「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」をライター2人が振り返る (2/2)

BABYMETALは持ってる

 コロナがなかったら、2020年1月の幕張以降もワールドツアーを盛大に行って、その後日本でフィナーレとなる大きなライブを実施していたのかもしれませんよね。

西廣 だからこそ、ライブ活動封印から1年後に活動を再開させたのには、正直驚きました。

 意外と言ったらあれですけど、早かったですよね。

SU-METAL(BABYMETAL)(Photo by Takeshi Yao)

SU-METAL(BABYMETAL)(Photo by Takeshi Yao)

西廣 しかも、今年の1月28、29日に行われた「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」と、3月24日リリースの「THE OTHER ONE」は、BABYMETALのこれまでの歩みや歴史を考えると、ちょっと“外伝”的な印象も強いんです(参照:BABYMETALが大歓声の中で復活!分身?クリスタル棺桶?衝撃展開で新世界へ)。柴さんはこの1月のライブを観る前は、どういうものを期待していましたか?

 繰り返しになりますが、BABYMETALは虚構と現実が折り重なっているグループなので、BABYMETALの中のストーリーとその外で起きている現実が絶妙な形で絡まり合うんですよね。そういう意味で言うと、BABYMETALの“外伝”というストーリーもさることながら、その前日の1月27日にコロナ関係のイベント開催制限のガイドライン緩和が発表され、ライブにおけるお客さんの“声出し”が解禁されたことが大きかった。言い方が正しいかわかりませんが、「持ってるな」と思いました。このタイミングに復活ライブをするって、すごく象徴的なことだなと。だいぶ前から満員のライブはできるようにはなっていたし、ライブエンタメ自体は日常に戻ってきてはいたんですけど、やっぱり一緒に歌ったりコール&レスポンスをしたり体をぶつけ合ったりという、フィジカルな盛り上がりがあるとないとでライブの空気感がまったく違ってしまう。開催発表時には「声出しが制限された状況でもライブをやるんだ」と思っていたんですが、実際には1月27日に政府の発表があったことで、すごいタイミングでやることになった。BABYMETALのストーリーというよりも、「ライブが“完全な形”で戻ってきたんだ」という気持ちのほうが、実は大きかったです。

西廣 偶然とはいえ復活に向けてドラマチックな“お膳立て”が用意されることで、僕も同じように「BABYMETALって本当に持ってるな」と思いました。ただ、実際前日に発表されたとはいえ、それを有効にするために自治体と話し合って実現させるまでには、相当な努力や苦労もあったと思うんです。そこに向けて迅速に動いたスタッフの皆さんの熱量も素晴らしいですよね。僕は27日の初日公演を拝見したんですが、会場の空気が2021年の武道館のときとはまったく違うことに気付いて。ライブ開始を待つ間のお客さんの雰囲気を目の当たりにして、「そうだった。コロナ前はこんな感じだったかもな」とフラッシュバックしました。

「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」千葉・幕張メッセ国際展示場公演の様子。(Photo by Taku Fujii)

「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」千葉・幕張メッセ国際展示場公演の様子。(Photo by Taku Fujii)

 映画館みたいにただ静かに鑑賞するんじゃなくて、サッカースタジアムのようにひとつの熱気を持った空間を全体で作り上げるのがライブなんだと。それは当たり前のことなんですけど、その空気感から3年離れていると、その空間にいること自体に鳥肌が立つというか感慨深さを感じました。もちろんBABYMETALのライブも素晴らしかったですが、そこに至るまでの流れと目の前で展開される空間を含むライブエンタメの復活みたいな、そこが自分の中ですごく大きかったです。

西廣 だから、今回の放送を観た方にも、あの会場での臨場感や熱気は間違いなく伝わると思うんです。それまでの声出しNGで観ていたものとはまったく違う生々しさもあり、そこに影響されたBABYMETALのパフォーマンス含め、この3年には観られなかった光景なんじゃないでしょうか。

