安田レイ|ここで終わりじゃない 「君と世界が終わる日に」挿入歌がもたらした新たなステージ

2月にリリースされた安田レイの新曲「Not the End」が大きな注目を浴びている。

先日地上波放送で最終回を迎え、現在はHuluにてSeason2が配信されているドラマ「君と世界が終わる日に」の挿入歌として書き下ろされた本作。ゾンビであふれかえる世界をサバイブするドラマのストーリーと、コロナ禍にみまわれた現実世界の出来事をリンクさせつづられた安田自身による歌詞、絶望的な悲しみの中に一筋の光を見出すサウンドと歌声は、ドラマとの相乗効果により多くの人たちに大きな感動を与えている。YouTubeで公開されているMVは380万回再生を突破。その盛り上がりを後押しするように、3月5日にYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で公開されたH ZETTRIOとのコラボによる「Brand New Day」(2014年2月リリースの2ndシングル表題曲)の歌唱映像は、わずか5日間で120万回再生を突破する勢いを見せている。

楽曲とともに、アーティスト・安田レイ自身への注目度も高まっている状況の中、音楽ナタリーではインタビューをセッティング。大きな反響を受けての今の気持ちや楽曲に注いだ熱い思い、今年でソロデビュー8周年を迎える自身の未来への展望について話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき

いい形で曲が一人歩きしている

──ドラマ「君と世界が終わる日に」の挿入歌として2月にリリースされた新曲「Not the End」が非常に話題を集めていますね。

ドラマのパワーってすごいんだなって今回、改めて思いました。私のTwitterやInstagramのフォロワーも目に見えて増えているし、YouTubeではこの曲をカバーしてくれている人もいたりして。私はエゴサをよくするんですけど(笑)、SNSでの反応の動き方は今までと確実に違っていますね。この曲がいい形で一人歩きしていってくれているのを肌で実感しています。

──安田さんもドラマを毎週楽しみにしていたようですね。

はい。これがホンットに面白いドラマなんですよ! 完全に作品のファンになってしまったので、そのストーリーの中に楽曲として参加できていることがよりうれしくなってしまって。しかも毎回、本当にいいシーンで「Not the End」を使ってくださっているんです。

──SNSでも曲の使われどころに関しては話題になっていましたよね。楽曲とストーリーの相乗効果によって、より大きな感動が生まれていたという。

「こんなにいい場面で使っていただいていいんですか?」という感じで、毎回ドラマを観ながらスタンディングオベーションしたい気持ちになってました。シーンに合わせて1コーラス目と2コーラス目を使い分けてくださっていたし、今回はピアノバージョンも作ったんですけど、それもまた大事なシーンで流してくれたりもして。物語の内容と歌詞をしっかり重ね合わせて使ってくださっていたので、ドラマサイドの方々の愛情をものすごく感じました。

安田レイ

──言い換えれば、楽曲自体がドラマにしっかり寄り添ったものであったということですよね。今回、歌詞は安田さんご自身で手がけられていますが、そこはかなりこだわったところなのではないですか?

そうですね。ドラマの台本を読ませていただいたうえで、プロデューサーさんとも打ち合わせをして。その中で感じたものを自分なりに噛み砕いて歌詞を書いていったので、「ドラマの内容にマッチしてるね」という感想をいただけると、ホントによかったなと思います。書いては消し、書いては消しを繰り返して、最終的に4、5回くらい書き直しをして完成に至った経緯がありましたね。

──ゾンビが生まれた世界の中でサバイブしていくというドラマの内容は、どこかコロナ禍を生きる僕らの状況に近いものがあって。楽曲に関しても、そういったリアル世界とのリンクを感じさせるところがありますよね。

まさにそうですね。歌詞はドラマのストーリーと、今実際に私たちが生きているコロナの時代を重ね合わせて書きました。危機的状況になってしまったとき、本当に怖いのはなんなのかなって私は思うんです。ゾンビなのか、人間なのか。コロナなのか、人間なのか。結局、一番怖いのは人間なんじゃないか、みたいな。今回の楽曲制作の中ではそうやっていろんなことを考えさせられたんですけど、でもそこで強く抱いたのは、そんな時代、状況であっても私は生きていきたいし、ここであきらめたくないという気持ちだったんです。そういう気持ちはきっとみんなが抱いているものでもあると思うんです。だから「Not the End」では、そういったみんなの思いを代弁しなくちゃいけないなと思いました。そこに強い責任感を持ったからこそ、言葉1つひとつにこだわって歌詞を書くことができたんだと思います。打ちのめされそうになってしまう弱さと、そこに立ち向かっていこうとする強さ。そのぶつかり合う2つの感情は、歌詞はもちろん歌い方でも表現できたと思います。この曲を通して、「私たちはここで終わらせないぞ」「今を乗り越えて、絶対に普通の日常を取り戻すぞ」というメッセージを感じ取ってもらえたらうれしいですね。

