UPSTART「サレタガワのブルー」主題歌でヒット狙う新星ユニットの底知れぬ野心

花村想太(Da-iCE)とYouTuberのヒカルからなるユニット・UPSTARTが2ndシングル「ペルソナ」を配信リリースした。

昨年8月に配信されたオンラインイベント「a-nation online 2020」で意気投合した花村とヒカルが、“ありのままに生きろ”をコンセプトにエンタテインメントを盛り上げようと結成したUPSTART。今年1月にメジャーデビュー曲「才能」をリリースすると、楽曲はストリーミングで1000万回再生、ミュージックビデオは183万回再生超えを記録するなど、破竹の勢いを見せている。

音楽ナタリーでは「ペルソナ」のリリースを記念してUPSTARTにインタビュー。ユニット結成の秘話や「ペルソナ」の制作エピソードをはじめ、2人のパーソナルな部分や彼らの抱く野望について聞いた。

取材・文 / 寺島咲菜 撮影 / 映美

「ロトの剣」で冒険へ

──まずはヒカルさん、お誕生日おめでとうございます(取材は5月末に実施)。

ヒカル ありがとうございます。30歳になって、わさびのおいしさがわかるようになりました。

花村想太 あはははは。

──お二人は「a-nation online 2020」(昨年8月の配信イベント)で初共演されました。その現場で花村さんがヒカルさんを誘ったのがユニット結成の始まりだとか。

花村 はい。僕はアーティストを目指してる子に歌が上達する方法を聞かれることがあるんですけど、そのたびに「普段から人にどうしたいか、どうしてほしいかを語る癖をつけたほうがいいよ」と答えているんです。それは、アーティストは言葉に説得力がないと人の心を動かせないと考えているからなんですが、ヒカルくんの言葉は1つひとつの重みがすごいんです。ヒカルくんの言葉にメロディを付けるだけで、人の心に響くものになるんじゃないかと思っていたんですよね。

──そんな花村さんの思いを、ヒカルさんはどう受け止めました?

ヒカル 特に驚きはなかったですね。「一緒に曲を作ろう」と言われて、「じゃあやってみよう。カラオケ行く?」というノリでした。僕は事務所に入っていないので、身軽なんですよ。花村くんが相棒なんて心強いじゃないですか。「ドラクエ」の初期装備が「ロトの剣」(『ドラクエ』シリーズに登場する最強の剣)みたいな、強力な武器を持って冒険に出かけられるという安心感がありました。

──ユニットを始めるうえで何かコンセプトはあったんでしょうか。

花村 「ありのままに生きろ」ですね。2人とも好きな道を歩んで今に至るので、“ありのまま”という言葉が僕らには似合うと思ったし、聴く人に響くんじゃないかと思いました。

ヒカル 僕はなんでもはっきり言っちゃうタイプで、例え自分にマイナスになることでも口に出しちゃうんですよ。でも、そんな自分でも受け入れてくれる人が世の中にはいて、コンプレックスも角度さえ変えればプラスに作用する。UPSTARTの活動を通じて「細かいことは気にせず生きたほうがいいよ」ということと、「人生はいつからでも変えられるし、人は年齢関係なく何者にでもなれる」ということを伝えていきたいんです。

強い敵が出てきたら

──UPSTARTを始めてみて、お互いのパーソナルな部分は見えてきましたか?

花村 僕は熱い人だと言われることが多いんですけど、意外とヒカルくんもそうで。でも熱血な性格を表に出さないところが僕と違う点ですね。

ヒカル 例えるなら僕が燃やしているのが青い炎で、花村くんが燃やしているのが赤い炎。あと、お互いに人見知りでもあるよね。

UPSTART

花村 ヒカルくんは僕よりも人見知りだと思います。プライベートでもう1人の友達と3人でごはんに行ったことがあったんですけど、ヒカルくんは相槌を打つだけで、1時間を過ぎた頃にようやくしゃべってくれるようになって。その日の帰り道は「ヒカルくんってすごいよな……」と言いながら友達と帰りました(笑)。

ヒカル オンのときとオフのときの差が激しいんですよ。調子がいいときは饒舌になるけど、悪いときは心ここにあらずみたいな(笑)。あとは、人と違った感性を持っているとはよく言われますね。そういう部分がYouTubeでウケているのかもしれません。

花村 2人の性格をわかりやすく比べるとすると、仮に50メートル走に参加して結果が3位やったとしたら、次に1位を取るために僕は反省点をめっちゃ考えるんですけど、ヒカルくんは1位と2位の人を省いて1位になる方法を考えるタイプというか。

──対照的ですね。

ヒカル 好きなゲームやマンガの影響なんですけど、僕は将棋を指す感覚で生きてるんです。何かをしゃべるときはどうやって話を詰めていくかを計算してしゃべります。敵とみなした相手がいれば、その人が何も言えなくなるようなシチュエーションをイメージして、自分の描くストーリーに近付けるために頭の中で言葉を組み立てていきますね。効率よく相手を追い詰めるにはどうすべきかと考えてます。

花村 サイコパスや(笑)。

──精神的に疲れませんか?

