ウォルピスカーター|“高音出したい系男子”から“高音だけじゃない男子”へ

ウォルピスカーターが3rdアルバム「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」をリリースした。

ニコニコ動画をはじめとした動画共有サイトにコンスタントに作品を投稿する一方、ライブ開催やラジオ番組のパーソナリティを務めるなど幅広く活動しているウォルピスカーター。今作「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」は「原点回帰と新しい一歩」をコンセプトに制作されたもので、新旧のボカロ曲のカバーや、プリンセス プリンセス「M」、DREAMS COME TRUE「未来予想図Ⅱ」といったJ-POPのカバーなど計13曲が収録されている。今回のインタビューではアルバムの制作エピソードを交えながら、「高音出したい系男子」の異名で知られる彼に、高音ボーカル以外の武器について語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 竹中圭樹(D-CORD)

SNSを使っていない人にも広がった

──2016年のインタビューの際に、ウォルピスさんが「しゃべることが大好きなのでラジオの仕事がほしい」とおっしゃっていたんですが、念願叶って「ウォルピスカーターの社長室からお送りします。」という冠番組が昨年10月からFM NACK5でオンエアされています。

ウォルピスカーター

いやあ、まさか僕みたいな人間に本当にラジオのオファーが来るとは思っていませんでした(笑)。

──実際にパーソナリティとしてラジオ番組を担当してみた感想はいかがですか?

もともと話すのがすごく好きで生配信とかもよくやっていたので、ラジオのお話をいただいたときはものすごくうれしかったんですが、いざ仕事として取り組むとなると不安も多くて。例えばラジオには放送コードというものがあるわけで、自由気ままになんでもトークしていいわけでもないんですよね。自分の話したことが電波に乗っていろんなところに届いてしまうプレッシャーを感じると、ちょっと怖くなる部分もあって、考えながら話すということにまだ慣れていない感覚はあります。

──ラジオのパーソナリティを続ける中で、アーティスト活動に何か変化は生じましたか?

直接的な変化ってわけではないんですけど、僕の情報って基本的にはTwitterなどのSNSで発信されることが多いんです。でもSNSをまったく使っていない人がラジオを聴いて僕の音楽に出会ってアルバムを買ってくれる、みたいなことがあるみたいで。あとはリスナーさんとの新しい交流が生まれました。普段僕のTwitterにリプライを送ってくれる人がラジオでメールをくれるだけじゃなくて、NACK5のリスナーさんが僕の番組を聴いてお便りを送ってくれるんですよ。動画を投稿しているだけじゃ出会えなかった方々に僕の声が届いているのはうれしいですね。

僕とH ZETT Mさんの歌

──もう1つ、今年の7月にウォルピスさんがアニソンタイアップを獲得して注目を集めました(参照:ウォルピスカーター&上月せれながアニメ「スペースバグ」テーマ曲担当)。自分の歌が地上波のテレビで流れる感覚ってどうでしたか?

今はテレビでYouTubeが観られるような時代ですし、実際にテレビでオンエアされたときはあまり実感がなかったんですよ。そのあと親からアニメのオープニングの写真が送られてきたときに「あ、全国で流れてるんだ」ってやっと実感したというか。

──ウォルピスさんのボーカルは高音のイメージが強いんですが、アニメのテーマソングとしてオンエアされた「THE JOURNEY HOME」という曲は、そこまで高音を前面に押し出した曲ではないですよね。

僕自身も最初は「あまり高くないけど大丈夫かな」って思ったんですよ。高い声を出すっていうのは、ボーカリストとしての魅力を見せる1つの方法だと僕は考えていて。それがない中でどうやって「THE JOURNEY HOME」を歌い上げればいいのかっていうのは、けっこう悩みました。

ウォルピスカーター

──その悩みはどうやって解消したんでしょうか?

自分で言うのはちょっと恥ずかしいんですけど、僕、自分のことを「歌はうまくないけど声の質はいい」と思ってて。声質がいいボーカリストのことを僕は“声質パンチャー”って呼んでるんですけど、僕自身もその1人だと思っているんです。だから「THE JOURNEY HOME」は歌のうまさだけじゃなくて声のよさで勝負するんだって気持ちで……。言ってて本当に恥ずかしくなってきました(笑)。

──作曲者のH ZETT Mさんからは何か要望はあったんですか?

