音楽ナタリー Power Push - 米倉利紀

21枚目で迎えた“分岐点”

米倉利紀がニューアルバム「switch」をリリースした。

「switch」は2015年1月発表の「streamline」以来1年ぶり、21枚目のオリジナルアルバム。前回のアルバムで“断捨離”をテーマに作品を作り、自分の原点を再確認した米倉は、今作で「本当の意味で新しい一歩を踏み出せた」と言う。彼にとって分岐点になった「switch」に込めた思いについて、語ってもらった。

取材・文 / 大谷隆之 撮影 / 竹中圭樹(D-CORD)

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断捨離をして自分の原点が確認できた

──21枚目の新作「switch」、オリジナルアルバムとしては約1年ぶりのリリースですね。前作「streamline」では確か、“人生におけるポジティブな断捨離”がテーマとおっしゃっていました。

米倉利紀

「streamline」は、通算20枚目にして自分の足元を見つめ直したアルバムでした。活動期間が長くなると、どうしても背負い込んだものが増えてくる。しかも現代はネットの時代なので、いろんな人が勝手に思い描いた米倉利紀像を目にする機会も多いでしょう。プラスの評価、マイナスの評価どちらもありますが、いずれにせよ自分の力ではどうすることもできない。そういう状況の中で前に進んで行くには、このあたりで1度、自分自身の心の中をきちんと整理しておく必要があると思ったんです。そもそも自分はどこで生まれて、どんな人間で、どこに向かっていきたいのかと。

──断捨離とはそういう意味だったんですね。実際に「streamline」というアルバムを完成させて、シンガーとして、ミュージシャンとして何か変化はありました?

余分なものを削ぎ落としていく過程で、本当に僕は歌うことが好きなんだということをシンプルに確認できた。メンタル面だけじゃなくて、曲作りのプロセスもそう。以前は作詞作曲だけじゃなく、編曲に関しても細かくアレンジャーさんに意向を伝えていた時期もありました。でも「streamline」からは、その役割分担を明確にしました。アレンジャーの柿崎(洋一郎)さんは、僕がデビューして間もない頃からずっと一緒にやってきた信頼できる大先輩。長年一緒に音楽を作ってきた柿崎さんへの信頼から、大まかな曲のイメージと歌詞をお渡しして、そこから先のアレンジは完全にお任せしています。アレンジの方向性に関してたった1行の僕からのメールでも十分意図は伝わったし、むしろ結果的にはいいケミストリーが生まれたりもしました。

──アレンジャーを信頼して任せることも、プロデュース作業の一環と言えますからね。その後、8月には「うたびと」というカバー集を出されて。

人が書いた曲と向き合ってみようと思えたのも、やはり「streamline」の経験が大きかった気がします。実は、デビュー当時からずっといろんなレコード会社からカバーアルバムの制作を提案されてましたが、オリジナル曲へのこだわりが強くて踏み切れなかった。でも断捨離を経て、歌うときにしっかり心を使えていれば何をやっても米倉利紀の表現になりうるって自信が持てたんです。歌謡曲からJ-POPまで日本語の名曲に取り組んで、発見もいろいろありました。今回の「switch」はそういう変化を踏まえた新作。本当の意味で新しい一歩を踏み出せたかなと思っています。

──確かにアルバム全体から、軽やかに、しなやかに前に進んでいこうとする意志が伝わってきました。

そう響いたのなら、すごくうれしいですね。「streamline」は自分を真っすぐ見つめて作ったこともあって、曲作りのベクトルがかなり内側に向いていたと思うんです。内容的にも強い思いを訴えたラブソングがすべてを占めていたし、少なくとも僕にとっては内面的な手触りのアルバムだった。今回の「switch」ではそのベクトルを、外側に向けて一気に反転させることができたという手応えはありましたね。

「Just pick one!」間違ったら別のものを選び直せばいいよ

──「switch」というタイトルにはどんな思いを込めました?

僕なりに訳すと“人生の分岐点”。人は誰でも、いろんな分岐点に直面しながら毎日を生きてると思うんですね。だったらその瞬間を楽しみたい。自分の意志で、軽やかに未来を選び取っていきたいなって。それくらいのイメージです。もし失敗したって、すぐ次の分岐点がやってくるわけですしね。

──アップテンポなオープニング曲「CHANCE」では、晴れやかなサウンドに乗せて「あまり、難しく考え過ぎず」「たった一度の人生を、がむしゃらに生きてみよう」と歌われていますね。このメッセージはアルバム全体を通して、繰り返し登場します。

