TRIX「CoverX」|日本を代表するフュージョンバンドがアニソンをカバー、新旧の名曲と向き合い感じたその魅力とは (2/2)

超うまいミュージシャンが「ウィーアー!」を弾いたら

──そして6曲目「ウィーアー!」(アニメ「ワンピース」オープニングテーマ)は、原曲の王道感が大切に残されていますね。

佐々木 そうですね。この曲は「となりのトトロ」のようにぶち壊さないで、ストレートにメンバーの演奏でアップグレードしようと意識していて、ライブでの僕らをそのまま感じられるような曲になったと思います。

須藤 ベースに関して言うと、僕は音を歪ませることはこれまでも数えるぐらいしかないんですけど、この曲は速いテンポの曲調で「スラップでやってほしい」という話だったので「じゃあその代わり音を歪ませたい」と言って、珍しく歪ませて弾いていきました。

熊谷 ドラムソロも大変でしたよ。だってさ、BPM170の16分音符って……。

須藤 本当だよ。なんでもできると思うなよ(笑)。

佐々木 いやいや、皆さんがライブでも演奏できるのは知っていますから。超うまいミュージシャンが「ウィーアー!」を弾いてみたらこうなった、というやつです(笑)。

──次の「Cagayake! GIRLS」は、アニメ「けいおん!」のオープニングテーマですね。

須藤 この曲はまったく知らなかったんですけど、聴いてみると「廻廻奇譚」と同じように最初のメロディがあまり動かないので、どうしようかなと。それで、アレンジをするときにまずは自分でメロディを取ろうと決めました。

──なるほど、それで最初にベースがメインを取っているんですね。

須藤 ほかの曲のアレンジも聴いていく中で、「ベースでメロディを取るのはこの曲以外にはないな」とも思ったんですよ。あと、この曲はシャッフルビートにしたのもよかったのかな。原曲のパーツを解析して、それをあのテンポのシャッフルに当てはめていきました。

TRIXならではの“THE J-FUSION”的な仕上がりに

熊谷 次の「摩訶不思議アドベンチャー!」(アニメ「ドラゴンボール」オープニングテーマ)は私がアレンジをしています。もともとメロディ的にはドンッ!と強い雰囲気があるので、それをちょっとクールな、おしゃれな雰囲気に変えていきました。「こんなコードを入れるんだ」という凝ったものにしましたね。

佐々木 僕は世代だから弾くたびに喜びがほとばしっていました。

宇都 僕も「ドラゴンボール」は大好きで全部観ているんですよ。この曲のソロも熊谷さんと一緒に作り込みました。

──一方で「CHA-LA HEAD-CHA-LA」(アニメ「ドラゴンボールZ」オープニングテーマ)は、「ドラゴンボール」感は残しつつ、皆さんらしさが出ていますよね。

佐々木 特にイントロは大事だと思ったので、原曲のものを延ばしています。あと、Aメロの宇都くんのメロディがすごくよかったです。歌がインストに代わると劣化してしまうというか単調になりがちですけど、シンセでこんなに歌えるのは素晴らしいなと思って。歌の緊張感をシンセのメロディでキープしているのがカッコいいのでぜひ聴いてほしいです。

佐々木秀尚(G)

佐々木秀尚(G)

──最後は、「ようこそジャパリパークへ」(アニメ「けものフレンズ」オープニングテーマ)のカバーです。

佐々木 「となりのトトロ」と同じでぶち壊し系のアレンジです(笑)。この曲は僕もほかのところで演奏したことがあって、アレンジの種類としてもわりとやり尽くされているので、TRIXならではのものにしたいと思って“THE J-FUSION”的な仕上がりをイメージしました。もともとの曲が大好きな人からすると賛否両論あるかもしれないですけど、イメージとしてはカフェでこのCDが流れてきたときに「これって『ジャパリパーク』かな?」と気付いてほしくて。ラテンの要素を取り入れつつ、おしゃれなピアノソロも入っているし、「自分は何を聴いているんだろう?」という気分になってもらえたら嬉しいですね。

熊谷 手を振って「みんなありがとう!」というような、ラストにふさわしい雰囲気に仕上がりましたよね。

TRIXが考えるアニソンの魅力

──今回カバーしてみて、アニソンの魅力や特徴について感じたことはありますか?

