ディアンジェロになりたかった
──そんな経緯を経てついに実現した今回のコラボですが、一緒に演奏してみた印象は?
沖 第一声からビビッと引き込まれましたよね。歌がうまい人やカッコいい人はたくさんいますけど、アイナちゃんは予備知識なしで聴いても、地球の裏側で聴いても「あ、この人だ」ってわかる歌声なんです。AIには絶対出せない、圧倒的なものを持ってるなって。
アイナ うれしいです(笑)。
谷中 なんでそんな才能があるの? 子供の頃から今みたいに歌って踊ってきたのか、それともここで開眼したっていうアイナ・ジ・エンド誕生の瞬間があったのか。
アイナ 小さい頃はダンスだけだったんです。4歳からずっとジャズダンスとかコンテンポラリー、タップ、バレエなんかをお母さんがやらせてくれて。
谷中 お母さんも踊る人?
アイナ もともと歌手で、だけど夢が叶わなくてその夢の先を娘にやらせたかったのかな。歌の世界がとても厳しいことは知ってるから、私にはダンサーでがんばってほしいと思ってたみたい。
──松隈さんは以前インタビューで、BiSHのオーディションのときのアイナさんはもっとR&Bっぽい歌唱スタイルだったと話していました(参照:渡辺淳之介(WACK)+松隈ケンタ(SCRAMBLES)インタビュー)。
アイナ 当時19歳とかでR&Bやヒップホップが好きだったんですよね。ディアンジェロになりたい!みたいな気持ちでオーディションを受けたら落ちかけました(笑)。
谷中 じゃああとからロックに寄せていったんだ?
アイナ そうなんですよ。BiSHのレコーディングで松隈さんに「The Whoみたいに歌え」とか「ギターになれ」とか無茶なことを言われて(笑)。なので開眼したのは松隈さんのおかげかもしれないです。
「ァ信念は」が松隈節
──ボーカルレコーディングは松隈さんのスタジオで行ったそうですね。
加藤 BiSHの聖地、下北沢のスタジオですね。僕はアイナちゃんと松隈くんのやりとりが面白くてゲラゲラ笑いながら見てました。
アイナ 私、事前にプリプロしてから行ったんですけど、スタジオに入ってみたら松隈さんの譜割りが……。
加藤 だいぶ変えてたよね。
アイナ だいぶっていうか全部違ってた!(笑)
──どんなふうに違うんですか?
アイナ 例えば「信念は地中で結晶するルビーみたいだ」のところ、皆さんが聴いてくださってる歌は「ァ信念は」となってるんですよ。この「ァ」を入れたりするのが松隈節。
加藤 松隈くんが「ァ」を入れてって言ったとき、俺ちょっとそれはないだろうと思ったのよ。だけど実際歌ってみると「あ、いいかも」って(笑)。
アイナ 現場でのこういう指示は“BiSHあるある”だったんですけど、スタジオにいた谷中さんと加藤さんと大森(はじめ)さん、皆さん「え?」みたいな顔をしてらっしゃって。谷中さんなんてずっと笑ってましたよね。
谷中 どこだっけ、普通長く伸ばすようなところを「切って」って言ってたよね?
アイナ それはサビですね。「知りたくて / 潜り込んだ」のところ。最初「知りたくてー」って伸ばして歌ってたけど、直後のホーンの音に重ならないようにちゃんと拍で切ったほうがいいという話になったんです。ただ、松隈さんの言い方が「お前はさあ! 歌えるからってすぐ伸ばしたがりやがって!」って(笑)。
加藤 あはは。もう長嶋監督みたいというか、例えばだけど「息をいっぱい吸ってデカい声で歌うかと思いきや『ふぁー』ってちっちゃく歌う人いるじゃん? ああいう感じで歌って」とか言うんだよね。慣れてないと大変だろうなと思った(笑)。
──アイナさんにとってはBiSH解散以来初めて松隈メロディを松隈ディレクションで歌う機会だったわけで、やはり感慨もあったのでは?
アイナ そうですね。懐かしいだけじゃなくてお互い前に進んでる感覚というか、自分が成長したうえでまた歌えたといううれしさはありました。
加藤 松隈くんの指示をそのまま呑むだけじゃなくて、アイナちゃんの解釈で打ち返してたもんね。だから松隈くんはけっこう感動してましたよ。「アイナ成長したなあ」って唸ってた。
自分の身体と楽器ひとつだけ
──リハーサルからレコーディングまで、制作は楽しい時間だったみたいですね。
アイナ 今回スカパラさんとスタジオに入ったときに、大きいスタジオなのにパソコンとかがあんまりなくて、みんな自分の体と楽器ひとつだけ。全員が同じ空間でせーの!で演奏してる姿に感動しました。
加藤 昭和だよね。
アイナ 私より若い10代の人とかにもあの現場を見てほしい。このデジタル全盛の時代に体温をしっかり感じる制作空間というのは10年やってきたけど初めてで、本当に宝物みたいな経験になりました。
加藤 スタジオで同じ空気の中、同じモニタシステムでバンドと一緒にバンと歌える、それができるシンガーの人とやりたいなってのは思いますね。生演奏で存在感を発揮できるボーカリストとやりたい。
アイナ でもこれ、初めてだったら怖かったと思います(笑)。
加藤 そうだよね。大人が9人黙っていたら怖いんで、だから俺ら新しい人とやるときはめちゃくちゃ話しかけるようにしてる。だってGAMOさんと北原(雅彦)さんの間に入って歌うなんて、あれはなかなかの圧だから。
沖 自分だったら怖いもんね(笑)。
アイナ あとリハスタでは転がしのモニタで歌ったんですけど、けっこうカオスなんですよね。マイクで拾った音が全員分来るっていう、その体験も初めてだったし。
加藤 ドラムもフルショットしてるしね。
アイナ だからめっちゃ楽しくて、どこを聴いても音の粒があって、生命力がたぎる感覚がありました。
──演奏面ではストリングスが入っているのも印象的です。
加藤 門脇大輔ストリングス。彼らも松隈組というかBiSHでもおなじみですよね。すごくオリジナリティのあるソリッドな演奏をしてくださって。
沖 かなり攻めてた。ストリングスでしか出せないエモさがあるんだよね。
ソロ活動が充実してるから作れた曲
──今回の楽曲は松隈さんやストリングスの参加も含めて、BiSHを思わせるサウンドプロダクションが印象的です。これは意識して狙ったものなんでしょうか?
