できるときにできることを全部したい
──ではお二人の新作について伺いましょう。まず小林さんは7月にニューアルバム「INTERSECTION」をリリースされました。
小林 今回は初挑戦をけっこう詰め込んだアルバムで、バリトンサックスが主役になる曲や、サックスカルテットでの曲を作ってみました。サックスカルテットに関しては、クラシックの世界ではスタンダードな編成なんですけど、ポップス系のサックス奏者はあんまりやらないので、今回は1人4役やって、多重録音で仕上げていきました。来年には20周年という大きな節目が控えているので、そこまでを盛り上げつつも、当初はちょっと控えめなアルバムにしようかなっていう思いもあったんです。でもね、さっきユッコちゃんも言っていたように、人生はいつどうなるかわからないじゃないですか。だから最近は出し惜しみする感覚がまったくなくなってしまって。できるときにできることを全部したいと思って制作に臨んだら、20周年でやりたかったことをフライングでやってしまったっていう。「来年どうすんの!?」というプレッシャーに襲われているところです(笑)。
ユッコ あははは。さっきも言いましたけど、本当に心地いいアルバムですよね。ソプラノ、アルト、テナー、バリトンのサックスカルテットで演奏されている「Paradise」にはめっちゃ感動しましたし、「On the Bridge」のエモい感じも大好きです。
小林 「エモい」いただきました(笑)。うれしいです。サックスはバラードが得意な楽器だと思うので、「On the Bridge」のような曲は任せてくれって感じですよね。
ユッコ 最後の曲「Earl Grey」もすごくよかったです。アルバムの締めくくりにふさわしい曲だなって。
小林 曲順を決めるのは、なかなか難しいんですけどね。今作でこだわったのは「Treasure」を1曲目にしたところ。ファンの方をいい形で裏切りたいけど、一方では裏切りたくない気持ちもあって。なので、アルバムの最初は昔ながらの小林香織を感じさせる曲にしたんです。「ね、私のアルバムでしょ?」と感じてもらえる曲をまず聴いてもらったうえで、徐々に「こんなこともやってみました」という挑戦的な曲を出していくっていう。そんな作戦にしました。
ユッコ なるほどー!
「一緒にやっていただけませんか。ユッコ・ミラーです」
──そしてユッコさんからは新作「LINK」が届きました。今回はH ZETTRIOとのコラボレーションによって作り上げられたアルバムになりますね。
ユッコ はい。今年の7月くらいに次のアルバムのことを考えながら、参考にいろんな音源を聴いていく中で、高校生のときから大好きだったPE'Zの曲も聴いたんです。「やっぱりPE'Zカッコいい!」と思ったんですけど、PE'Zはもう解散している。でも、PE'Zのメンバーとそっくりな方がやられているバンド、H ZETTRIOさんがいらっしゃるじゃないかと思い、ネットで調べた事務所のアドレスに「一緒にやっていただけませんか。ユッコ・ミラーです」っていうメールを送ったんです。
小林 すごい行動力! 私も見習いたい。
ユッコ 絶対に無理だろうなとは思っていたんですけど、「やりましょう!」とお返事がきて。実は以前、テラス・マーティンのライブに飛び入りゲストとして参加させてもらったことがあったんですけど、そのライブをH ZETTRIOの皆さんが観てくださっていたみたいで、「あのときのユッコ・ミラーだ!」と快諾してくださったようなんです。本当に奇跡が起きました。今回は5曲を私が作り、残りの5曲をH ZETT Mさんが作ってくださって。アレンジはすべてH ZETTRIOさんが手がけてくださいました。
小林 異なるアーティストが曲を持ち寄ると、1枚として凸凹になっちゃうことも多いと思うんですけど、このアルバムは1枚通してちゃんと統一感がありますよね。どっちがどの曲を書いたのかがわからないくらいまとまっていて、それはきっと皆さんが同じところを見据えて制作できたことの証明だなと。素晴らしいアルバムだと思います。
──ユッコさんが手がけた5曲は、このアルバムのために書き下ろしたんですか?
ユッコ そうです。H ZETTRIOさんのカッコいいサウンドで彩ってもらえるのであれば、今の私はこんな曲がやりたいなと思いながら書いていった感じで。とはいえ、私が作曲するときはいつも、そのときの日常生活が色濃く反映されるんですよ。だから今回も「絶体絶命」とか「危険なアリバイ」とか「Free Fall」とか、タイトル通りのことが実際起こっていました。実生活がそのまんま出ている感じですね。
小林 えー! そうなんだ! 全部の曲に歌詞を付けてほしい。「危険なアリバイ」とか特に、そのときのユッコちゃんに何があったのかがすごく気になっちゃいますよね(笑)。
ユッコ そこはサックスで表現しているので(笑)。
小林 そうだよね。多くは語らないっていう。カッコいい!
