音楽ナタリー Power Push - 冨田ラボ

本人解説で迫る新世代と作った極上ポップス集

雪の街
feat.安部勇磨

安部勇磨

この曲はサビの後半が、2014年の「作編曲SHOW」で録ったものです。安部さんはああいう特徴的な声をしてるから、アップテンポなものではないほうがいいと思って、ミディアムの曲を書きました。それをフレーズサンプリングで作って、歪んだギターのサウンドを加えて、歌入れまではやったんです。そこからサウンドをほぼ全とっ替えにしたのが、今聴いていただける「雪の街」です。

──何があったんですか?

これはボーカルに問題があったからではもちろんなくて。安部さんの歌詞もとてもよくできてました。サウンドを変えたのは歌入れしてからだいぶあとなんです。作曲時にはバリエーションを付けるつもりでサンプルで構築したサウンドが、ほかの曲にもいろいろサンプルを散りばめているうちにバリエーションではなくなってしまって。それで安部さんの歌詞とか歌い回しを聴き直して、コードとかも全部変えて、これは演奏したほうが情景が見えやすいんじゃないかと思って。イントロのコーラスのフレーズが浮かんだことがきっかけになりました。今は時間軸に関してはコンピュータで管理されているので、ボーカルはそのままで全部演奏し直せばいい。テクノロジーの恩恵はいろいろあるけれども、音楽的なアイデアをいつでも自由に実行できることこそが恩恵だと思います。

──これまた安部さんが所属しているnever young beachとは違うタイプの曲になりました。

安部さんは16ビートにもちゃんと適応して、いい歌を歌ってくれたんです。もしかすると最初に歪んだギターを入れたオケを作った時点では、彼が普段やってる音楽に近いフォーマットの方が歌いやすいだろうという気持ちも少しあったのかもしれない。歌録りの彼の声にインスパイアされて、最終的にソウルっぽさが増えました。

笑ってリグレット
feat.AKIO

AKIO

この曲は歌を録ったあと、テンポを倍にしたんです。最初はミディアムでマイナーっぽい曲だったんです。そこにサックスソロを入れて、最後の最後にオケを全部変えて。それも全体のバランスが理由なんです。すべての曲ができたときに「笑ってリグレット」に関してほかでやっていないバリエーションはないかなと考えたとき、AKIOさんのボーカルは非常にアタックが効いてリズミカルだから、そこをもっと助長させたほうがいいなと思って。

──AKIOさんがボーカルで参加しているSugar's Campaignもシミュレーショニズムを実践しているポップユニットですが、どういう印象をお持ちですか?

もちろんいい音楽を作ってるし、彼らの年代が思うシティポップというのはああいうものなんだろうな、面白いなと思いました。AKIOさんも歌がうまいですよね。ほかの人のメロディを歌うことにまったく抵抗がないとおっしゃっていて。今回参加してくれた方は自分で作って歌う人が多いんだけど、彼は純粋なボーカリストで、作曲者の意図をどれだけ汲んで歌うかという部分に関して一番慣れてる感じがしました。だからいろんなアプローチもできるし、すごく安心感がありましたね。

冨田魚店
feat.コムアイ

コムアイ

「笑ってリグレット」までが今年1月にまとめてレコーディングしたものなんです。そのあとはプロデュース仕事をしながら、各アーティストのタイミングを見ながらレコーディングをしていたんですけど、ようやく年末の時点から打診していたコムアイさんから「ここならできる」というお返事をいただいて。顔合わせで話をしたとき、ご本人はラップよりも歌いたいと思っている感じがしたんです。

──でもまさか魚屋さんの歌になるとは。予想外だったんじゃないでしょうか?

