とけた電球が4月に事務所を独立。独立のタイミングに合わせ、4カ月連続で新曲を配信リリースした。
2012年に結成され、2018年からホリプロの音楽事業部に所属していたとけた電球。中毒性のあるサウンドと共感性の高い歌詞で順調にリスナーを獲得してきた彼らが、長年活動をともにした事務所を離れ、独立の道を選んだのはなぜなのか。
さらに彼らは、4月に「桜吹雪」、5月に「運命じゃなかったな」、6月に「七夕I need you☆彡」、7月に「エピソード」という4作品を連続でリリースし、新たに進み出した道で渾身のスタートダッシュを決めた。これらの楽曲を通じ、とけた電球が今何を考えているのか、バンドの現在地とこれからについてメンバーに話を聞いた。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 山崎玲士
僕が歌えばポップスとして成立する
──現メンバーになって6年目のとけた電球ですが、自己紹介するとしたら、今のバンドのことをどのような言葉で語りますか?
岩瀬賢明(Vo, G) 「好きなポップスを作ってるバンド」ですかね。最初の頃は僕だけが作詞作曲をしていたんですが、今はメンバー全員で曲を作ります。でも音楽性はバンドを始めた頃からずっと変わっていない気がします。
──「ポップス」というのは具体的に言うと?
境直哉(Key) そこの定義はメンバーそれぞれ違うかもしれません。僕は作り手のための音楽じゃなくて、聴き手のための音楽がポップスだと思っています。ポップスは音楽家のためではなく時代のためのものだから、必ずしも作り手にとってパーソナルじゃなくていいと思っています。
岩瀬 僕は境とは違って、自分の思っていることを曲の中に入れたいです。だけど聴く人にとっての救いとか、共感できる音楽になっていたらいいなとも思っているので、「聴き手のための音楽を」という意識でバンドをやってるのは一緒だと思いますね。
──「ポップス」以外に4人の柱になっているキーワードはありますか?
高城有輝(Dr) 「歌」ですかね。岩瀬の歌がこのバンドの命だと思うし、歌を聴かせるために何をするかということは常に考えていて。僕と境はジャズやプログレが好きで、そういう音楽をずっとやってきたんですよ。だから「歌を聴かせたい」という気持ちが一番にありつつ、「歌のないところでは、楽器隊もちょっと変なことをやりたい」という気持ちもあったりして。そのあたりは、バランスを取りながらやっていますね。
よこやまこうだい(B) 僕らは聴いてきた音楽がバラバラなバンドだからね。個人的に「ポップスとは」と意識することはあまりないんですけど、どんなアレンジがきても柔軟に対応できるようにしたいと常に考えています。結果的にバンドとしてうまいことまとまっているんじゃないかなと。
境 最近の自分たちは、よりバンドらしくなってきたなと思っていて。ボカロ系のミュージシャンや宅録っぽいサウンドを混ぜるミュージシャンも増えている中で、自分たちは生楽器にフォーカスした、バンドっぽいサウンドにアイデンティティを見出しているように思います。「これが自分たちらしさだ」と話し合って決めたわけではないんですけど。
岩瀬 メンバーみんな楽器がうまいので、技術的に難しいことをしても、あんまり複雑に聴こえないのが強みなのかな? あと、自分のことを褒める形になっちゃいますけど、楽器が多少難しいことをしていても、僕が歌えばポップスとして成立するのかなと思っています。僕は自分の声が好きだし、ちゃんと自信を持ちながらやっているので。
境 初めて集まって演奏したときに、岩瀬の歌が圧倒的に強かったんですよ。「このプレイがカッコいい」と楽器隊が注目されるバンドも世の中にたくさんいるけど、僕らの場合は岩瀬の歌が最初からちゃんとトップに立ってくれていた。だから、こういうバンドに自然となっていったのかな。
岩瀬 高校生の遊びの延長線上で始まったバンドなので、始めたときは「歌を大切にしたバンドをがんばろう」という感じではなかったような気がするんですけど……気付けば13年目? 「こんなに長く続けるつもりはなかった」といつも言っているんですけど、このスタンスでずっと続けてきましたね。
仲間の存在を肌で感じる
──とけた電球は今年4月に所属事務所から独立してメンバー運営となることを発表し、同時にフルアルバム制作に向けたクラウドファンディングを立ち上げました。どういった思いで発表されたのでしょうか?
岩瀬 今年の3月で事務所との契約が満了になったんですけど、その少し前に「どうする?」という話を4人でしました。事務所のサポートってやっぱり大きいじゃないですか。だから「続けますか?」というところから話し合ったんですけど、「一旦、自分たちでやってみよう」という結論になったんです。だったらせっかくだし、大々的に発表して皆さんに助けていただこうということになり、独立と同時にクラウドファンディングもスタートさせたという経緯です。
──独立することに不安はありましたか?
