戸松遥|カラフルに染まった10年間、そしてその先へ

今こそ歌いたい80年代アイドル系ソング

──作品タイトルが「COLORFUL GIFT」で、1曲目が「オレンジレボリューション」、2曲目が「モノクロ」(2016年10月発売の17thシングル「モノクロ / Two of us」)と、まさに色をモチーフにしたアルバムになっていますね。

でも、2曲目でいきなり色を失うという(笑)。「モノクロ」は既存曲なので、たまたま色をモチーフにした曲が並びました。

──曲順も緩急があっていいですね。「モノクロ」はクールなロックナンバーで、続く3曲目「痛快!ロマンチッカー」(16年2月発売の16thシングル「シンデレラ☆シンフォニー」カップリング曲)も同じくロック路線の曲ですが、ちょっと色合いが違います。「痛快!ロマンチッカー」は、戸松さんのディスコグラフィの中でもかなり振り切った曲では?

戸松遥

その通りですね。この曲でしかやっていない歌い方をしていると言っても過言ではないです。雑に歌うと言ったら言葉が悪いですけど、荒々しく歌ったほうがハマる曲だと思っています。

──ガレージロック的な音作りをされていますし、おっしゃる通りボーカルもパンクなものになっています。

ただ、雑に歌うのってすごく難しいんですよ。ボーカリストとして上手に歌いたいという気持ちはあるんですけど、この曲に関してはそれは二の次でいいんだと割り切りました。そういう意味ではすごく挑戦的な、「ここまで振り切っちゃっていいんだ」と思える曲でしたね。

──そんなロックゾーンからの4曲目「約束♥ダーリン」は、「Baby Baby Love」(2010年11月発売の7thシングル)を思わせるアイドルソングっぽいミディアムチューンです。こういったガーリーな曲も戸松さんのカラーの1つですよね。

私がデビューして間もない頃のシングルって、それこそ80年代アイドル系の曲が多かったんですよ。でも、それってまだ私が生まれていない時代のものだから想像で歌うしかなかったし、歌っている私自身も当時は十代だったので、表現の引き出しも少なくて。それが10年活動してきた今になって、80年代アイドルの楽曲のよさや表現のかわいさがわかるようになったと言うか。今の私でひさしぶりにそういう曲を歌ってみたいと思ったのが、この「約束♥ダーリン」が生まれたきっかけです。

──歌声も、先の「オレンジレボリューション」のようなアッパーチューンや「モノクロ」のようなシリアスな曲とは違うものになっていますね。

全然違いますね。一番穏やかな心境で歌えるのがこういったアイドルっぽい曲だったりします。曲のおかげで自分もかわいい女の子になれたような気分になりますよね(笑)。

未来は「迷い楽しむ」もの

──5曲目「シンデレラ☆シンフォニー」は四つ打ちのダンスミュージック寄りのナンバーです。それを引き継ぐ形でシンセポップ要素の強い新曲「Marble」が6曲目に続くのもいい流れですね。

私もここの流れがすごい好きです。聴いていて心が浄化されるパートだなって。

──浄化(笑)。たしかにどちらも透明感のある曲ですが、「Marble」はだいぶキーが高めですよね。

そうですね。私の楽曲の中でも、かなりキーが高めに設定された曲だと思います。でもこのキーじゃないとかわいさは出ないなと。実際この曲ではキーチェックをして、もとのキーより半音下げて歌ってみたりもしたんですけど、それだけで曲の印象がガラッと変わってしまったんですよ。なので、もとの高いキーのまま歌わせてもらいました。

──キーは高いのに、ボーカルはふわっと乗っていますよね。

戸松遥

この声の出し方にたどり着くまでに、レコーディング中にいろいろと探りましたね。私はあえてノープランでレコーディングに臨んで毎回その場で探っていくタイプなんですけど、「Marble」ではもっと力を抜いて歌ってみたり、逆に声を張ってみたりという微調整を繰り返して。その歌い方の方向性が「ここだ!」と決まった瞬間に、勢いで録れました。

