石毛輝(Yap!!!)×菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)|10年来の盟友、切磋琢磨してきたこれまでとこれから

卓郎の言葉には説得力があるし、「次の俺のステージはそこか」って思える(石毛)

──卓郎くんがソロで歌謡曲に特化したのも今だからこそ表現できるユーモアだと思うんですね。

菅原 そうそう、そうなんですよ。あれは自分を素材にして何をやったら面白いかというもので。なんかもう照れみたいなものがなくなった。バンドにトラブルがあったり……バンド活動が14年も経ったときに、バンドだけじゃなくて自分の人生にもいろんなことが起きて。それを思ったときにさっき引け目を感じていたという話をしたけど、人生にマイナスなことは何もないと思ったんだよね。「みんなすげえ大事なものを抱えながら生きてるじゃん!」って。そういう視点が立体的になったし、ステージからお客さんを見ていても「この人たちの人生と生活がそれぞれにあるんだ」ってすごく自然に感じられるようになった。当たり前だけど、この瞬間だけを生きてるんじゃないという。そういうことを感じられるようになった今だからこそできたソロというのはあるよね。ユーモアの前に普通に冗談も言えるようになったし(笑)。

石毛 卓郎はそういう感覚を持つのがけっこう早かった気がするけどね。俺から見たら2010年くらいにはもうそういう感覚を持っていたと思う。

菅原 そうかな?

石毛 だって俺1回卓郎に注意されたことあるもん。

菅原 ああ、「もっとオープンにならなきゃダメだよ」みたいな?

石毛 そう。当時俺はたくさんのオーディエンスに対しての照れみたいなものがステージ上で出ちゃう時期で。そのときにちょうど9mmと対バンして、卓郎に「輝はフロントマンなんだからもっと堂々としなきゃダメだよ」って言われて。それがすげえ響いたんだよね。そういうことを言ってくれる友達ってあんまりいないから。

──もしかしたら卓郎くんも変化の途上にあったから余計に石毛くんのあり方が気になったのかもしれない。

菅原 そうかもしれない。

石毛 9mmはテレフォンズより1年先にメジャーデビューしてるから感覚的に前に進むのが少し早いと思っていて。だからこそ卓郎の言葉には説得力があるし、「次の俺のステージはそこか」って思えるんだよね。

石毛輝(Yap!!!)

世襲制で9mmを続けてもいいと思ってる(菅原)

──この世代のバンドも今や中堅と呼ばれるような立ち位置になり、活動休止や解散したバンドも少なくないですよね。むしろ大きな障壁にぶつかっていないバンドのほうが少ないと思うし。2人もバンドを続けることの困難さと向き合いながら、それでもバンドマンであり続ける意義を感じていると思うんです。

石毛 今日話していて思ったのは、海外の好きなバンドや日本の身近な先輩に追い付こうとしているのかなって。そういう憧れは抜けてないし、さっきもリハスタで若いバンドマンに「好きです!」って言われてCDをもらったんだけど、そういう子たちにちゃんとカッコいい背中を見せなきゃという気持ちもあるし。

──石毛くんは前に「自分たちはバンドに対する執着心が強い最後の世代かもしれない」とも言ってましたよね。

石毛 そう思うんだよね。

菅原 すごくよくわかる。一番のヒーローがHi-STANDARDとかBLANKEY JET CITYとかTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTだから、バンドってカッコいいんだぞと誇ることが大事だと思ってる世代と言うか。

──そのうえで9mmは滝くんがライブ活動を休止しても転がり続けることを選んで。

菅原 滝がライブを休むってなったときはすごく深刻になったんですけど、でも実際はそこまで重く捉えなくてもよかったんだなって今は思うんですよね。バンドを続けるということだけを決めたらあとはどんなやり方をしてもいいだって思えた。サポートのギタリストを2人入れたりするのもそう。そこでなんなら滝の存在がより際立つこともあるし。それもまたいいと思うんですよ。

石毛 卓郎は覚悟を決めた瞬間があったと思うんだよね。そこからまた変わった気がする。

菅原 開き直りというかね(笑)。

石毛 さらに9mmという看板を背負ったなと思ったよ。ライブでも滝がいない分、自分がステージ上でより存在感を放たなきゃいけないという意志を感じられて存在感が増した印象があります。だからライブを見てるだけで泣けてきちゃうものがあって。「エモ!」って(笑)。

菅原 滝を含めた4人でライブをやっていたときと同じ感覚はもうないんだけど、でも「あ、今、ステージに滝はいないけど9mmを9mmたらしめるものはずっとあるぞ」って感じるから。そしたら究極「9mmやります」って言ってるやつがいればメンバーはもう誰でもいいんじゃないかと思って(笑)。

──すごい境地ですね。

菅原 だから歌舞伎じゃないけど、世襲制で9mmを続けてもいいと思ってる(笑)。「俺が受け継ぎます」ってやつが現れたらThe Rolling Stonesだってずっと続いていくかもしれないと思うんですよ。

