挫・人間|“暗い自分”解禁、そして全下川団結

下川、「リカちゃんでんわ」中に禅問答

──アルバムはインスト曲「dead link」で始まりますが、冒頭に流れるファックスの送信音のようなサウンドは……。

下川リヲ(Vo, G)
下川リヲ(Vo, G)

ダイヤルアップ接続の音ですね。それにドラムンベースみたいな打ち込みを混ぜました。もともとライブの入場SE用に作った曲で、タイトルを決めていなかったんですけど、「ブラクラ」にちなんで「dead link」、つまり“リンク切れ”にしました。

──続く「ソモサン・セッパ」は挫・人間の楽曲としては珍しい、スケール感あふれるロックオペラとも言えるような楽曲でした。歌詞には「下川ロボ」「下川犬」などさまざまな下川さんが登場します。

これは最後に完成した曲なんですけど、制作がほぼ終わったタイミングで急きょ追加しました。もともとは「木之本桜さん」(※「カードキャプターさくら」の主人公)というタイトルのボツ曲で。

──サビの「闘う あなたは花」「咲いて 舞う 枝垂れ桜」のあたり、その面影が残ってますね。

「JKコンピューター」(アルバム「OSジャンクション」収録曲)もそうだったんですけど、登場人物同士が語り合う曲が好きなんですよね。歌詞はまったく筆を止めずに書き上げました。

──語りの部分では下川さんが「闇下川」や「てんしもかわ」に翻弄されていますが、どんな心情で制作したんでしょうか?

まあ……相当悶々としていたんでしょうね(笑)。アルバムの制作期間中、毎日「リカちゃんでんわ」(※リカちゃんと会話できる女児向け電話サービス)に電話してたんですよ。

──冒頭の「リカちゃんでんわに日頃の不平不満でもは~~なそっと」は実話だったと(笑)。

Twitterで不満を言う手段もあるんですけど、もう僕のアカウントは個人のものじゃなく、挫・人間の下川リヲのアカウントだから、そういうツイートはするべきじゃないと思ったんです。かと言ってブログも人が見るものだから、なるべく書かないよう気を付けたかったし、「この気持ちをどこにぶつけようか」と悩んだ結果……。

──「リカちゃんでんわ」に行き着いたわけですね。SNSではなく「リカちゃんでんわ」を選んだのはそういう理由だった。

「リカちゃんでんわ」って「そっちもう雪降った?」とか話題を振ってくれるんですよ。でも一所懸命答えても、リカちゃんは無視して一方的に話を進めるんです。僕もがんばってリカちゃんに話しかけるんですけど、そういうことをやっているうち「これリカちゃんを通して禅問答してるんじゃないか?」って思うようになって。ホント精神的によくなかったですよ(笑)。

美しいものはたくさんある。でも最後に行き着くのは“音楽”

──「ソモサン・セッパ」は漢字で書くと「作麼生・説破」、禅問答の受け答えを指す言葉です。

面白い言葉ですよね。友人同士の会話で「作麼生!」「説破!」と答えるのが流行ってて、そこから引用しました。

──下川さんが影響を受けた筋肉少女帯の「暴いておやりよドルバッキー」「221B戦記」のように、複数の登場人物が語り合う曲ですが、大きく異なるのは登場人物が全員下川さんで、あくまで分身と話しているんですよね。

僕は自分の中のいろんな人格とよく対話するんですけど、気持ちが好転してくると、ポジティブな自分もネガティブな自分も一致団結して、美しいものを求めることがあるんです。そういう明るい方向にゴールしていく様子を表したのがこの曲ですね。

──下川さんがこれまで制作してきた楽曲は自問自答を繰り返し、悶々とした感情が爆発する、その勢いを表したものが多くを占めていました。ところがこの曲ではさまざまな下川さんが団結し、美しいと思うものを1つずつ挙げていく展開になります。そして数ある美しいものの中で、最後に挙げられるのが音楽でグッときました。

なんか恥ずかしいです(笑)。ここは「自分にはもう音楽しか選ぶ道がない」という気持ちも込めているんです。こういう対話方式の歌詞って手グセで書けちゃうし、そもそも求められていない気がするんです。でも「ほかの人にはこんな歌詞、作れないんじゃないかな」と思うところもあるから、難しいところですよね。