──「Marble」の歌詞も「行きたい場所は 迷い楽しむ未来 願いをいつも 詰め込み踏み出すの」といった、出たとこ勝負みたいなノリがまた戸松さんらしいですね。

あはは(笑)。マーブル柄って形が定まらないと言うか、つかみどころがない感じがあるじゃないですか。やっぱり未来は不確かなものだし、「迷い楽しむ」しかないですよね。あと、この曲の主人公はヒロイン然とした女の子なんですけど、そういう女の子の心模様もきっとマーブル柄なんだろうなと思います。

──7曲目「Two of us」と8曲目「あなたの幸せに私がなれるなら」(2017年10月発売の18thシングル「有頂天トラベラー」カップリング曲)はいずれもバラードで、ここはしっとり聴かせるゾーンになっていますね。

今回のアルバムには、新曲としてバラードは入れたくなかったんですよ。と言うのも、前のオリジナルアルバム(2015年3月発売の3rdアルバム「Harukarisk*Land」)を出してからここ3年くらいの間に、自分のバラードへの向き合い方が変わったなという実感があって。やっぱりバラードって、アップテンポの曲よりも歌詞が入ってきやすいし、だからこそ思いも伝わりやすいじゃないですか。そういう表現がすごく楽しいなと感じていたときに歌ったのがこの2曲だったんです。

──戸松さんのバラード表現は、この2曲に集約されているように思えますね。

ある意味、とても濃い2曲なので(笑)。だから今回のアルバムには新しいバラードは必要ないと思ったんです。特に「あなたの幸せに私がなれるなら」はズーンと重いラブソングなんですけど、1曲に対する重みを感じてもらえたらうれしいです。

みんなでタオルを回すためだけに作った曲

──で、その重みを続くポップなパンクナンバー「STEP A GO! GO!」(2015年9月発売の15thシングル)がいい意味で吹き飛ばし、そのテンションのまま新曲「Boom Boom Typhoon!」へ。

「Boom Boom Typhoon!」もライブありきで作った曲で、私にはアーティスト活動を始めた当初からずっとやりたかったことがあったんです。それは、ライブでタオルを回すこと。つまりいわゆる“タオル曲”がほしかったんですよ。それで、今回「そろそろタオル曲やりませんか?」とリクエストしたら採用されまして。疾走感のある曲で、歌詞には“回転”をイメージさせる言葉を盛り込んでくださいと作家さんにお伝えしました。

──「とにかくタオルが回したいんです」と。

はい、会場のみんなで。そのためだけに作った曲と言っても過言ではないです。私のライブは、一体感をすごく大事にしているんです。タオルを回すというのはみんなの心を1つにするための手段の1つにすぎないんですけど、デビュー10年目にしてようやく念願が叶ってとてもうれしいです!

──この曲はライブ映えしそうですが、歌声はただ明るいだけではない。ある種の憂いを伴っていますよね。

戸松遥

たぶんそれって、デビューしたての頃はできなかった表現ですね。当時は「明るい曲? じゃあ明るく歌いましょう!」としか考えられなかったので。でも10年活動してきて、多少は大人になった今だからこそそういったニュアンスも付けられるようになったんだと思います。特にこの曲はDメロでちょっと音が落ちたときに、ABメロやサビとのギャップが生まれるんです。そこをどう表現するかがポイントだなと。

──先ほど“タオル曲”とシンプルな言葉で表現されましたが、そのニュアンスの付け方も含めて、実は新曲の中でも特にテクニカルな曲では?

確かに。Dメロ以外は勢いでできている曲なので、呼吸をするタイミングが難しくて。それに勢いでできているからといって勢いで歌えるかと言うとそうじゃなくて、テンポが速い分だけ歌詞をちゃんと伝える滑舌のよさが求められるんですよ。でも滑舌に気を取られると、ニュアンスや感情が置いてけぼりになっちゃうので、それを両立するという意味では一番難しかった曲かもしれないですね。

「未来」が散りばめられたアルバム

──「Boom Boom Typhoon!」の歌詞には「踏み出していつも 探し物に気づいたから」という一節がありますが、これは先ほどの「Marble」にあった「詰め込み踏み出すの」とつながっているのかなと思いました。また、「約束♥ダーリン」でも「ねえ 大きな一歩を 踏み出したい頃でしょ?」と歌われています。

