TM NETWORKデビュー40周年スターティングプロダクツの聴きどころを、Shinnosukeとふくりゅうがディープに解説 (3/3)

たぶん小室先生も、今のウツさんの声にオケを作ったら楽しいだろうな

──そして今回、木根さんによるバラード曲、いわゆる“キネバラ”「君の空を見ている」も収録されています。作詞は、TM NETWORKヒット曲の作詞家として知られる小室みつ子さんで。

今回はあえてなのか、木根さんのソロ曲っぽく感じたんですよ。メロディなのかアレンジなのか。そこが僕は新しいなと感じまして。特に間奏のギターソロがいいんです。シタールではなくエレキギターなんだろうけど、民族的な響きがする。パット・メセニーの「Last Train Home」的な叙情感があると言うか。 こういう音色が使われるのはひさしぶりな気がしますね。そういえばこの曲は違いますが、今回の作品のクレジットを見ると「ギター:小室哲哉」と書いてある曲が多くて驚きました! ここまでたくさん書いてあるの初めてじゃないですかね?

──確かに気になるポイントですよね。ちなみに昨年「How Crash ?」をリリースしようとしていた頃、本来だったら木根さんも曲もすでにあって、カップリングになっていた可能性もあったと聞きました。結果、今回まで引き延ばされましたが。

昨年、「いい曲がたくさんあるよ」とスタッフの方が言ってましたね。

──毎回アルバムの中で、木根さんが「ここぞ」という力を入れるのがキネバラなんですよね。それもまたTMらしさであり。「Fool On The Planet(青く揺れる惑星に立って)」とか、FANKSの中で人気が高い曲も意外と木根さんの曲が多かったり。そういえば、Shinnosukeさん、先日EX THEATER ROPPONGIで、TMやglobeのカバーライブをやられていて、ゲストとして木根さんが参加されていましたね(5月10日開催の「NORI presents GROOVE 2023」)。

「1/2の助走」などを歌ってくださって。TMのライブでもおなじみのFENCE OF DEFENSEの山田わたるさんがドラムを叩いてくれました。アニメ「シティーハンター2」のエンディングテーマ「STILL LOVE HER(失われた風景)」もやったんですよ。

──えっ、ぜいたくすぎますね。

最高ですよね。ちゃんと「STILL LOVE HER(失われた風景)」ではハーモニカも吹いてくださって。ありがたいです。僕は木根さんが書いた「Fool On The Planet(青く揺れる惑星に立って)」が大好きなので、クライマックスのときにミラーボール回して演奏しました。

Shinnosuke

Shinnosuke

──木根さん曲のよさはどんなところだと思いますか?

木根さんご自身のお人柄が表れているメロのよさはもちろんなんですが、コード進行がとにかくすごいんですよ。よくこういうコード進行を思いついたなって。以前木根さんに直接質問したときには「んー、なんだろね? いろいろあーだこーだ弾いて作るとああなるんだよね。今まで好きで聴いてきた音楽の影響なんだろうなあ」なんてご謙遜されてましたけど。

──センスがいいんですよね。

あと、この作品ではウツさん(宇都宮隆)の声にも注目です。今回いろんな方がエンジニアをされていて、どこまで意図しているのかはわからないんですけど、リバーブ感があまりないんですよ。最近の若いアーティストたちの曲にはリバーブ感がなくてドライなんですよね。80年代、90年代のサウンドってけっこうリバーブ感が強かったじゃないですか。でも「WE LOVE THE EARTH」なんかは、うっすらリバーブはかかっているものの、オケがスカンと抜けるところでウツさんの声だけになるから、ブレスでの息遣いがすごく聞こえて。それが声フェチとしてはよかったですね。

──なるほど。

あと「RESISTANCE」の歌声が、いい意味でボカロ的に処理されていますね。ウツさん、昔はワイルドな感じで歌っていたのが、ここ最近は声がより高くなっているんです。レコーディング&ミックスエンジニアの伊東俊郎さんも「よくこんなに高い声が普通に出るね」とおっしゃるくらい、いい意味で機械的な声になっていて。たぶん小室先生も、ああいう声にオケを作ったら楽しいだろうなって思います。生身である歌声まで現代的にアップデートされてる。

──「How Crash ?」は「DEVOTION」における軸となるナンバーですが、昨年のツアーで披露されて以降はライブ映像作品の初回盤特典CDでしか聴くことができなかったので、コアなファンしか知らない状況がずーっと続いていて、今回ようやく日の目を浴びたんですよね。この「How Crash ?」というタイトルは、小室さんがパンデミックのときに、いろんな大学教授とかの文献を読んでいる中でピンときた言葉で、歌詞の英語フレーズ「Everyone makes mistakes」もそこから生まれたそうです。

