ほど。あとは、オフィシャルサイトで観覧募集しました。スタジオにはトータル270人くらいお客さんを招待して、そこから審査員をお願いする人をこちらで選びました。「去年観たお笑い番組にチェックを入れてください」「去年1年で何本のお笑いライブを観に行きましたか?」「好きなお笑い芸人3組挙げてください」といった質問を用意していて、「千鳥、かまいたち、ダウンタウン」と書いている人もいれば、めちゃくちゃマニアックだな~というチョイスをする人もいて。そういう中からバランスよく選んだつもりです。都道府県の偏りもあまりないようにしました。北は北海道、南は九州の方も何人かいたと思います。男女比、年齢比もいいバランスになるよう気をつけました。
──例えば関東圏でK-PROライブをたくさん見てきた人もいれば、大阪の劇場ファンもいます。その割合によっては勝敗が変わりそうですが、なるべく偏らないように配慮されていたんですね。
「ノックアウトステージ32→16」のとき、もっと大阪のお笑いファンの方を呼びたかったんですけど、平日開催だったこともあって何人か辞退されて、東京のお笑いファンの比率が少し高かったんです。その影響か実際のところはわかりませんが、けっこう大阪の芸人さんが苦戦されていたことがあったので、絶対にそこは改善したいと思っているところです。次の「ノックアウトステージ16→8」は理想的なバランスになったのでよかったんですが。だた、みなさんには自費で交通費、宿泊費を出して観に来ていただくので、もうすごいなと。本当に感謝です。内容的には、自分だったら3万払ってでも見たいライブだったなと思うくらい面白かったです。
──お客さんも一緒にこの第1回大会を作ったと言えそうです。
そうなんです、本当に。みなさんのおかげなんです。演者さんも、この大会をちゃんと成功させて終わらせようという気持ちを持ってくれていたから、こういう着地になったんだなと思います。
こだわったのは「銀色」
──大会のカラーやイメージ作りで意識したことがあればお聞きしたいです。第1回なので今後にも響く重要な部分だと思いますが。
漫才の賞レースとして絶対的な「M-1グランプリ」という存在がある中での「THE SECOND」なので、違うものを作ろうとは常に考えていました。採点システムもそうですし、漫才師さんの登場の仕方、そして色味も。色味はかなり気をつけましたね。「M-1」は赤と金じゃないですか。「キングオブコント」も赤と金なんですよ。ほかのスタッフと「お笑いって赤なんだね~」みたいな話をしながら考えました。
──言われてみれば、お笑いナタリーも赤です。
笑うって暖色のほうがよさそうですもんね(笑)。なので「全部逆にしましょう」と。赤の逆といえば「青」、そしていぶし銀の「銀」。テロップも含めて、金色は極力使わないでくださいと伝えました。優勝者が決まった瞬間に出る紙ふぶきも、最初は金だったんですけど銀色に変更してもらったんです。
──トロフィーの形も独特でした。
これも「M-1」が金色なので、美術のデザイナーに「銀がいい」とお願いしたら「じゃあ、いいの作るわ」と言ってれました。カッコいいですよね。ロゴもちゃんとこだわって作ったものだったので、それを生かした造形にしてもらいました。今、
──続いて大会の雰囲気について。ギャロップのお二人は「いい意味で、緊張感がなかった」とおっしゃっていました。
でも、してる人もいましたよ?(笑) ギャロップさんはいろんなところでそうおっしゃっていますけど。
──(笑)。点数が出たあとのMCとの掛け合い、いわゆる“平場“の楽しさや、それが生まれる空気作りも考えていましたか?
