八生「線」インタビュー|高知発の気鋭SSWが新曲「線」に込めた思いとは? (2/2)

八生、高知の魅力を発信する「八生新聞」

──ところで、八生さんはご自身で新聞も作られているそうですね。

はい。「八生新聞」というものを作ってお世話になっている関係者の方にお渡ししています。高知のよさを伝えたいという気持ちもありますし、「八生」という人間を知ってもらいたいという思いも込めています。土佐弁講座を少し入れたり、地元ならではのエピソードを紹介したり。そうやって、私という人間がどんなことを考えて生きているのかを、少しずつ伝えられたらいいなと思いながら作っていました。

──改めて伺いますが、高知の「ここがいい」と思う部分はどんなところですか?

やっぱり自然が豊かで、レジャーがすごく豊富なところですね。川も海もあって、山ではトレッキングツアーもできる。本当に自然の魅力が詰まった場所だと思います。それに加えて、海の幸や山の幸などおいしいものがたくさんあります。私は生ものが苦手なので海の幸はあまり食べられないんですけど(笑)、山の幸を中心に高知のおいしいものをたっぷり堪能しています。

──そうした高知のよさを、ご自身の活動を通して発信していきたいという思いもありますか?

はい。高知に住みながら活動しているからこそ、そのよさを全国に伝えていきたいですし、周りの方と一緒に高知を盛り上げていけたらいいなという気持ちが常にあります。

八生

新曲「線」で描いた“境界線”

──新曲「線」についてもお聞きしたいのですが、これは実体験をもとに作られたそうですね。どんなきっかけで生まれた曲なのでしょうか。

日記を読み返していたときに、昔から「周りにどう思われるかが怖い」という気持ちをずっと抱えていたことを思い出したんです。例えば学校で“カーストの上にいる子たち”が優しく声をかけてくれることもあったけど、私はむしろ萎縮してしまって。向こうが歩み寄ってくれているのに、こちらから線を引いてしまったら余計に壁ができてしまう、そう思うと線が引けなかった。嫌だと言えない自分もいて、結局いつも曖昧なまま過ごしてしまう。日記にはそんな葛藤がたくさん残っていて、そこから言葉を拾いながら作りました。

──まさに“境界線”というテーマですね。

そうですね。線を引けば自分を守れるけど、同時にそれが誰かとの壁にもなってしまう。その狭間にいるような感覚を、学生の頃から強く抱えていたんです。1番の歌詞はそうした学生時代の気持ちをベースにしています。2番は大人になってからの視点で、以前働いていた職場の上司の言葉をきっかけに書きました。その方は普段ネガティブなことを言わない人だったんですが、あるとき「これ以上ミスをしたら、もう俺にはあとがない」とポロッと漏らしたんです。その言葉にすごくリアリティを感じて、「あ、これが本音なんだな」と。自分の気持ちとも重なる部分が大きくて、そのひと言を歌詞に取り入れました。

──ご自身も、今の音楽活動の中で“線引き”に迷うことはありますか?

あります。やっぱり大人になっても、根っこには“嫌われたくない”という気持ちがあるんです。それだけではいけないとわかってはいるけれど、学生時代から染み付いた感覚だから、今でも線を引けていないなと思うことは多いです。特にマンモス校での経験は大きくて、人が多い環境の中で「印象って大事だな」と痛感しました。今はSNSもあるし、どこで何を言われるかわからない。そういう時代に育ったからこそ、“恐れ”の感覚が自分の中にずっと残っているんだと思います。

疲れている人に寄り添えるような歌に

──八生さんにとって、「線」はどんな位置付けの曲になりましたか?

これまでの曲は、けっこうえぐいワードを使ったり、強い表現を盛り込んだりしていたんですが、「線」は自分の“根っこ”にある部分を素直に描くことができました。自分の等身大のネガティブさや陰の側面を、正面から見つめて歌にできたというか。人って誰でも“陽”と“陰”の両方を持っていると思うんです。私はこれからも陰の部分を描くことが多いと思いますが、陰ばかりじゃない自分も確かにいる。だからこそ、その間に“陽”を差し込んでいきたい。両方の側面を行き来しながら、自分の中の光と影をちゃんと表現していけたらいいですね。

──「線」はどんな人に聴いてほしいですか?

きっと、どの世代にも“人との距離感”や“境界線”に悩んでいる人はいる。だから、性別や年齢、国籍を問わず、幅広い人に届いたらうれしいです。特に「いい人でいなきゃ」「ちゃんとしなきゃ」と自分を抑えてしまって、少し疲れている方に寄り添えるような歌になればと考えています。日常の中にそっと入り込んで、ふとした瞬間に共感してもらえる曲になってくれたらうれしいですね。

──今はいろんなイベントやフェスにも出演されていますが、これからはどんな活動をしていきたいですか?

やっぱりライブを大切にしたいです。以前はステージに立つのが正直怖かったんですよ。でも最近は、お客さん1人ひとりの顔や表情を見ながら歌うことがすごく楽しくなってきて、「あ、これがライブの本当の楽しさなんだ」と思えるようになりました。これからはもっといろんな場所でライブをして、直接歌を届けられる機会を増やしていきたいですね。

八生

公演情報

ハチヨンナイト

2025年11月30日(日)東京都 TOKIO TOKYO
<出演者>
八生 / 丸山純奈

プロフィール

八生(ヤヨイ)

高知県出身のシンガーソングライター。高校卒業後、SNSにオリジナル曲を投稿するようになり、高知市内のライブハウスでライブ活動をスタートさせる。2025年3月に1st EP「はじまりのうた」をリリース。7月にはドラマ「完全不倫 ― 隠す美学、暴く覚悟 ―」の主題歌を収めた配信EP「しゅらばんばん for 完全不倫 Complete ver.」を発表した。最新曲は同年10月に配信リリースされた「線」。11月には東京・TOKIO TOKYOで四国を盛り上げるライブ企画「ハチヨンナイト」を開催する。