確かに、言われてみれば。古屋さんが、「何事も踏み出さないことには始まらない」というメッセージを私に託してくれたのかな? 私も今回のアルバムの曲には何かしからつながりがあるように感じているんですよ。1曲1曲は1枚の絵として完成しているんだけど、全部並べてみたら大きな別の絵になっている、みたいな。

──「探し物」という言葉も、「オレンジレボリューション」で「探し物は 一緒に探そう」という形で出てきますね。

そうそう。

──あと、「未来」という単語が新曲すべてに、もっと言うと「シンデレラ☆シンフォニー」と「有頂天トラベラー」以外の全曲に使われている。

すごい!

──それはどうしてだと思います? なぜ作詞家は戸松遥に未来を歌わせたいのか?

あはは(笑)。今回のアルバムは、ベスト盤(2016年6月発売の「戸松遥 BEST SELECTION -sunshine-」「戸松遥 BEST SELECTION -starlight-」)を出して、一区切りつけたあとに初めてリリースするアルバムなんですよね。だから私の中ではある意味リスタートと言うか、“戸松遥第2章”みたいなイメージで作ったアルバムでもあって、それこそ未来を見据えているんです。その思いを、制作チームの皆さんが汲み取ってくださったのかもしれないですね。

戸松遥「COLORFUL GIFT」
2018年5月2日発売 / ミュージックレイン
戸松遥「COLORFUL GIFT」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
3600円 / SMCL-536~7

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戸松遥「COLORFUL GIFT」通常盤

通常盤 [CD]
3100円 / SMCL-538

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CD収録曲
  1. オレンジレボリューション
  2. モノクロ
  3. 痛快!ロマンチッカー(余裕SharkShark mix)
  4. 約束♥ダーリン
  5. シンデレラ☆シンフォニー
  6. Marble
  7. Two of us
  8. あなたの幸せに私がなれるなら
  9. STEP A GO! GO!
  10. Boom Boom Typhoon!
  11. 有頂天トラベラー
  12. 色彩日記
初回限定盤DVD収録内容
  1. 「オレンジレボリューション」 Music Clip
  2. Album「COLORFUL GIFT」TV SPOT 15sec+30sec

ツアー情報

戸松遥「LAWSON presents戸松遥 5th Live tour 2018 ~COLORFUL GIFT to YOU~」
  • 2018年7月28日(土)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2018年7月29日(日)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2018年8月11日(土・祝)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2018年8月12日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2018年8月18日(土)東京都 Zepp Tokyo
  • 2018年8月19日(日)東京都 Zepp Tokyo
  • 2018年9月8日(土)東京都 中野サンプラザホール
  • 2018年9月9日(日)東京都 中野サンプラザホール
戸松遥(トマツハルカ)
戸松遥
1990年2月4日、愛知県生まれの声優アーティスト。2005年10月に行われた「第1回ミュージックレインスーパー声優オーディション」の合格をきっかけに声優としての活動をスタート。2008年9月にはシングル「naissance」でソロアーティストとしての活動を始め、2009年2月には同じミュージックレインに所属する寿美菜子、高垣彩陽、豊崎愛生とともに声優ユニット・スフィアを結成した。以降はソロとスフィアを並行して精力的に活動し、CDリリースとライブを重ねる。2016年6月には初のベストアルバム「戸松遥 BEST SELECTION -sunshine-」「戸松遥 BEST SELECTION -starlight-」を2枚同時にリリース。同年8月よりベストアルバムを携えてのライブツアー「LAWSON presents 戸松遥 BEST LIVE TOUR 2016~SunQ&ホシセカイ~」を行った。2018年5月に約3年2カ月ぶりのオリジナルアルバム「COLORFUL GIFT」をリリース。本作を携えて、7月よりライブツアー「LAWSON presents戸松遥 5th Live tour 2018 ~COLORFUL GIFT to YOU~」を開催する。

2018年5月2日更新