石毛 海外ではオリジナルメンバーがいないバンドってけっこうあるからね。

菅原 そう考えたら続けることの重要性と身軽になる気持ちが両方あると言うか。何やってもいいなって思う。

──世襲制は半分冗談だとしても、それくらいの心構えでいることでポジティブにバンドを続けられるという。

菅原 そうですね。今年に入ってからはサポートがいる状態で滝もステージに立ってるんですけど、そこでまた滝がいてくれることで「やっぱり9mmってこういうバンドだよな」って再確認できる場になるんですよね。もちろん、前みたいにライブ中ずっと暴れまくってるわけじゃないけど、演奏する人が違うってこんなに大きいんだなって思う。

石毛 今の9mmは暴れることがメインではないからね。演奏するその人の音が出るだけで十分な存在感があるから。バンドって長く続けていくと、別の生き物にもなっていくと思うんですよ。この前「UKFC on the Road」でテレフォンズのライブをやってみて思ったことがあって。活動休止前は「テレフォンズの中の俺」という意識を4人それぞれが持っていたと思うんだけど、今はもうみんなに「テレフォンズのために」という意識があって。自分たちのバンドではあるんだけど、いい意味でちょっと前とは別物のバンドとして捉えているのはデカいなと思います。だから僕もテレフォンズも世襲制でもいいかなって思いますね。テレフォンズを守れたらそれでいいみたいな。

──それは今、石毛くんがYap!!!を活動の中心に置いてるからそう思えるのかな?

石毛 そこは関係ないかもね。今後はYap!!!もテレフォンズも本気でやろうと思ってるし。Yap!!!はまだまだ世襲制は無理だけど(笑)、今のテレフォンズはそれができると思えるくらい安心感があって。活動休止を経たことでメンバー間のグルーヴがまた違った形でよくなった。だから活動休止してよかったなと思えるんですよね。

左から石毛輝(Yap!!!)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)。

俺しかこの2人に声をかけられないんじゃないか(石毛)

──では、ここからはYap!!!の2枚の話をしましょう。まず、石毛くんに今回オリジナル盤「Monochrome」とコラボ盤「Bichrome」の2作を同時に制作しようと思った経緯を語ってもらえたら。

石毛 オリジナルのミニアルバムはシンプルにそろそろ作品をリリースしたいと思って作ったんだけど、コラボ盤のほうはもともと去年末くらいにソロのほうで誰かをフィーチャリングに迎えて歌ってもらったり、ラップしてもらったら面白そうだなと思ったのがきっかけで。ソロのアンビエント的なトラックでそれをやろうかなと思っていたんだけど、今それをやってもなという気持ちも芽生えてきて。それでYap!!!でコラボ盤を作ったらいいんじゃないかという考えに転換されたんです。Yap!!!はこの先ずっとテレフォンズと比較されるのはわかってるし、テレフォンズではできないことは何かを考え始めていて。テレフォンズはコラボをそこまでやってなかったし、lovefilmの活動を通して自分が書いた曲をほかの人が歌うということが楽しくもなっていたので。自分の好きな人を招いて歌ってもらって、アレンジや歌詞制作にも関わってもらったら刺激的なんじゃないかと思ったのがスタート地点です。

──そして、その中で卓郎くんと小出祐介(Base Ball Bear)くんを招いて3人で歌うというアイデアはすぐ浮かんだんですか?

左から柿内宏介、菅原卓郎、石毛輝、小出祐介、汐碇真也。

石毛 もう、いの一番に浮かびました。オファーしたら2人とも秒で快諾してくれて。

菅原 オファーをもらってすぐ「やりまーす!」って(笑)。

──テレフォンズと9mmとベボベはかつてEMIでレーベルメイトでもあった同世代の3バンドで。それもかなり大きかったと思うんですけど。

石毛 もちろんそうですね。でも、この2人に歌ってもらいたいと思ったのは、僕がそれぞれのバンドにお邪魔してギターを弾かせてもらったことがあったからで。それがデカかった。すごく楽しい経験だったし、自分にとってもいいフィードバックがあったから。去年9mmのツアー「TOUR OF BABEL II」の人見記念講堂公演にゲスト出演させてもらったときにテレフォンズの「Monkey Discooooooo」をやったじゃない? で、あの日、(長島)涼平も観に来ていて。テレフォンズでまたライブをしようという話は俺と涼平が中心になってし始めたんだけど、あのライブが大きなきっかけになったかもしれない。

菅原 「Monkey Discooooooo」は輝にダメ元で「やらない?」って聞いてみたんです。俺たちもテレフォンズのトリビュートアルバム(「We are DISCO!!!?tribute to the telephones?」)でカバーしているし、輝がいるならお願いしてもいいんじゃないかって。で、たぶん俺たちくらいしかそれをやろうって提案できないと思ったんですよね。もちろん、テレフォンズを復活させようとかそういうつもりは全然なかったんだけど。

石毛 提案を受けたときにちょっと考えさせてもらってね(笑)。俺個人はすぐに「やりたい!」って返事したかったんだけど、俺1人の問題じゃないから。で、メンバーに「9mmからこういう話が来てるんだけどやってもいい?」って聞いたらみんな即答で「全然OK!」って言ってくれて。「むしろ観たい!」と。でも本当に9mmくらいしかこういう提案はできないよね。周りも気を遣ってくれてテレフォンズに対してまだデリケートな時期でもあったし。

──話を曲に戻すと、卓郎くんは小出くんとかつてレーベルメイトではあったけど、そんなに近い距離感でもないと思うんですね。

菅原 そうですね。でも、そこは全然気にならなかったですね。

石毛 でも、俺はもっと近い距離感だと思っていたから意外でもあったんですよ。たぶんデビューも同時期だよね?

