TM NETWORKデビュー40周年スターティングプロダクツの聴きどころを、Shinnosukeとふくりゅうがディープに解説 (2/3)

当時のハウスではなく、今のハウスにアップデートされている

──ちなみに、今回の作品は11曲収録されているにもかかわらずアルバムとは言ってないんですよね。でも、振り返ると21年前の2004年にリリースされた10枚目のアルバム作品「NETWORK™ -Easy Listening-」に構成が似ているという。

それは感じましたね。インストやリプロダクション曲を収録しているし。あと、過去曲の再構築という意味では「DRESS」シリーズにも近い。

──最近Billboardにチャートインしている曲でも、昔の音源をサンプリングしたり歌い直したり、リビルド(再構築)している曲がけっこうあるんですよね。でもよく考えたらTMって、ボーカルトラックのみそのままで楽曲を再構築することをリプロダクションと呼んで、すでに1989年に「DRESS」で実践していたんですよ。

「DRESS」は早かったですよね。しかもプロデューサーが、ナイル・ロジャースやジェリービーン、ピート・ハモンド、バーナード・エドワーズといった世界第一線の面々で。よく制作費が出たなと。みんな、いくらでやったんだろう(笑)。

──総制作費、5000万かけたという噂でしたよね。

そんなかかってるんだ。すごいですね。あの時代だからなのかな。

──当時、「CAROL」のツアーが長期にわたっていたので、「ツアー中にポンって新作が出たら面白くない?」みたいなノリだったんですよね。そんなセンスが新作「DEVOTION」にも感じられました。

1曲目からテンポが速かったのが僕はうれしかったんですよ。今までは「I am」「ALIVE」などミッドテンポ寄りの大人な曲の印象が続いてた感じもあったので。EDM的なセンスに惹きつけられましたね。

──2曲目に収録された「RESISTANCE」の、パーカッシブなイントロダクションが耳に残るアレンジもカッコいいですよね。小室さんは最近Faniconで「TK Friday」という生配信番組をやっていて、そこでも「RESISTANCE」ネタはよく話されていました。

このリミックスはかなりオリジナルに準じたアレンジだったのがよかったですね。

── TMの面白いところは、過去曲でもライブ中のセットリストで並べ直すことで、ツアーの物語を作れるというか。曲の意味合いが変わってくるんですよね、ツアーごとに。

ああ、確かにそうですよね。

──「RESISTANCE」が2曲目に収録されているのはそんな効果が大きいなと思いました。そして、3曲目は「WE LOVE THE EARTH」。

僕、これが今回一番好きかも。

──TMの大ヒット曲「Love Train」との両A面シングルだった曲の最新バージョンです。昨年のツアーで披露されたときも、すごく評判がよかったですよね。

びっくりしましたね。当時、すぐに小室先生にLINEで感想を送りましたもん。「マイナー調に変わってたの、ヤバかったです!!!」って。原曲が好きだからこそ、アレンジを変えられると嫌なこともあるじゃないですか。でも、このバージョンはすごいです。オリジナルに入っているパッドっぽい音やベルとかが似たように打ち込んであるんですけど、違う響きに聞こえるんです。もともとピアノが印象的な曲だったんですけど、最近のハウスリバイバルを受けて、今回ピアノハウスになっているんですよね。アルバム「EXPO」が発売された1991年当時のハウスではなく、今のハウスにアップデートされている。ちなみに「DEVOTION」で使われているハイハットのオープンもハウスで使うタイプの音なんですよ。テクノっぽくなくていいなと思いました。

Shinnosuke

Shinnosuke

──時代感の話でいうと、2000年代のエレクトロクラッシュが今、ネオエレクトロクラッシュとしてリバイバルしているんですよ。この作品でリミックスされている「WE LOVE THE EARTH」「KISS YOU」「RESISTANCE」「TIME TO COUNT DOWN」は、いずれもネオエレクトロクラッシュっぽさを感じられて。

そもそもTM NETWORKの音楽がニューウェイブでシンセポップですからね。

──そうなんですよね。ロック的文脈から生まれた作品を、シンセサウンドで壊してリビルドしている感覚といいますか。

サウンド面について言うと、小室先生はEDM界隈で人気なSwedish House Mafiaがお好きとおっしゃられていたことがあったんですよ。あのへんのプログレッシブハウスとかテックハウス的な感じも、ずっと研究されてるらしくて。あの質感はそこから来ているんだろうなと思います。