ふくりゅう

ふくりゅう

それなんですよ。その言葉、泣けますね。

──そして、そこからどうするかが大事っていう。人生が描かれています。

「How Crash ?」はAメロがマイナー調で、静かに悲しくなる感じがいかにも小室先生らしくて好きですね。渡辺美里さんの「悲しいね」「Believe」とか、TMの「Human System」みたいな雰囲気と言いますか。そして間奏のシンセリードのソロがカッコいいんですよ。このメロディは「Mission to GO」っぽいところもあって。先生の手癖的な動きなのかな。同じように、「WE LOVE THE EARTH」の1番から2番に行く途中のアコギのメロディも「Mission to GO」っぽさがあるなと思いました。あと、新曲だと「Please Heal The World」が好きなんですよ。歌とコーラスがいいんですよね。完全なインストじゃないところがニクいというか、宇宙旅行をしてる映像が浮かびます。アルバム「humansystem」「EXPO」の時代から地球を俯瞰して見ているというか。その視点が徹底しているんですよね。

最初のフレーズをウツさんが歌うだけで涙腺が崩壊

──そして「TIMEMACHINE」という、TM NETWORK結成時に生まれた楽曲がついに40周年のタイミングでスタジオレコーディング音源として収録されることになりました。「TIMEMACHINE」を今レコーディングする意味を深く考えてしまうのですが、40周年に向けてふさわしい曲な気もします。「1/2の助走」や「愛をそのままに」のイントロのような10cc的なセンスを彷彿とさせるアレンジが追加されていますね。

我々FANKSにとっては「Nights of The Knife」と並ぶ、ある種のトラウマ曲と言いますか(笑)。愛ゆえに……。今、この曲を収録するだなんてズルいです! 「TIMEMACHINE」は東京ドーム公演のライブ音源「TMN final live LAST GROOVE」でのピアノとアコギだけのシンプルなアレンジもよかったですよね。個人的にはやっぱりあのときをどうしても思い出してしまいます。

──ああ、あれはある種の完成形でしたもんね。東京ドームの真ん中のステージに3人が向き合って、トライアングルの陣形で演奏していました。

この数年のコロナ禍もあって、しかも「DEVOTION」というタイトルの作品なので、収録しないわけにはいかなかったんじゃないかな。ウツさんの歌声の最初のフレーズ「さまよう」の“さま~”を聴いただけで涙腺が崩壊してしまいました……。懐かしさだけではなく新たなシンセ音が入っているところに、メンバーの本気度を感じます。

──かつてはこの曲から「タイムマシンが解体されていくようなイメージ」を受け取っていたのですが、タイムマシンって時代を超えられるものだから、今回は新たな希望として受け止めたいですね。TMの曲は時代に応じて意味合いがアップデートしていきますから。

ポジティブに聴けますよね。本編にはディストピア感があったからこそ、ラストにこの曲が包み込んでくれるというか。

──今後「シティーハンター」のアニメや実写の映画化も控えていますし、TMが主題歌というわけではありませんがガンダムシリーズも「水星の魔女」が盛り上がっています。80年代に生まれたカルチャーが、今もずっと大きな影響力を及ぼしているのを感じますね。「Get Wild」ネタとか、定期的にYahoo!のトップニュースに入ってますし。

バズりますよね。この前、たまたまプライベートで福岡に行って、ガンダム複合エンタテインメント施設・GUNDAM PARKにある実物大のνガンダムを観たんですよ。そうしたらお店で、三枝さんのサントラとともに「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」がずっと繰り返し流れていて。ここは天国かなって(笑)。

──ははは、それは“WILD HEAVEN”ですね(笑)。また新たなTMの聖地ができましたね。

左からふくりゅう、Shinnosuke。

左からふくりゅう、Shinnosuke。

プロフィール

TM NETWORK(ティーエムネットワーク)

小室哲哉(Key)、宇都宮隆(Vo)、木根尚登(G)による音楽ユニット。1984年にシングル「金曜日のライオン(Take it to the Lucky)」、アルバム「RAINBOW RAINBOW」でデビューを果たし、1987年に「Self Control」「Get Wild」が大ヒットを記録した。1990年にはTMNとして「TIME TO COUNT DOWN」「Love Train」などを発表し、1994年5月の東京ドーム2DAYSを最後に活動を終了した。1999年7月にTM NETWORK名義で再始動し、デビュー30周年にあたる2014年には全国ツアー「TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end」「TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30」の開催、さらに12枚目のオリジナルアルバム「QUIT30」の発表など精力的な活動を展開した。2022年にはアリーナ公演を含む全国5都市ツアー「FANKS intelligence Days」を実施し、計4万人の動員を記録した。2023年6月には新作「DEVOTION」をリリース。その後、秋には全国ツアーが行われる。

Shinnosuke(シンノスケ)

2003年1月にSOUL'd OUTのトラックマスター兼キーボーディストとしてメジャーデビュー。2014年7月に東京・新木場STUDIO COASTで行われたワンマンライブ「SOUL'd OUT LAST LIVE "0"」をもってグループは解散した。2017年7月に声優の森久保祥太郎とともにbuzz★Vibesを結成。嵐、AI、寺島拓篤、「アイドリッシュセブン」、「アイドルマスター ミリオンライブ!」といったアーティストや作品への楽曲提供も行っている。