2024年に櫻坂46を卒業した小林由依がソロプロジェクト・youstiとして1stミニアルバム「yousti」を発表し、ソロデビューを果たした。
欅坂46の一期生として2015年に活動を開始し、約8年半にわたりグループを牽引した小林。2024年2月に櫻坂46を卒業したあと、彼女の具体的な進路はベールに包まれていた。そして卒業から約1年後の2025年5月、ソロアーティストとしてデビューするという吉報が届けられ、彼女の大々的な活動を心待ちにしていた多数のファンを歓喜させた。
yousti(ユースティー)とは、由依(yui)と“現実逃避”の意味を持つオーストリッチ(ostrich)をかけ合わせた造語。「がんばりすぎず、時には逃げて、身を委ねていこう」というメッセージと、「私(i)には、あなた(you)が、最上級(st)だ」というファンへの思いが込められている。
音楽ナタリーでは小林にインタビューを行い、ソロアーティスト・youstiとして活動するに至った経緯、自ら手がけた歌詞を中心に話を聞いた。記事を通して彼女の新たな一歩を感じてもらいたい。
取材・文 / 宮崎敬太撮影 / YOSHIHITO KOBA
最初から音楽制作に関わってみたい
──2024年2月1日に櫻坂46を卒業後(参照:「私が存在している理由を知れた」櫻坂46小林由依、フルメンバーに見送られ8年半の歴史に幕)、休業期間を経て、yousti名義で音楽活動を開始することを今年5月12日に発表されました。セルフプロデュースのソロアーティストとしてやっていこうと決めたのはいつ頃だったんですか?
卒業してからも事務所(Seed & Flower合同会社)には残っていたんですけど、具体的に何をしていくかは一旦考えたい気持ちが大きくて、半年くらい完全に表に出ずにいろいろ考えていました。ファンの皆さんからは演技の方面を期待されていたと思うけど、「流れるままに役者の道に行っていいのかな」と思ったし、音楽というものに関して、ここでパツッとやらなくなっちゃうのもすごく寂しいなと思って。その中で1人で何かできたらいいのかな、と考えていました。
──誰かに相談しましたか?
ほぼしなかったですね。ソロアーティストとして活動することは周りの人にあんまり言ってなくて。ホントに音楽の道でやっていくかもまだ完全に決まっていなかったし、自分の中でも「いや、無理かな」みたいな迷いがすごくあったりして。完全に「決めた!」という瞬間があんまりなかったかもしれません。
──迷いながら徐々に。しかもセルフプロデュース。
はい(笑)。今までは80~90%まで作られたものを演者として100%にする作業が多かったので、制作の過程に関わることはほとんどなかったんです。私が音楽をやりたいと思った一番の理由は、どういう流れで作品が完成していくのか最初から関わってみたい、という興味でした。自分発信で物事を進める。自分の責任でプロジェクトをやる。
──グループとソロでは責任感の種類も違いそうです。
責任は逃げてはいけない部分だし、がんばれるきっかけにもなるかなって。
ネガティブな部分を受け入れるコンセプト
──youstiのコンセプトはどのように決めたんですか?
アーティスト名を考えている段階で、やっぱり何かテーマがないとダメだなと思って、いろいろ調べたり考えたりする中で、「現実逃避」という言葉にピンと来ました。自分は性格的にネガティブに考えることが多いんです。それに対して「ネガティブに考えるのをやめよう」ではなく「ネガティブな部分も受け入れながら、それでもいっか」みたいな。無理にがんばらない。そういう方向性なら私自身やりやすいと思ったし、共感してくれる人もいるかもしれないなと思いました。
──InstagramのストーリーズでIUさんの曲を使用していたので、ソロアーティストの佇まいという面で、ロールモデルにしていたりするのかな、と思いました。
今の日本だと、歌って踊る女性のソロアーティストってあんまりいないのかなと思ったり。安室奈美恵さんとか、ちょっと上の世代にはいらしたけど、今はグループが主流な感じがしていて。だから自然とIUさんや海外の女性ソロアーティスト、あと私自身がグループ出身なので、IZ*ONEさんからソロになった方たちも参考にしていました。
──ウンビさん、イェナさん、ユリさんはソロアーティストとしても活躍されていますもんね。
あとソロアーティストになったからといって、アイドルをやめたわけではなくて。ミート&グリートとか、ファンの方との触れ合いは続けていきたいです。私自身そういう活動が好きですし。それに、そこまで実力があるわけではないから、「アーティスティックになる」と言っても……。
──いやいや。
(笑)。グループのアイドルを経験した人ができることを生かしていったほうがいいなと思っているところです。
絶対に作詞なんてできないと思っていた
──1stミニアルバム「yousti」の中で最初にできた曲を教えてください。
「day dreamer」ですね。実はこの曲、櫻坂46を卒業するときに発表したソロ曲の候補トラックの1つだったんです。最終的にソロ曲は「君がサヨナラ言えたって・・・」になったんですが、「day dreamer」のトラックもずっと好きで。ソロで活動すると決まって、ほかにも候補トラックがあったんですけど、「day dreamer」のトラックをスタッフさんが取っておいてくれたので、「使わせていただきたいです」とお願いしました。
──初めての作詞はどうでしたか?