菅原 デビューはベボベのほうが早いんだよ。ディレクターが一緒だったし、何回か対バンしたこともあって。ただ意外と深い接点はなくて。印象的なのはどこかの学祭でベボベと対バンしたときに小出くんがリハの声出しでB'zの曲を歌っていたんですよ(笑)。それがすげえ面白かった。

石毛 俺は打ち合わせで2人の距離感を感じたときに、これは逆にアツいと思ったんだよね。1つのいいきっかけになるなって。2バンドのことを両方好きなファンも多いと思うんですよ。だから、さっきの9mmじゃなきゃテレフォンズの曲をやろうって提案できないという話と同じで、俺しかこの2人に声をかけられないんじゃないかと思って。

菅原 そうかもね。

Yap!!!「Bichrome」
2018年9月5日発売 / Romantic 1984/UK.PROJECT
Yap!!!「Bichrome」

[CD]
1620円 / R1984-004

Amazon.co.jp

収録曲
  1. Summer time chill out with マナ&カナ
  2. Everyone let's go with 菅原卓郎×小出祐介
  3. Story of a boring man
  4. Happysad with Koji Nakamura
  5. The light with MONJOE×Ryohu
Yap!!!「Monochrome」
2018年9月5日発売 / Romantic 1984/UK.PROJECT
Yap!!!「Monochrome」

[CD]
1620円 / R1984-005

Amazon.co.jp

収録曲
  1. Ahhh!!!
  2. Well, whatever
  3. Queen of the night
  4. Now or never
  5. Game of romance
  6. Wake me up!!!
ツアー情報
Yap!!! Bichrome & Monochrome Release Tour ~Everyone Let's Dance~
  • 2018年11月9日(金) 埼玉県 Livehouse KYARA
  • 2018年11月16日(金) 北海道 SOUND CRUE
  • 2018年11月18日(日) 宮城県 enn 3rd
  • 2018年11月22日(木) 大阪府 LIVE HOUSE Pangea
  • 2018年12月2日(日) 愛知県 CLUB UPSET
  • 2018年12月6日(木) 福岡県 THE Voodoo Lounge
  • 2018年12月7日(金) 岡山県 PEPPERLAND
  • 2018年12月14日(金) 東京都 SPACE ODD
Yap!!!(ヤップ)
Yap!!!
the telephonesの石毛輝が2017年に始動させた新プロジェクト。初期のライブは石毛が機材を駆使し、1人でステージに立っていたが、同年8月に汐碇真也(B)と柿内宏介(Dr)をサポートメンバーに迎え3人編成のバンドとして始動した。バンド結成を発表すると同時に配信シングル「Dancing in Midnight / Street」を、新たに立ち上げた自主レーベルRomantic 1984よりリリース。10月に同レーベルより1stミニアルバム「I Wanna Be Your Hero」を発表し、それを携えて対バンツアー「!!! We Dance, We Rock !!!」を開催した。2018年9月にオリジナルミニアルバム「Monochrome」とコラボレーションミニアルバム「Bichrome」を同時リリース。また同月に汐碇と柿内が正式メンバーとなった。11月からは全国ツアー「Everyone Let's Dance」を開催する。
9mm Parabellum Bullet(キューミリパラベラムバレット)
9mm Parabellum Bullet
2004年3月横浜にて結成。2枚のミニアルバムをインディーズで発表したのち、2007年10月に「Discommunication e.p.」でメジャーデビュー。パンク、メタル、エモ、ハードコア、J-POPなどさまざまなジャンルを飲み込んだ音楽性と、激しいライブパフォーマンスで人気を博している。2016年には自主レーベル・Sazanga Recordsでのリリースプロジェクトを始動し、4月に6thアルバム「Waltz on Life Line」、7月にテレビアニメ「ベルセルク」のオープニングテーマを収録した8thシングル「インフェルノ」をリリースした。同年11月に、左腕の不調により滝善充(G)は期限を決めずにライブ活動を休止することを発表、以降バンドはサポートメンバーを迎えてライブ活動を継続している。2017年5月にニューアルバム「BABEL」をリリース。6月7日に「ベルセルク」第2期のオープニングテーマ「サクリファイス」をシングルで発表した。映画「ニート・ニート・ニート」の主題歌「キャリーオン」を5月27日に配信限定でリリース。9月には3年ぶりのワンマンツアー「カオスの百年TOUR 2018」を開催する。