音楽ナタリー Power Push - アヴちゃん(女王蜂)×大根仁
盟友と振り返る「最高傑作」を勝ち取るまでの日々
モラトリアムがないまま大人になった
大根 俺、アヴちゃんのことは昔から「エヴァンゲリオン初号機みたい」ってずっと言ってたんだけど、今回のアルバムでまさに「ヱヴァ」の映画の「Q」(「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」)みたいに生まれ変わった感じがする。全然違うフェーズに入ったというか。
アヴちゃん 「Q」最高ですよね。でも「エヴァンゲリオン」はモラトリアムの物語だけど、私はモラトリアムって感覚がわからないまま大人になってしまったから。だから誰かのせいにしながらも最終的にはエヴァに乗るしかない。自分がやるしかないって言って立ち上がる。女王蜂もこのアルバムで、それがやれたかなって思ってるんです。
大根 なるほどね。
アヴちゃん 今回の曲たちについても「フィクションなの?」とか「ノンフィクションでしょ」とか言われるけど、全部引き受ける自信がある。覚悟ができました。今までずっと痛々しかったり刺々しかったり、そうやって人を選ぶものを作ってきたと思うけど、やっと花が咲き出したというか。始まった感じがしてる。
大根 俺、人のピークが見れちゃう悪い癖があるんだけど、今の女王蜂は全然ピークな感じがしないんだよね。最高だけど、まだ全然この先がある。
アヴちゃん それめっちゃうれしい。やっぱり大根ちゃんやナタリーはこっちがいいものを作ればちゃんと見てくれて、一緒に戦ってくれるから。愛って言うと簡単ですけど、女王蜂は本当にいい土で育ててもらったんだなって思います。
生贄が必要なエンジン
大根 でも女王蜂は、相変わらず生き急いでる感じはすごいよね。普通のバンドが15年ぐらいかけて歩む道を6、7年で来てるなって(笑)。
アヴちゃん 私は今20代だけど、犬年齢の20代だと思ってるから(笑)。
大根 俺が女王蜂と出会ったのは「モテキ」を撮ってた頃だけど、ドラマ版「モテキ」でフィーチャーしたバンドが神聖かまってちゃんで、映画でフィーチャーしたバンドが女王蜂で、俺はその2つのバンドのことを当時すごく刹那的に思っていたのね。もちろん活動を続けてほしいけど、今この瞬間にパッと散っても納得できるって気持ちもあった。でもどっちのバンドも、しっかり進化しつつ続いてるのがうれしくて。
アヴちゃん うん、女王蜂は結成して1年半ぐらいでもうメジャーにいて、私たちまだ10代で、いつもあれだけ人が集まってる状況でライブをするっていうのは、毎回投身自殺をしてるようなものだったから。もうなんか命すり減らしてナンボみたいな感じだった。女王蜂を動かす巨大なエンジンがあって、それを動かすのには生贄が必要で。
大根 生贄っていうのは、例えばメンバーが辞めざるを得ない状況になるとかそういうこと?
アヴちゃん そう、あの頃は正気じゃなかったと思う。ライブはいつも世界の30分間を買い取ってやるみたいな感覚でやってたし、チケットが1500円だったら1500円に見合う何かを差し出さないといけないって思ってたから。今はそういうところも残しつつ、やっとエンジンが回り始めて、技術も付いて、音楽の人になれてきたのかなって。
卓球さんがきっかけをくれた
大根 このアルバムはどの曲もいいんだけど、特に「アウトロダクション」と「失楽園」。これは「うわっ!」ってなったなあ。
アヴちゃん やった! 「失楽園」の歌詞の「天国なんて行きたくない」「禁断の恋は報われない?」「やってみないとわからない」っていうのは、私が歌うから響く言葉だと思うし、そういうものがやっと書けたなって。すべての人の立場になることはできないけど、すべての感情と絵の具を使って描きたくて。実はそう思ったきっかけは(石野)卓球さんなんだけど。
大根 えっ、意外。
アヴちゃん 去年のお正月にLIQUIDROOMのイベントで会ったときに、すごく腹を割っていろんな話をしてくれて。「俺は全部やってきて、それで自分に合うものがわかった」「だからアヴちゃんも自分のペースでいいから、やれること全部やってみな」って。そう言われてから「ああ、じゃあスーツ着てみようかな」って思うようになったし、いろんな視点が持てるようになって。その目覚めを卓球さんがくれたんです。
大根 へえ! でも確かに卓球さんとアヴちゃんならチューニングはバッチリ合うかも。俺にとってもやっぱり卓球さんは大きな指針だし、すごく影響受けてるから。
アヴちゃん うん、大好き。だから私も卓球さんには及ばないかもしれないけど、全部の絵の具を使ってみようと思って。本当にすごい人って優しさが香るのね。私も誰かと話すときにあんなふうに気付きをあげられたらなって思う。
大根 優しいっていうのは気付くってことだからね。卓球さんは全部気付いちゃう人だから。