難しかったです。絶対に作詞なんてできないと思っていました。私は想像力が乏しいというか、考える力がないというか。そこからのスタートだったので、本当に進まなくて(笑)。何を書いたらいいかわからない状態だったんですけど、一旦音にはめず、時系列もバラバラに入れたいフレーズを書き出して、その後、音にはめるならこっちのワードがいいなと考えたり、英語にしたりもしてみました。
──「立ち止まると取り残されてくし 甘えてるだけなんて罪悪感?」のような生々しい表現が特に素晴らしいと思いました。
「day dreamer」に関してはどんなことを書きたいのか決まっていたので、Q&Aを自分で作って、答えていく作業の中で、自分の内側から出てきた言葉を使いました。「どうして他人の目が気になるのか?」「それは、取り残されていくし、甘えているって言われちゃうから」……そういう質疑応答みたいなものをメモに書いて1人でやっていました。
──「そう簡単に未来なんて変わるわけでもないから 時にはBIGな夢みて今を忘れて歌おうか」はyoustiのコンセプトが端的に言語化されているように感じました。
自分の人生にすごく期待しちゃう場面ってあるじゃないですか。でもそんな期待通りにいくわけではないから、どこかで「そんな期待してなかったし」って道を作るほうが、うまくいかなかったときもダメージが心にダイレクトに来ないというか。それをすごく思いました。
──「day dreamer」の作詞は取りかかってからまとめるまでどのくらい時間がかかりましたか?
3週間くらい? ものすごく時間がかかりました。スタッフさんに1回提出したあと直したくなって調整したり、途中で海外へリアル逃避行したりもしていたので(笑)。でも帰ってきてからかなり進みました。
──この曲の振付はs**t kingzのshojiさんが担当しています。
shojiさんは櫻坂46の「君がサヨナラ言えたって・・・」をはじめ、「ジャマイカビール」「断絶」「僕たちの La vie en rose」などでお世話になったので、最初にお願いしたかったんです。
弱さを見せられるようになった
──次に取りかかったのは?
「Fake-Perfect」です。
──この曲の歌詞がすごく好きです。「ドレスアップして強くなるのよ」と言う人はいるけど、「シルバーリングも派手なカラコンも 嫌わないための武器」まで言う人は少ない。
これは、なんとなく書きたいテーマと流れはあったんですけど、どうやって着地させたらいいのかがわからなくて、あんまり進みませんでした。でもいろいろ言葉を出して、それをChat GPTにお願いして英語にしてもらったりもして(笑)。あれこれいろいろやっている中で“Fake-Perfect”というワードが出てきました。“偽りの完璧”という言葉から、「(歌詞の主人公は)たぶん自分を偽ってでも強くなりたいんだな」「偽りの完璧をまとって生きていくのも楽じゃないよな」と連想したので、そこを軸に書いてみました。
──僕からすると、由依さんは欅坂46、櫻坂46で気丈にグループを牽引してきた人、というイメージがあるので、この曲で弱さをさらけ出したことにとても驚きました。
グループを卒業してから自分の弱い部分みたいなことも話せるようになったんです。私、自己肯定感がだいぶ低いんですけど、それを知らないファンの方が多くて。でも考えてみたら、それは私が言ってきてないからなんですよね。弱い部分ばかりを見てもらいたいわけではないんですが、この歌詞では新たな私を感じてもらえるかなと思います。
──強さと複雑さが同居したこの曲はGENTA YAMAGUCHIさんがコレオグラフを担当しています。
「Fake-Perfect」は意志を感じる楽曲なので、ちゃんみなさんやHANAさんのような強いイメージのアーティストを手がけていらっしゃるGENTAさんにお願いしました。