結城萌子|大切なことは全部アニメが教えてくれた

今年1月に劇場アニメ「あした世界が終わるとしても」で声優デビューした結城萌子が、歌手としての初作品であるシングル「innocent moon」を8月28日にリリースする。

この作品は、収録される4曲すべてが川谷絵音(ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoro、美的計画)の書き下ろし。編曲は「散々花嫁」をTom-H@ck、「さよなら私の青春」を菅野よう子、「幸福雨」をちゃんMARI(ゲスの極み乙女。 / この曲は彼女が川谷と共同作曲)、「元恋人よ」をミト(クラムボン)がそれぞれ担当している。

そうそうたる面々に支えられて幅広い曲調を歌いこなす結城に、音楽ナタリーはインタビューを実施。知っている人は知っていることだが、彼女は2014年に“綿めぐみ”の名で歌手デビューし、3年ほど活動していた。当時との心境の違いなども交えつつ、幼少時からの夢だった声優としての意気込み、夢、アニメへの愛情を語ってもらった。

取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 武田真由子

小学生の頃から、
アニメと関係ない職業に就いている自分が想像できなかった

結城萌子
結城萌子

──3年前、前の名義のときに一度お話を聞いたことがありますが、当時から「声優になりたい」「アニメに関わる仕事がしたい」と言っていましたよね。

小さい頃からずっと思っていました。前の名義で活動していたときも、その活動はアニメに関わる夢を叶えるためのツールと考えていたので、当時と今とで何かが大きく変わったわけではなくて、“自分の人生”みたいな大きなくくりの中に“声優”と“歌手”が両方とも存在している感じですね。

──アニメが好きになったきっかけはなんですか?

家庭環境だと思います。マンガとゲーム機がいっぱいあって、常にアニメが流れている家で育ったので、オタクにならざるを得なかったんです。親の実家の倉庫にもいっぱいマンガがあって、親世代の作品をそこで読んだり、レンタルビデオ屋さんに連れて行ってもらっていっぱいアニメを借りて、夏休みはひたすらそれを観る、みたいな生活を送っていました。

──以前、ご自身のことを懐古厨だと言っていましたが、親御さんがマンガ好きというのも背景にあるんですね。

両親の影響は大きいと思います。同級生にはしゃべれる人がいなくてちょっと寂しかったけど、1人で黙々と趣味を楽しんでいました。

──子供の頃に好きだった作品は覚えていますか?

今もずっと変わってないんですけど、「少女革命ウテナ」「うる星やつら」「るろうに剣心」「シャーマンキング」「ママレード・ボーイ」などが好きでした。ジブリ作品も好きです。

──「るろ剣」の緋村剣心が初恋の人なんですよね。

そうです(笑)。4、5歳のときに親戚の家でアニメを観て、衝撃を受けたんですよ。長くて赤い髪をなびかせた中性的なビジュアルの剣心が、普段は穏やかなんだけど、人斬り抜刀斎になると人格が切り替わる。そのギャップに惹かれました。ただ強いだけじゃなくて優しいところが好きだったんだと思います。中性的なキャラクターが好きなのは今も同じですね。

──自分で演じてみたいキャラクターもそうですか?

それはまた違うかもしれないですね。いわゆる萌えアニメとかハーレムアニメに出てくるようなキャラもかわいいと思うけど、それよりもっとリアルな作品というか、現実的なお話に出てくるキャラクターを演じてみたい。身近なものを題材にした作品のほうが、入り込みやすいかなって思います。

──アニメに関わる仕事をしたいと思うようになったのはいつからですか?

小学生ぐらいのときからですね。なりたいっていうより、アニメと関係ない職業に就いている自分が想像できなくて(笑)。最初から選択肢になかったんだと思います。

──そう考えると幸せな現在ですね。

本当にそうです。いろいろありましたけど……(笑)、こういう仕事をしたいというのがずっと自分のモチベーションだったので。

結城萌子
結城萌子
結城萌子

芝居と歌はすごく通じるところがあるなと感じます

──前の名義のときとつい比較してしまうんですが、今回のシングルはいい意味で、ふわふわした感じがなくなったなと思いました。

あー、確かに。昔はふわふわしていましたよね(笑)。

──言い方が難しいんですが、「歌い方がふわふわしている」とは違うんですよ。

わかります。気持ち的なものですよね。

──そう。声優になれたことで、自分の中での歌の位置付けも定まってきたのかなと。

そうですね。声優事務所に入って、キャラの役作りの根本のところから芝居を勉強したのも大きいと思います。芝居と歌はすごく通じるところがあるなと、改めて感じました。昔はプロデューサーサイドのやりたいことが明確だったから、私はサポート的な役割でしたけど、今は私が中心で、周りの人たちもそれを前提に助けてくれたり意見を言ってくれたりしているので、改めて「自分でちゃんと考えないといけないんだな」ってすごく思ったんです。だからまったく違う歌になっていると思いますね。

──学んだことを具体的にはどう生かしていったんでしょう。

役作りのために台本を読んで、キャラの背景とか過去とか、台本に書かれていなくても自分で考える作業が必須になるということを学んだんです。もちろん、自分が出した答えが正解かどうかはわかんないですけど。歌詞も台本と同じで、1回読んでみて、書いてくださった川谷さんの解釈とは違うかもしれないけど、自分なりに噛み砕いて歌いました。

──ストーリーはもとより、1つひとつの言葉の解釈によっても、出す声や歌い方が変わってきますものね。

曲が難しかったので、まず「歌えるかしら?」みたいなところから不安だったんですけど(笑)、やっぱり「自分がやらないと」という気持ちが強くあったので、すごく曲に向き合った実感があります。

──では、歌と演技ではどんなところが違いますか?

「innocent moon」に関しては、結城萌子名義の作品だし、私自身として歌っているので、演技とは違いますね。歌詞の意味は汲み取るし、思いを寄せて歌うけど、誰かになりきって歌うのではなくて、今の私の解釈で表現していると思います。