はははは(笑)。水カンとして歌詞を書いてほしいというのは僕が言ったことなんです。冨田ラボだとボーカリストと違う作詞家を呼ぶ場合もあるから、彼らはそれでも全然いいみたいな感じだったんですけどね。楽しみに歌詞を待っていたら、僕の名前が入ってて、「おやおや」と(笑)。タイトルから魚屋さんの話だろうなとは思ったけど、すごく上手な歌詞だったんです。リズムに対する言葉のはめ方とか、若干切ない感じとか。あとでうちの奥さんに見せたら大笑いしながら「最高」って言ってました(笑)。

──歌詞を読んだだけで、躍動感が伝わってきました。

冨田恵一

築地市場があんな大騒ぎになる前に書かれた歌詞だから天才ですよね。メタファーがいっぱいある非常に曲にハマった歌詞だったので、仮歌録りの日にケンモチ(ヒデフミ / 水曜日のカンパネラ)さんに最高じゃないかって言ったら、「よかった。冨田さんの名前入れちゃったんで何か言われるかなと思ってたんです」って(笑)。

──コムアイさんは現代ジャズ的なアプローチにも非常にハマってました。

声がすごく魅力的ですよね。彼女は声に感情を乗せるのが上手ですね。そのときメロディに対して感じた彼女自身の気持ちや状態がすごく声に出るんです。すごく仕事もやりやすかったですし、インプロビゼーションでもいいのをいっぱいやってくれて楽しかったです。

ニューアルバム「SUPERFINE」2016年11月30日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
完全生産限定盤 [CD+DVD+BOOK] 4536円 / VIZL-1040
通常盤 [CD] 3240円 / VICL-64627
CD収録曲
  1. SUPERFINE OPENING(instrumental)
    [作曲・編曲:冨田恵一]
  2. Radio体操ガール feat.YONCE
    [作曲・編曲:冨田恵一 / 作詞:かせきさいだぁ / ボーカル:YONCE(Suchmos)]
  3. 冨田魚店 feat.コムアイ
    [作曲・編曲:冨田恵一 / 作詞:ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ) / ボーカル:コムアイ(水曜日のカンパネラ)]
  4. 荒川小景 feat.坂本真綾
    [作曲・編曲:冨田恵一 / 作詞:堀込高樹(KIRINJI) / ボーカル:坂本真綾]
  5. ふたりは空気の底に feat.髙城晶平
    [作曲・編曲:冨田恵一 / 作詞・ボーカル:髙城晶平(cero)]
  6. Bite My Nails feat.藤原さくら
    [作曲・編曲:冨田恵一 / 作詞:鴨田潤(イルリメ、(((さらうんど)))) / ボーカル:藤原さくら]
  7. 鼓動 feat.城戸あき子
    [作曲・編曲:冨田恵一 / 作詞:若林とも(CICADA) / ボーカル:城戸あき子(CICADA)]
  8. 雪の街 feat.安部勇磨
    [作曲・編曲:冨田恵一 / 作詞・ボーカル:安部勇磨(never young beach)]
  9. 笑ってリグレット feat.AKIO
    [作曲・編曲:冨田恵一 / 作詞:Avec Avec(Sugar's Campaign) / ボーカル:AKIO]
  10. SUPERFINE ENDING(instrumental)
    [作曲・編曲:冨田恵一]
完全生産限定盤DVD収録内容

TOMITA LAB STUDIOやRed Bull Studios Tokyoで撮影された、本アルバム制作の全容が分かるレコーディングドキュメント映像を収録。

isai Beat presents 冨田ラボ LIVE 2017

2017年2月21日(火)東京都 LIQUIDROOM

冨田ラボ / 冨田恵一(とみたらぼ / とみたけいいち)
冨田ラボ

1962年生まれ、北海道旭川市出身。大学在学中にギタリストとしてミュージシャン活動を開始し、1988年にはユニット「KEDGE」でアルバム「COMPLETE SAMPLES」を発表。1990年代後半にはプロデューサーとしてのキャリアをスタートさせ、最初に手がけたキリンジが圧倒的な支持を得る。2000年にはMISIA「Everything」がダブルミリオンセラーを記録。2003年からはソロプロジェクト・冨田ラボの活動も並行して行い、「Shipbuilding」「Shiplaunching」「Shipahead」という3枚のアルバムを発表した。2011年3月にはプロデューサーとしてのキャリアをまとめた初のベストアルバム「冨田恵一 WORKS BEST ~beautiful songs to remember~」を、2013年10月には原由子、横山剣、椎名林檎、さかいゆうをボーカルとして迎えた4thアルバム「Joyous」を発表した。2014年に初の音楽書「ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法」を刊行し好評を博す。2016年11月に若手ボーカリストを起用した5thアルバム「SUPERFINE」をリリースした。