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- 女王蜂 ニューアルバム「Q」2017年4月5日発売 / Sony Music Associated Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3800円 / AICL-3289~90
- 通常盤 [CD] 2800円 / AICL-3291
CD収録曲
- アウトロダクション
- 金星 Feat. DAOKO
- DANCE DANCE DANCE
- しゅらしゅしゅしゅ
- 超・スリラ
- 失楽園
- Q
- つづら折り
- 雛市
初回限定盤DVD収録内容
全国ツアー「金星から来たヤツら」Final(2016.07.09 Live at Zepp DiverCity)
- 金星
- ヴィーナス
- スリラ
- 折り鶴
- 告げ口
- 鬼百合
- 始発
- 緊急事態
Music Video
- 金星
- DANCE DANCE DANCE
- 失楽園
- Q
- アウトロダクション
女王蜂 全国ワンマンツアー2017「A」
- 2017年4月6日(木)兵庫県 神戸VARIT.
- 2017年4月8日(土)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年4月14日(金)大阪府 なんばHatch
- 2017年4月29日(土・祝)広島県 SECOND CRUTCH
- 2017年4月30日(日)岡山県 IMAGE
- 2017年5月6日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年5月12日(金)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
- 2017年5月13日(土)千葉県 KASHIWA PALOOZA
- 2017年5月25日(木)京都府 磔磔
- 2017年5月27日(土)香川県 DIME
- 2017年6月2日(金)宮城県 darwin
- 2017年6月3日(土)岩手県 Club Change WAVE
- 2017年6月11日(日)石川県 Kanazawa AZ
- 2017年6月25日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
- 2017年7月2日(日)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
女王蜂(ジョオウバチ)
2009年神戸にて活動開始。2010年「FUJI ROCK FESTIVAL '10」のROOKIE A GO-GOステージに出演し、その衝撃的なルックスとパフォーマンスでオーディエンスの注目を集めた。2011年3月に初の全国流通盤アルバム「魔女狩り」をリリース。同年9月にはアルバム「孔雀」でソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズよりメジャーデビューを果たす。収録曲「デスコ」は映画「モテキ」のメインテーマに抜擢されたほか、彼女たち自身も本人役として映画に初出演し話題を呼んだ。2012年5月にギギちゃん(G)が利き腕の長期治療に専念するためバンドを“降板”するも、アヴちゃん(Vo)、やしちゃん(B)、ルリちゃん(Dr)の3人編成にサポートを迎える形で活動を継続。しかし同年12月にバンドは無期限活動休止を発表し、2013年2月のSHIBUYA-AX公演をもって活動を休止した。その後バンドは2014年2月のワンマンライブ「白熱戦」で1年ぶりに復活し、2015年1月に新ギタリスト・ひばりくんが正式加入。同年3月にアルバム「奇麗」をリリースし、12月から2016年3月にかけて対バンライブシリーズ「蜜蜂ナイト」を開催した。2016年6月にはフランス・パリにてバンド初の海外ライブを実施。4月5日に約2年ぶりのアルバム「Q」を発表し、翌6日から全国ツアー「女王蜂 全国ワンマンツアー2017『A』」を開催する。
大根仁(オオネヒトシ)
1968年東京生まれの演出家、映画監督。代表作はドラマ「アキハバラ@DEEP」「去年ルノアールで」「湯けむりスナイパー」「まほろ駅前番外地」、映画「恋の渦」「SCOOP!」など多数。2010年、脚本・演出を担当したテレビ東京系深夜ドラマ「モテキ」が話題を集め、2011年9月に映画化。2015年10月公開の「バクマン。」で日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞する。同年12月に公開された電気グルーヴのドキュメンタリー映画「DENKI GROOVE THE MOVIE? -石野卓球とピエール瀧-」も手がけた。3月には「SCOOP!」のBlu-rayおよびDVDが発売されたばかり。9月には妻夫木聡主演の映画「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」の公開が控えている。