武部聡志がプロデュースするコンサート「TIMELESS SESSIONS in 山形 2022」が、8月13日に山形・やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)で開催される。
「TIMELESS SESSIONS」は幅広い世代のアーティストが武部のピアノ演奏と一夜限りのセッションを繰り広げるコンサートで、山形での開催は今年で2回目となる。出演者に名を連ねるのは岸谷香、miwa、川崎鷹也、Kenta Dedachiという4名のアーティスト。それぞれが自身の代表曲を武部とともにパフォーマンスするだけでなく、この日限りのコラボレーションを披露する予定だ。なお当日の模様はオンラインライブ配信サービス・uP!!!で生配信され、現地に足を運べない人も豪華なセッションを楽しむことができる。
「TIMELESS SESSIONS」の開催に向けて、音楽ナタリーでは武部と岸谷にインタビュー。20年来の交流があるという2人にお互いの印象や、コロナ禍におけるライブの在り方など多岐にわたって語ってもらった。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 関口佳代
TIMELESS SESSIONS in 山形 2022
2022年8月13日(土)山形県 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)
OPEN 16:00 / START 17:00
出演者
岸谷香 / miwa / 川崎鷹也 / Kenta Dedachi
音楽監督・ピアノ:武部聡志
「TIMELESS SESSIONS in 山形 2022」公式ページ
配信日時
2022年8月13日(土)17:00~
アーカイブ配信期間
2022年8月14日(日)0:00~8月21日(日)23:59
チケット販売期間
2022年8月1日(月)17:00~8月21日(日)21:00
配信チケット料金
一般価格:税込3500円
auスマートパスプレミアム会員価格:税込3000円
※ご購入時システム手数料として別途200円が必要となります。予めご了承ください。
明るい岸谷香、手放しで任せられる武部聡志
──武部さんと岸谷さんは以前にもテレビ番組やイベントなどで共演していると思いますが、最初の出会いはいつ頃か覚えていますか?
武部聡志 最初は歌番組かな?
岸谷香 プリプリ(プリンセス プリンセス)再結成(2012年)のときの「FNS歌謡祭」でしたっけ?
武部 でも、その前にユーミンが出演したBSデジタル開局記念イベント(「BSデジタル開局記念スペシャル番組 松任谷由実ワンナイトコンサート Brothers & Sisters」。2000年11月1日に開催され、同年12月1日のBSデジタル放送開局日に放送)があったよね。
岸谷 あ、いろんなアーティストがユーミンさんの曲をカバーしたイベントですね。
武部 そう。そこで香ちゃんが「恋人がサンタクロース」を歌ったんじゃなかったかな。
岸谷 そうだった。最初はそれですね!
武部 そのイベントで初めてご一緒して、そのあとに「MUSIC FAIR」や「FNS歌謡祭」もあり。ほかのアーティストとコラボしたり、いろんなことをやりました。でも一番印象に残っているのは、香ちゃんの歌をバックに羽生結弦さんなどのスケーターたちが滑るというスケートショー(「ファンタジー・オン・アイス2018」)。あれは楽しいツアーでしたね。
岸谷 約1カ月くらい全国を回るイベントで、毎週金土日と武部さんにお会いしたんですよ。日に日にまとまっていくスケーターとミュージシャンの空気感がたまらなく楽しかったですね。
──せっかくなので、この機会にお互いの印象は魅力についても語っていただけたらと思います。武部さんから見た岸谷さんの魅力は、どういったところでしょう?
武部 まずね、明るい。
岸谷 ふふふ。
武部 音楽をやるうえでも人と交わるうえでも、てらいなく自分を出せることってすごく大事だと思うんです。外国のミュージシャンってそういう人が多いんですよね。人が謙遜して「こういうことをやったら変に思われるんじゃないか?」「カッコ悪いんじゃないか?」と思うところを、香ちゃんは気にせず出してくれるところが、一緒に音楽をやるうえですごくうれしいんです。しかもすごく正直で、普通は遠慮して言わないようなことも言うし。
岸谷 すみません(笑)。
武部 いやいや、それって大事なことですよ。「武部さん。今の音、変じゃない?」と正直に言ってくれることは、僕にとってはすごくありがたいしうれしいこと。音楽という土俵の上では先輩後輩関係ないですからね。そういうコミュニケーションが取れることは、すごくうれしいです。
──では、岸谷さんから見た武部さんの印象は?
岸谷 私は圧倒的に武部さんの好きな部分があって。世の中にはプロデューサーやアレンジャーの方ってたくさんいらっしゃいますし、これまでいろんな方と一緒にお仕事してきましたけど、武部さんとは一番ツーカーで話が通じやすいんです。しかも、お互い理屈とか理論とか、そういうのが好きなほうなんですね。根本的なところが似ている人ってそう多くはないんですけど、武部さんはすごく似ていて。簡単に言っちゃうとすごく楽にできるんです。だから我慢もしなくていいし、ストレスもない。武部さんといるときはすごい手放しで「武部さんにお任せ!」みたいな感じになれるんです。
武部 僕はフロントに立つ人が自由に飛び跳ねてくれるような環境を作るのが自分の仕事だと思ってるんです。それを限られた時間や条件の中で一番いい形に持っていくことで、相手がストレスなく、実力以上のものを発揮してくれたらそれが一番うれしいわけで。だから、香ちゃんが言ってくれたみたいな「ここが変」だと思ったポイントは、香ちゃんが言うよりも早く気が付いて解決することが僕の仕事でもあるし、それを言われてから気が付くのは逆に悔しいんです(笑)。
お互いに学び合える場所を
──武部さんプロデュースによるイベント「TIMELESS SESSIONS in 山形」は昨年に引き続き2度目の開催です。2018年には「TIMELESS SESSIONS in YOKOHAMA」も実施されていますが、そもそも武部さんがこの「TIMELESS SESSIONS」というイベントを始めたきっかけはどういったものだったんでしょう?