ヒカル それが意外と楽しいんですよね。戦があったとしたら、ほとんどの人は真っ向勝負すると思うんです。そうやって勝つのが一番カッコいいじゃないですか。でも僕はそうは思わない。相手を策略にハメて力を発揮できない状態にして倒すのが一番カッコいい勝ち方だと思ってるんです。敵の背後に回って火縄銃で撃つタイプですね。

花村 俺とタイプが全然違うわ。

ヒカル 花村くんは小細工しないですよ。己の実力のみで、正攻法で勝ち上がっていくタイプ。

花村 確かに。規則を破るの嫌ですもん。決まったルールの中で戦いたい。

ヒカル 僕は小学生の頃から「ルールは破るためにある」と言ってましたね。

──勝ち方へのプロセスは正反対のようですね。

ヒカル 真っ向から勝負する花村くんのような人はカッコいいですよ。正々堂々と戦って、負けても立ち上がる……物語の主人公になれるタイプですよね。僕は不利な状況になったら潔く撤退します。確実に勝てる準備をしてからもう一度戦う(笑)。

ヤマンバメイクで花村の隣に

──ヒカルさんはユニットを組み、花村さんのボーカリストとしての実力を目の当たりにしていかがでした?

ヒカル レコーディングのときの素の声がCD音源と同じなんですよ。加工いらずで、すっぴんが圧倒的にきれい。僕は歌声に“ヤマンバメイク”しているようなものだから……。

花村 例えがオモロい(笑)。

──花村さんの隣で歌うプレッシャーはなかったですか?

UPSTART

ヒカル お互い別の才能があると思っているので、プレッシャーは感じませんね。“ワクワク”のほうがむしろ強い。YouTubeのコメント欄では「歌ヘタクソ」とか言われますけど、構わないんですよ。花村くんの才能を世に知らしめることが僕に求められていることだと思うので、普段からセールス手段をいろいろと考えてます。

──プロデューサーのような立場でもあるんですね。花村さんはUPSTARTでヒカルさんと、Da-iCEでは大野雄大さんとツインボーカルを担っています。

花村 Da-iCEとUPSTARTの音楽の決定的な違いは踊らないことですね。ほかに違いがあるとすれば、楽曲の作り方だと思います。僕は作詞作曲もやるんですけど、Da-iCEのときは自分が歌いたいように作って、UPSTARTではヒカルくんがどう歌うかを想像しながら書いていて。ヒカルくんが歌うとよく聞こえそうなフレーズを選んで組み立てています。UPSTARTの歌詞のほうが直接的な言い回しが多いかもしれませんね。

「才能」はもっといけた

──昨年8月の初共演から5カ月が経った今年1月に、UPSTARTは配信シングル「才能」でデビュー。MVの再生回数は189万回再生(2021年7月時点)を突破し、ユニットとして幸先のいいスタートを切りました。

ヒカル でも僕的には、まったく合格点に達してないですね。僕らではどうしようもない部分もあるんですけど、もっといけたなって思う。花村くんの才能はもっと世間に認知されるべきものなんです。

花村 僕も正直同じ気持ちですね。ヒカルくんの圧倒的な知名度があればもっといけたなと思うんですよ。ストリーミングでの再生回数は1000万回を超えてて、その数字はトップアーティストに匹敵するレベルなので、デビューわずかの僕らにとっては快挙なんですけど、MVの再生回数には悔いが残りますね。

ヒカル 多くの人にMVを観てもらおうと全力は尽くしたんですけどね。悔しいですけど、力を出しきったからこそ次の一手が見えたので、すごく勉強になりました。僕は世の中の大半のことは本気を出せばなんとかなると信じていて、例えば1億円を稼ぐことは誰でもできると思うんですよ。成功へのアプローチが無数にあるから、自分に合ったやり方が見つかればうまくいくんです。ヒット曲を作ることも同じで、条件を満たせば可能だと思ってます。今は僕らなりの方法をずっと探していますね。

──デビュー後の反響についてはいかがですか。

花村 Da-iCEのメンバーも含め周りから「ヒカルくんはホントに声がいいね」という感想をもらいました。自分のことのようにうれしかったですね。カルxピン(ヒカルと怪盗ピンキーによる音楽ユニット)のときのイメージをガラッと変えたいっていう思惑があったので、ヒカルくんにはレコーディングで何度も歌ってもらいました。その中でベストなテイクを選んだので、僕の理想に近いと言いますか。もちろんこれから活動を続けていけば、もっとよくなっていくはずです。