音楽ナタリー Power Push - 吉田健児×西原誠(ex. GRAPEVINE)

武骨シンガーが不器用に生き残る手段

2009年の上京を機に音楽活動をスタートさせた吉田健児が、自身初となるアルバム「forthemorningafter」を7月13日にリリースする。本作はプロデューサーに西原誠(ex. GRAPEVINE)、ゲストギタリストに西川弘剛(GRAPEVINE)を迎え制作された。音楽ナタリーではアルバムの発売を記念し、吉田とプロデューサー西原の対談をセッティング。吉田の上京後7年間のエピソードや西原との出会い、今後の活動に対する思いを存分に語ってもらった。

取材・文 / 高橋美穂 撮影 / 西槇太一

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「この人とやろっかな」

──お二人の出会いは?

左から西原誠、吉田健児。

西原誠 前から信用してるライブハウスの人やミュージシャンから吉田のうわさは聞いてて、最初に会ったのはZher the ZOO YOYOGIで。後輩が出るライブを観に行ったら、吉田も出演してて、「お前が吉田かー!」って控え室に乗り込んで。

吉田健児 俺は西原さんのことは全然知らなくて。ライブ後にえらい褒めてくれるから、それで1回スタジオに来てもらってチェックして、「この人とやろっかな」っていう。

──「この人と」って(笑)。

西原 生意気にも「じゃあスタジオ来てくださいよ」って言われたんですよ。ナメんなよって思った(笑)。それで彼は自分の楽曲をバンドでアレンジしてたんですけど、楽曲はいいのにアンサンブルがめちゃくちゃで。これはちょっと……って感じだったから整理してあげて、やっと信頼を得たという。

吉田 俺は人の言うことは聞かないんですけど、西原さんの言うことはわかるなあって思ったんです。サウンドのアプローチは全然違うけれど、俺も西原さんもニール・ヤングとか好きなアーティストが被っていて、そういう根底が一緒だから、西原さんを信用できたんじゃないかな。GRAPEVINEは聴いたことがなかった分、先入観がなかったっていうのもあるかも。

──それにしても、インタビュー前からお互いフランクな言葉遣いをしていて、GRAPEVINEを昔から聴いてきた私としてはドキドキしてしまったというか(笑)。年齢差もありますよね?

吉田健児

吉田 ありますけど、友達みたいな感じです(笑)。第三者から見たら失礼に見えるかもしれないですけれど、この感じは最初から変わっていなくて。

西原 こいつ友達少ないんですよ(笑)。けっこう生意気ですけど、俺にとってはGRAPEVINEの田中(和将)くんも5歳下ですし、面白ければ関係ないんですよね。こいつの音楽性は俺にはないものを感じますし。

──例えばどんなところにそれを感じました?

西原 ニール・ヤングが共通項って言ってましたけど、お互い捉え方自体は全然違うんです。あと、こいつの作るメロディは日本的な要素を感じるんですよ。俺の場合邦楽によく使われるようなメロディはスパイスとして入れるものだと思ってきたんですけれど、吉田はド直球で。

──なるほど。

西原 それに吉田は毒の塊だったから、魅力的で。俺はバインのときからずっと言っているんですけれど、毒も華もないアーティストは存在価値がないと思っているんです。ソロアーティストの中には「何をやりたいんだ?」っていう人もいるじゃないですか。ちょうどいいところを狙っても、「それじゃ毒も華もないぞ?」って。

ポリシーのないバンドなんてやめたほうがいい

──吉田さんのメロディは日本的だとおっしゃっていますが、吉田さんは洋楽を聴いて育ってきたんですよね。

吉田 邦楽はほとんど聴かないですね。

──なぜそんなメロディが生み出せるんでしょう?

