吉乃インタビュー|誰のことも置いていかずに限界突破!殻と“筒”を破って届ける新たな魅力 (2/2)

「いいんですか?」という気持ちです

──あとは、イントロがやけに長いところがいいですよね。

わかります! いいですよねー!

──計ったら30秒くらいあって。5秒を超えるだけでも「長い」と言われてしまう昨今、このイントロは攻めてるなと思いました。

しかも、すごくディスコっぽいじゃないですか(笑)。このイントロは私も大好きです。

──Aメロが2回繰り返されるのも現代では案外珍しいですし、しかもそれだけ尺をぜいたくに使っておきながら、全体としてはしっかり3分に収まっているのもすごいなと。

確かに……リファレンスはもちろんお渡しするんですけど、その土台にそのまま乗っかるのではなくて、ちゃんと本質のところまで噛み砕いたうえでゼロから構築し直してくださっているのを感じて。その結果、いい意味で“聴いたことのない楽曲”になっている。それが光栄というか、「いいんですか?」という気持ちですね(笑)。

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」の様子。(撮影:中原幸)

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」の様子。(撮影:中原幸)

──「もうちょっと手を抜いてもいいんですよ」と言いたくなるくらい?

あははは。「私なんかのために、プロの作家さんが本気を出してくれるのだろうか?」と思っていた時期もあって。今となっては、そんな心配をしていたこと自体がとても失礼な話だったなと思うんですけど。

──前回のインタビュー(参照:吉乃インタビュー|気鋭の作家と作り上げた10曲、1stアルバム「笑止千万」徹底解説)でも、まさにそういうお話をされていましたね。

すみません、同じこと言っちゃって(笑)。

ちゃんとおうちに帰れたかな?

──それだけ吉乃さんにとって大事な話ということだと思います。ほかに何か、レコーディングなどで印象的な出来事はありましたか?

今回の「天伝バラバラ」あたりから、ボーカルをスタジオでA&Rさんと一緒に録るスタイルに変えたんですよ。たぶん、私はレコーディングにかける時間が長いほうなんじゃないかと思うので、エンジニアさんたちに申し訳ないなという気持ちもありつつ、皆さん辛抱強く付き合ってくださって、いいものにしていただいています。一般的なシンガーの方々と比べて、私はそもそもテイクを重ねる回数が多いと思いますし、ほかの人が聴いたら「どれも同じだろ」と思うであろう微妙な違いのテイクを何度も聴き比べて選びたいタイプなので……。

──人から見たら同じブルーかもしれないけど、セルリアンブルーとフタロブルーは違うんだよみたいな。

本当にそういう感じです。1人で録っている分にはそこにいくらこだわっても誰にも迷惑をかけないからよかったのですが、その個人的なこだわりに他人を付き合わせてしまっているのが、ちょっと心苦しくはありますね。「エンジニアさん、ちゃんとおうちに帰れたかな?」って(笑)。

──でも、そうやってプロフェッショナルの力を借りながら納得のいくところまで突き詰められるのはメジャーアーティストならではの特権ですし、僕ら受け手としては存分にやってほしいなと無責任に思います。

ありがたいですね。本当に。

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」の様子。(撮影:中原幸)

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」の様子。(撮影:中原幸)

誰のことも置いていかない

──そして8月29日には、Zepp Haneda(TOKYO)にてワンマンライブ「吉乃 1st LIVE “逆転劇”」が開催されます。オリジナル曲を携えたライブは初になるかと思いますが、現在の心境としてはいかがですか?

もちろん楽しみではあるんですけど、プレッシャーもやっぱりあって。カバーライブの場合は「みんなの知っている曲で一緒に楽しもう!」という気持ちで臨めるんですが、自分のオリジナル曲が中心で、もしお客さんが知らない曲があっても、楽しんでもらうためにはがんばらないといけないなって思います。

──その感覚は面白いですね。「ワンマンなんだからお客さんは全曲知ってるでしょ」を前提にしないというのは、先ほどの“ゼロから作りあげる”的なお話にもそのまま通ずるような意識の高さが感じられます。

