ナタリー PowerPush - tobaccojuice

スタンダードナンバーを大胆リメイク tobaccojuiceが示すカバーアルバムの新しい形

tobaccojuiceが4月22日に初のカバーアルバム「ゆめのうた」をリリースする。

近年さまざまなカバー作品が次々と発表されているが、このアルバムは従来のカバーとは一線を画す斬新なもの。世界中で愛されている「ムーンリバー」「ザ・ローズ」といったスタンダード ナンバーに独自の日本語訳をつけ、さらに原曲のイメージを一新するユニークなアレンジをほどこしたtobaccojuiceにしか作りえない作品に仕上がっている。

プロデュースは今やtobaccojuiceの作品には欠かせない、柏原譲(Polaris/OTOUTA)が担当。オリジナル作品同様、見事な手腕を発揮しており彼らとの相性のよさを感じさせてくれる。

今回ナタリーでは、フロントマンの松本敏将(Vo,G)にインタビューを実施。カバーアルバムを作ることになった経緯やそのコンセプト、カバーに対する思いについて聞いた。

取材・文/中野明子

「今の言葉」で昔の曲を歌う

──まずは今回カバーアルバムを作ることになったきっかけを教えてもらえますか?

昨年「工場町」というシングルを出したときに、アニメ「トム・ソーヤーの冒険」の主題歌「誰よりも遠くへ」をカバーしたんですね。その曲をライブでやるとオリジナル曲よりも盛り上がる くらい好評で。その後、ラジオの企画でクリスマスソング(「サンタがママにキスをした」)のカバーも出したらそれも好評で。その流れでスタッフが「tobaccojuiceのカバーはいい」って思ってくれて、「カバーアルバムを出してみないか」と言われたのがきっかけですね。

──なるほど。

最初は日本の名曲をカバーする企画があがっていたんですけど、やりつくされているから俺はあんまりやりたくないなって思ったんです。でも、自分が影響を受けてきた外国の民謡や映画の主 題歌を今の言葉に訳してカバーする形ならやりたいなと。自分が好きな英語の曲を自分の言葉で作り直して世の中に残していくことは、昔からずっとやりたかったし、俺の中ではライフワークの1つとして考えていたことな んです。

──カバーする曲はどうやって決めたんですか?

メンバーとスタッフで相談して決めましたね。俺が昔から好きだった曲やメンバーがやりたいって言ったもの、スタッフの人に薦めてもらった曲から選んでます。

──歌詞を翻訳するときに「今の言葉」にしたとのことですが、その理由はなんだったんですか?

今回選んだ曲の中には、戦前に作られた曲で日本語訳がついているものもあるんですけど、昔に翻訳されたものだから自分のことを「我」と呼んでたり、歌詞に登場する言葉や感覚が古くて。

──松本さんにはしっくりこなかった?

はい。英詞に忠実に訳されているんですけど、あまりにも昔の言葉だからこちらに響かないんですね。たとえば戦前や昔の日本語の小説って読みにくいし、すごく素敵な文章だったとしても今 の若い人には入りにくいと思うんです。俺はフォークソングはその時代その時代の言葉を乗せることで力を発揮していくものだと思うので、今の人が聴いてわかるような簡単な日本語にしました。

──翻訳する際は原曲の意味に沿った感じですか?

曲によりますね。これはいじらないほうがいいだろうとか、俺の中でフィルターがあって。この曲はいじったら心外に思われるかもしれないとか、そこらへんを加味しつつ。今回は入ってませ んけど、宗教的に深いところで皆の心に流れてる曲を訳す際は慎重にならなくちゃいけないし。だから試行錯誤しつつ言葉を選びましたね。

──逆に独自のフレーズを取り入れた曲もあるんですか?

「ザ・ローズ」はメッセージ性の部分で軸はブレてないけど、元の曲とは違うものになってて。詞の中に「革命の花」という言葉を登場させているんですけど、「革命」にあたる言葉はオリジ ナル曲には出てこない。でも、より強く曲のメッセージが伝わるように、出てこない言葉を入れています。

メロディと歌詞を生かすためのアレンジ

──今回のカバーアルバムは日本語詞もそうですが、レゲエやスカなどオリジナル曲からかけ離れたユニークなアレンジも特徴だと思うんです。実際の作業はどんな流れで進めたん ですか?

まず俺がやりたい曲をバンドに持っていって、3週間ほどスタジオを借りて、弾いたり歌ってみたりして。レゲエにするかどうかとか、スカにしたらどうなるかとか、1曲に対して多くて5種類くらいアレンジを作りましたね。それをいったん持って帰って、次の日に集まって皆で相談して。方向性を決めた後、細かくアレンジを作っていきました。

──かなり大胆なアレンジをされている曲もありますが、躊躇はありませんでしたか?

特になかったですね。たとえば「ムーンリバー」だったらすでにいろんなアレンジが存在してて、ボサノヴァ風のアレンジとかもあるし。最終的になにが残るかっていったらメロディと歌詞だ から、それに対してどんなアレンジを加えるかというのが大事で。むしろオリジナル曲に聴こえるくらい思い切ってアレンジしましたね。

ニューアルバム『
ゆめのうた』 / 2009年4月22日発売 / 2600円(税込) / MILESTONE CROWDS / UMCC-1032

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CD収録曲
  1. 煙が目にしみる - Smoke Gets In Your Eyes
  2. サリーガーデン - Down By The Salley Gardens
  3. ムーンリバー - Moon River
  4. ザ・ローズ - The Rose
  5. テネシーワルツ - The Tennessee Waltz
  6. ブルーベリー・ヒル - Blueberry Hill
  7. オーラ・リー - Aura Lee
  8. ダニー・ボーイ - Danny Boy
tobaccojuice(たばこじゅーす)

松本敏将(Vo,G)、大久保秀孝(G)、岡田圭市(B)、脇山広介(Dr)によるロックバンド。1999年に大久保を中心に結成される。下北沢界隈を拠点にライブを行いながら、デモ音源 を制作。2003年に1stミニアルバム「喜びがやって来る」をリリースする。ロック/ブルース/レゲエなどの要素を融合させた音楽性は自由そのもの。また、松本が手がけるファンタジックな歌詞は狂気と穏やかさの両方を 内包し個性的な世界観を構築している。2008年6月には柏原譲(Polaris/OTOUTA)をプロデューサーに迎えたアルバム「HEADPHONE GHOST」を発表。バンドの新たな側面を披露し高く評価された。