ピリピリ感をこちら側が引き出すようなことはしたくなかったんですが、それはこの大会に懸けている芸人さんの思いや周りの人の応援で変わってくるものだから、僕らがどんなに和やかな雰囲気にしようとしてもきっと出るものなんだろうなと思っていました。でもやっぱりみなさんベテランですし、「もう後がない」という人たちでもなかったから、そこまでピリピリ感が出なかったのかもしれません。なので、現場の空気に任せた結果、ああなったという感じです。
──あのお笑いライブみたいな雰囲気は出場者たちが作り出したものなんですね。
そうですね。「ノックアウトステージ」の時点でお互いのリスペクトが見えましたし、「今度一緒にライブやろうよ」みたいな会話が生まれる空気感があったので、予選の段階からそこまでピリピリすることはないだろうと予想はしていました。
──ちなみに、2011年から14年まで賞レースとしてフジテレビが開催していた「THE MANZAI」に日置さんも携わっていましたね。踏襲したことや、そこでの経験が生かされたことはありますか? 個人的には「M-1」とは異なるお祭り感みたいなものがあったのは「THE MANZAI」に近いのかなと思いました。
フジテレビで育っていますから、DNA的にそうなってしまうところもあるのかもしれません。でも、意図的にそうした部分もあって。これだけのキャリアを重ねた芸人さんだから、そりゃあ平場でしゃべったら面白いはずなので、ただ淡々と漫才をやって、点数が出て、優勝者が決定というふうにはしたくないと思っていました。お笑いライブを観に行ったときの、エンディングトークって面白いじゃないですか。
──出演者が全員集合するエンディングトークがライブの醍醐味、みたいなところもありますね。
しゃべってもらう場面があればきっとそういう空気になるだろうなと思ったんです。それがあったことでお祭り感が出たのかもしれませんね。
──和やかな空気感が生まれたのにはMCを務めた
本当に東野さんにお願いできてよかったなと思いますね。芸人さんへのイジりというか、扱い方に関しては抜群に長けていらっしゃいますし、制作の意図に理解も示してくださいました。
──対戦相手の低い点数が出たあとの、あれほど率直な感想はほかの賞レースでは聞いたことがありませんでした。
面白くしてくださいましたね。芸人さんもMCが東野さんでやりやすかったんじゃないかなと思います。
──松本人志さんをアンバサダーという形で迎えたことは大会にどんな意味があったと思いますか?
「松本さんが決勝にいるなら出たい」と思って出場する芸人さんも今後増えるんじゃないでしょうか。やっぱり「松本さんに笑ってもらいたい」という芸人さんは多いと思いますから。あとは、あの場で松本さんが「こいつら面白いな、平場強そうだな」と思った時点で“名刺が渡せた”ことになるので、ほかのテレビ局さん含めてダウンタウンさんの番組にも出てもらいやすくなるのかなと。
格闘技やスポーツからもヒント
──演出面についても教えてください。まず何より先にテーマ曲が決まったそうですね。THE YELLOW MONKEYの「バラ色の日々」。
セカンドチャンスを掴みたい人たちにふさわしいテーマ曲ってなんだろうと考えて、「バラ色の日々」が思い浮かびました。結果としてそれがいいアクセントになっていたし、縦軸としても「漫才師のセカンドチャンス」を描けていたんじゃないかと思います。選曲もいろいろとこだわっていて、特に出囃子は気を使いました。これはザ・お笑いファン的な視点ですけど、テレビで使われていたカッコいい出囃子がDVDで流れないの、すごい嫌じゃないですか?(笑) 配信や円盤化したときに曲が変わるのはちょっと残念というのが個人的な思いとしてもあったので、権利的にクリアになりそうな邦楽の曲で、かつ大会のイメージに合っていた10-FEETの「2%」にしました。
──登場シーンも印象的でした。
“対戦”といえば僕の中でK-1やボクシングなど格闘技のイメージがあったので、登場は階段ではなく花道からにしたいと考えました。昨年12月、松本(人志)さんの「ワイドナショー」のロケについて行かせてもらって、井上尚弥選手がバンタム級世界4団体統一戦を制覇したときの試合を観戦したんです。そこでの登場の仕方や会場の盛り上がり方からヒントを得た部分もあります。僕はスポーツもよく見るんですが、登場する選手にカメラがグッと寄っていく感じが好きだったのでそれも取り入れました。客席も、スポーツっぽくいろんな角度から見られている状況を作ってみたらどうなんだろうと思い、ああいう形にしています。最初、出場者のみなさんはやりづらかったと思います。こんなにも横からお客さんに見られることなんてあまりないですからね。でも、わーっと笑い声が四方八方から押し寄せてくる空間にしてみたかったんです。
──ここまで伺った以外に番組作りで心がけたことなどはありますか?
オープニングのVTRで使った「今、全盛期」というキャッチコピーがあるんですが、あれはプロデューサー、ディレクター、AD、作家、制作スタッフ全員が3つずつ出して、誰が考えたかは書かずにスライドショーにして全員で見て、投票して決めたんですよ。採用された「今、全盛期」は作家さんが考えてくれたものなんですが、「みんなで作ろう」という雰囲気は一貫してあったと思います。総合演出ということで、僕がこうやって前に出てきてしゃべる機会が多いですが、みんなで作ったなとすごく実感しています。CGチームにも「発注がギリギリすぎる!」と怒られまして……。3日くらい寝ないで作ってくれたと思うんですよね。一番がんばってくれたのはCGチームです。
──難しい質問かもしれませんが、日置さんがいちお笑いファンとしてこの大会を見ていたとしたら、どう思ったと思いますか?
