昨年10月に開催されたZAZEN BOYSの東京・日本武道館公演を記録したボックスセット「MATSURI SESSION AT BUDOKAN」が発売された。Blu-ray 1枚とCD 3枚で構成されたこの作品には、3時間20分にわたって全36曲が披露されたライブの模様を、臨場感あふれる映像と音声で完全収録。終演後にロックファンの間でその話題一色となった伝説の一夜が、独特の空気感まで余すことなくパッケージされている(参照:ZAZEN BOYS初の日本武道館ワンマンは3時間20分で36曲、自己紹介は11回)。
この映像と音を体験して、当の向井秀徳(Vo, G)本人はどう感じたのか。音楽ナタリーでは、前夜に開催された試写会イベントにて大画面と爆音で映像を観たばかりの彼にインタビューを実施。ライブ当日のことを振り返ってもらいつつ、向井にとってライブドキュメンタリー映像とは、そしてライブアルバムとはどういうものなのかを聞いた。
取材・文 / 橋本倫史インタビュー撮影 / 沼田学
3分でコップ酒を3杯ぐらいあおって、自己客観能力を麻痺させる必要がある
──今回の映像作品は、向井さんとしてもキャリア初となる日本武道館公演を収録したものです。まずは初めての日本武道館公演を終えられた印象から伺えたらと思います。
そうね。あの……これ、正直なところ、タイムラグはありますよね。ライブを終えてから3日後ぐらいやったら、いろんな感想が噴き出ると思うんですけどね。現状としては、どうだったかなっていうことを思い出してみないといけない状況ではありますね。ただ、昨日ですね、青山の月見ル君想フという会場で、試写会というのをやったんですね。そこでね、私もこの映像作品をチラ見しました。あくまでチラ見なんだけどもね、それで改めて日本武道館公演のことを振り返ったんです。
──チラ見をしながら。
ええ。どうしてチラ見になるかというと、自分の歌っている姿を映像で観るというのは苦手で、自分から積極的に自分の姿を見たいとは思わないわけです。これはね、いろんなタイプがいると思うんです。本当に客観的に観て、反省をする。これはきっと、ある意味真面目なタイプの人ですね。我々はやったことないけども、記録用にムービーを回しておいて、ライブ公演終了後にメンバー、スタッフ全員が集まって観たりするわけよ。
──1人で見返すんじゃなくて、みんなで観る?
そう。みんなで観て、「ここの演奏がよかった」とか、「ここはもうちょっとこうすればいいんではないか?」とかね、そうやって反省会をする人たちもいるんですね。我々は一度もやったことがないんだけども、それは真面目な取り組みですよね。自分たちの今日の仕事を顧みて、改善するところは改善する、と。これ、非常に進歩的な考えを持った人たちですよね。エライ。けど、私はそういうタイプじゃないんだ。
──自分で自分の映像を見返すのはつらい、と。
ただね、どうしても観なきゃいけないことがあるんですね。例えば、「バブリー」っていう有名な音楽サイトがありますよね。今日のインタビューも、その「バブリー」に掲載してもらうわけだ。
──「ナタリー」です。
そこでその日のライブについて記事にしてもらうときに、「ニューストピックとして、1曲選んで動画で紹介します」と言われたら、どの曲にするか自分で選ばなきゃいけないわけですよ。でも、客観的に観ようとすればするほど、1曲も選べない。そういう場合はね、冷酒をコップで3杯──3分でコップ酒を3杯ぐらいあおって、自己客観能力を麻痺させる必要がある。つまりね、自分の姿を見ることは得意じゃないということです。
ライブをひとつの作品にまとめる場合は、他者の視線が必要だと思う
──ご自身で見返すのは得意じゃないとしても、今回の武道館公演を映像作品化しようという話は、早い段階から決まっていたんですか?
そうですね。いつもライブ映像を撮ってもらっている村尾(輝忠)さんという監督がいるんですけども、ライブの臨場感というものを、いつもドラマティックにまとめてくれているんですね。
──村尾監督は、「永遠少女」のミュージックビデオの監督でもありますけど、昔からよく一緒にお仕事されている?
村尾さんにはこの10年ぐらい、映像制作をしてもらってるんですね。スペースシャワーTVがやっている、いろんなコンサートのライブ映像をアーカイブする「DAX」というシリーズがあって、そこで村尾さんに我々ZAZEN BOYSの映像作品を作ってもらっているわけです。その映像が非常に生々しいんですね。大げさなことは全然していなくて、1カメか2カメの非常にシンプルな作りなんだけど、非常に生々しく感じる。それがしっくりきたんですね。ライブを追体験させるということだけではなくて、1つのストーリーとしてまとめてくれる。だから今回も、他者に任せようと。私がもし、この映像をまとめようとしたらね、もっと突き放したものになっていたような気がしますね。
──NUMBER GIRLの頃から、向井さんが監督して映像作品を作ることはありましたよね。武道館公演を映像作品化するのであれば、ご自身で監督するのではなく、村尾監督に任せよう、と?
そうだね。昔はずっと、映像に関することも自分でやっていたわけですけども、他者がドキュメントとして捉えるほうが伝わりやすいだろうと思うようになったんですね。自分で監督すると、どうしても個人的な目線に支配されてしまう。それはもう、ライブステージの上だけでいいと思うんですね。ライブをひとつの作品にまとめる場合は、他者の視線が必要だと思ってます。仕上がった映像を観ると、すごく臨場感もあるし、客観性もあって、見事な映像作品になっている。昨日の試写会で、改めてそう思いましたね。
──今回リリースされるボックスセットは、武道館公演を収録したBlu-rayとCDがセットになっています。NUMBER GIRLの頃から、ライブ音源の記録シリーズを発表されてますし、ZAZEN BOYSとしてもライブ会場限定販売や配信限定という形でライブ音源を発表されますよね。ライブ音源を発表することと、それを映像作品として発表することは、向井さんの中で大きく違うところがあるんですか?
違うでしょうね。ライブ映像というのは、今ではかなりお気軽になって、YouTubeを見れば公式だろうが非公式だろうが山ほどありますよね。ただ、それをちゃんとした映像作品に仕上げるとなると、観る側もちょっと構えて観ることになる。それに比べると、ライブ音源というのはもうちょっと付き合いやすい気がしますね。