「TIMELESS SESSIONS in 山形 2022」特集 武部聡志×岸谷香インタビュー|一夜限りの共演に向けて旧知の仲の2人が語り合う (2/2)

いいミュージシャンは必ずわかってる

──岸谷さんが今年の「TIMELESS SESSIONS in 山形 2022」に出演されるうえで楽しみにしていること、今から期待していることは?

岸谷 武部さんとご一緒するのもひさしぶりなので、もちろんそれも楽しみなんですけど、今回私は「なんで自分が呼ばれたのか」ということを意識していて。「きっとこういう部分がイベントにあったらいいな」と思われているんだろうなということを想像すると、先ほど武部さんが私のことを明るいと言ってくださいましたけど、それを前面に出せたらいいなと思うんです。それに、今はコロナ禍で皆さん声が出せないでしょ? そうすると手拍子や拍手とかでしかライブに参加できないんですよね。なので、そうやってお客さんが一緒に参加できる部分をたくさん作れたらいいなと思っています。加えて、川崎さんやmiwaちゃんはじっくり歌を聴かせる方々なので、逆に私はにぎやかさを意識して選曲しようと考えました。

武部 出演者がそれぞれのミッションをちゃんと理解してパフォーマンスすると、絶対にイベントって成功するんですよ。

──武部さんはそのミッションを口頭では伝えないわけですよね。

武部 伝えないですよ。ただ、選曲だったり、こちらから提案する共演相手のことを通して伝わってはいると思います。例えばmiwaちゃんなら、「今回はこの曲を歌ってほしいんだ」と僕からのリクエストを伝えますから、そうすると彼女なりに僕の思いを受け取ってくれて、「今回はこういうミッションなのね」と感じてくれているんじゃないかな。

岸谷 いいミュージシャンってみんな、必ず自分のミッションがわかっていると思いますよ。

岸谷香

岸谷香

配信は修行!?

──先ほど岸谷さんからコロナ禍での開催に対してのこだわりが話題に上がりましたが、武部さんがこのイベントでコロナ禍だからこそと意識したこと、注力したことは何かありますか?

武部 変な話ですが、こういうオムニバス的なイベントってコロナ以降、足を運びにくくなっていることは確かだと思うんです。だけど、いい内容のものをしっかり作っていけば、例えば配信で見たときでも楽しさが絶対に伝わるでしょうし、会場に来てくださったお客さんには「また次も行きたい」と思ってもらえるんじゃないかと思っています。

──配信での見せ方であったり、そこでの意識というのはいかがですか? 今回の「TIMELESS SESSIONS」は生配信も行われますが。

武部 さっき、香ちゃんはラジオ(「武部聡志のSESSIONS」)の収録で「どんな配信でも、生には勝てっこない」と話していたんですよ(笑)。

岸谷 ごめんなさい!(笑)

武部 実際、本当にそうなんですよ。ただ、配信なら誰もが最前列で観られるという、配信ならではのいい点もあるわけで、この先もっと技術が進化したら自分の家でカメラをスイッチングしながらライブを観れるようになるんじゃないかと思うんです。

岸谷 おお、なるほど。

武部 例えばアイドルグループだったら、人数が多いですから……。

岸谷 好きなメンバーだけを追うことができますものね。

武部 近い将来、そういうこともできるようになるんじゃないかと。コロナ禍だからこそ生まれたアーティスト側の工夫みたいなものもそのうちに実を結ぶはずなので、配信だからといって雑にやるのではなく、丁寧にやりたいなと思います。

岸谷 そのシステムが開発されたら、本当に素晴らしいですね。でも、私たちミュージシャンって意外と気が小さい人が多くて、「配信が入ります」と言われると「いつもよりちゃんとやろう」みたいな気持ちが働くことは決して少なくないんです。配信が入っていることにプレッシャーを感じて、いつも通りにできない人もいるし、それこそ私たちが若い頃なんて「今日のライブ、撮影して作品にするよ」と言われた瞬間、急に守りに入ったり(笑)。結局本番で緊張してしまって、「収録していない昨日のほうがよかったじゃん!」ってこともありますからね。

武部 いまだにみんなそうですよ。伸び伸び感が違うもの。

岸谷 でも、それも修行と思うと、だいぶ慣れてきました。なので、今回も意識しすぎないようにがんばります(笑)。

──やっぱり撮られている感覚って、普段と違うものなんですね。

岸谷 普通のライブは時間とともに流れていって残らないし、ある意味失敗も大きなエピソードとして楽しめるんですけど、収録や配信というのは画面をひとつ挟んだ向こうで見ているから、皆さんちょっと冷静だと思うんです。だから粗も目立つし、自分で失敗したところばかりが気になることもあるし。そんなこと大したことじゃないと頭ではわかるんだけど、映像に残るとなると「あそこ失敗しちゃった、間違えちゃった」みたいに気にしすぎてしまうんですよ。

武部 僕はね、自分が参加したライブのDVDや出演した番組でうまくいったやつは見ない。失敗したときだけ、そのあとどうリカバーしているか、それをどこまで引きずっているかを検証しようとして観るんです。

