音楽ナタリー PowerPush - U-zhaan

これが最後かもしれないから、やりたいことを貫いた

使われなかったグランドピアノ

──そして次は坂本龍一のピアニカ、U-zhaanのアルトホルンによる「Technopolis」のカバー。ライブで観たことがある人はわかるだろうけど、なんの予備知識もない人が「U-zhaanと教授のコラボってどんな感じだろう」って思いながらこれを聴いたら、けっこうビックリするのでは。

まあそれはあるでしょうね。でも僕にとってこの曲は、教授やハラカミさん、大友(良英)さん、小山田さん、勝井(祐二)さんとも一緒にやったことがあるし、僕が吹ける数少ない曲だったりするので(笑)。

──アルトホルンはいつからやっていたんですか?

ASA-CHANG&巡礼のときに、ASA-CHANGから「湯沢くんは来週のライブでこれを吹いてください」って渡されて。できるわけないだろと思いながらやり始めた楽器ですね。もともと中学のときにユーフォニウムをやってたから音は出せたけど、今でもそんなにちゃんとは吹けないです。

──最後に教授が「イマイチだなあ」ってつぶやいてますよね(笑)。

心からそう思ったのかもしれないですね(笑)。

──なのになぜそれをOKテイクにしたのかという(笑)。

いや、一応何回か録ったんですけど他のはもっとイマイチだったんですよ(笑)。この曲はzAkさんが録ってくれたから、演奏はあんな感じなのに音がすごくいいんですよね。

──ははは(笑)。

zAkさんが「教授、ピアノを弾くって言いだすかもわからへんから」って言ってグランドピアノを調律してくれてたんですけど、教授は1音も出さずに帰っていきました(笑)。

──Corneliusをフィーチャーした「Homesick in Calcutta」はどうですか?

アルバムを作り終わってから最近聞いた話なんですけど、小山田さんはもともと軽快な曲調にしようと思ってたそうで。でもライブで一緒に演奏できるアレンジにしたほうが先々楽しいかもと思って、ギターとタブラだけで演奏できる曲に変えたらしいんですよね。

U-zhaan

──メロディアスな曲なのでタブラがけっこう多く必要そうですけど、ライブでできるんですか?

小山田さんは「絶対できないね」って言ってました(笑)。いっぱい音階使ってるけど、1個もピッチシフトとかしてないし、全部生の音だから。ちなみに「Homesick in Calcutta」ってタイトル、小山田さんが付けたんです。カルカッタにいる僕が「もう日本に帰りたいな」って思ってる感じの曲を作ったっていう。この曲はもうホントに超Corneliusプロデュースです。

──そして最後がサロード奏者のBabuiと、agraphを迎えた本格インド音楽の「Raga Mishra Kafi」。この曲を最後に入れるのは最初から決めてたんですか?

ほかの場所に置いたら、そこで寝ちゃうかもしんないからね(笑)。小山田さんとの曲ができたときに、そっちを最後にしようと思った瞬間もあったんだけど、そうするとインド音楽の置き場がなかった(笑)。

──すごく余韻が残る曲なので、あらかじめ最後に置くために作ったんだと思ってました。

普通、インド音楽ってだんだん盛り上がっていくものなんですけど、ゆっくりなテンポで始まって、ゆっくりなまんま終わっていく曲を作りたくて。あと、普通インド音楽には必ずタンブーラっていう弦楽器の音が入ってるんですよ。ビヨーン、って感じの持続音を常に鳴らし続けてて、他の楽器はそれに合わせて調律したりする。タンブーラが鳴ってると一気にインド音楽っぽく聞こえるんだけど、代わりにきれいな電子音をドローンに使ったインド音楽を作ってみたかったんです。

──あー、それでagraphが参加してるんですね。ドローンの音を出すために。

うん。だからagraphは基本的に、ドとソの音しか出してないの。曲の主旋律が変わるときに、そこに寄り添うようにフワッと音を入れたりとか、agraphのスタジオで2人でずっとやってました。

みんな僕のことをかわいそうに思ったみたいで

──インタビューの最初のほうで「これが最後かもしれない」とはおっしゃってましたが、次回作を作りたいという気持ちは自分の中にあるんですか?