岩瀬 僕はあまりなかったです。将来に不安を感じるタイプではないというか、「まあ、なんとかなるか」という精神で生きてきた人間なので。理想の人間が「こち亀」(「こちら葛飾区亀有公園前派出所」)の両津勘吉なんですよ(笑)。マンガの中で両さんが「悩んだらまず『生きる』モードに切り換えてからスタートだ!」と言うシーンがあるんですけど、大変なことがあったときもそんな感じで「全然、大丈夫っしょ」という気持ちになれましたね。まあ、4人ともこういうタイプだったらダメだと思うんですけど(笑)。
よこやま でも俺も「とりあえずやってみるっしょ!」という感じでした。
岩瀬 俺とよこやまはタイプが似てるよね(笑)。
よこやま 事務所に入らずに音楽をやるとどんな感じになるのか、正直想像がつかないところがあって。だからこそ「やってみなきゃわかんない!」と思ったんです。
高城 そうだよね。僕はけっこう不安でしたけど、この2人の飄々としている感じに乗っかろうと思いました。「これから4人で運営していくんだ」というワクワクもあったし。思い返せば、バンドを始めたときも岩瀬はこういう感じだったんですよね。
境 もう何年も一緒にいるから、岩瀬がこういう感じなのは僕らもわかってるよね。僕は不安はなかったですけど、「やめるより続けるほうが楽だよね」「だから続けることを選択しよう」という消極的な状況だとしたら、続けないほうがいいだろうと思っていました。だけどそうじゃなくて「続けることで新たに面白いことができるだろう」と思えたから、それならバンドを続けたいなと。
──実際に自分たちだけで活動を始めてみて、どんなことを感じていますか?
境 「僕らのことを気にかけてくれている方がこんなにたくさんいるんだ」と感じています。何年かに一度連絡をくれるような人が、わりと一斉に「最近どう?」「ライブやろうよ」と声をかけてくれたり、仕事を振ってくれたり。仲間の存在を肌で感じる機会が多くて、ありがたいなと思っていますね。
──クラウドファンディングを通じて、お客さんからの応援も実感したのではないでしょうか。
境 そうなんです。僕ら「クラファン参加してね!」と積極的に言えないタイプなので、目標額を全然達成できない可能性があることを覚悟して始めたんですよ。
高城 クラファンの場合、お金が伴ってしまうしね。
岩瀬 支援してくださった人数とか、金額もはっきり出るし。達成状況が皆さんにもわかるし……。
境 シビアだよね。
──苦手なことながら、アルバムをいいものにするために踏み切ったと。
岩瀬 僕らのような規模のバンドだと、制作の費用をどう捻出するかというのは、最初にぶつかる課題なので。
境 初期費用がね。
岩瀬 そう。リリースする、利益が生まれる、そのお金で次の作品を作る、というサイクルがちゃんと回り始めればいいんですけど、最初の段階では皆さんの支援をいただかないと満足のいく作品ができないなと思って。支援者の中にはメッセージを書いてくれた方もいたんですけど、それを読みながら「応援してくれる方がこんなにいるんだ」と実感しました。すごくありがたかったです。
自分たちらしく届けたい曲を作れた
──ここからは4カ月連続リリースについて聞かせてください。第1弾楽曲「桜吹雪」は、独立発表の翌々日、4月3日にリリースされました。やはり「早く新曲を届けたい」という思いが強かったんでしょうか?
高城 おっしゃる通りですね。
よこやま しばらく曲を出せていなかった分、4カ月連続で新曲を聴いてもらいたいなと。
境 2023年のリリースは、配信シングル2枚だけだったしね。
岩瀬 事務所に所属していた頃は、自分たちだけのペースではレコーディングができなくて。当たり前ですけど、事務所にとってレコーディングは投資になるから、リターンが見込めないと踏み切れないじゃないですか。そういういろいろな兼ね合いがあって、出したい曲があってもレコーディングができないということもあったんです。独立にはメリットもデメリットもありますけど、費用さえあれば出したい曲を好きなときにリリースできるのはいいことですね。
境 2月にレコーディングをしたんですけど、そのときは「アルバムに向けて年4回ぐらい、春夏秋冬みたいなスケジュールで出していけたらいいよね」という話をなんとなくしていたんです。だけど岩瀬が「いや、4カ月連続で出しちゃおう」「出せるものがあるんだし、秋や冬にまたリリースするとしたら、新たに作ればいいんじゃない?」と言い出して。その言葉が4カ月連続リリースになった一番の決め手でしたね。
──そういえば、「新たな決意」みたいな曲はないんですね。
岩瀬 そういうの、あんまり得意じゃなくて(笑)。制作中のテンションも今までとそんなに変わらなかったです。周りに誰がいても、結局はこの4人でとけた電球なので。変わらない4人がいるから大丈夫だろうということで、心機一転というよりは、自分たちらしく届けたい曲を作れたように思います。
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味のあるギターソロ