自分が気持ちよくなるために本気でふざけてるだけ

──ここからは武瑠くんに、ソロ活動についてもうちょっと詳しく話を聞いていきたいと思います。そもそも浮気者のアイデアはどうやって生まれたものなんですか？

俺、すごい臆病なんで、3年先のプランまで常に考えているんですよ。だからSuGの活動休止が決まった去年の9月頃、あの時点ではSuGは解散するかもしれなかったし、解散した場合はこういう活動、単なる活動休止だったらこういう活動といろいろ考えてたんですけど、浮気者のアイデアはその中の1つだったんです。で、今年の春にSuGの復活が決まったのもあって、浮気者というソロプロジェクトを始動させようと思って。SuGという本命があって浮気する。完全にSuGありきのソロ活動なんですよ。あと、SuGの再始動も普通に発表してもつまらないから、先に浮気者始動を発表して「SuGはやらないのか」と思わせておいて、浮気者のワンマンライブがSuGの復活ライブになったりと、そういう遊びもやってみたくて。そこも含めての浮気者というプロジェクトなんです。

──なるほど。ではもっと別な形の、純粋なソロ活動をしようとは思わなかった？

SuGが解散していたら、もしかしたら自分のど真ん中にあるもの……俺、J-POPが一番好きなので、もっとキャッチーな曲をバンバンやるソロ活動をしてたかもしれませんね。だから今回の浮気者は完全に遊び。自分が気持ちよくなるために本気でふざけてるだけなので、誰かに共感してもらおうとか誰かを救おうとか、そういう気持ちは一切ないです。思いを届けたり共感してもらったりと、ものを作る醍醐味はSuGという本命で味わえるので、こっちは思い付いたことをそのまんま形にしてるだけ。それがいいのか悪いのかは正直わかりませんけどね。

──SuGという真剣に音楽と向き合える場所が残っていたから、じゃあ浮気者では自由に遊んでふざけてみようと。ゆよゆっぺさんとの対談でも話してましたけど、それこそ失敗してもそのまま作品として出してしまう。たぶん普通にソロ活動をしていたら、もっと慎重になって、失敗した作品を世に出すことなんて考えられないですし。

そうですね。もちろんSuGでも好きなことは全部やれてますよ。だから……うん、“浮気”としか言いようがないんです。本当にぜいたくな遊びですよ。

浮気者のモチーフは「ニューヨークのラーメン屋」

──「I 狂 U」は6曲入りのミニアルバムですが、このバランス感も絶妙ですね。フルアルバムにしなかったのは、何か理由があるんですか？

フルアルバムは無理ですよ（笑）。それはもう遊びじゃなくなっちゃう。実際、最初は何曲入れるかも決まってなくて、ギリギリのところで6曲できたんです。これ以上やろうとすると、ちょっとシステマチックになってしまうんじゃないかな。

──ああ、そうか。あくまで遊び感覚だから、手軽に楽しめるミニアルバムくらいがちょうどいいと。

そうですね。まだ先のことは何も決まってないですけど、今後は毎回ミニアルバムでもいいかなと思ってます。そもそも最初は、CDじゃなくて別の形態でのリリースを考えてたんですよ。レコード会社が決まる前、Tシャツに音源を付けた形態の作品を自主でリリースしようと思ってたくらいですから。それは最終的に「I 狂 U」の完全限定BOXという形で実現したんですけど、今後は扇子に音源が付いてますとか、そういうノリでやっていきたいんです。よくあるじゃないですか、完全にフィギュアが主役なのに申し訳程度にラムネが付いてるお菓子とか。そういうイメージです。ぶっちゃけ「I 狂 U」のPVが撮りたくて、その世界観を世の中に発信したくて、Tシャツなりグッズなりに音楽を付けたかった。別に音楽がサブ的要素とかそういうわけじゃないけど、浮気者ではそれくらい遊びたかったんです。

──アートワークやPVの世界観からも感じたんですが、今回は和のテイストを前面に打ち出してますよね。そのコンセプトも最初から決めていたんですか？

和の要素を多めにしたいとは考えてました。アルバムジャケットを見ると、背景は和のテイストなのに自分はTシャツを着てる。こういういろんな要素が混ざり合ったものが、自分の中にある東京のイメージで、今回はアートワークや曲、PVのコンセプトはすべて、「tokyoの一夜を描く」というテーマに沿ったものなんです。

──なるほど。

浮気者では日本ならではのものをカッコよく見せたいというアイデアがあって。SuGの活動休止中にニューヨークにいたんですけど、日本のラーメンチェーン店が現地にあって、そこの内装がめっちゃカッコよかったんです。現地の人にはラーメンレストランがすごくオシャレみたいな意識があって、お店の入り口付近にあるバーでお酒を飲んでからラーメンを食べるんですよ。それを見て、同じラーメンなのになんで日本よりもカッコいいんだと。すごく悔しかったんですよね。日常がアートになってるというか、日常をここまでカッコよく見せられるんだって。そのときに感じたことがモチーフになってるんです。

適当な“東京感”みたいなものを常に出していきたい

──今のラーメン屋の話じゃないですけど、「I 狂 U」で感じられる日本的要素って実は日本人がイメージする日本ではなくて、外国人がイメージする日本に近いのかなという気がしました。

ああ、それはありますね。日本人が日本人として、海外に向けて日本を持っていくとかそういう気はあんまりなくて。伝統を重んじようとしないで、単純に知らないでバカな振りをしてカッコつけるのが浮気者だと思うんです。外国人が感覚的に日本やほかの国の文化をカッコいいと思って、その要素を自分のものにするような、そういう感覚でやりたいとは思ってました。

──なるほど。アルバムタイトルの「I 狂 U」という字面も、なんとなく海外のアーティストが日本に憧れて作った変な造語ぽいですし。

「I 狂 U」っていう字面が思い浮かんだ時点で、「あ、もうこれはいけるな」と確信したし。まあ次の作品では和の色合いが一切ないかもしれないですし、そういう適当な“東京感”みたいなものを常に出していきたいですね。中華料理もあれば韓国料理もあるし、間違った解釈のスペイン料理もあって……なんかそのメチャクチャな感じが東京っぽいと思うんで。実際にこのアルバムもそういう内容になってると思うんですよ。