結城萌子|大切なことは全部アニメが教えてくれた

“生まれたてのひよこ”からの大きな飛躍

結城萌子

──「innocent moon」からは「散々花嫁」が7月12日に先行配信されましたが、最初にレコーディングしたのもこの曲ですか?

いえ、最初は「幸福雨」です。昨日全曲のマスタリングが終わったんですけど、改めて本当に全部いい曲だなと思いました。自分が歌っているのを聴くのは恥ずかしいですけど。けっこう月日をかけてレコーディングしていったので、歌の感じもそれぞれ違って。

──その期間中にも成長ないし変化があったんですね。

はい。「幸福雨」は声優の勉強を始めるより前に録ったので、右も左もわからず、生まれたてのひよこみたいな感じですね。「卵から孵ったら目の前にマイクがあった」みたいな(笑)。

──その次に録ったのが「さよなら私の青春」?

そうです。この曲をアレンジしてくださった菅野よう子さんはもともと大好きだったので、ご一緒できると聞いたときは信じられなくて、実際お会いした今もふわふわしています。

──菅野さんの作品で好きだったのは?

ドンピシャだったのは「マクロスF」ですけど、「カウボーイビバップ」も好きだし、CMの曲とか、東日本大震災の復興支援ソング「花は咲く」も好きです。ほんとに幅が広いんですよね。

──“生まれたてのひよこ”だった「幸福雨」に続いての曲のアレンジャーが菅野さんって……。

かなり大きな飛躍ですよね。ガクガクブルブルでした(笑)。菅野さんは妖精や精霊みたいで、人間臭さみたいなものが感じられない方でした。「私、本当に会ったのかな?」みたいな気分です。

──じゃあ「散々花嫁」は3番目ですね。

はい。今年の5、6月に録りました。Tom-H@ckさんがかなりフランクな方で、今までで一番面白いレコーディングでしたね。完全に初めましてだったので、前日まで緊張していたんですけど、いざお会いしてみたら初めてな感じがあんまりしなくて。親戚のお兄さんみたいな目線で話してくださって、ディレクションも面白いし。関西人じゃないのに関西弁をしゃべるっていうところから面白かったです(笑)。

──「元恋人よ」についてはどうですか?

ごく最近録ったんですけど、ほんっとにいい曲です。私もほかの3曲に比べてめちゃめちゃ人間らしく歌ってると思います。よりリアルに聞こえるんじゃないかな。すごく感動しちゃって、気持ちを持っていかれないようにするのが大変でした。

結城萌子
結城萌子

たくさんの人に届けたいし、
そのために私もいろんなアプローチを
していくつもり

──去年の初め頃に結城さんがあるゲームに声優として出演したときの自己紹介動画を観たら、「キャラが埋もれないように、自分の個性をどう出すかを考えて収録に臨んだ」という話をしていました。それは歌にも通じるかなと思ったんですが。

同じ声優が声をあてたとしても、作品によって違うキャラクターになるじゃないですか。作品ごとにそれぞれの人格や人生をどう演じ分けるかという点は、歌にも通じますね。曲によってそれぞれ違ったストーリーがあるけど、どれも結城萌子が歌っているので、「innocent moon」には4曲共、私のエッセンスがどこかに入っているんだろうなと思います。それは私が気付かない何かかもしれないし、答えは聴いてくれた人の中にあると思います。とにかくいろいろ考えて制作したので、気に入ってもらえたらいいなと思いますね。あと、サウンドがすごくリッチなので、そういうところも聴いてほしい。たくさんの人に届けたいし、そのために私もいろんなアプローチをしていくつもりです。

──声優の事務所に入ったときから歌もやると決まっていたんですか?

音楽のプロジェクトが先だったんです。それからも「私は声優になりたいんです」って言い続けていたら、いろいろなご縁があって事務所を紹介してもらって。そこに入ったのが去年の今頃でした。

──川谷さんが結城さんの歌声に惚れ込んだと資料に書いてありますが……。

それは初耳ですけど(笑)、私の昔の名義をご存じだったみたいですね。

──なんだかんだでそこからつながって今があると思うと、前の名義でもやっていてよかったですね。

本当に。当時は反抗期の子供みたいだったので、関わってくださった皆さんには本当に申し訳ないですけど……。

──みんな祝福してくれると思いますよ。

そうだとうれしいですね。

高山みなみさんと林原めぐみさんを、
言葉にできないぐらいリスペクトしています

──結城さんが尊敬する声優さんは?

高山みなみさんと林原めぐみさんです。耳にした瞬間に「あの人の声だ」ってわかるし、なおかつ、ちゃんとキャラクターが生きているんですよね。本当に奥深くまでキャラのことを考えて、演じ分けていらっしゃるんだなって思います。声優のときの顔も歌手としての顔も、どっちもカッコいいし、キャラソンも好きですけど、個人の名義の曲も大好きです。「表現者になってくださって本当にありがとうございます」って毎日思います(笑)。感謝しかないです。

──そのお話は“結城さんがなりたい声優像”とつながってきますね。

結城萌子
結城萌子

やっぱり憧れがあるからですかね。「すごい」が当たり前でしかないから、どう言い表そうとしてもチープに感じるんですよ。言葉にできないぐらいリスペクトしています。なりたいと言えばなれるわけじゃないけど、ちょっとでも近付けたら本望ですね。

──長年の夢を叶えて、次の目標はどんなことですか?

声優として出演するアニメのタイアップを、歌手としての自分で取れたら最高だなと思います。最初に話したような現実的なお話で、楽曲もアニソンっぽい曲なら理想的ですね。

──最後に、結城さんが最近観て、好きだなと思ったアニメはありますか?

好きっていうか、感動したのは、YouTubeのコジコジチャンネルにアップされた動画で、コジコジと次郎くんがYouTuberになったエピソードですね(参照:【公式】YouTubeオリジナル コジコジ 第1回「コジコジへの質問、みんなありがとう!」)。当時のアニメのキャストさんが声をあてていて、お便りを読んでくれるんですよ。でもコジコジがマイペースだから1通しか紹介できなくて、「しまった、もう時間がない」みたいな感じが、「あの頃と何も変わってない! 成長していなくてよかった!」みたいな(笑)。私、けっこう物事を深く考えてグルグルしちゃうタイプなんですけど、コジコジが住んでいるメルヘンの国の人たちは、そんなに深く考えないんですよね。例えばゲランはせっかくゲットしたスヌーピーのサインをコジコジのひょんなひと言でほかの人にあげなくてはならない状況になるんです。本当はあげたくないけど白目を剥きながら「仕方ない。またサイン会はあるだろう……」って(笑)。そういうメルヘンの国の住人の何気ない日常を見てるとすごく癒されるし気持ちもリセットされます。私もメルヘンの国に行ってみたいです。

──アニメは結城さんにとっての思考や行動の基準みたいになっているんですね。

なっていますね。小さい頃からそうやって育ちましたから。大切なことは全部アニメが教えてくれました。