TM NETWORKは常に現役バリバリ!サッシャがツアーで“体感”した最新型TMサウンド

デビュー40周年を来年に控えた2023年は、TM NETWORKにとって近年稀にみる精力的な活動を繰り広げた1年となった。

新作「DEVOTION」の発表、映画「劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)」オープニング&エンディングテーマ曲の提供、アニソンイベント「Animelo Summer Live 2023 -AXEL-」へのサプライズ出演など、次々に届けられる刺激的なトピックはFANKS(TM NETWORKファンの呼称)を大いに喜ばせた。そんな充実した1年を締めくくるべく9月初頭から11月末にかけて行われたのが全国ツアー「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~」だ。

1984年のデビュー以来、TM NETWORKは時代とともに常にサウンドをアップデートしてきた。音楽ナタリーは、進化するTMサウンドの魅力を紐解くべく特集を展開。大のFANKSであり、今回のツアーにも足を運んだというラジオDJ / ナレーターのサッシャをゲストに迎え、彼が“体感”した最新型のTMサウンドについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

至近距離で目撃した“プロデューサー”小室哲哉の凄味

──2023年9月から11月にかけて行われたTM NETWORKの全国ツアー「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~」。サッシャさんは仙台公演(9月16日 / 宮城・東京エレクトンホール宮城)、ツアーファイナルの東京公演(11月30日 / 東京・東京国際フォーラム ホールA)をご覧になったそうですね。

はい。仙台公演、東京公演を含め、2つのことが印象に残っていて。1つはTM NETWORKが現役バリバリで健在であるということ。名前をTMNに変えたり、活動を一時休止したり、いろいろなことがありましたが、今もトップコンディションを維持していることを改めて感じました。もう1つは、「小室哲哉さんはやはり日本を代表するトッププロデューサーなんだな」ということ。小室さんは“音楽プロデューサー”という肩書を世に知らしめた方で、その手腕は皆さんもよくご存じだと思いますが、今回のツアーを観させてもらって、やはりすごいなと。

「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~」最終公演の様子。(Photo by Kazuyuki Sanada)

「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~」最終公演の様子。(Photo by Kazuyuki Sanada)

──小室さんのプロデュースワークが、TMの現役感につながっている?

そうですね。仙台公演はまだツアーの序盤でしたが、その時点で完成度はすごく高かった。なのに東京公演は、印象がまったく違ったんですよ。演奏した曲はほぼ変わっていないのですが、曲間の取り方、演出などを含めて、さらにパワーアップしていたし、ステージングもシャープになっていて。ライブの中で使用する映像のバリエーションも増えて、全体のイメージとしては、まったく別物だなと感じました。ツアーのスタッフから「小室さんはライブのあと、毎回打ち合わせをして、細かい部分を変えている」という話を聞いていたんですが、仙台公演のあと、その現場を見させてもらったんです。打ち上げに参加させてもらって、小室さん、宇都宮隆さん、木根尚登さん、僕が同じテーブルだったんですよ(笑)。定点カメラで撮ったその日のライブ映像を観ながら、小室さんが「ちょっと止めて。ここの映像、こうしたほうがいいんじゃないかな。どう思う?」ということを延々やっていたんです。例えばアコースティックスタイルで木根さんと小室さんが2人でパフォーマンスする場面。仙台公演では背景にビルの映像が映されていたんですが、小室さんが「ビルの印象が強すぎて、(小室、木根が)“何をやってるの?”という感じにならない?」と指摘して。「どう思う?」と聞かれたので、「確かに小室さんと木根さんが目立たないかもしれないですね」とお答えしたら、「だよね。ここは僕と木根くんをスクリーンに映したほうがいいよね」と言っていて、東京公演ではその通りになってたんです。

──小室さんの指摘によって、演出がアップデートされていた、と。

まさにそうですね。全体を通してビルの映像を減らして、仙台公演にはなかった映像が加わっていて。おそらくツアーを通して、少しずつ変更を加えたんだと思います。仙台の打ち上げのときも4時間くらいかけて映像をチェックしていたんですよ。スタッフの方は「普段はここまでやらない」とおっしゃってましたけど、こんなに細かいところまでチェックしているんだなと。たぶんステージの上でもいろんなことに気付いているんだと思うんですよ。ライブのオープニングのシーンについても、「木根くん、少し歩くのが速くない? もう少しゆっくりのほうがいいよ」みたいなことを言ってたんです。ご自身もステージに立っていて、シンセなどもガンガン弾いてるのに「どうして見えてるの?」とびっくりしました。小室さんは常に「もっとよくなるはずだ」と考えているはずだし、「どうすれば宇都宮さん、木根さんが輝けるか?」という目線も持っているんだと思います。小室さんの要望を実現させる映像、音響のスタッフの皆さん、もちろん宇都宮さん、木根さんも含めて、チームワークによってTMのパフォーマンス力が発揮されるのかなと。