加藤 まあ松隈くんを呼べたのはこのタイミングだからですよね。なぜそれができたかというと、やっぱりアイナちゃんのソロが充実してるからなんです。今のアイナちゃんはBiSH時代からさらに先に進んで自分のスタイルを完全に確立してるし、それを更新し続けてる。今だったらBiSHっぽいことをしてもノスタルジーにはならないだろうと思ったんです。
アイナ 加藤さんは状況をいつも俯瞰して見てますよね。今回の制作もけっこう大きな決断だと思うんで本当にすごいなって。
加藤 この曲は自分の中でもよくできたなって思いますね。最近マジでずっと聴いてるし。
アイナ 私もです。
加藤 完成した直後も聴いてたんだけど、この間配信リリースされてからはずっとリピートしてる。頭のメロディが1回しか出てこないからリピートしがいがあるというか、あれで無限ループに入れるんだよね。
沖 松隈マジックだね。
谷中 Aメロの低音もいいんだよ。この味はほかの人には出せないなって思いながら聴いてます。
加藤 ファンの人のコメントを読んでると涙が出そうになるんだよね。
──SNSやYouTubeのコメントを見ると清掃員(BiSHファンの呼称)がこの曲を歓迎しているのがわかります。最後にアイナさんから清掃員の皆さんに伝えておきたいことはありますか?
アイナ 歌詞の後半の「運命を / 諦めない / ひとりぼっち / 崖っぷちルビー」のところ、BiSHだったアイナ・ジ・エンドが歌うことでよりいっそう伝わるのかなって思いながら歌ってました。仮歌詞の段階からこの4行が好きで、崖っぷちでも生きてやるんだみたいな感情、演奏の生命力の大きさ、このちょっとはかないワードと松隈さん節、すべての化学反応がうまくいってると思う。清掃員の人にここが届いてほしいなって思ってます。
ライブ情報
[SKA]SHOWDOWN
2026年3月31日(火)東京都 東京ガーデンシアター
<出演者>
東京スカパラダイスオーケストラ / ALI / Chevon / TK(凛として時雨) / 稲葉浩志 / アイナ・ジ・エンド
プロフィール
東京スカパラダイスオーケストラ(トウキョウスカパラダイスオーケストラ)
NARGO(Tp)、北原雅彦(Tb)、GAMO(Tenor Sax)、谷中敦(Baritone Sax)、沖祐市(Key)、川上つよし(B)、加藤隆志(G)、大森はじめ(Per)、茂木欣一(Dr)からなるスカバンド。1989年のデビュー以降、インストゥルメンタルバンドとしての確固たる地位を築く中、日本国内に留まることなく世界32カ国での公演を果たし、世界最大級の音楽フェスにも多数出演。2021年8月には「東京2020オリンピック競技大会」の閉会式でライブパフォーマンスを披露した。2024年にデビュー35周年を迎え、スカパラがバンドのテーマとして掲げる“NO BORDER”を冠した3部作「一日花 feat.imase & 習志野高校吹奏楽部」「あの夏のあいまいME feat.SUPER EIGHT」「散りゆく花のせいで feat.菅田将暉」を3カ月連続リリースし、10月に記念アルバム「35」を発売。11月には阪神甲子園球場で初のスタジアムライブ「スカパラ甲子園」を成功させた。2025年3月にベストアルバム「NO BORDER HITS 2025→2001 ~ベスト・オブ・東京スカパラダイスオーケストラ~」をリリース。9月にはコラボ相手にB'zの稲葉浩志を迎えたシングル「Action (VS. 稲葉浩志)」を発表。2026年1月、アイナ・ジ・エンドを迎えた「崖っぷちルビー(VS. アイナ・ジ・エンド)」を配信リリースし、3月に“VS.シリーズ”の楽曲を収録するオリジナルアルバム「[SKA]SHOWDOWN」を発売する。
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アイナ・ジ・エンド
2015年から2023年まで“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーとして活躍。2021年に1stソロアルバム「THE END」を発表し、本格的にソロ活動を開始する。2022年に日本初上演となるブロードウェイミュージカル「ジャニス」で主演のジャニス・ジョプリン役を務め、2023年に岩井俊二監督による映画「キリエのうた」で映画初主演を務めた。2024年1月に東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でBiSH解散後初のワンマンライブ「BACK TO THE(END)SHOW」を行い、9月には東京・日本武道館で単独公演「ENDROLL」を成功させた。同年11月に3rdソロアルバム「RUBY POP」をリリース。2025年7月にテレビアニメ「ダンダダン」第2期オープニングテーマとして配信リリースした「革命道中」が大ヒットを記録し、大晦日の「NHK紅白歌合戦」にソロとして初出場した。
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