BABYMETALがこの世界に復活するとき

 開演前の率直な心境で言うと、「どこにステージがあるんだ?」とずっと思っていました(笑)。

西廣 確かに(笑)。

 LEDスクリーンが会場の四方に設置されていましたが、どこにステージがあればこのスクリーンが意味をなすのかとか、開演前はそんなことばかり考えていました。だから、開演してからようやく意味がわかる、そんな感じでしたね。

西廣 BABYMETALはこれまでも国内公演でいろんな演出に挑んできましたが、僕も今回は会場に入った途端に「えっ、ステージが2つ?」と思いましたから。フロアを挟む形で、両サイドにステージを覆うような暗幕が見受けられて、その2つのステージをつなぐような花道が1本用意されている。これは想像できなかったなと。しかも、その2つのステージにどう意味を持たせるのかという点では、片側のステージに神バンド(BABYMETALに帯同するバンド)のメンバーがいて、もう片方のステージはオープニングでBABYMETALが登場する際の巨大な玉座が配置されていて、パフォーマンス自体は花道上を移動する円形ステージで行う。演出過多といいますか、無駄遣いといいますか(笑)、そこもかつてのBABYMETALらしさを踏襲しているなと思いました。

「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」千葉・幕張メッセ国際展示場公演の様子。(Photo by Taku Fujii)

「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」千葉・幕張メッセ国際展示場公演の様子。(Photo by Taku Fujii)

 移動ステージは2017年の広島公演の頃からありましたが、スケール感と演出アイデアが当時とは格段に違っていて圧倒されましたし、思ってもみないやり方に驚かされましたね。

西廣 規模が大きくて平面という作りの幕張メッセでは、大きいステージを1つ置いただけでは後方の人たちは見えにくいでしょうし。それを、常にステージが移動しながらパフォーマンスを続けることで、どの位置からもメンバーを近くに感じられる。あの見せ方にも作り手の優しさが感じられますよね。

 ああいう形でステージが動いて近くに来るし、上下にも動く。そのステージの床面にもLEDスクリーンが設置されているとなると、場のムードとしても「ステージがあって、それを観ているオーディエンス」という感じじゃなくなるんですよね。当然、お客さんの視線の先にはステージの向こう側にいるオーディエンスがいるわけで。しかも全員「Savior Mask」をしているので一体感がある。面白いのは、現実世界で起こっていることは声出しもOKでモッシュもあり、思い切り感情を解放できるライブが戻ってきたということなんですけど、BABYMETALの世界で起こっていることは“儀式”になっているんですよね。BABYMETALが復活したことを1公演1万5000人、2日で3万人の人たちが祝福する。BABYMETALの世界においては封印されていたSU-METALとMOAMETALが再びステージに戻ってきたことを、BABYMETALの世界のやり方で祝福する、ちょっとダークで神聖な儀式でもあった。現実と虚構がこんなふうに重なっているんだ、ということを観ながら感じていました。

西廣 オープニングの厳かな演出も、BABYMETALがこの世界に復活するんだという“内側の世界”での出来事と、ようやくライブで声出しOKになったぞという“外側の世界”での出来事を祝福するようでもあり。意味合いが複数重なることで、想像もしていなかったほど期待感も高まったと思うんです。だからこそ、目の前で繰り広げられている光景は現実でもありながら、どこか浮世離れした感もある。特に今回はバーチャルワールド「METALVERSE」とリンクさせた演出もありましたし、余計にそう感じた方も多かったんじゃないでしょうか。

棺が意味すること

 西廣さんは先ほどおっしゃった“外伝”的な活動や「METALVERSE」をどう捉えていましたか?

