八代さんはマイクロフォンでの歌い方が完璧
──レコーディングされていて、どれか印象に残った曲はありますか?
小西 ときどきなんですけど、歌い方に関して社長さんから指摘が入った曲があって。その指摘もまたすごく的確だし、スリリングなんですよ。例えば「黒い花びら」。「これはまだジャズシンガーじゃなく、歌謡曲歌手の八代亜紀が歌ってるバージョンに聞こえる」っておっしゃって歌い直しになった。でも、その最初の歌からすでに僕は素晴らしいと思っていました。
八代 「黒い花びら」が全13曲のチョイスでは最後に決まったんですよ。小西さんが「実は『黒い花びら』を入れたい」とおっしゃって。あの曲は水原弘さんが歌われてて、私のイメージでは、すごく男っぽい匂いのする独特の世界がある流行歌なんですね。「八代さんの歌で聴きたい」って言われて、ちょっと躊躇しました。でもブレイクがあって三連の歌ですから、私としては歌いやすかったです。本当に生声で淡々と歌いました。自分で言っちゃいけないけど、すごくカッコよくなりましたよね(笑)。あのトランペットもいいし。
──「ジャズっぽく」と言うと、フェイクをたくさん入れたりとか、そういう方向に行きがちですけど、そうではなく“八代亜紀”とジャズのギリギリの線で正解を出されているのがすごいです。
八代 そうです。自分流で、リズムに乗って。リズムが一番だと思うんです。感情はその次。演歌だってそうです。自分流で感情だけ前に出して歌ってると、1回聴いただけで飽きちゃうんですよ。きちんとリズムを刻んでその中で歌っていけば何回聴いても飽きないんです。
小西 八代さんは本当に20世紀のレコーディングシステムができてからの音楽を体現してる歌手で、マイクロフォンの使い方が完璧なんです。よくマイクを離して大きい声で歌う人がいるじゃないですか。ああいうことは絶対にしない。
八代 ああいうパフォーマンスは、私も観ててつらい気がしちゃうんです。
小西 そのうまさが、どこまでみんなに伝わってるんだろうって思いますね。
──ジャズを歌うということは八代さんにとって、ほかの曲と大きく変化するわけではないんですよね。
八代 私にとっては、12歳で歌のとっかかりがジャズですから。その中で流行歌手になって、演歌歌手になって、今はジャンルも関係ないと認められる時代になった。だから、歌で伝える手法としては一緒なんです。
「またまた夜のつづき」も楽しみ
──「夜のアルバム」と「夜のつづき」がそろったことで、八代さんのジャズコンサートもまた幅が広がって面白くなるでしょうね。
八代 「夜のアルバム」がBillboard JAPANの年間ジャズアルバムチャートで1位になりました。そういう話を5年前に私の普段のコンサートでしても「へえ、パチパチパチ」くらいの静かな反応で終わってたんですよ。でも5年経った今、私がジャズって言っただけで拍手とか反応がすごいですよ。「ジャズ歌って!」の声が客席から出ますからね。ジャズの入り口を広げる役割を私も少し果たせたかな。そういう自負はあります。
──“17歳の亜紀ちゃん”も誕生しましたし、「夜のつづき」の続きが楽しみです。これほど豊かなコラボレーションが結実してるのは、お二人の音楽性や仕事に対する姿勢の理解度がさらに深まってきたからと言えますし、今後もやるたびにすごいものができそうです。
小西 前のアルバムが午前0時過ぎくらいだとしたら、これは午前1時とか2時くらいですよね。
──もう少しお酒も進んで。
八代 私、このアルバムから浮かぶ絵があるんですよ。ベッドに入って毛布を半分くらいかけて、彼が腕まくらをして、奥様なのか恋人なのか、女性が寄り添っている。音楽を聴きながら「いいなあ。いいだろう?」って彼が言って、「いいわね」って彼女も返事する。そんな絵が浮かぶんです。どうですか?