武部 僕はミュージシャンとしてここまでいろんなキャリアを積み重ねてきましたが、若いアーティストとの出会いというのは常に刺激的なんですね。しかも、日本には本当に素晴らしいキャリアを積んだアーティストがいて、若いアーティストも毎年どんどん出てきている。なので、そういうキャリアや世代を超えたアーティストたちが一緒にセッションして楽しめる場が欲しいなとまず思ったんです。それも、僕がやっている「FNS歌謡祭」みたいな大掛かりなものじゃなくて、もっとお互いの生音や生声を聴き合えるようなスタイルでセッションすることで、お互いに学びがあったらいいなと思って。僕らは若いアーティストから学ぶこともきっと多いだろうし、若いアーティストには僕らから何か伝えられることがあるかもしれないし、そういう交わる場を作りたいなと思ったのが一番のきっかけですね。
──そういう若いアーティストを、武部さんはどういうところで知るんですか?
武部 テレビやラジオの番組をやっていると、出会いの場というのがけっこうありますし、僕はわりとYouTubeやTikTokもチェックしているんです。
岸谷 わあ、そうなんですか!
武部 「この子はいいな」と思った方が、たまたま誰かの生徒だったりと、そういう不思議なつながりもあって。山下達郎さんやMISIAとも共演している佐々木久美さんという日本のコーラス界の巨匠がいるんですが、今回出ていただく川崎鷹也くんは彼女の生徒さんなんですよ。音楽はそうやって先輩から後輩にどんどん受け継がれていく。そういう縁のある人たちが同じ場所に集まってセッションして音を重ね合うのは、すごく楽しいことなんですよね。
岸谷 昨年のイベントには川崎さんのほかに、佐藤竹善さんも出演していましたよね。私は竹善さんと知り合いなんですけど、竹善さんに「香ちゃん、僕のイベントに出てよ」と誘われて先日出演したら、そこに川崎さんの名前もあって。「どこで川崎さんと知り合ったの?」と聞いたら「山形であった武部さんのイベントで」と教えてくれて、そのあとに武部さんから「TIMELESS SESSIONS」にお誘いいただいたので、全部つながっているんですよね(笑)。
武部 この音楽業界、アーティスト同士が横でつながっていて、情報が回るスピードも意外と速いんですよ。「今、誰のツアーに誰々が参加している」みたいな話もすぐ耳に入ってきますからね。
──では、今年のイベントに岸谷さんやmiwaさん、川崎さん、Kenta Dedachiさんの4名を選んだ理由は?
武部 去年はいわゆる“ザ・ボーカリスト”みたいな方々が中心でしたが、今年は一緒に楽器も弾ける人がいいなと思ったんです。香ちゃんはピアノやギターもやりますし、miwaちゃんもギターを弾きながら歌うし……そういうミュージシャンのセッションというのが、裏テーマの1つとしてありました。
武部流ライブプロデュースの極意
──武部さんは「TIMELESS SESSIONS in 山形」をプロデュースするうえで、どういったことにこだわっていますか?
武部 アーティストそれぞれが持っている色をちゃんと引き出しながら、出演者にも楽しんでいただき、イベントに来るお客さんにも楽しんでいただいて、その気持ちを持ち帰ってもらう。それは演者側の自己満足だけで終わらず、ヒット曲は惜しみなくお届けし、アーティスト同士のコラボレーションやセッションなど楽しい演目をたくさん用意することもそう。それが一番ですよね。
岸谷 私も近年ミュージシャンの方に何組か出ていただくようなイベントを始めたんですけど、いろんなやり方がある中で、私は「ここにしかない、この日しか聴けないもの」であることが重要だなと思っていて。だって、イベント形式だとお目当てのアーティストは数曲しか歌わないのに、それでも来てくれるお客さんもいるわけで、そういう人たちに向けてお得感を味わってもらえるのが大切だと思うんです。今回もmiwaちゃんとのセッションとかいろいろコラボもありますし、それはお客さんにとっても、もちろん私にとっても貴重な機会で楽しみなことです。
──ステージで演者が心から楽しんでいれば、それは確実に客席にも伝わりますものね。
岸谷 本当にそう思います。
武部 僕は「TIMELESS SESSIONS in 山形」に限らず、イベントをプロデュースするときに心がけていることが2つあって、1つは出会いの場であってほしいということ。知らないアーティスト同士がそこで出会って、お互い認め合うことはすごく大事だと思うんです。もう1つは動機が必要だということ。カバーやコラボにおいて、取ってつけたようなものって絶対にお客さんに見透かされちゃうんです。例えば、miwaちゃんが心からこの曲が好きだ、心からこの曲を歌いたいと思っているものでないと意味がない。その動機みたいなものをアーティストはすごく大事にしていると思うんです。僕はそこをうまく汲み取りたいなと、常に考えています。
──イベントが出会いの場というのは、本当にその通りですよね。
岸谷 武部さんに紹介していただく形で、ここで初めてお会いするミュージシャンもいますし。さっきの竹善さんが川崎さんを呼んで、そこで私がつながったのも結局そういうことだから、みんなそういう場は楽しいんですよ。
武部 たまたまイベントで一緒になって、馬が合ったからこの先も一緒にやるとか、自分のイベントに声をかけるとか、そういうふうに発展していけばうれしいですしね。
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