西廣 僕は本格的な再始動へ向けたワンクッションなのかなと解釈していて。いきなり以前のような形で復活するには何か理由付けが必要だと思うんです。そのためにはバーチャルな世界にちりばめられた要素を現実世界で復元させて、そこから本来のBABYMETALを復活させるという、本筋に戻すための序章なんだろうなと受け取りました。

 そうですよね。とてもコンセプチュアルなグループである以上、このタイミングにBABYMETALが動き出すにはただ「ライブをやります」だけだと辻褄が合わないのかなと。BABYMETALがやっていることには常に“キツネ様”(BABYMETALの守護神)のお導きがあるという設定がありますけど、10年そういう世界観で動いてきて、しかもちゃんと現実世界でいろんなことを成し遂げてきたグループであるわけだから、“キツネ様”はもはや概念上の存在というより、実質的に存在しているような気がしてきますよね。それはある種の概念上の存在として始まったBABYMETALだからこそ、これだけ活動を経てくると適当なことはできないわけで、そういう意味でもSU-METALとMOAMETALが封印されている状況の中で新曲だけ出すのは辻褄が合わない。辻褄が合わないということは、それは“外伝”なんだという認識ですね。BABYMETALって1つひとつの発表とかライブ中の映像での語りとか、あとから振り返って「あれはなんだったんだろう?」ってことはたくさんあるんですが、でもなんらかの含みがあるし、そこを考察したり堪能したりするのもライブ体験だと思っています。会場に足を運んでライブを楽しんだ人も「あの演出にはどんな意味があったんだろう?」ともう1回考えるという意味でも、今回の放送を観ることでまた違った楽しみ方ができるんじゃないでしょうか。

西廣 今のBABYMETALがどういう立ち位置にいて、ここからどう進んでいくのかを再確認するためにも、この放送を観たほうがいいと思います。来たる4月1、2日のライブ「BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE -」への理解もより深まりそうですよね。

 そうですね。特に1月のライブでは、初日と2日目で最後の演出も異なりましたよね。僕が観た2日目はSU-METALとMOAMETALの前に棺が3つ現れて、3人目のシルエットだけが見えて終了でした。振り返ってみると棺を使った演出って、BABYMETALのライブでは何回かありましたよね。

「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」千葉・幕張メッセ国際展示場公演の様子。(Photo by Taku Fujii)

「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」千葉・幕張メッセ国際展示場公演の様子。(Photo by Taku Fujii)

西廣 確か2014年3月の武道館2日目(参照:BABYMETAL武道館で第1章完結、海外武者修行の旅へ)のエンディングが最初だったんじゃないかと記憶しています。そもそも1stアルバム「BABYMETAL」の初回限定盤ジャケットにもキツネのお面が施された赤い棺が登場しますし、グループにとって重要なメタファーなのかなと。

 その後、2015年のさいたまスーパーアリーナのときは棺からメンバーが登場しましたし(参照:BABYMETALたまアリで“新春キツネ祭り”開催)。今年1月の幕張メッセの演出含め、メンバーを“召喚”する際の象徴的なモチーフなんでしょうね。

西廣 ということは、4月1、2日は……。

 実際のところ何がどうなるかは現時点ではホントにわからないですが、4月1日は“FOX DAY”(BABYMETALが“キツネ様”から“お告げ”を授かるとされる日)ですからね。なんらかの大きな発表はあるはず。

「BABYMETAL」初回限定盤ジャケット

「BABYMETAL」初回限定盤ジャケット

西廣 となると、この1月のライブにはいろんな意味が含まれているんですね。

 最初の話ではないですが、これもターニングポイントであることには違いないですし、そのターニングポイントは2021年の武道館のようなひとつの区切りのようなものではなく、復活と始まりを意味するものでもあるんでしょうね。

西廣 いろんな意味合いが重なったからこそ、最初に想定していた以上に深さや重さの伝わる2公演になりましたね。

 そうですね。これはメンバーに取材したときのムードから感じたことですが、SU-METALもMOAMETALも今、BABYMETALに対するモチベーションが高い。なぜ高いかというと、一度封印期間があってグループを離れたことで、ある種客観的に“世を忍ぶ仮の姿”の自分とBABYMETALのメンバーとしての自分を見ることができ、その結果「やっぱりBABYMETALが好きなんだ」と再確認できたからなんだそうです。

