ここまで色濃く自分の血が流れているのはひさしぶりの感覚
──「High Love」はファルセットボイスによる「So I can marry you」という歌詞で始まるポップなラブソングです。ストリングスの響きも美しいですね。
これはかなりシンプルに作りましたね。「Dancing Queen」の頃のABBAというか、ちょっと懐かしい楽器の鳴り方だったり、バイオリンもあえてチープに響くようなサウンドメイクを目指しました。古びたディスコでかかっているようなイメージもありましたね。歌詞に関しては、「marry you」に至るまでにいろんなアイデアがあったんですよ。「change you」とか「dance you」とか「kill you」とか(笑)。底抜けに明るいサウンドだから、その中でパンチが効いたことを歌ったら面白いんじゃないかと思って、一番強い愛情を表現するために「marry you」にしました。「あなたと結婚できます! 愛は高値更新中です!」っていう(笑)。ずっと上に上に向かっている感じですね。
──「Daddy (Dying in NY)」「Never Run」は、エレクトロテイストのダンスチューン。どちらも全編英語詞で、アルバムの軸を担う楽曲だと思います。2曲ともめちゃくちゃカッコいいですね。
うれしいです。この2曲は世界標準の活動ができるようになったから作れた楽曲ですね、間違いなく。こういうテイストの曲も、今までは想像で作ってたんですよ。例えば「Save This Love」とかもそうなんだけど、海外で流行っている曲を聴いて、ライブ映像なども観て、そこの空気感を想像しながら自分にやれることをやっていたというか。最初に言ったように、この3年間で実際に海外に行って、いろんなライブを経験したことで「この曲は絶対に盛り上がる」と容易にイメージできるようになったんですよね。“ハリボテ感”がなくなったと思うし、「Daddy (Dying in NY)」「Never Run」もそうですけど、海外のライブで全員が踊っている姿がハッキリ見えてます。
──キックやベース、シンセの音質もめちゃくちゃよくて。
そこはもう日に日に前進していると思います。新しいプラグインやソフトシンセも取り入れているし、コンプのかけ方とかを含めて、ちょっとずつ進化していて。「Daddy (Dying in NY)」「Never Run」の仕上がりに関しても、「ここまでは自分で作れます」という感じですね。今回のアルバムはアレンジも全部自分でやったんです。作っていて楽しかったし、そのあたりも聴いてもらえるとうれしいです。
──シンガーソングライターで、ここまで質の高いトラックを作れる人はかなり稀だと思います。
もともと好きですからね。子供の頃にマイケル・ジャクソンを聴いているときも、歌だけじゃなくアレンジも気になっていたし。作詞、作曲、編曲にまんべんなくパラメーターが振られているんだと思います(笑)。あとはやっぱり、長くやってきた経験でしょうね。そういえばアルバム1枚全部アレンジするのって、インディーズの1枚目(2014年リリースのミニアルバム「ツベルクリン」)以来なんですよ。あのときはすべて自分の家で作ったんですけど、ここまで色濃く自分の血が流れているのはひさしぶりの感覚かもしれないです。
──インディーズの1枚目は“自分でやるしかなかった”ということだと思いますが、今はアレンジャーに依頼することができるし、いろいろな選択肢があるじゃないですか。どうして全部1人でアレンジしようと思ったんですか?
もちろんほかのアレンジャーに任せるのもいいし、そうすればパワーも追加されると思うんですけど、今回はアレンジまで全部やって、ミュージシャンとしての自分のキャラクターを含めてさらに上がらなくちゃいけない気がして。もともと僕は全部を自分で請け負うタイプだし、このアルバムでは最後まで責任を持ったという感じかな。いろんな曲がありますけど、思い通りの音になっていくのも楽しいし。
責任感はちょっとずつ強くなっているかもしれない
──続いて、「白夜」はドラマ「科捜研の女 season24」主題歌です。こういうオーセンティックなバラードもビッケさんの特長ですよね。
まっすぐなバラードを書いたという実感はあります。ドラマのストーリーやキャラクター、伝えようとしているメッセージを汲み取りながら、自分につながる部分を見つけて……という感じでしたけど、テーマとしては防衛本能みたいなところを歌ってるんですよ。もしかしたら皆さんは僕に対して「アグレッシブで強気で勢いがあって」みたいなイメージを持っているかもしれないけど、自分としては無鉄砲だったことは一度もないし、絶対に無茶なチャレンジはしないんです。ほら、地上何百mのところでガラス張りの床を歩くようなアトラクションってあるじゃないですか。あんなの絶対やらないですし!