武部聡志

武部聡志

岸谷 えーっ、すごい! 私は何も観ない(笑)。武部さんには、そのへんのメンタルでは敵わないなあ。

武部 ミュージシャンってライブで失敗するとそれを引きずって、何曲かメンタルが落ちてしまうこともあるんだけど、できれば一瞬にしてそれを忘れて、次に向かっていきたいですよね。

岸谷 もちろん配信にもいい点はたくさんありますよ。だって、山形のイベントを東京にいても、沖縄にいても観れるわけだし。そう簡単に山形に行けない人にとっては、ありがたいですものね。

武部 結局、ライブで一番感じてほしいのは熱量。アーティスト同士が本気で歌ったときのぶつかり合いだったり、ミュージシャンが集中して演奏したときの気合いだったり、そういうものが配信を通じても伝わればベストですよね。

音楽を循環させながら次にバトンを渡したい

──再びイベントの内容についてお聞きしますが、今回はカバー曲もいろいろ用意されているそうですね。

武部 皆さんに楽曲を選んでいただいて、この時期にふさわしい夏の歌を何曲か歌ってもらう予定です。香ちゃんはご自身が夏の名曲を持っていますから、最終的にそこに結び付けばいいなと思っています。

岸谷 ほかの方は最近の曲を選ぶだろうなと思ったから、私はすごく古いのから1曲いこうかなと思って。

武部 リアルタイムで聴いてきた世代なので、僕にとっては古くなかったですけどね(笑)。

岸谷 今回の出演者の中で、この曲を知っているのは私と武部さんだけかもしれない。

武部 音楽ってそうやってお年寄りから小さい子まで、同じように楽しめるのがいいと思うんです。YouTubeの発展がまさにそれで、例えるなら同じ本棚に新しいものと古いものが並んでいる感覚がウケたのかなと。80年代の曲をパッと選んだら、若い世代にとっては懐メロではなく新曲なわけじゃないですか。現在のシティポップブームはまさにそこですよね。

──確かにその通りですね。皆さんがどんなカバー曲をセレクトするかも含め、当日を楽しみにしています。

武部 演目としていろいろ面白いものが用意されているので、期待していてください。

──最後になりますが、8月13日の「TIMELESS SESSIONS in 山形 2022」を会場で観覧する方、配信でご覧になる方に向けて、それぞれイベントへの意気込みを聞かせてください。

岸谷 私は今、一番楽しみにしているのはmiwaちゃんとのコラボ。miwaちゃんと一緒になるのはひさしぶりだし、最近はお子さんが生まれたりして、同じ女性としても距離が一歩近付いたかなという気がしているので、以前とは違ったものが見せられるんじゃないかな。もちろん、川崎さんやKentaさんとご一緒できるのも楽しみですし、武部さんと初めてやる曲もいくつかあるので、今から本当に楽しみです。

武部 香ちゃんが言ったように、ミュージシャン同士がお互いにお互いのよさを認めて、それが一緒に歌うことで相乗効果でよりよくなるところを見せられたらなと。例えば、その人にとってもっとも有名な楽曲も、本当はその人1人で歌ったほうがいいのかもしれないけど、誰かとセッションして歌うことで新たな気付きが絶対にあるはずなんです。そういう違った側面にスポットライトを当てることも、僕はプロデューサーとしてやっていきたいなと思っています。新しい解釈とか新しい側面を見せることができたら、次の世代の人がそれを新しいものとして受け取ってくれる。そうすることで音楽を循環させながら、次にバトンを渡すことにつながっていくんじゃないかなと信じています。

左から武部聡志、岸谷香。

左から武部聡志、岸谷香。

プロフィール

武部聡志(タケベサトシ)

1957年2月12日生まれ、東京都出身の作・編曲家 / 音楽プロデューサー。国立音楽大学在学時よりキーボーディスト / アレンジャーとして活躍する。1983年より松任谷由実のコンサートツアーにおいて音楽監督を担当。一青窈、今井美樹、ゆず、平井堅、JUJUらのプロデュースを務めるほか、テレビドラマや映画の劇中音楽、フジテレビ系音楽番組「MUSIC FAIR」「FNS歌謡祭」の音楽監督など多岐にわたり活動している。

岸谷香(キシタニカオリ)

1967年生まれのミュージシャン。1986年にガールズバンド・プリンセス プリンセスのボーカリスト&ギタリストとしてデビューし「Diamonds<ダイアモンド>」「世界でいちばん熱い夏」などビッグヒットを連発する。1996年のバンド解散後、俳優・岸谷五朗と結婚。1997年にプリンセス プリンセス解散後初のソロシングル「ハッピーマン」をリリースする。以来出産を機にそれまでの奥居香から岸谷香に名義を改めつつ、コンスタントにリリースを重ね、また他アーティストへの楽曲提供、プロデュースワークなどを行う。2006年前後より育児中心の生活にシフトしていたが、2012年に東日本大震災復興支援のためにプリンセス プリンセスを期間限定で復活。仙台サンプラザホール、日本武道館、東京ドーム公演を開催し、2012年末の「NHK紅白歌合戦」にプリンセス プリンセスで出演した。2014年5月にソロ名義のベストアルバム「The Best and More」をリリース。2018年にガールズバンドプロジェクト「Unlock the girls」を立ち上げ、ミニアルバム「Unlock the girls」を発表。2022年9月よりソロツアー「KAORI PARADISE 2022」を行う。