自分の価値観を変えたコロナ

──この曲に込められたリアルな思いを鑑みると、安田さんもコロナ禍では相当しんどい思いをされていたんでしょうね。

去年はホントにしんどかったです。すべての仕事がリモートになって、外に出る機会がまったくなくなってしまいましたから。外に出られない、人にも会えないという制限の中で、気持ちを保つのがすごく難しかったです。街中がシーンとしていて、「存在してるのって私だけ?」みたいな寂しさもあったし。「Not the End」の歌詞にある「この街がわたしを孤独にする」というフレーズは、まさにそういうところから生まれたものでもありました。

──そういった生活の中で改めて気付いた大切なことって何かありました?

価値観はめちゃくちゃ変わったと思います。今までは仕事が何よりも大事だと思っていたんです。仕事のために手放さなければいけないものもあったけど、何よりも自分にとって失いたくないものは歌うことだったんです。でもコロナ禍の2020年を過ごした中で、私はなんで仕事のことばかり考えていたんだろうって思うようになったというか。ほかにももっと大事なものがあるじゃんっていうことに気付いて。

──それはなんだったんですか?

傍で私を支えてくれている家族や友達といった大切な人たちです。そういった存在を失ったら、私はもう何もできなくなってしまうと思うんです。そことのつながりをいかに大切にしていけるかが、私自身はもちろん、これからの時代にはすごく大事になっていくのかもなって。そんなことをコロナが教えてくれたような気がします。

安田レイ

──人とのつながりの大切さは、「Not the End」においても重要なテーマになっているような気がします。困難な状況の中、光を求めて前へ進めるのは大切な存在がいてくれるからこそですもんね。

そうですね。ラブソングとして書いたものなので、恋人とのつながりという大きなテーマは曲の中に確実に存在していると思います。もちろん聴き手の方ごとに思い浮かべる大切な人が違っていて全然いいと思うんですけどね。家族や友人に置き換えることで共感していただければ、私としてはすごくうれしいです。私自身、レコーディングではかけがえのない愛する友達のことを思い浮かべながら歌っていたので。今回の歌詞は2020年を経験していなかったらきっと書けなかったものだと思うし、そこで描いた思いみたいなものは、またここから年月を経ていくことで、自分自身もいろんな受け止め方をしていくんだろうなと思います。

──シングルのカップリングには「amber」という楽曲も収録されていますが、実はそこでもまた人とのつながりの大切さが描かれていて。今の安田さんにとって本当に重要なテーマなんでしょうね。

「amber」は「おもいで写眞」という映画のために書き下ろした曲で。映画の内容から引き出されたテーマではあるんですけど、自然と今の自分に重なったところがありました。深川麻衣さん演じる主人公の結子ちゃんはすごく不器用で、なかなか自分の心を開けない子なんですけど、そこもまた自分にものすごく重なったりもしていたので(笑)。この楽曲を歌ってるときに想像するのは、自分のおじいちゃんのことなんです。もう何年も前に亡くなってはいるんですけど、「私はがんばってるよ。おじいちゃん、見ててね」って思いながら歌っていると、そこにあるつながりを強く感じることができるんです。映画きっかけではあったけど、そういう気持ちにさせてくれる曲を作れたのはすごくうれしいことでした。

──亡くなった人とのつながりもまた大切にしていくべきですよね。

そう思います。私のおじいちゃんはいろんな瞬間に夢に出てきてくれるんです。今回のシングルのリリース前夜もそうで。おじいちゃんの家のダイニングテーブルで一緒にごはんを食べました。スピリチュアルなことを信じているタイプではないんですけど、おじいちゃんとのつながりは確かに今もしっかり存在していると思いますね。特別なパワーをたくさんもらえているので。