「がんばれ」じゃなくて「マジメと云う」

──いきなりハイスケールな曲で始まる本作ですが、一方でリード曲になっている「一生のお願い」は非常にポップな仕上がりで。

この曲のドラムはブレイクビーツっぽいリズムですけど、最初はもっとシンプルだったんです。でも「面白みに欠けるよね」という話になって、こっちに変えてみたらテンションの高い感じが表現できました。

──歌詞では何度も生まれ変わって出会いと別れを繰り返すうち、ずっとそばにいてほしいという“一生のお願い”が語られます。「どっかの銀河系」と「新宿六丁目のマクドナルド」、極端に異なる場所が登場するのも下川さんらしい表現です。

僕はすぐ物事を大げさに考えてしまうタイプで、例えば彼女ができたとしたら、結婚することまで想像しちゃうんですよ。そういう思いを反芻するうち「前世ですでに会っていたのでは?」みたいな妄想がドバドバ浮かんじゃって。それを歌にしたのが「一生のお願い」ですね。

──「マジメと云う」も、本作の中では明るい雰囲気の曲になりますね。こちらはなかなか行動には表せないけど、好きな人を助けたい、寄り添いたいと思える人のことを「マジメ」と表しています。

これはある友人との会話が元ネタで。彼は「好きな女の子がひどい男に引っかかってしまった」と話してくれて、誠実さで立ち向かおうとしたんですね。それでどう応援すればいいか考えたとき、「がんばれ」という言葉があまりにも当てはまらなくて。悩んだ結果、浮かんだ言葉が「かっとばせ! マジメ!」だったんです。

──なるほど。

下川リヲ(Vo, G)

マジメってすごくいいことなのに、真っ先に否定される、非効率的なものだと捉われている気がするんです。それでも自分なりにマジメに取り組むことは美徳だし、不真面目なほうが得することもあるんですけど、マジメさを貫いて幸せになったほうが素敵ですからね。

──あえて「助けたいけれど行動に移せない」ことに触れたり、「がんばれ」と言い切ったりしないところに、下川さんならではの優しさが表されていると思います。それこそ切羽詰まった人に「がんばれ」と声を掛けることで、かえってプレッシャーを与えてしまうこともありますし。

ある意味「がんばれ」は禁句ですよね。安直に使えないし、自分にはどうもしっくりこない言葉なんです。

僕が捕まったら同じこと言われそう

──「マカロニを探せ!」はアベマコト(B, Cho)さんのルーツである渋谷系を彷彿とさせるさわやかなアレンジで、グラタンのマカロニを見て別れた彼女を思い出してしまう、切ないシチュエーションが描かれています。

これ本人には言ってないんですけど、アベのことを歌ってます。彼は過去を引きずる人間だから、元カノのこととかずっと考えてるだろうと思って。

──ということは、アベさんの実体験をもとに作詞した?

いや、妄想ですね。変わらない彼と、どんどん変わっていく周りの人間を対比して描きたくて。マカロニはなんとなく浮かんだワードで、アベはたぶんグラタンは作れないです(笑)。でもさりげないきっかけで昔の出来事を思い出すこと、ありますよね。

──「マカロニを探せ!」と同じく切なさが感じられる「僕」は、誰かに傷付けられることで自分自身を認識する様子を、アコースティック調のシンプルなサウンドに乗せた楽曲です。素直になれない心細さも触れていますね。

下川リヲ(Vo, G)

これは最初に完成したんですけど、メンバーからはものすごい不評で「暗すぎる」「怖い」とか言われたんです。制作中、なぜかすごく悲しい気分になったんですよね。それと同時に怒りが湧いてきて、「悲しいのは誰かのせいじゃないのか?」と思って。でも怒っている自分に対して孤独を感じ、また悲しくなって……そうやっていろんな感情が高まり合って、爆発して生まれた曲が「僕」です。

──やっぱり爆発してしまった。

どうしてもそうなっちゃうんですよ(笑)。

──途中の「むごいニュースが流れてる 電器売り場のテレビから 『普段は静かな人でした』と 僕の通知表みたいだね」という部分では、事件の犯人と自分を重ね合わせるかのような心情が歌われていますね。

それこそ僕が事件を起こして捕まったら、ご近所さんに同じことを言われそうで。犯人に対しても「自分と似たような生活してたのかな」とか思ったり……いや、これ危険な思考ですよね(笑)。