──「絶体絶命」はタイトルから受け取るイメージと、実際のサウンドの方向性にギャップがあって面白かったです。
ユッコ そうですよね。最初はまさに“絶体絶命”な雰囲気のデモをお送りしたんですけど、アレンジされて返ってきたものはすごくマイルドになっていたんですよ。人間ってショックな出来事があると、その瞬間がスローモーションに見えたりすることもあるじゃないですか。なので、この緩やかなサウンドが逆に“絶体絶命”感をさらに引き立ててくれていると思いました。H ZETT Mさんが作ってくださった曲はどれもめちゃくちゃカッコいいし、それぞれが全然違ったテイストになっているので、どの曲もめっちゃ大好きです。
小林 バラードももちろんすごくいいんだけど、全体にあふれているアップテンポでスリリングな雰囲気がさすがという感じですよね。ユッコちゃんの流れるように攻めるサックスも、H ZETTRIOさんの世界観にものすごくマッチしているし。私じゃ絶対に思い浮かばないし、きっと今後も作れないであろうアルバムになっているのが本当に面白かったです。
やっぱりサックスで歌いたい
──聴いているだけで体を突き動かされる、まさに踊れる作品に仕上がっていますよね。一方の小林さんの「INTERSECTION」は、非常に歌心を感じさせる作品で。今回の2作を聴いて、そんなアプローチの違いもすごく印象的でした。
ユッコ H ZETTRIOさんが「踊らせてやろう!」という感じだったので、アルバム全体がそういう雰囲気になったんだと思います。普段の私はあまり「踊らせたい」みたいな感覚はないので、今回のコラボだったからこそ出せた雰囲気だと思います。
小林 私の場合はたぶん、歌いたい人なんでしょうね。歌いたいけど、私はボーカリストではないので、それをサックスで表現しているという。確かに歌いたい願望はどの作品にも絶対出ちゃってると思う(笑)。
ユッコ そこは私も一緒です。やっぱりサックスで歌いたいですもん。
──サックスという楽器自体にそういう役割がありますしね。
小林 そうそう。歌心がないとね、サックスを吹いてもそういう雰囲気にはならないから。基本的には「歌おう」という気持ちがあったほうがサックス奏者はうまくいくんじゃないかなと思います。
──では最後に、今後の活動についてひと言聞かせていただけますか?
小林 私はまず来年の20周年を自分で盛り上げることがまず1つ。あとはやっぱりサックス界をもっともっと盛り上げていきたいですよね。ただ、これは私1人ではできないので、強力な仲間が必要になる。そのためには今の子供たちに「サックスって面白そう」と思ってもらえるような活動をしていくことも重要になるのかなって。ユッコちゃんのような頼もしい仲間も増えているので、みんなでシーンを盛り上げていきたいですね。
ユッコ はい。私もそういう気持ちを持って活動していこうと思います! H ZETTRIOさんとのコラボによって「LINK」という本当に素敵な作品もできたので、たくさんの方に聴いてほしいですね。また追ってお知らせしますが、リリースライブも決まっています。絶対に楽しいライブになるので、それもぜひ楽しみにしていてください!
公演情報
グランドオープン記念 ユッコ・ミラーBAND LIVE
2024年12月14日(土)兵庫県 Live bar&cafe JIVE-K
<出演者>
ユッコ・ミラー(Sax)/ 平手裕紀(Piano, Key)/ 中村裕希(B)/ 吉川弾(Dr)
ユッコ・ミラーバースデー&クリスマスディナーショー
2024年12月25日(水)愛知県 名鉄グランドホテル
<出演者>
ユッコ・ミラー(Sax)/ 曽根麻央(Piano, Key)/ 中村裕希(B)/ 吉川弾(Dr)
神戸スペシャルクリスマス ON ASUKA II
2024年12月18日(水)~12月20日(金)兵庫県 神戸発着 ASUKA II 船内ステージ
<出演者>
小林香織(Sax, Fl)/ 望月仁美(Key)/ 藤田義雄(G)/ 浜崎賢太(B)/ 北村望(Dr)
小林香織 Jazz Spirit
2025年1月28日(火)東京都 JZ Brat Sound of Tokyo
<出演者>
小林香織(Sax, Fl)/ 佐山こうた(Piano)/ 金子義浩(B)/ 山口友郎(Dr)
プロフィール
ユッコ・ミラー
三重県伊勢市出身のサックスプレイヤー。高校生時代に吹奏楽部へと入部し、アルトサックスの演奏者として活動を開始。在学中からパリやウィーンなどへ演奏旅行を行い、河田健、川嶋哲郎、エリック・マリエンサルらに師事してきた。2016年に1stアルバム「YUCCO MILLER」でキングレコードよりメジャーデビュー。2018年発表の2ndアルバム「SAXONIC」は「JAZZ JAPAN AWARD 2018」のアルバム・オブ・ザ・イヤー枠でニュー・スター部門賞を受賞した。テレビ番組にも数多く出演し、2018年からはYouTuberとしても活動している。2024年12月にH ZETTRIOとコラボしたオリジナルアルバム「LINK」をリリース。
YUCCO MILLER OFFICIAL WEBSITE|ユッコ・ミラー公式ウェブサイト
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Yucco Miller ユッコ・ミラー | Facebook
小林香織(コバヤシカオリ)
1981年10月20日生まれ、神奈川出身のサックス&フルート奏者。中学1年生のときに吹奏楽部でフルートを始め、高校2年生でアルトサックスを始める。2000年に洗足学園音楽大学ジャズコースに入学し、ボブ・ザングに師事。2005年2月にビクターエンタテインメントから1stアルバム「Solar」をリリースし、メジャーデビューを果たす。2018年9月にキングレコードに移籍。これまで通算14枚のアルバムをリリースしたほか、泉谷しげる、松任谷由実、SKYE(鈴木茂、小原礼、林立夫、松任谷正隆)といったミュージシャンのライブや、さまざまな作品のレコーディングに参加している。また母校である洗足学園音楽大学ジャズコースの講師を勤め、後進の育成にも力を入れている。最新アルバムは2024年7月発売の「INTERSECTION」。
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