「私の好きなポップカルチャー」

私の好きなポップカルチャー Vol.5 [バックナンバー]

ザ・マミィ林田が綴る「お笑い」

何でだよ。と愛せた時に

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日頃は表舞台に立っている芸人たちも、何かを好きになる気持ちは私たちと一緒! テレビで観たコントの世界に没頭したり、あのマンガの主人公から自分の信念を曲げない強さを学んだり、スクリーンの中にいる俳優の佇まいに魂を震わせたり……。こんなふうにさまざまなカルチャーに触れて人生を豊かにしてきたはずだ。

この「私の好きなポップカルチャー」では、お笑い界のポップカルチャー好き5名を書き手に迎え、音楽、コミック、お笑い、映画、ステージというナタリーで展開する5ジャンルのいずれかにまつわるコラムを掲載中。最終回、5人目となるザ・マミィ林田は愛してやまないコント番組「笑う犬」シリーズの「小須田部長」に笑わされ、そして泣かされた経験を綴ってくれた。

/ 林田洋平

※このコラムは2021年1月30日~31日に開催したオンラインイベント「マツリー」の一環として掲載したものです。

何でだよ。と愛せた時に

コラムコラムコラム!
コラムの仕事が来た!
お笑い界のポップカルチャー好き5名が自分が好きなポップカルチャーについて語る。
各人に「映画」や「コミック」「ステージ」といったテーマが与えられる中、僕宛の依頼文にはこのようにあった。

「林田様にご担当いただきたいジャンルは『お笑い』です 」

ド真ん中のド直球。
お笑い芸人の僕が恥ずかしげもなく「お笑い」の「好き」を語る。

「照れくさいですかね?」そう心配するマネージャーに「やります!」と即答。

語れと言われたから語る。
最高のバランス。
絶好の機会。
待ってました! このチャンス!
全身全霊! 全部吐き出したいと思います。

まず手始めに、スマホを取り出しShocking Bluesの「Venus」をかけた。
頭の中で青い犬がダンスする。
ウッチャンがこっちを見て笑ってる!
今回は僕が語らせてもらうのは「笑う犬」です。

僕が「笑う犬」と出会ったのは、おそらく小学校1年だか2年だかそれくらいの頃。
ちゃんとは覚えてないけれど、ちょいとお堅めの 父が珍しくテレビに釘付けになっていた。

「 何だ? うちのお父さんをガハハと笑わせているのは?」

それが「笑う犬」 だった。
何が何だか分からなかったけど。
コントなんて存在を知らなかったけど。
そもそもお笑いっていう概念を持っていなかったけど。
それを観て父が笑って母が笑って僕も笑った。
それが全てだった。
僕は「笑う犬」が大好きになった。

「笑う犬」で好きだったコント。

トシとサチ 梅屋敷の若者の全て
テリーとドリー
関東土下座組
太陽は知っている
アヤカ
沼田と高田
パタヤビーチ
ユキオとひろし
静かにパニクる
娘よ
なめられ内閣
10円

あげればキリがないけれど、何よりも好きだったのは

小須田部長

「頑張れ~! 負けんな~! 力の限り生きてやれ~!」

小須田部長のあの魂の叫びが今も僕の頭から離れない。
まさか、いちコントキャラクターの言葉がこんなにも心にあり続けるなんて。

このコントの設定は至ってシンプルだ。
引っ越し。「いるもの」と「いらないもの」の箱。次の転勤先。部下の原田君。
これから小須田部長に出会う人のためにも、あまり詳細に触れないようにしたいのだが、とにかくこれらのシンプルな設定を維持しながら、いくつも回を重ねていく。

そして僕たちはこの設定に沿ったやり取りの中で、少しずつ小須田部長という人間を理解していく。

必ず適応する小須田部長。
よかれと思って余計なことをしてしまう小須田部長。
また益江さんに会いたいと思っている小須田部長。

それにしたって小須田部長よ。
何で毎回そんなふざけた場所に行っちゃうんだよ。
逃げ出せば良いのにさ。
小須田部長は言う。
「私は日本のサラリーマンだ」と。
だからどんなに無理な会社からの命令にも従わなければならないんだと。

何でだよ。
笑いながらギリ納得できちゃう奇跡の理由。
たったそれだけの理由であんなところやこんなところに赴く小須田部長。
でもその言葉に嘘はないんだと思える。
ホント絶妙なバランス。

コントというのは人との出会いだと思う。
そしてその人をどれだけ愛せるか。
それに尽きると思う。

どれだけおかしな人がいたって、その人なりの確かな理由があって、僕たちはそれを「何でだよ」と愛せた時に、思わず笑ってしまうんだと思う。

小須田部長はその「何でだよ」の連続だった。

原田君もずっと「何でだよ」だし、益江さんもエミリも終始「何でだよ」だったし、「何でだよヒラリー」に「何でだよ電話」をして「何でだよ隕石」を「何でだよ阻止」しに行こうとするし。

ほんと何でだよ。
好きで好きでたまらないよ。

何でずっとその耳当てしてんだよ。
愛おしくてたまらないよ。

ずっと観ていたかったけど、どんなコントにも終わりはある。
最終回。1つのコントが終わる日。
それは小須田部長と別れの日。

明らかに力の入った映像。
ドラマ? 映画?
何でこんな凝った最終回やってんだよ。
たかだかコントだろ?
何でだよ。笑う。

小須田部長を英雄だと讃える世界。
小須田部長は言う。
「分かっちゃいない。何にも分かっちゃいないよ」

深すぎるだろ。
急にすごい深い台詞言うじゃん。
何でだよ。笑う。

原田君が言う。
「最後は自分で決めてください」

何で僕はあんたの言葉で泣かされてんだよ。
ちきしょうまた笑った。

益江にエミリ?
まさかこんなところで?

涙が止まらないよ。
こっちはコント観てたんだよ。
何で僕はこんなに泣いてるんだよ。
何でだよ! 何でだよ! 笑った! 笑った!

ウッチャンよ! 泰造さんよ!
スタッフさんたちよ!
明らかに力入ってんじゃねーかよ!

なんだよ。
みんなどんだけ小須田部長が大好きなんだよ。

ビィビィと泣きながら、ガハハと笑った。
あの日のあの経験が僕がいまコントに挑戦してる理由だ。

いつかあんなコントを書きたいし、いつかあんなコントになりたい。

林田洋平(ハヤシダヨウヘイ)

1992年9月10日生まれ、長崎県出身。トリオで活動したのち、メンバーの1人だった酒井貴士(サカイタカシ)と2018年9月にザ・マミィを結成した。2019年7月「ツギクル芸人グランプリ」(フジテレビ系)で優勝。コント番組「お助け!コントット」「東京BABY BOYS 9」(共にテレビ朝日)に参加している。

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