私、SNSの反応とかをけっこうエゴサして見るほうなんですけど、「夏のライブだからあの曲を歌うんじゃないか」と予想してくれている投稿を見かけることがあるんですよ。その中には自分が考えたことのないタイトルを挙げてくださる人もいて。それはその曲がよくないという意味ではなくて、それくらい吉乃というシンガーのイメージを大ざっぱに捉えている方もいらっしゃるということじゃないですか。それを考えると、「私の曲を知っていて当然」という前提で臨むのはちょっと傲慢すぎるかなって。

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」の様子。(撮影:中原幸)

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」の様子。(撮影:中原幸)

──やや謙虚すぎる気もしますが、素晴らしい考え方だと思います。

以前ファンの方にいただいた言葉で、すごく印象に残っているものがあるんです。「吉乃のことを長年推していて、一度も“置いてかれている”と思ったことがない」って。それは本当に私が常々心がけてきたことで……例えば、以前はSNSのリプライには全部返信していたんですが、もうすべてに返せる時間も十分に取れないし、数的にも追いつかなくなったときに「それができないなら、代わりに何をすれば満たせるだろうか」と考えます。「できないから仕方ない」で片付けたくないんです。感謝の気持ちは常に持っていたいし、みんなのことをちゃんと見ている、そばにいるというスタンスは大事にしたいと思っていて……すみません、これなんの話でしたっけ?(笑)

──(笑)。大ざっぱに言うと「初心を忘れない人ですよね」という話なので、全然外れてないですよ。

そうでした(笑)。だから、次のライブでも「誰のことも置いていかない」が目標です。それこそSNSで私を知ってくれた人の中には「歌はあんまり聴いたことないけど、なんとなく面白そうだからフォローしてる」だけの方もいると思うんですよ。そういう方だって、もしかしたらライブに来てくれるかもしれない。その方たちにもちゃんと楽しんでいただきたいんです。

筒の限界を感じていた

──ところで、ライブの告知文に「今までと違い、吉乃の姿をより鮮明に感じられる舞台セットで、殻を破る瞬間もお見逃しなく」と書かれているんですが、これは?

今までのカバーライブでは私が筒に入った状態で、完全シルエットって感じの見え方でステージに立っていたんです。ただ実はその筒、かなり狭くて(笑)。歩くのも大変で、端の席のお客さんからしたら「全然近くに来てくれないな」って思われていたかも、と感じていて。なので今回は、筒から出てパフォーマンスをさせていただきます。ステージ上を左右に動けることになるので、すごくワクワクしています。

──新しいビジュアル表現が楽しめるということですね。

実際にどういう見え方になるのかはちょっとまだ私も想像できていないのですが、正直、1stカバーライブのときから、うすうす「筒から出られたらどんなふうにやれるのかな」とは思っていましたし、2ndのときは完全に「もうここから出たい!」と考えていて(笑)。筒の限界を感じていたんです。

──「筒の限界」(笑)。すごい日本語ですね。

そう、筒の限界を(笑)。

──つまりこの「殻を破る」というのは、「筒を破る」という意味でもあるわけですね。

あはははは! それだけではないのですけれども(笑)、でも象徴的な意味としてはそうなりますね。なのでこの記事を読んでくださっている皆様には、「絶対楽しませるので、絶対来てください!」と言いたいです。……あ、「絶対」って2回言っちゃった(笑)。

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」の様子。(撮影:中原幸)

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」の様子。(撮影:中原幸)

ライブ情報

吉乃 1st LIVE “逆転劇”

2025年8月29日(金)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

吉乃(ヨシノ)

歌い手。2019年2月に「歌ってみた」の投稿を開始。活動当初から公開してきたカバー動画の数々が好評を博し、YouTubeのチャンネル登録者数は現在17万人を超える。2024年7月から8月にかけて、初のライブツアー「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 “爪痕”」を愛知、福岡、大阪、東京のZepp会場にて開催。同年10月にテレビアニメ「ひとりぼっちの異世界攻略」と「来世は他人がいい」の主題歌を担当し、ポニーキャニオンからメジャーデビューを果たす。2025年1月にメジャー1stアルバム「笑止千万」を発表。7月にテレビアニメ「気絶勇者と暗殺姫」のオープニング主題歌「天伝バラバラ」を配信リリースした。