Netflixの映像シリーズのような世界観

──「KISS YOU」のリズムで引っ張っていくアレンジは、インパクトがあってライブ映えしましたよね。

あのパーカッシブなテイストは、Swedish House Mafiaの曲にもあるんですよ。2021年の「It Gets Better」っていう曲なんですけど、近い時期にシンクロしてるんですよね。

──へえ、それは面白いですね。

「KISS YOU」はオリジナルも大好きでしたね。スティーヴ・フェローン(Average White Band)のドラムが素晴らしくって。「Self Control」「humansystem」「CAROL」は自分の中で“神アルバム3部作”なので、「humansystem」に収録されていた「RESISTANCE」と「KISS YOU」が今回「DEVOTION」に入っているのは「おっ!」と思いました。

──「KISS YOU」のラップを取り入れた感じは、SOUL'd OUTにも通じますよね。ロックを感じさせるダンスミュージック。この曲について小室さんは「トレヴァー・ホーンがアナーキーになった感じ」とおっしゃっていました。

ほかにも、「intelligence Days」で四つ打ちの上で鳴っている3連のリズムは、Knife Partyっていうダブステップユニットに近いものがあると思いました。おそらくそのあたりも研究しているんだろうなと。あと、「TENET テネット」や「ブラックパンサー」といった映画の音楽を担当しているスウェーデンのルドウィグ・ゴランソンという人がいるんですけど、「WE LOVE THE EARTH」のイントロを聴いたときに「TENET テネット」で流れている音楽のテクスチャーと通じるものを感じたんですよ。「TENET テネット」も時間の逆行を扱った映画じゃないですか。たぶん小室先生はあのSF感もお好きなんでしょうね。

Shinnosuke

Shinnosuke

──それは絶対にありますよね。TMの映画からの影響は、さかのぼるとTM NETWORKの最初のアーティスト担当になるんですかね。エピックソニーの坂西伊作さんという方が、めちゃくちゃ映画が好きで。六本木周辺にあるご自宅には当時からマニアックな映画のVHSがいっぱい並んでいて、小室さんはたまに遊びに行ったときに音声をオフにして映画を観て、そのイメージに合わせて曲を作っていたらしく。そのときに「Girl」とかが生まれたそうです。

まさしく劇伴ですよね。リアルタイムサントラ。いいエピソードですね。

──TMって、作品のテーマやツアーのコンセプトをSF的な発想で作ったりしますよね。3人は地球外生命体であり、観客はメタ的に潜伏者と呼ばれて。そういう演出を1984年の最初のライブからやっていたんです。

Netflixの映像シリーズのような世界観ですよね。途中から演出においてキーワードとなるバトンも、ずっと登場しているし。

──そういう宇宙的なセンスって、Shinnosukeさんの好きなプリンスやEarth, Wind & Fireと通じますよね。

左からShinnosuke、ふくりゅう。

左からShinnosuke、ふくりゅう。

ブラックミュージックやファンクは、宇宙人が大好きですからね。そして、ウツさん(宇都宮隆)はドラマや映画も大好きですし。

──小室さんもですね。木根さんは舞台関連にお詳しいし。ダークなディストピアなど、TM NETWORKの世界観の構築にそれらがリンクしていそうです。そういうところが「Please Heal The World」「End Thema Of How Do You Crash It」「intelligence Days」という、8、9、10曲目に収録されたインスト曲に表れているなと。

ツアーで聴いて「おっ!」と思いました。特に「End Theme Of How Do You Crash It」には心を奪われました。全然違うんですけど、先生が昔出したソロ曲「South Beach Walk」っぽさも感じたんですよね。伸び伸びとしたシンセリードとか、オリエンタルなんだけど屋外を感じさせる爽快さがそう感じさせるのかな。

──めちゃくちゃいいですよね。そういえば、この曲には本当は歌詞が入るって言っていたような。

構成的には歌モノですもんね。観月ありささんの「TOO SHY SHY BOY!」的なラテンピアノのリフがあって。

──でも、現時点では歌モノにならなかったですね。

なってもいいんですけどね。

──ここから進化するんですかね。

それもまた楽しみですよね。とはいえ、今のバージョンでも成立していると思いますけど。