熊谷 まずはやっぱり耳に残る曲が多いということですね。

──アニソンの場合、89秒という短い時間の中でどれだけ印象を残せるかが大事ですもんね。

熊谷 そうですよね。だからこそメロディが強いし、そこにご機嫌なアレンジが盛り込まれている。しかも、アニメのキャラクターの気持ちも乗ってくるわけですから、さらにやられます。アニメの世界観と音楽が結び付いているがゆえの強さを感じますね。

佐々木 「これが正解だろう」「これを多くの人がいいと思っている」という確固たる完成形がすでにあるので、オリジナル曲とは違って、曲そのものの良し悪しを突き詰めていく心配がなかったことも僕らにとっては大きな発見でした。今後の曲作りにも影響がありそうです。

──宇都さんの場合は、普段から2次元カルチャーのお仕事もされていますね。

宇都 そうですね。アニソンは特にですけど、作品の世界観に結びついた歌詞があって聴いただけで作品のことを感じさせる楽曲ばかりなので、それをインストにする(=歌詞をなくして演奏する)のって、本来すごく難しいんですよ。そこで今回、メロディを楽器で鳴らすにあたって「ニュアンスを大事にする」というのは意識しました。なのでアニソンカバーなんだけど、アニソンにはない魅力も表現できたのかなと思います。

──間違いなく新しい試みが詰まった作品だとは思うのですが、“いろんな角度から楽しいことを考える”というエンタメ精神はTRIXらしいなと感じました。

熊谷 そう言ってもらえるとありがたいです。それはつまり、「TRIXの音になっていた」ということだと思うので。僕らがいるフュージョンの世界は、基本的に「天才で当たり前」という世界で、変な話、演奏がうまいだけでは普通なんですよね。本当の天才はどういうものなのかと考えると、技術や技巧のようなものを越えて、「なんかすごいぞ」と感じさせてくれるプレイヤーのことだと思っていて。なので、その天才だらけの世界で「何を楽しんでもらえるか?」を考えることが大事だと思うんです。そういう意味でも、今回の「CoverX」ではいいものを残せたのかなと思います。

──フュージョン好きなリスナーはもちろんのこと、この作品を通してアニソンの世界から初めてフュージョンに触れる人もいるかもしれませんね。

熊谷 そうなってくれるととてもうれしいですね。

宇都 アニソンを好きな人たちの中には、フュージョンという言葉すら知らない人も多いと思うので、今回の作品をたくさん聴いてもらって、「こういう世界もあるんだ」ということを知って楽しんでいただけたらうれしいです。

宇都圭輝(Key)

宇都圭輝(Key)

──TRIXの今後について、何か考えていることはありますか?

熊谷 僕らは1年に1枚アルバムを出してるから、通常通りでいくとオリジナル曲のアルバムが今年も出ることになると思うので、「どんな感じにしましょうかね?」と考えているところです。次のアルバムでも面白いことをしたいですし、新しく加わってくれた宇都ちゃんを大フィーチャーして、その魅力を伝えられるような作品にもしたいですね。

佐々木 バンドとしても、また新しい風が入って、すごくいい雰囲気になっていて。宇都くんはシンセの音作りも素晴らしいし、メロウなものも得意だと思うので、いい形で化学反応できるような感覚もしています。今回、アニソンカバーをやったことで、アレンジの切り口も広がった感じがするし、ある意味インストになったことで言葉の壁を越える部分もあると思うので、世界のいろいろなところで聴いてもらって、フュージョンが広がったらいいなと思いますね。

須藤 アニソンフェスとか出てみたいよね。

佐々木 出たい!

須藤 TRIXを知らない人も聴いてくれるような場所で、今回の「となりのトトロ」のアレンジをやったらどうなるのか見てみたい(笑)。

宇都 僕としては、TRIXの皆さんは尊敬する方々ばかりなので、サポートとはいえ一緒に演奏できること自体が大変光栄である一方で恐縮にも思っていて……。毎日練習に励んでいるところです。今までのTRIX以上にいいものにできるようにがんばりたいと思います。

プロフィール

TRIX(トリックス)

元カシオペアの熊谷徳明(Dr)を中心に2004年に結成されたフュージョンバンド。同年4月発表のアルバム「INDEX」でメジャーデビューを果たす。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在は熊谷、須藤満(B / ex. T-SQUARE)、佐々木秀尚(G)、スペシャルサポートメンバーの宇都圭輝(Key)の4人で活動している。2021年12月にはバンドにとって初となるカバーアルバム「CoverX」を発表した。