吉田 なんででしょうね? 自分が狙っているのはロックとフォークの真ん中に位置するものなんですけど、ブルース・スプリングスティーンもボブ・ディランも最初はフォークだったのに、だんだんロックになっていったじゃないですか。そういう過程が好きなんです。ただ自分の音楽ではあんまり英語詞は使いたくないし、歌詞も崩したくなくて。日本人らしさがそういうところから出ているのかなって思います。憧れている人たちと同じようにやっているつもりですけれど。

──狙いどころははっきりしているんですね。

西原 狙っているっていうか、好きなんでしょう、そういう曲が。

吉田 ただ、そのせいかポリシーが凝り固まっていて。例えば奇をてらったコードとかメロディはあまり使いたくないんですよね。細かいフックに頼らず、曲全体でいいものにしたいんです。聴き手の心臓をわしづかみにするより、染み込むほうがいいなって。今は西原さんが崩してくれるんですけど。

──理想の音楽の話って、2人でしました?

西原誠

西原 腐るほどしましたね。どんなバンドでも、やりたいっていうものをマスターベーション的に追求していくっていうのがいいと思うんです。ポリシーのないバンドなんてやめたほうがいい。ただ、マスに向けて発信していくとなると、話は別なんですよね。好きなことがマスとたまたまリンクしたらラッキーですけど、それはなかなかないことで。だから「プライドを崩さない範囲でマスにもリンクするものを提示しないと、聴いてもらえないよ」とはよく言っていましたね。

──西原さんから見ていて、吉田さんはポリシーが多いとは思います?

西原 多いし頑固ですよ、いい意味で。

吉田 話は半分聞けばいいと思っているので。

西原 それでいいと思うよ。

吉田 「俺のほうが勝ってる」って思っているのが普通やから。ただ西原さんの意見も新鮮で、たまに採用させてもらうっていう。

──確かに、作品にプロデューサーの色が強く出過ぎるのはいけないですからね。

西原 そうなんですよ。俺がGRAPEVINEで活動していた時代にはいろんなプロデューサーさんがいたんですけど、中にはすごく有能だけれど全部自分でやっちゃう人もいたんです。でもそれはアーティストとして、絶対に嫌だなって思う。今は自分がプロデュースする立場になったけど、才能があるのに不器用な人には、今まで自分が培ってきたものをぶつけてます。そうする価値があるからプロデュースしているわけだし。

──吉田さんは不器用ですか?

西原 不器用ですね。頑固さにも通じているんですけど、それがいいんですよ。会ってすぐの頃は自分の殻に閉じこもっているところもあったんですけれど、話していくうちにだんだん心を開いてくれて。制作に他人が口を出してきたら懐疑的になるだろうし、俺も昔はそうだったんですけれどね。だんだん信頼関係が築けて、今はこんなふうにタメ口で話してくる(笑)。

吉田健児 1stアルバム「forthemorningafter」2016年7月13日発売 / 2160円 / ZERO COOL / ZCST-034
「forthemorningafter」
収録曲
  1. ハダカ
  2. I'm a cat
  3. ロックンロールなんてジョークだ
  4. シルシ
  5. BIRD
  6. ベガ
  7. 逢いたいと願えば

<ボーナストラック>

  1. ニセモノ(STUDIO LIVE)
吉田健児(ヨシダケンジ)
吉田健児

大阪出身のシンガーソングライター。2009年に上京し、下北沢CLUB Queや渋谷La.mama、新宿LOFTなどを拠点に音楽活動をスタートした。ライブハウスシーンを中心に注目を集め、2016年7月にはプロデューサーに西原誠(ex.GRAPEVINE)、ゲストギタリストに西川弘剛(GRAPEVINE)を迎え、自身初のアルバム「forthemorningafter」をリリースした。

西原誠(ニシハラマコト)

GRAPEVINEのリーダー、ベーシストとして音楽活動を開始。2002年に同バンドを脱退し、現在は自身のバンド「JIVES」のギタリストを務めている。吉田健児のアルバム「forthemorningafter」でプロデュースを担当した。