小西 素晴らしいです。
八代 で、「明日もがんばろうな」「寝ましょうか」ってやりとりがあって、タバコを消して「おやすみ」って電気を消して寝るんです。最後に「黒い花びら」とか「夜が明けたら」とかを聴いて、言葉もいらなくなって。
小西 最高のレコードじゃないですか。
八代 そうですね。そばにあるといいなと思えるアルバムです。
──そういう意味では、深夜のラジオ感もある気がします。
八代 最初は、小西さんが「夜のつづき」ってタイトルを提案したときは冗談だと思ってたの(笑)。前回の続きだから、そういう意味で仮で書いてあるんだろうし「夜の哀愁」とか、そういうタイトルになるのかなと思ってました。それで、「『夜のつづき』っておかしいですよね?」って言ったら、「それがタイトルです」って返事で、びっくり。でも今はすごくいいと思ってます。さすがですよね(笑)。
小西 次に八代さんとアルバムを作るときのタイトルは、「またまた夜のつづき」で(笑)。
八代 どういうことを考えて来られるのか、楽しみですね(笑)。私もまだまだ歌いたい曲いっぱいありますから。(エルヴィス・)プレスリーの「Can't Help Falling In Love」とかもいいですよね。
──小西さんなら最高のお膳立てをしてくれるとの信頼が、もう八代さんにはあるんですね。
八代 そうなんですよ。もう絶対的に信頼してますから。ね? うふふ(笑)。
- 八代亜紀「夜のつづき」
- 2017年10月11日発売 / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
-
[CD]
3240円 / UCCJ-2146 -
- 収録曲(タイトル / オリジナルもしくは代表歌唱アーティスト)
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- 帰ってくれたら嬉しいわ / ヘレン・メリル
- フィーヴァー / ペギー・リー
- 黒い花びら / 水原弘
- 涙の太陽 / エミー・ジャクソン
- 旅立てジャック / レイ・チャールズ
- ワーク・ソング / オスカー・ブラウン・ジュニア
- カモナ・マイ・ハウス / ローズ・マリー・クルーニー
- にくい貴方 / ナンシー・シナトラ
- 恋の特効薬 / The Searchers
- 夜のつづき(※インストゥルメンタル)
- 赤と青のブルース / マリー・ラフォレ
- 男と女のお話 / 日吉ミミ
- 夜が明けたら / 浅川マキ
-
[アナログ]
3888円 / UCJJ-9010
2017年11月1日発売 -
- SIDE A
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- 夜のつづき #1
- フィーヴァー
- 黒い花びら
- 涙の太陽
- 夜のつづき #2(赤と青のブルース)
- 赤と青のブルース
- 男と女のお話
- SIDE B
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- 帰ってくれたら嬉しいわ
- 旅立てジャック
- ワーク・ソング
- カモナ・マイ・ハウス
- にくい貴方
- 恋の特効薬
- 夜が明けたら
ライブ情報
- An Evening with AKI YASHIRO
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- 2017年11月13日(月)東京都 ブルーノート東京
- 2018年1月17日(水)愛知県 名古屋ブルーノート
- A Christmas Evening with AKI YASHIRO
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- 2017年12月25日(月)大阪府 Billboard Live OSAKA
- 八代亜紀(ヤシロアキ)
- 熊本県八代市出身。15歳で歌手を目指して上京し、銀座でクラブ歌手として活動を始める。1971年にシングル「愛は死んでも」でデビューを果たし、1973年には出世作となった「なみだ恋」を発表。1979年発売の「舟唄」が大ヒットを記録し、1980年には「雨の慕情」で「第22回日本レコード大賞」大賞を受賞した。演歌歌手として確固たる地位を築きながら、一方で画家としても才能を発揮。フランス「ル・サロン展」に5年連続で入選し、永久会員となった。2012年10月には小西康陽プロデュースによる初の本格的なジャズアルバム「夜のアルバム」をリリースし、翌2013年3月にはニューヨークの老舗ジャズクラブ「Birdland」でライブを行う。2015年10月、寺岡呼人プロデュースによる初のブルースアルバム「哀歌-aiuta-」を発売。2016年5月にはモンゴル文化大使に任命され、10月にモンゴルの国民的な歌謡曲のカバー「JAMAAS 真実はふたつ」をシングルリリースした。2017年10月には小西と制作したジャズアルバム第2弾「夜のつづき」が発売された。
- 小西康陽(コニシヤスハル)
- 1959年、北海道札幌生まれ。1985年にピチカート・ファイヴでデビュー。豊富な知識と独特の美学から作り出される作品群は世界各国で高い評価を集め、1990年代のムーブメント“渋谷系”を代表する1人となった。2001年3月31日のピチカート・ファイヴ解散後は、作詞・作曲家、アレンジャー、プロデューサー、DJとして多方面で活躍。2009年にはアメリカ・ニューヨークのオフ・ブロードウェイで上演されたミュージカル「TALK LIKE SINGING」の作曲および音楽監督を務めた。2011年5月に「PIZZICATO ONE」名義による初のソロプロジェクトとして、アルバム「11のとても悲しい歌」を発表。2015年6月には2ndアルバム「わたくしの二十世紀」をリリースした。2016年8月にはピチカート・ファイヴの初期作品「couples」と「Bellissima!」のリマスター盤を、CD、アナログ、配信の3パターンで復刻リリース。2017年10月発売された八代亜紀のジャズアルバム第2弾「夜のつづき」では、前作に続きプロデュースを担当した。