例えば何かに悩んでる状況って、少し見方を変えると選択肢が多くなったとも考えられるじゃないですか。僕はアメリカ生活が長いので、向こうのミュージシャンの影響も強いかもしれないけど、彼らの表現を借りると「Just pick one!」。とりあえず何か1つ選んで、人生を前に進めよう。もし間違ったら別のものを選び直せばいいよと。それって決して適当な生き方じゃなくって。むしろ躍動感のある勇気っていうか。人生の知恵だと思うんです。

──なるほど。

もちろん僕の中には「streamline」のようにストイックな部分もあって。たぶんどっちも真実、コインの裏表みたいに両方で1つだと思うんですけど(笑)。今回の「switch」では、あえてポジティブな側面を強く打ち出してみたかった。おそらく、2008年からミュージカルや舞台のお仕事を始めた影響も大きかったんだと思います。俳優としてステージに立つようになって、ここ数年はずっと、「歌ってなんなんだろう?」ってことを深く考え続けているので。前回と今回のアルバムは、実はその問いへの僕なりの回答でもあります。

──例えば、どういう部分ですか?

米倉利紀

月並みだけど、やっぱり生きた言葉で歌い手の思いをしっかり伝えることですね。若い頃って、どうしてもテクニックに目が行きがちじゃないですか。僕も本気でミュージシャンを目指し始めた頃はそうだった。R&Bやソウルが好きだったこともあり、難しいメロディラインをいかに外さず歌いこなせるかに一生懸命だった時代がありました。もちろん今もその努力を欠かしたことはありません。でも舞台のお仕事を始めてから、歌の価値って決してそこだけじゃないって、改めて思うようになったんですね。舞台の世界ではよく「セリフは歌うように、歌は語るように」って言うんですけど……。

──あ、聞いたことがあります。

実際にミュージカルをやってみると、本当にそうだなって痛感するんですよ。セリフというのは、その中に心地いいリズムが含まれていないと、観客の記憶に残ってくれない。反対に歌は、どんなに美しいメロディをリズミカルに歌ったとしても、言葉としてちゃんと生きていないと人の心に届かない。それを実践するにはどうすればいいか、この3~4年ずっと考えて試行錯誤してきました。なんだろう……心と声を直結させた歌い方っていうのかな。

ニューアルバム「switch」/ 2016年2月3日発売 / [CD] 3240円 / TKCA-74328 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
「switch」
収録曲
  1. CHANCE
  2. HIPSTER
  3. DANCE UP
  4. FRIENDS
  5. LOVE HEALS
  6. 三日月
  7. unconditional
  8. words
  9. 365 LIFE
  10. 交差点
toshinori YONEKURA concert tour 2016
-gotta crush on..... volume. seventeen- "switch"
2016年3月5日(土)熊本県 熊本B.9 V1
2016年3月6日(日)長崎県 DRUM Be-7
2016年3月12日(土)神奈川県 Yokohama Bay Hall
2016年3月13日(日)神奈川県 Yokohama Bay Hall
2016年3月18日(金)愛知県 ElectricLadyLand
2016年3月19日(土)石川県 金沢EIGHT HALL
2016年3月21日(月・祝)京都府 KYOTO MUSE
2016年3月25日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
2016年3月26日(土)兵庫県 チキンジョージ
2016年4月2日(土)香川県 高松MONSTER
2016年4月3日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
2016年4月9日(土)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
2016年4月10日(日)福島県 郡山CLUB #9
2016年4月16日(土)青森県 青森Quarter
2016年4月17日(日)宮城県 仙台MACANA
2016年4月22日(金)宮崎県 MIYAZAKI WEATHERKING
2016年4月23日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
2016年4月25日(月)福岡県 Zepp Fukuoka
2016年4月29日(金・祝)大阪府 なんばHatch
2016年5月13日(金)沖縄県 Output(追加公演)
2016年5月21日(土)北海道 Zepp Sapporo
2016年5月28日(土)東京都 赤坂BLITZ
2016年5月29日(日)東京都 赤坂BLITZ
米倉利紀(ヨネクラトシノリ)
米倉利紀

1992年4月にシングル「未完のアンドロイド」でデビュー。ブラックミュージックの影響を受けつつも枠にとらわれない幅広い音楽性と確かな歌唱力でファンからの支持を得るシンガーソングライター。ほかのアーティストへの楽曲提供やプロデュースも行っている。毎年春にオリジナルアルバムを引っさげての全国ツアー、夏に“sTYle72 standard”と題した洋楽カバーツアー、秋に“sTYle72 cafe”と題した邦楽カバーツアーを開催。2008年からはミュージカルや舞台にも出演して演劇界からも高く評価されている。2016年2月に21stアルバム「switch」をリリースした。