もともとH ZETT Mさんの中にボーカルのイメージが明確にあったみたいで、けっこういろいろ要望をいただいて、僕がそれを再現した形でした。普段の歌は自分でハードルを決めてそれを越えたら完成、みたいな感覚で歌録りをしているので、その工程を誰かと連絡を取りながら進めていくのはすごく新鮮でした。「THE JOURNEY HOME」って曲は僕の歌、というより「僕とH ZETT Mさんの歌」みたいな感覚があります。

リムジンか、自家用ジェットか、ヘリコプターか

──最新作「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」のアートワークにはヘリコプターに乗り込もうとするウォルピスさんの姿が描かれています。これまでアルバムのジャケットで描かれてきたのと同じように、これもウォルピス社(ウォルピスカーターのニコニコ動画でのコミュニティ名およびウォルピスカーターが社長を務める架空の会社)なんでしょうか?

ウォルピスカーター「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」ジャケット

はい。ウォルピス社の屋上ですね(笑)。今回のアルバムコンセプトが「原点回帰と新しい1歩」ということもあり、「俺たちの戦いはこれからだ!」みたいなイメージをイラストで表現するとしたら、社長(ウォルピスカーターの愛称)が出かける様子を描くのが一番いいかなと思いまして。社長が出かけるときのイメージをいろいろ想像して、リムジンか、自家用ジェットか、ヘリコプターか……って考えていった結果、ヘリコプターに決まりました。

──今おっしゃった「原点回帰と新しい1歩」というコンセプトは、タイトルの「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」という言葉にも表れている気がしました。2ndアルバムのタイトルが「ウォルピス社の提供でお送りしました。」だったので、次がどうなるのかちょっと気になっていたんです。

実は前作の「ウォルピス社の提供でお送りしました。」というタイトルに深い意味は込めていなかったんですよ。単純に「1枚目が『お送りします。』だから、2枚目は『お送りしました。』でよくない?」みたいなアイデアで付けたタイトルだったんですけど、アルバムを出してみたらいろんな人に「引退するんですか?」みたいに言われてしまいまして……。3枚目のアルバムも普通に出すつもりだったので、タイトルはすごく悩みましたね。

──結果として「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」という前向きでありつつ、今回もちょっと区切りを感じさせるタイトルに落ち着きました。

“提供シリーズ”は3枚目で終わりにしようと思っていたんです。でも「お送りしました。」はもう使っちゃったしなあと思い、けっこう悩みました。もちろん、3枚目のアルバムをリリースしてからもウォルピスカーターとしての活動は続けていくので、僕の今後も予期させるような言葉にしたくて……と考えていたときに「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」というタイトルを思い付いたんです。これなら終わりと始まりを同時に表現できるぞって。

ウォルピスカーター「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」
2018年12月26日発売 / Subcul-rise Record
アーティスト名「音楽作品タイトル」初回限定盤

[CD] 2400円
SCGA-00081

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収録曲
  1. 天ノ弱
  2. 廃景に鉄塔、「千鶴」は田園にて待つ。
  3. STILL GREEN
  4. 命のユースティティア
  5. ストリーミングハート
  6. お天道様とドブネズミ
  7. M
  8. オレンジ
  9. 傀儡マイム
  10. 未来予想図Ⅱ
  11. 泥中に咲く
  12. DAYBREAK FRONTLINE
  13. THE JOURNEY HOME
ウォルピスカーター
ニコニコ動画を中心に活動する男性ボーカリスト。“高音出したい系男子”の異名を持つ。2012年の初投稿以来、ニコニコ動画に“歌ってみた”動画を多数公開している。2015年4月に投稿した「アスノヨゾラ哨戒班」(Orangestar)の歌唱動画が1000万再生を記録した。2016年1月、1stアルバム「ウォルピス社の提供でお送りします。」をリリース。同年12月にはAfter the Rainのカウントダウンイベント「After the Rain COUNTDOWN PARTY 2016-17」に出演し、約4年ぶりにオーディエンスの前でライブを行った。2017年2月に2ndアルバム「ウォルピス社の提供でお送りしました。」を発表し、5月には初のワンマンライブとなる「ウォルピスカーター1stワンマンLIVE ~2017年度 ウォルピス社株主総会~」を開催した。2017年10月にFM NACK5にて冠番組「ウォルピスカーターの社長室からお送りします。」のオンエアがスタート。2018年12月には3rdアルバム「これからもウォルピス社の提供でお送りします。」をリリースした。