──(笑)。ちょっとでも危険を感じたら……。
やらないですね! ジェットコースターも乗らないので(笑)。勝算があればトライするし、まったく保守的ではないんだけど、本来はめちゃくちゃディフェンシブなんです。そんな部分を曲に強く込めたら、アグレッシブなパワーを持っていたという不思議なことが起きてるのが「白夜」ですね。夜と昼が共存していて、太陽が昇っている夜という状況が、守る気持ちと攻める気持ちが混ざり合っている感じに近いのかなと。
──そして「White ≠ Colorless」はピアノ、オルガンをメインにしたインスト曲です。
インタールード的な曲を入れたかったんですよね。これはちょっとネタバレになっちゃうんですけど、このタイトルは“白は無色じゃない”という意味なんです。オケがキャンバス、歌が色だとすれば、「インストだけでも色を表現できる」「歌がなくてもカラフルな曲になる」というメッセージかもしれないし……以上です(笑)。
──(笑)。続く「またね」はノスタルジックな雰囲気の楽曲です。
アルバムの中でいろいろやってきて、最後に優しい気持ちになれる歌を入れたかったんです。アコギ、ベース、ドラム、スライドギターのシンプルな編成だし、かなり素直に作った曲ですね。“ナイトクラブ”の終わりだし、このアルバムのツアーのときに「ファンの人たちにはこういう気持ちで帰り道を歩いてほしいな」という願いも入ってます。ちょっと浮ついた感じだったり。
──ビッケさんの中で、ファンの皆さんへの思いは強くなっているのでは?
責任感はちょっとずつ強くなっているかもしれないですね。ビッケブランカの新譜を楽しみにしてくれている人は明らかに増えてるし、いい曲を作らないといけないなと。制作中は作ることに夢中だから、ファンの人がどんな反応をしてくれるかを想像する余裕はないですけど(笑)、ライブをやるとみんなが目の前にいるわけだし、やっぱり「ありがとう」と思いますよ。素直に感謝できるようになってきたのかもしれないですね。
──アルバムにはさらにヒプノシスマイクに提供した「Rivals」のセルフカバー「Old Rivals [A Self-Cover of "Rivals!"]」も収録されます。すごく多様性のあるアルバムですが、ツアーでどう表現されるか楽しみです。
見せ方はだいぶ変化すると思います。ピアノやギターを弾く曲もあるし、DJみたいなこともやるんだけど、自分は真ん中にいたまま、すべてをカバーできるアイデアが見つかったので。サポートの皆さんもすごいミュージシャンばかりだし、絶対にいいツアーになると思います。日本のファンはもちろんですけど、シカゴのファン、チリのファンが「めっちゃいいじゃん」と言ってる顔が浮かんでいて。彼らのところに行ってアルバムの曲を披露したいと強く思っています。新作をリリースしたら当たり前のようにワールドツアーがあって、“海外ツアーは特別なものではない”という状況になるのが理想ですね。
ツアー情報
VK Blanka HALL TOUR 2024 - Knightclub -
- 2024年9月27日(金)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2024年10月12日(土)北海道 共済ホール
- 2024年10月16日(水)大阪府 オリックス劇場
- 2024年10月31日(木)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
- 2024年11月23日(土・祝)宮城県 トークネットホール仙台 大ホール
- 2024年12月8日(日)福岡県 福岡国際会議場 メインホール
プロフィール
ビッケブランカ
愛知県出身のシンガーソングライター。2018年「まっしろ」がドラマ挿入歌として大きな話題を呼び、iTunes総合アルバムチャートで2位を記録した。アニメ「ブラッククローバー」シリーズのオープニング曲がロングヒットを続け、「Black Catcher」は、Spotify「海外で最も再生された 国内アーティストの楽曲」のTOP10に2020年より3年連続でランクインした。海外では、2024年1月のバンクーバー公演を皮切りに、全9都市を回る自身初の北米単独ツアーを完走。7月にはチリ、メキシコにて中南米単独ツアー「VK Blanka Latin America Tour 2024」を行う。9月に5枚目となるフルアルバム「Knightclub」をリリース。同月より、全6都市を回るホールツアー「VK Blanka HALL TOUR 2024 - Knightclub -」を実施する。
Vicke Blanka(ビッケブランカ)Official Web Site
VK Blanka|ビッケブランカ (@itsvk) | Instagram