西廣 となると、彼女たちが自分の意思でBABYMETALを取り戻したのが、あの1月のライブでもあったんでしょうね。そう考えると、非常にエモさが増してきます。

 「Divine Attack - 神撃 -」の歌詞もSU-METALが自ら「書きたい」と志願して、ライブの景色を思い出しながら作詞したと言っていますし。その曲が歌われたライブという意味でも、SU-METALとMOAMETALがBABYMETALを引っ張っていく新たなスタート地点とも言えるかもしれません。なので、これまで追ってきたファンはもちろんですが、これまでのBABYMETALを知らなくても新たに追うことができる、いいタイミングのライブでもあると思います。

西廣 今の話を踏まえて放送を観たら、きっと1月に会場で体験したときとは違った感情があふれてきそうですね。

番組情報

WOWOWプライム / WOWOWライブ / WOWOWオンデマンド
「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」

WOWOWプライム
2023年3月25日(土)20:00~21:30

WOWOWライブ
2023年4月7日(金)21:00~22:30

※各放送終了後より1週間、WOWOWオンデマンドにて配信あり。

BABYMETALライブ情報

BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE -

  • BLACK NIGHT
    2023年4月1日(土)神奈川県 ぴあアリーナMM
  • CLEAR NIGHT
    2023年4月2日(日)神奈川県 ぴあアリーナMM

プロフィール

BABYMETAL(ベビーメタル)

2010年に結成された、SU-METAL(Vo, Dance)とMOAMETAL(Scream, Dance)からなるメタルダンスユニット。2014年3月に東京・日本武道館単独公演を2DAYS開催し、女性アーティスト史上最年少記録を樹立した。1stアルバム「BABYMETAL」は全米ビルボード総合チャートにランクイン。同年夏からは初のワールドツアーを行い、イギリスの大型フェス「Sonisphere Festival UK」ではメインステージで6万5000人の観衆を集めた。アメリカではレディー・ガガの北米ツアー5公演のサポートアクトを務めるなど、初のワールドツアーで世界中に爪痕を残す。2016年4月に2ndアルバム「METAL RESISTANCE」をリリースし、全米ビルボードチャートTOP40に日本人アーティストとして53年ぶりにランクイン。同月にはイギリス・ウェンブリーアリーナにて日本人初となるワンマンライブを開催し、9月にはワールドツアーファイナルにあたる東京・東京ドーム2DAYS公演で計11万人を動員した。2023年1月には2日間にわたって千葉・幕張メッセ国際展示場でワンマンライブ「BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -」を開催。3月に初のコンセプトアルバム「THE OTHER ONE」をリリースし、4月には神奈川・ぴあアリーナMMにてワンマンライブ「BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE -」を行う。

対談参加者プロフィール

柴那典(シバトモノリ)

1976年神奈川県生まれの音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業後、株式会社ロッキング・オンを経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビュー、執筆を行い、テレビやラジオ番組へのレギュラー出演など幅広く活動する。主な著書は「平成のヒット曲」「ヒットの崩壊」「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」など。はてなブログにて「日々の音色とことば」を公開中。

西廣智一(ニシビロトモカズ)

2005年末に株式会社ナターシャの立ち上げに参加し、翌2006年よりライターとしての活動を開始。2014年11月末にナターシャを退社後は、フリーの音楽ライターとしてWebメディアや雑誌などで執筆している。音楽ナタリーやReal SoundなどのWebメディアでインタビューやディスクレビューを担当。乃木坂46やオジー・オズボーンなど、取材したアーティストは多岐にわたる。2022年12月には編集を担当した元櫻坂46・菅井友香の卒業記念書籍「Wアンコール」が発売された。