音楽ナタリー Power Push - 吉田健児×西原誠(ex. GRAPEVINE)
武骨シンガーが不器用に生き残る手段
恐縮は音楽を作る上ですごく邪魔
──今作には西原さんの旧友、西川弘剛さんも参加してますね。
西原 彼には「BIRD」「ハダカ」の2曲で弾いてもらったんです。「BIRD」をアレンジしているとき、西川くんのギターが加わったらおもろいと思って。照れ臭かったけど電話してみたら「ええよ」って言ってくれて、ついでに「ハダカ」もお願いしたんですよ。「ハダカ」なんてものすごいストレートな音色で、今後こんなギターを弾くことはないでしょう(笑)。
──お二人の関係性あってこその、貴重な音色ですね。
西原 もう25年も付き合ってますからね。
──吉田さんは西川さんのギターを聴いてみて、どうでした?
吉田 「こんなすげえんだ!」って思いましたね。全然先入観とかがなかった分、色眼鏡なく聴いて。
西原 こいつは知らんのがいいんですよ。西川くんはベテランなんで、彼のことを知っている後輩だったら恐縮しちゃうから。でもそれって、音楽を作る上ではすごく邪魔なんですよ。
友達ができてよかったです
──このアルバムが世に出ていくことは楽しみですね。西原さんがさっきおっしゃっていたように、吉田さんは今どき珍しいタイプのアーティストだし。
西原 まあ、バカ売れはしないと思うんですよね。マーケットも小さくなっているから余計苦しいとは思うんですが、今のシーンに辟易しているリスナーには引っ掛かるんじゃないかな。
吉田 一番お世話になった下北沢CLUB Queの二位(徳裕)さんにも、会った頃から「吉田は10年早くシーンに出てきていたらなあ」って言われたりして。西原さんも言ってましたよね。イマイチ自分にはピンとこないんですけど。
西原 今回のアルバムも自分っぽいアレンジにはなっていますけれど、今の音楽にしているつもりなんですよね。1990年代後半から2000年代前半ならポンと売れたタイプの曲だと思いますけど、その頃の作り方をそのまま持ってきても意味はないから、今の音色を選んだりしました。
吉田 西原さんがすごいのは、今売れている音楽も聴いていることで。俺、まったく聴いていないから。
西原 聴いていてだいたいゲロ吐きそうになりますけど(笑)。でも、ちょっとしたフレーズで「おっ!」って思うこともあるんです。GRAPEVINEにいた頃から俺はひねくれているので、迎合はできないタイプですけれど、だからって止まるのは嫌なんです。俺の先輩たちもライブ活動はしているけど、もう現状維持になってるんですよね。止まるんだったら音楽をやめたほうがいいと思うので、こういう若者と音楽をやらせてもらったり、新しい音楽を聴いたりすることは大事にしています。
吉田 西原さんは今でも何か残そうとしているのがすごいと思うんです。だからこれからもコンビみたいな感じでやっていきたいなって。
西原 プロデューサーやっちゅうねん!
吉田 友達ができてよかったです(笑)。
──(笑)。最後に西原さんは、吉田さんにどんなアーティストになってほしいですか?
西原 商業ベースに乗ろうが乗るまいが、表現者として純粋にいいものを作ってほしいだけです。でもマスに向けて発信していくなら、外に目を向けて、ちょっとくらい華々しい姿を見せてほしいとも思う。根本の音楽はしっかりしているんだからさ。
吉田 アーティストって、誰でも認められたいと思うんです。なかなかそういう機会ってないと思いますけど、そんな中で西原さんが現れてくれたのは運がよかったのか……。何かで恩返ししたいと思っています。友達ですけど、尊敬はしているので(笑)。
収録曲
- ハダカ
- I'm a cat
- ロックンロールなんてジョークだ
- シルシ
- BIRD
- ベガ
- 逢いたいと願えば
<ボーナストラック>
- ニセモノ(STUDIO LIVE)
吉田健児(ヨシダケンジ)
大阪出身のシンガーソングライター。2009年に上京し、下北沢CLUB Queや渋谷La.mama、新宿LOFTなどを拠点に音楽活動をスタートした。ライブハウスシーンを中心に注目を集め、2016年7月にはプロデューサーに西原誠(ex.GRAPEVINE)、ゲストギタリストに西川弘剛(GRAPEVINE)を迎え、自身初のアルバム「forthemorningafter」をリリースした。
西原誠(ニシハラマコト)
GRAPEVINEのリーダー、ベーシストとして音楽活動を開始。2002年に同バンドを脱退し、現在は自身のバンド「JIVES」のギタリストを務めている。吉田健児のアルバム「forthemorningafter」でプロデュースを担当した。