いや、CDをもう出さないっていうつもりは全然ないんだけど。すでに録音が8割くらい終わってる別のプロジェクトの音源もあるし。ただ、自分の名義のソロアルバムっていうことになると、やっぱりそんなにないかも。今はちょっと考えられないです。

──「何年に1度」っていうゆっくりしたペースでなら出せそう、とかは?

うーん……何年かおきに破産していくの?(笑)

──これからがんばってコツコツ貯めていって、借金を返済し終わったら次のを作る(笑)。

でもまあ会社とか、そういうもんだよね。やっぱり自主盤リリースって相当大変ですよ。「すいません、JASRACってどうやって連絡するんですか?」とか1~2カ月前に聞いたら、みんな本気でビックリしてましたね。でもね、みんな僕のことをかわいそうに思ったみたいで、「なんでも手伝いますよ!」って言ってくれる人がどんどん出てきた(笑)。本当にみんないい人だなって思いました。めちゃくちゃ優しいですね、誰もかれもが(笑)。このアルバム、たくさんの人が聴いてくれたらいいよなー。

──ゲストもたくさん参加していますし、こういう内容だから今まで以上に多くの人に届きそうな気がしますけどね。U-zhaanっていうアーティストの名前が。

ホントかなあ(笑)。でも思ったより本気のアルバムだったでしょ?

──やっぱり話を聞いてると、またそう遠くない将来にソロ名義のアルバムが出そうだなと思いました。いつになるかはわかんないですけど。

いやー、今は本当にぐったりしてますよ。初回盤のパッケージが日を追うごとにエスカレートしていくのを見るだけで、うれしいけど不安も募ってぐったりしてくる(笑)。

U-zhaan
1stアルバム「Tabla Rock Mountain」 / 2014年10月8日発売 / Golden Harvest Recording
「Tabla Rock Mountain」ジャケット
初回限定盤 [CD] / 3240円 / GDHV-002
通常盤 [CD] / 2700円 / GDHV-003
収録曲
  1. Getting Ready / U-zhaan
  2. Chicken Masala Bomb / U-zhaan×HIFANA
  3. Tabla'n'Rap / U-zhaan×KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)
  4. Welcome Rain / U-zhaan×Ametsub
  5. 俺の小宇宙 / U-zhaan×ハナレグミ
  6. Flying Nimbus / U-zhaan×DE DE MOUSE
  7. Technopolis / U-zhaan×坂本龍一
  8. Homesick in Calcutta / U-zhaan×Cornelius
  9. Raga Mishra Kafi / U-zhaan×Babui×agraph
U-zhaan(ユザーン)
U-zhaan

1977年、埼玉県川越市生まれ。18歳の頃にインドの打楽器・タブラと出会い、修行のため毎年インドに長期滞在するようになる。1999年にはシタール奏者のヨシダダイキチを中心としたユニット・サイコババに参加し、2000年からはASA-CHANG&巡礼に参加。2005年にはsalmonとともに「タブラの音だけを使用してクラブミュージックを作る」というコンセプトのユニット、salmon cooks U-zhaanを結成する。この頃からインドでは、世界的なタブラ奏者であるザキール・フセインに師事。2010年にASA-CHANG&巡礼を脱退したのち、rei harakamiとのコラボ曲「川越ランデヴー」を自身のサイトで配信リリースした。またインド滞在時のTwitterの投稿をまとめた書籍「ムンバイなう。インドで僕はつぶやいた」「ムンバイなう。2」も話題に。現在は日本を代表するタブラ奏者として、ジャンルを超えた幅広いアーティストと共演している。2014年9月にはソロ名義での初のアルバム「Tabla Rock Mountain」をリリースした。