──その最終形態がファイナルの東京公演だった。

ツアーを通して細かいアップデートを積み重ねて、東京公演に至ったんだと思います。ツアー序盤も100点でしたが、ファイナルでは200点になってましたね。ただ、決して演出過多ではないんですよ。ステージ自体もかなりシンプルで、3台のLEDスクリーンに映される映像やライトで構成されていて。演出にこだわりつつも、そこに頼っているというわけではなく、演奏、音楽に主軸を置きながら、それをどうよく見せていくかを意識しているんだろうなと。もちろん音もすごくいいですからね。

小室哲哉(Photo by Kazuyuki Sanada)

小室哲哉(Photo by Kazuyuki Sanada)

ノスタルジーとは無縁のパフォーマンス

──最先端のダンスミュージックを取り入れて、アレンジも原曲とはまったく違いますよね。低音もガッツリ効いていて、まるでクラブのような音響でした。

すごかったですね。また小室さんの話になってしまうんですが、小室さんは海外で流行っている音楽をいち早く日本に持ってきて、ジャパニーズ化して一般のリスナーに広めてきた。それは今も変わってないと思うんです。TMファンの年齢層はすごく広くて、若いオーディエンスもいるし、初期の頃から応援している50代以上の方、メンバーと同世代の方もいらっしゃるんですけど、そんなのおかまいなしにゴリゴリのダンスミュージックもやってしまう。中には「え? 何これ?」って驚いちゃう人もいると思うんですよ。「Get Wild」にしても、おそらく「オリジナルバージョンで聴きたい」という人もいるはず。でもTMはまったく妥協せず、小室さんを中心に「今の音はこれだよ」という感じでバーンとやるんですよね。「Get Wild」がリリースされたのは1980年代なので、オリジナルのアレンジはああいう音が当時一番カッコよかったんだと思うんです。UKではNew OrderやCulture Clubが流行っていたし、小室さんの興味もそちらに向いていたんじゃないかなと。今はEDMやハウスミュージック、小室さん自身がDJをやるときはトランスが軸になっているんだと思います。「Get Wild」も今のサウンドにリアレンジされているし、「Children of the New Century」などは歌詞も変えているんですよ。セットリスト自体も昔のヒット曲の連続ではないですからね。もちろん要所要所にちりばめられてるんだけど、懐かしいという感じはまったくない。それぞれがキャリアを築いている中、また3人でやる意味はなんだろう?と考えているだろうし、「ノスタルジーで集まるのはTMじゃないよね」と思っているんじゃないですか、おそらく。

「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~」最終公演の様子。(Photo by Kazuyuki Sanada)

「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~」最終公演の様子。(Photo by Kazuyuki Sanada)

──なるほど。進化と変化を繰り返しているのは必然なんでしょうね。

少なくとも昔のバージョンで聴かせるつもりはなさそうですね。もちろんTM本来のサウンド、TMのDNAはしっかり残しながらも、小室さんのソロパートでは10分近くクラブタイムをやるっていう。年配のお客さんは置いてけぼりかもしれないけど(笑)、その姿勢はめちゃくちゃカッコいいし、すごいと思います。しかも今どきのDJみたいに“USBを用意して、ボタンを押すだけ”ではなくて、シンセはすべて生で演奏しているんですよ。ベーシックなトラックを流しながらキーボードを弾くんですが、そこでも公演ごとにアレンジを変えている。たぶん気分によってフレーズを変えているんだろうけど、それはまさに“ライブ”ですよね。

──そうですね。プロデューサーとしてもプレイヤーとしても全方位的に意識が行き届いていて、隙がないというか。いろんな要素がある中で、TMのライブの軸はどこにあると思いますか?

一番大事にしているのはお客さんのことでしょうね。会場に来た人を楽しませることを軸にしながら、音楽に対してはまったく妥協せず、観客を引っ張っていくようなところもある。そのバランスが素晴らしいんですよね。