うーん。褒めたいですけど、やっぱり自分で言うとイタい奴だと思われそうなのでやめておきます(笑)。でも、純粋に芸人さんたちが面白かったし、ワクワクしたし、少なくともBlu-rayに焼いて残しておくと思います。
──なるほど。来年以降も開催されるとして、改善したい点はありますか?
細かいところではいろいろありますが、まずは「ちゃんとスケジュールを立てましょう」ですかね(笑)。やっていくうちに「あれ? これ記者会見やらなきゃダメだよな?」と気づいたりして。なにせ初めてなもので、思いつきのように進めてしまうところがありました。スケジュール運営的な部分は今後しっかりしていきたいです。生放送に関しては、少し尺がショートしたので、そこをどう埋めるかです。
──優勝者コメントが入り切らないことがないよう、尺に余裕を持たせていたんですよね。
そしたら逆に余ってしまって、東野さんにはご迷惑をおかけしました。
──あとは、2000円のエントリーフィーをなくすというお話が打ち上げの席であったそうですが。
石川(綾一)プロデューサーが言っていたので、なくなるんじゃないでしょうか(笑)。
成功……ですかね(控えめに)
──改善点なども伺えたので、第2回が開催されると期待してもよいでしょうか?
ネットニュースを見たら社長が「やる」と言っていたので、よかったーと思いましたけど、どうなんでしょう。今週、港さん(港浩一代表取締役社長)と食事に行くので、そのときに聞いておきます(笑)。同じくらい面白かったけど決勝に行けなかった芸人さんもいっぱいいますし、「あの対戦が再び!」も興奮しそうですよね。毎年出場してきて「何本ネタ持ってるんだ!?」という人がいてもいいし、
──このインタビューのテーマなので改めて聞きますが、「THE SECOND」第1回大会は成功でしたか?
最初に言ったように、僕が手放しで喜んでいてもしょうがないので……。スタッフには「みなさんのおかげで大成功です」と伝えています。まあまあ、成功……ですかね(笑)。グランプリファイナル前のインタビューで「150点くらいを目指して75点に着地するんじゃないか」と話していたんですが、まさにそんな感じでしょうか。出ている方がこれだけ「楽しかった」と言ってくれて、視聴者の方が「面白かった」と言ってくれたことに対しては成功なんだなと思いますけど、自分の中では70点、75点くらいかなという感触です。今後また100点を目指す伸びしろが残っていたほうがいいし、最初から100点を取っちゃダメな気もするんです。改善点があるのはすごくいいことだと思っています。
──「漫才師にセカンドチャンスを」という目的の大会でしたが、それが達成できたという手応えはありますか?
これは、「ある」と言えそうです。今まさにいろんな現象が起きていることが“セカンドチャンス”なんだろうと思います。ちなみに、僕が担当している「人志松本の酒のツマミになる話」の収録に、先日はギャロップのお二人が来てくださって、このあとにはマシンガンズの滝沢さんがいらっしゃるんです。
──おお! それは放送が楽しみです。
この大会で「決勝に進めなかったからそろそろ引き際かな」と思う芸人さんもいたかもしれませんけど、「これだけ長く続けたんだから、もうちょいやってみよう」と思える大会になったらいいですね。
日置祐貴
1980年生まれ、千葉県出身。2004年にフジテレビ入社。「めちゃ×2イケてるッ!」で経験を積んだあと、「バチバチエレキテる」で演出デビューした。現在はレギュラー番組「人志松本の酒のツマミになる話」「呼び出し先生タナカ」のほか、「IPPONグランプリ」「人志松本のすべらない話」「まっちゃんねる」「ドラフトコント」といったバラエティ特番の総合演出を務める。
バックナンバー
関連記事
bambi @bambi_012
THE SECONDは成功したのか?総合演出 フジテレビ日置祐貴氏に聞く
“毎年出場してきて「何本ネタ持ってるんだ!?」という人がいてもいいし、マシンガンズのように決勝で「ネタがない!」と騒ぐ人がいても面白い。その時々のドラマがまた生まれるんじゃないかなと思います。”
https://t.co/M52CMJC23j